天幕に入ってきたのは、すらりと背の高い女性だった。
おそらく俺と同じか俺より少し高いくらいの身長だろう。
百七十センチから百七十五センチの間、ってところか。
背が高くて八頭身、すげえな、まじでモデル体型だ。
かなり青みがかった黒髪で、それをくるぶしまで伸びた長いツインテールにしている。
高級そうなローブを羽織っているが、ヴェルのように
将軍といっても、ぱっと見は文官に見える。
年の頃は……どのくらいだろう、若く見えるんだけど、二十代半ばくらいじゃないか?
女性の年齢を見た目で当てるのは得意じゃないから自信ないけど。
いずれにせよ、年齢なんて気にならないレベルの美人だな、こりゃ。
美人すぎてやばい、この世界にきて美少女にはたくさん出会ったけど、大人の女性、という中ではまちがいなくナンバーワンの美形だ。
完璧すぎるプロポーションに、完璧すぎる美しさ。
ツインテールが殺人的に似合ってる大人の女性、なんて普通いないぜ。
その美人は、
「これはこれは陛下、ご機嫌麗しゅう……」
ヴェルと同じようにミーシアへ挨拶すると、数人の護衛の兵士に向かって、
「これより、機密の会議を行う。護衛は外で」
と人払いをした。
これで、この場にいるのは少女帝ミーシアと、女騎士姉妹のヴェルとエステル、それにこの女性――おそらく、彼女がラータ将軍なのだろう――と、それに俺だけとなった。
「さて、と――」
初めて会う第三軍の将、ラータは俺を見ると、
「ま、楽にしなよ、ここにいるのは身内みたいなもんばかりだからさ」
と言った。
そのサバサバとした様子、運動部の元気がいい女の先輩、って感じだ。
モテる雰囲気をプンプン醸し出している。主に女子の後輩とかにモテるタイプ。
「あんたがエージ・ア・タナカだね。私の名前はラータ。ラータ・テシラルガン・マディリエネ・レンクヴィスト。第二等将士で、帝国第三軍の統帥権を皇帝よりお預かりしている。よろしく、エージ・ア・タナカ」
「ア?」
思わず聞き返してしまった。
なんだ、俺の名前にいきなり称号をいれないでくれよ、びっくりするわ。
「え、でも、君、第五等準騎士なんでしょ? 準騎士からはアルゼリオンの称号が許されるんだ、だから今君の正式名称はエージ・アルゼリオン・タナカ……君には洗礼名はないのかい?」
洗礼名?
あ、なるほど、例えばヴェルの場合でいえば、ヴェル・アルゼリオン・レイラ・イアリーが本名で、レイラってのが宗教的な洗礼名だ。ラータならマディリエネの部分だな。
「いや、そのようなのは持っていないです」
「んー。それだと格式高く聞こえないよ。異世界からの戦士だって、この世界で生きていくんならつけといたほうがいい。ま、いいか、あとで考えよう。そんなことより、君、騎士叙任の儀式を略式ですましたそうだね?」
騎士叙任の儀式とは、ミーシアと唇でキスする前にやった、あれか。
あれもキスだったけど、ミーシアの足の指にキスをしたのだ。
あれで略式だったのか。
「本来なら、三人立会人が必要なんだよね。私とヴェル
というと、陛下はこちら、ヴェルはこっちエステルはこっち、とテキパキと段取りを整えた。
うーん、さすが帝国の士官学校で
俺はミーシアの前に
その俺に、ミーシアがそっと耳元で
「あの、ね、今日はちゃんと足洗ったんだからね。また
ちょっと
そりゃそうか、前に、この十二歳の女の子に対して、足の香りがどうの、なんていっちゃったもんだから、本人、気にしちゃってるわこれ。
正直申し訳ないなあ。
で、正式な儀式が始まった。
ラータが地声よりも低い、儀式めいた声で、
「これより、ターセル帝国による、騎士叙任の儀式を始める。皇祖イシリラル・ターセル陛下の
決まり文句っぽい文言を言い始めた。
そのあとにミーシアが、
「第八等従士、エージ・タナカ。
と言った。
うん、前にも聞いたなこれ。
ええと、なんと答えるんだっけ……?
あ、そうそう。
「拝命します。我が主君よ、母よりも
「よろしい。我が足に接吻を許す。朕の足をとり、その爪に誓いのくちづけをせよ」
ミーシアが靴を脱ぎ、右足を差し出す。
うん、前にやった通りだな、これ。
そこの中指にキスをしようとして――
「ちがうちがう!」
慌てた、でもヒソヒソ声でラータが訂正する。
「左、左、ヒ・ダ・リ!」
「え、ああ、左足だったのね」
慌てて差し出した右足を引っ込めるミーシア。
「右足の中指は配偶者専用! ……ってまさか陛下、前回の略式のとき、間違えて――?」
「ひぇっ!? は、は、は、配偶者? そうだっけ?」
「ま、まさか……」
「ちちちちちちちがうもん! まままままま間違えてないもん! 前もちゃんと左足だったもん! ね、エージ?」
バレバレです、陛下。
ま、俺も話を合わせておくべきだろう。
「はい、前回も左足でした、陛下」
「でででででしょう? ふふ、ごめんね、今だけまちがっちゃった……」
ほっぺた赤いです、陛下。かわいいです。
「ではちちちちかいの、くちづけをせよ」
俺は陛下の左足を取る。
ちょっと足裏にさわっちゃったみたいで、
「ひゃうん!」
とミーシアが声を上げる。
かわいいなあ、まだ皇帝になって一年しかたってない十二歳だもんなあ。
そんな少女の、左足の中指の爪にそっとキスをする。
その瞬間、ビクビクッとミーシアの全身が震えたみたいだが、まあいいや、かわいいなあ。
ちなみに、なんだかバラの香りがする
もしかしたらこないだ言われたこと気にして、わざわざ香水かなにかをつけてきましたね?
うん、かわいいなあ。
ともかくこれで、無事に俺の準騎士叙任の儀式が終わった。
準騎士といっても格の違いだけで、実際はほぼ騎士と同じようにふるまってもいいらしい。
なるほど、まさか八王子の安アパートで納豆食いながら安月給で営業マンやってた俺が、騎士になるとはね。
人生なにがあるかわからんもんだ。
武士もそうだが、主君があってこその騎士。
俺の主君様は――
ミーシアの顔を
目があった。
「ちちちがうからね、は、配偶者じゃないからね、エージは私の騎士だからねっ!」
顔を真赤にしてそう主張する十二歳女子。
かわいいなあ。
「もちろんでございます陛下。わたくしは陛下の忠実なる騎士でございます」
うーん、自分で騎士とかいうの、結構恥ずかしいぞ。
「さて」
ラータが口を挟んだ。
「これで、皇帝陛下の