落ちこぼれ営業マン異世界戦記   作:羽黒楓

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2 ちょっと大きく

「そこでエージ、あんたに頼みがあるのよ」

 

 ヴェルが言った。

 

「ラータとも通信法術で話したんだけど、帝国としてはもともとのうちの宮廷法術士長……はっきりいって元閣僚よ、元閣僚を誘拐されて黙っているわけにはいかないわ。でも獣の民の国とはついこないだ停戦合意したばかり。表立って軍事行動はとれない。ミーシアも……皇帝陛下もお望みではないわ。私としては停戦合意なんて()()にして攻め入ればいいと思うんだけど、ラータのやつ、今はその時じゃないとか言って……。そこであんたの出番ってわけ」

 

 俺の出番?

 

「まさか、俺にたった四〇〇人で獣の民の国に攻め入れとかいうんじゃないだろうな……」

 

 さすがにそれは()(ちゃ)だと思うが。

 

「違う違う! ……四人よ」

 なにいってんだこいつ。

 

「なんだ、ヴェル、寝ぼけてんのか。さすがの俺でも無理だぞそれ」

 ヴェルは金髪を書き上げると青い瞳を俺に向け、

 

「あんたならできるわよ。別に四人で侵略しろっていってんじゃないの。潜入して(ばば)さまを取り返してきてくれればいいのよ、前にセラフィ殿下を救ったみたいに」

 

 うーん。

 今回はちょっと無茶な作戦だと思うが……。

 

「このこと、ラータ将軍は知っているのか?」

「知らないわ、ラータは今、東方共和国にかかりきりよ、一度大打撃を与えてから有利な条件で停戦すべし、って帝国のほぼ全勢力を東に集めてるわ。わたしたちは西の押さえだから招集かかってないけどね」

「ちょっと考えさせてくれ」

 

 ちょうどそこに、サクラが紅茶を持ってきてくれたので、俺はそれをすすりながら考える。

 四人……ってことは俺とキッサとシュシュとサクラ、ってことだろうな。サクラは法力補充要員か。

 と、そこで、隅にひかえていたキッサと目があった。なにか言いたげな表情をしている。

 

「キッサ、お前はどう思う?」

 

 今やこの領地の実質的な采配をふるっているのはキッサなのだ、なにより本人のことだし、意見は聞いておくべきだろう。

 

「私は行くべきだと思います。あ、いや、もちろん私の拘束術式を解いてもらいたいというのもありますし、シュシュについては何をおいても拘束術式を外していただければ(うれ)しいです……。シュシュだけでも。多少の危険は覚悟です」

「でも、危険すぎないか?」

「聞くところによると、今獣の民はハイラ族とローラ族とで内紛をおこしているとか……」

 

 そうらしい。

 ハイラ族とローラ族はごく近い民族なのだが、ハイラ族は主に遊牧、ローラ族は主に定住して農業を行う生活様式だ。

 この二つの民族、昔から仲があまりよくなく、歴史上何度も内戦や内乱を繰り返しているらしい。

 ま、そこにつけこんでターセル帝国としては停戦合意に至ったわけだが。

 キッサは言う。

 

「今、獣の民の国の国内は混乱しているはずです。そして、今更言うまでもないかもしれませんが、私とシュシュもハイラ族。獣の民の国の地理には多少詳しいです。確か、元宮廷法術士長の婆さまという方は、もう百歳近いお年ですよね? なれない土地に玄孫と一緒に誘拐されている……なんて、ひどすぎます。体力的にもそんなにもたない可能性もあります。急いだほうがよいかと……」

 

 キッサのやつ、随分乗り気だな。

 いや、当たり前か。

 自分の首に、いつ死んでもおかしくないような法術がかけられている首輪をしているのだ。

 それを外せると思えば、乗り気にもなるだろう。

 

「でも、俺たちが留守をするとしたら、この領地は?」

「それなら、あたしが何人か人員を回してやるわよ」

「……むむ……うーん……まさか……そのままこの領地をのっとるつもりじゃ……」

 

 バシッ! と俺の頭を(たた)くヴェル。

 

「そんなことしないわよ、馬鹿。私は武に生きるイアリー家の当主、騎士ヴェル・ア・レイラ・イアリーよ。やるなら正々堂々と馬を(そろ)えて侵攻するわ。そんな方法で領土を奪っても嬉しくないし、第一ミーシアに怒られちゃうでしょ」

 

 ま、そりゃそうだろう、ヴェルの言うとおり、ミーシア――つまり皇帝陛下が許さない。

 ヴェル本人だって策謀の人ではないし、どっちかというと脳筋っぽいし、本人の言うとおりだよな。

 

「あんた、エステルのお気に入りだしね。ちょっと胸が大きくなったって喜んでたわよ、ついでにいうとあたしも少し……ね、今日はここで一泊していくけどさ、またさ、ほら()(とぎ)してもらいたいなーって……。えっと、ほら、さ、わかるでしょ? ね、分かるでしょ?」

 

 ちょっと(ほお)を染めて言うヴェル。

 それをジト目で見るキッサ。

 その影に隠れるようにしてパンをかじり、

 

「私も騎士様のおっぱい()み揉みするー!」

 

 と叫ぶシュシュ。

 うーん。

 

「私は毎日湯伽させてもらってますけどね」

 

 Iカップを見せつけるように胸をはってキッサが言う。

 ヴェルはさっと顔を青ざめさせて、

 

「え、毎日……あれを? ……エージ、ついにキッサに手、出した?」

「出してねえよ!」

 

 実際キッサからは風呂になるとおっぱいで背中洗ってもらってるけど!

 なんかOKサインっぽい振る舞いよくしてるけど!

 でも決めてるんだ、ご主人様と奴隷、という関係ではそういうことやらないって。

 快楽と幸福は別物で、奴隷とそういうことしちゃうのは快楽があっても幸福ではないという俺の哲学的な……。

 

「エージ様、ヘタレですもん」

「一言でかたづけんな!」

 

 そんなわけで、その夜、俺はまたおっぱいを揉んだりおっぱいで洗われたりおっぱいを洗ったりしたのだった。

 ヴェルの胸、ちょっと大きくなってたなあ。

 

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