落ちこぼれ営業マン異世界戦記   作:羽黒楓

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7 イーダ

 ハイラ族の首都、グラブ市。

 そこにも、奴隷市場はあった。

 けっこう大きな店構えで、そうだな、日本でいうなら高級車のディーラーみたいな感じ。

 ただし、ガラス張りのショールームの中には、車じゃなくて人が並べられていた。

 ……裸で。

 子供から大人まで、さまざまな年齢の女性たちが、首輪に鎖を繋が(つなが)れた状態で椅子に座らせられている。

 ……ほんとに子供もいるんだな。

 五歳くらいの裸の子供が、わけがわかってないようすでキョロキョロしている。

 サクラがそのようすを見て表情を暗くする。

 胸が痛むが、今は戦闘に耐えられるだけの人材がほしい。

 

「中、見ていいか? 仕入れなんだ」

 

 店の人間に声をかける。

 俺は今は奴隷商人なのだ。

 

「どうぞどうぞ、じっくりと見てやってください」

 

 言われるがままに店内に入る。

 しかし立派な店だ、人身売買でどれだけかせいだのやら。

 

「ガラスはけっこう値がはるのですが……これだけのガラスを使うだなんて、かなり荒稼ぎしてるんじゃないですか」

 

 キッサが耳打ちしてくる。

 奴隷商というのはなかなか実入りのよい商売みたいだな。

 さて、そこに並んでいた奴隷は十数人。

 半分がハイラ族、その他の人種の奴隷もいる。

 みな首に奴隷であることを示す首輪をつけている。

 そのうちの一人に目が止まった。

 真っ白い髪のショートカットの少女だ。

 ハイラ族なら目は赤いはずだが、こいつは目が碧い(あおい)。

 

「こいつは?」

 

 奴隷商に訊く(きく)と、

 

「これはお目が高い! ハイラ族とマーキ族のハーフですよ!」

 

 マーキ族? 

 どこかで聞いたことがあるような……。

 

「騎士様と同じ部族です」

 

 キッサが教えてくれる。

 そうか、ヴェルと同じ部族か、だから目が碧いんだな。

 

「ハイラ族とマーキ族は仲が悪いですからね、そのハーフは珍しいですよ」

 

 なるほどね。

 

「うーん、今回はなるべく高い法力持つやつがほしいんだが……」

 

 俺がいうと、

 

「こいつはそこそこの法力はもってますよ、法術は学んでませんがまだ十四歳ですから教え込めばモノになります」

 

 奴隷商が答える。

 ふむ。

 もっとよく観察してみる。

 白いショートカットの髪はサラサラで、顔立ちは端正、少女というよりも、むしろ少年にすら見える。

 十四歳ならまだ成長途上だ、背はキッサよりも低い。

 特に重要な情報じゃないかもしれないけど、胸はなだらかな丘で、巨乳というには程遠いなあ。

「ほら、もっとよく身体をお見せしろ! ……繁殖にも使えますぜ。ほら、足を開け! お見せするんだよ!」

 そいつは半分あきらめたような表情で、その場でM字開脚。

 おいおい、まじかよ。

 かなり屈辱的な格好だ。

 くぱぁ、となんつーかその、あそこがくぱってるけど、まあ見なかったことにしよう。

 補足情報として毛も真っ白だけどとても薄い。

 ところでくぱってるって我ながらどういう表現だよ。

 あと補足情報ってわざわざ描写する必要ねえだろ俺。

 

「歯も丈夫です。ほら、口を開けてお見せしろ!」

 

 うーん、初対面の人間に粘膜という粘膜をじっくり観察されて、こいつは今どう思ってるんだろうな。

 奴隷制度が必要悪だとしても、こういうやり方はあんまり好きじゃないなあ、俺。

 

「名前は?」

 

 聞いてみる。

 どんよりと曇った目で俺を見るハーフの少女は、ぼそっと、

 

「イーダ」

 

 とだけ言った。

 

「なあ、キッサ、法力をどのくらいもってるかとか、判別する方法はないのか?」

「試してみないことにはそれはわからないです……」

 

 そうか。

 まさかここでいきなり売り物にキスするわけにもいかんしなあ。

 でも、俺の法力補充要員はどうしても必要だ。

 キッサの能力は有用なのであまりキッサから法力を補充したくないし、かといってサクラ一人だけってのも……。

 うーん。

 

「サクラ、こいつと仲良くできそうか?」

 

 と訊くと、サクラはコクンと頷く(うなずく)。

 

「よし、じゃあこいついくらだ?」

「珍しいハーフですからねえ、金貨五枚でどうです?」

 

 五十万円ってとこか、人ひとりの生殺与奪の権利と考えればかなり安いけどな。

 ま、それでいいか。

 一応、軍資金として、金貨百枚くらい持ってきているのだ。

 一千万円といえばかなり高額に思えるかもしれんが、なにしろ敵地潜入だからな、このくらいは必要だろうと思ったのだ。

 一国の領主として領内の金をかき集めた上にヴェルからも資金援助してもらってやっと用意した金だ。

 

「じゃあ、金貨五枚で……」

 

 いいかけたところに、サクラが、

 

「いえ、それは高すぎます。ハーフとはいえ、せいぜい金貨三枚ではないでしょうか……」

 

 おっと、値切るつもりか。

 しかし、キッサじゃなくてサクラが口を出してくるとはな。

 

「言われてみればそうだな、金貨三枚でなんとかならねえか?」

「いやあ……三枚はきついですよ、金貨四枚と銀貨五十枚でどうです?」

「三枚と五十」

「…………うーーーん、うーーーーーん……四枚……だと足がでるし……うーん……最近は奴隷販売税も高くてつらいんですよ……四枚と三十枚……じゃ、だめですかねえ」

「四枚と十枚」

「うーーーーん……厳しいですよ……」

 

 と、そこにサクラがさらに口を出す。

 

「四枚と三十枚に首輪つけてください、二つ」

「首輪をおまけかあ……。……うーむ、それなら、いいですよ……」

 

 店主が根負けしたようにいう。

 ほんと、ディーラーで車の値引き交渉やってる気分になるぜ、カーナビオプションでつけますから、的な。

 

「じゃ、金貨四枚と三十枚だそう。あと、首輪はなるべく高価なやつで頼むぜ」

「わかりました。拘束術式付きの首輪をつけましょう! ……ところで、服はどうします? 裸で連れまわしますか?」

 

 十四歳の少女を裸で連れまわす。

 それはそれでなんか、こう、いいけど、でも良心が許さないな。

 

「奴隷用の服も見繕っておいてくれ」

 

 こうして、新たな奴隷、イーダが俺たちに加わった。

 出会いは運と縁、が俺の信条だ、これがいい出会いだったことを祈るのみだな。

 

 

 

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