勇者1000
「勇者よ! 1000文字で魔王を倒すのだ!」
何を言っているのだ、この「王」は。勇者は、そう思った。
跪いたまま玉座を見上げる。周囲に衛兵の姿はなく、「王」と勇者――つまりは己だけだ。
ちなみにこの時点で100文字強である。何の事なのかは、分からないが。
「王よ、私にも分かるよう説明していただきたい」
「文字数もとい時間も無い故、端的に言おう。魔王が世界を滅する禁呪を使おうとしている、その前に倒すのだ!」
黙考すること数文字もとい数秒。じつと見上げた「王」の装いは普段と変わらず、勇者などと呼ばれて長い己が知るそれと何ら変わらない。その身なりも為政者に相応しく着飾られてはいても華美ではなく、それはこの「王」が国と民の事を第一に想う賢君であることを――
「余計な背景を考えている暇があるのか勇者よ!? 早く征くのだ! もうすぐ400文字だぞッ!」
「そう言われましても王よ。その魔王とやらはいったい何処に」
「無駄口を叩くなと言っているであろうが! お前が一言口にするたび貴重な文字数……ではなかった時間が出血していることに気付かぬのか!」
ならばまず叫ぶ事を止めてはどうか。「!」もまた一文字である事に違いは無いのだから。
「そもそも、何故に1000文字なのです」
「それは
もはや何から突っこんだものか。だが猶予が無い事は事実か。世界の危機に立ち上がらずして何が勇者か。
「おお行ってくれるか勇者よ! ならば征け! すぐに征くのだ、さあ!」
「征く前にひとつ宜しいか、王よ」
立ち上がり、聖剣を抜く。白銀の刃に映った己の目は、静かに凪いでいた。
「何故そうも――私を遠ざけたがる」
「王」が、びたりと動きを止めた。生者の揺らぎが見られない、非人間的な止まり方で。
故に、そして。
聖剣に貫かれた「王」の躰は、二度と動くことは無い。
「……、なゼ、気ヅイた』
「これでも王との付き合いは長い。語ってやる時間も文字数も無いが」
ぞぶりと引き抜いた刃が「王」の……魔王の躰から血の糸を引く。魔の王であっても、その血は確かに赤かった。
くクと、魔王の死面が勇者を見上げて嗤う。
『コンな、
聖剣を一振りした勇者が何かを言う。それを聞くこともなく、魔王はその呼吸を止めた。
「」