純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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命蓮寺と守矢神社にて

諏伯らが紅魔館にいた頃、物部布都は命蓮寺の前に立っていた。

白壁と朱の門を見上げ、鼻をひくつかせる。

 

「ふむ……ここが命蓮寺か。邪教故か、近づくだけで吐き気がする」

 

布都はそう呟き、ずかずかと敷地内に足を踏み入れると、懐から一本の松明を取り出した。

その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「いっそのこと寺ごと燃やせば、仏教徒共は信仰を失い、道教の信仰は我らに集まる――布都ちゃんとっておきの作戦なのだ!」

 

その背後から、涼しい声が降ってきた。

 

「ふむ……見慣れない方が居られたので、修行でも受けに来たのかと思えば……これまた大層なことを言っていますね、聖」

 

振り向けば、寅丸星が腕を組んで立ち、隣には聖・白蓮が静かに佇んでいた。

白蓮は柔らかい笑みを浮かべつつ、しかしその目は笑っていなかった。

 

「確か神子さんのところの布都さんでしたよね。寺を燃やされると困るんですが」

 

布都は驚き、腰を引いた。

「なっ! 貴様ら、我の後ろを取るとは卑怯であろう! びっくりしたわい!」

 

白蓮は布都の手元を指さす。

「それ、こちらに渡していただけます?」

 

「ふん、渡すものか!」布都は松明を掲げ、声を張り上げる。「これは太子様より命じられた“希望のお面”を命蓮寺より探し、道教の信仰を確立させる作戦! ついでに我が寺ごと燃やし仏教を幻想郷から消し去るのじゃ!」

 

寅丸と白蓮は顔を見合わせ、同時にふっと微笑んだ。

 

次の瞬間――白蓮の手刀が鋭く閃き、布都の額にピタリと決まった。

「ひでぶっ!」布都はその場にぱたりと倒れる。

 

寅丸は肩をすくめて松明を取り上げた。

「とりあえず放火魔は倒しましたが、どういうことでしょうね。“希望のお面”に道教の信仰の確立……?」

 

白蓮は倒れた布都を見下ろし、笑顔のまま、冷たい声で呟いた。

「察するに、何か魔道具のようなものがどこかに落ちているんでしょうね。詳しいことは、この子から聞きましょうか」

 

布都の喉がごくりと鳴った。白蓮の笑顔は相変わらず柔らかいが、その奥底は鋼のように冷たい。

 

 数分後、布都から事情を聞き出した寅丸と白蓮は顔を見合わせた。

その表情には、驚きと緊張が同時に走っている。

 

「幻想郷から“希望”が消えるかもしれない……俄には信じがたい話ですね」

寅丸が腕を組みながらつぶやく。

 

白蓮は静かに頷いた。

「煩悩を滅する私たちにとっては、気づきにくい異変かもしれませんね」

 

寅丸がふと目を見開く。

「希望……希望? そうだ! 聖、確かに希望が消えていますよ!」

 

「何か思い当たる節でも?」

白蓮が首をかしげる。

 

寅丸は胸に手を当て、真剣な表情で叫んだ。

「お酒を飲んでないんです! 私が真面目に毘沙門天代理としてここ最近励んでいる……これは異変です!!」

 

白蓮はこめかみに手を当て、ため息をついた。

「……戒律違反を罰するのは後にして。里にも混乱が広まるかもしれませんね。私たちで向かいましょうか」

 

寅丸は拳を握りしめ、力強く頷いた。

「はい、まずは希望のお面の行方を!」

 

倒れている布都はうっすら目を開け、二人を見上げながら小さくつぶやいた。

「……う、うぅ……我の作戦が……太子様ぁ……」

 

 

 

 

同じ頃、蘇我屠自古は守矢神社の階段を上っていた。

(布都の馬鹿は上手くやっているだろうか……)と心の中でぼやきつつ、堂々と声を張る。

 

「たのもー!」

 

「はーい」

現れたのは諏訪子だった。小さな体に大きな帽子、その視線はきらりと光っている。

 

「確か……道教の所の……」

 

「蘇我屠自古だ。今日はちょっと諏伯から伝言を頼まれてね。(頼まれてないけど)」

屠自古は軽く笑い、懐から紙片を取り出すふりをする。

 

「伝言?」

 

「ああ、諏伯が“希望のお面”があったら私に渡してくれ、特に早苗に聞いてくれとの事だ」

 

「希望のお面なー。私には覚えがないね。おーい、早苗!」

 

奥から早苗が現れ、きょとんとした顔で首を傾げる。

 

「どうしました、諏訪子様?」

 

「なんか、諏伯が希望のお面とやらを探しているらしいけど持ってないかい?」

 

「希望のお面? 身に覚えないですね」

 

諏訪子が振り返る。

「無いらしいよ。そのお面がないと何かあるのかい?」

 

屠自古は肩をすくめてみせた。

「詳しくは分からないな。そこまでは聞かされてない。ありがとう、本人に伝えておくよ」

 

「ふーむ。あの子が探しているなら何か大事な物なんだろう。私たちも探すよ」

 

「いっ、いやいいよ。聞いてきて欲しいだけみたいだったから(本人のとこまで行かれたら嘘がバレる……)」

 

屠自古はそのまま去ろうとしたが、背後から諏訪子に肩をがっしりと掴まれた。

 

「いやいやいや。気にしなさんなお嬢さん。希望のお面……わざわざ探しに来るなんて気になるじゃないかい。諏伯に言われたんだろう? ただで返す訳にも行くまい」

 

(この神……意外に力が強い……!)屠自古の目が泳ぐ。

 

「そうさ、なんなら神社で休んでいきなよ。伝言を伝えてくれたお礼さ。後は私たちがやっておくよ」

 

そう言うと、諏訪子は屠自古をひょいっと持ち上げ、そのまま蔵の中に放り込み、封印を施した。

 

「諏訪子様……何もあそこまでしなくても」早苗があきれたように言う。

 

「胡散臭い連中の分かりやすい態度。何かあるに決まってるじゃないかい。私たちも人里へ向かうよ」

諏訪子の瞳はきらりと光り、何やら楽しげですらあった。

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