純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

105 / 122
第二次月面戦争2

幾日かの時が流れ、幻想郷の空には白く大きな月が浮かんでいた。

静寂の中、スキマがふっと開く。そこから現れたのは八雲紫だった。

 

紫はいつものように優雅に扇子を広げながら言う。

「吸血鬼に、魔理沙、霊夢――無事に飛び立ったわ。今頃はもう、月の上ね。」

 

諏伯は頷き、心の中で呟く。

(彼女たちはただの好奇心。今回は戦争ではない――あくまで知恵比べ。)

 

紫は扇子を軽く閉じ、意味深な笑みを浮かべる。

「さあ、私たちも行きましょうか。月の宝物庫――何かひとつ、頂戴しに。」

 

その声に呼応するように、空間が音もなく裂けていく。

そこから覗くのは、青白い光に包まれた月への道。

まるで深淵と天界が混ざり合ったような、異質な通路だった。

 

諏伯は一歩を踏み出す前に、紫を見つめる。

「本当に行くんですね……。」

 

紫は悪戯めいた笑みを浮かべる。

「当然よ。復讐……とまではいかないけれど、私は月の民が嫌いなの。」

 

風が吹き、スキマの縁が淡く揺らぐ。

やがて二人の姿は闇に溶けて消えていった――が。

 

次の瞬間、二人が踏み出した先に広がっていたのは、見慣れた幻想郷の景色だった。

 

諏伯が訝しげに辺りを見回す。

「……幻想郷? 行き先を間違えました?」

 

紫は眉をひそめる。

「そんな筈は――」

 

そのとき、二人の前に影が立った。

静かな声が空気を切る。

 

「この前、諏伯を送り込んできたのに、何の対策もしないと思っていたのかしら?」

 

振り返ると、そこに立っていたのは綿月豊姫だった。

月光のような髪を揺らしながら、余裕の笑みを浮かべている。

 

「久しぶりね、諏伯。今度も妖怪にいいように使われているようだけど。」

 

諏伯が息を呑む。その声に紫が眉を寄せた。

「……何故豊姫がここに? 月の民が幻想郷に入れる訳がないでしょう。」

 

豊姫は扇を広げ、静かに答える。

「簡単なことよ。そこ妖怪の“スキマ”に、私の能力で繋げただけ。

『月への道は幻想郷へ』――その際に、私も通らせてもらったの。」

 

諏伯の胸中を冷たい予感が走る。

(不味い……。幻想郷に来られたなら、永琳と輝夜の存在も露見する。

戦うつもりはなかったが――)

 

「確認ですが……」と諏伯が静かに問う。

豊姫は首を傾げる。

「なぁに?」

 

「月の民として、ここに来たのはあなた一人ですか?」

 

「そうねぇ……嫦娥が永琳を探すときに、玉兎を一匹送り込んだらしいけれど、

本格的に来たのは私が初めてかしら。」

 

諏伯は深く息を吸い込み、吐いた。

「紫……殺しましょう。」

 

紫は一瞬、瞠目してから笑みを浮かべる。

「本気なの? あなた、今回はやる気がないと思っていたけど。」

 

「状況が変わりました。」諏伯の瞳が冷たく光る。

「月での遭遇なら土下座でも逃走でもしたでしょう。

だが、幻想郷に現れたとなっては――これは楽園の危機です。」

 

紫は扇子で口元を隠しながら、愉快そうに目を細めた。

「ふふ……あなたからそんな言葉が聞けるなんてね。」

 

 

 

 

豊姫は微笑んだ。

「私を殺す……ふふふ。貴方がそんなに好戦的なのは、八意師匠がここにいるからかしら?」

 

諏伯は目を細め、心の奥で静かに決意を固めた。

(霊夢とレミリアには悪いが、幻想郷には家族がいる。彼女たちが月で死ぬことになっても――“豊姫を殺さねば”。恨むなら、恨め。)

 

「――土槍!」

 

地面が唸りを上げ、固められた土が槍の形を成して放たれる。

だが豊姫は微笑み、扇を一振りしただけでそれを塵のように散らした。

 

「本気……なのね。純狐の息子が月の民に攻撃を仕掛けた。この事実が知れれば、今ごろ依姫と対峙している巫女や吸血鬼はどうなるかしら?」

 

「承知の上だ!」

その声には迷いがなかった。

「幻想郷に月の賢者が現れる――それは即ち危機。彼女らよりも先に、私が対処する!」

 

掌をかざし、諏伯が叫ぶ。

「再結晶!」

 

豊姫の扇で素粒子となった土が、再び集まり一本の槍となる。

その光景に、豊姫の瞳がわずかに見開かれた。

 

「……驚いたわね。」

 

槍は再び彼女を狙う。豊姫は身を翻してかわしたが、

諏伯の目には確かな手応えが宿っていた。

 

「いくら分解されようが、そこに在るのなら再び集めればいい。」

 

「なら、これはどうかしら!」

 

彼女が扇を広げると、烈風が生じた。

土壁が次々と砕かれ、砂塵が舞い上がる。

全てを呑み込む嵐の中、諏伯の姿が消えた。

 

「上半身ごと吹き飛んだわね……。ん? あれは――」

 

崩れ落ちた諏伯の身体は、茶色く崩れ、砂となって地に還った。

 

「……土人形? 本物は――」

 

背後に揺らめくスキマの気配に、彼女の表情が変わる。

「いや、後ろにスキマ? ――!」

 

紫の声が響いた。

「ごめんなさい、後ろにいたのは私。諏伯は“上”だったわね。」

 

豊姫が反射的に空を見上げた瞬間、

スキマの裂け目の中から諏伯が姿を現した。

彼の手が、神力をまといながら豊姫へと伸びる。

 

「――純化!」

 

「……私が、負ける……?」

彼の手が触れようとしたその刹那、鋭い音が空を裂いた。

 

諏伯の手に矢が突き刺さる。

勢いのまま彼の身体は吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「――おやめなさい!」

 

その声は冷たく、しかし威厳を持って響いた。

現れたのは、月の賢者・八意永琳だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。