純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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第二次月面戦争3

豊姫は顔を上げた。

「八意師匠……!」

 

「あら、永琳。」紫が軽く笑う。

「あなたは干渉してこないと思っていたのだけど。」

 

永琳は一歩踏み出し、静かな怒気を孕んだ声で言った。

「白々しいわね。私は今、貴方にものすごく腹を立てているのよ。」

 

紫は肩をすくめて、悪びれた様子もなく答える。

「いやね、月への突入をしようとしたら“たまたま豊姫の能力で幻想郷に送り返された上に、月の民までついてきた”のよ。

幻想郷を守るために、あの子を排除しようとしただけ。

それに、あなたに飛ばされた諏伯もあなたのために戦っていたのに。」

 

永琳は深く息を吐いた。

「偶然ね、偶然。……問い詰めても長くなりそうだから、今はいいわ。次に――豊姫。」

 

「は、はい、師匠!」

 

「紫のスキマを幻想郷に繋ぐまでは問題ない。けれど、どうしてあなた自身が幻想郷に来たの?」

 

豊姫は言葉を詰まらせた。

「……。」

 

「私を探しに、でしょうね。」

永琳の声は冷たくもどこか優しさを含んでいた。

「けれど、あなたが来ることで戦闘にならないと思ったの?」

 

「す、すみません……。」

 

「そして――吹き飛ばされた諏伯。」永琳の視線が移る。

「私、言ったわよね? 豊姫に手を出したら戦争になるって。

借りがあったとしても、妖怪に利用されすぎよ。」

 

「……はい。」

諏伯はただ頭を下げることしかできなかった。

 

永琳は静かに頷き、冷静に言葉を重ねた。

「豊姫、諏伯。全員、何もなかったことにして帰りなさい。

そして――紫。暴れ足りないのなら、幽々子の件をここで暴露してもいいのよ?」

 

紫の扇がぴたりと止まる。

短い沈黙のあと、ため息をついて微笑んだ。

「……わかったわよ。帰る。」

 

諏伯はその背を見送りながら、心中で小さく呟いた。

(……宝物庫に泥棒に入るのは容認してるのか、あの人は。)

 

永琳は最後に豊姫へと向き直る。

「豊姫、月にいる吸血鬼たちを幻想郷に送り届けておいて。」

 

「はい。」

 

「それと――久しぶりね。」

永琳の口元がわずかに緩む。

「立派に成長していると思うわよ。」

 

「はいっ!」

 

その声が静寂に響く。

こうして、永琳の介入によって――

幻想郷と月の民との全面戦争だけは、ひとまず避けられることとなった。

 

 

 

 

 

 

静謐な光が差す月の会議室。

空気は薄く、冷たく、音ひとつない。

その中央で、稀神サグメは白いホワイトボードの前に立ち、淡々とペンを走らせていた。

 

ペン先が走る音だけが、月の静寂を切り裂く。

 

【月の侵入者について、寛大な処置を】

 

文字を書き終えたサグメは、静かにボードを皆に向ける。

 

豊姫は頭を下げ、柔らかく声を出した。

「今回の地上への渡航……勝手に行い、申し訳ありません。」

 

サグメは再びボードに文字を刻む。

 

【問題、ない。渡航がなければ、いずれ別の方法で侵入していただろう】

 

依姫がそれを見て頷く。

「確かに。幸い、こちらでも命のやり取りはなかった。それが救いです。」

 

ペンの音がまた響く。

【その通り。月の民とて、純狐とヘカーティアの存在がある。幻想郷を相手にしている暇はない】

 

依姫が思い出したように顔を上げた。

「そういえば、諏伯も地上にいたそうですね。何かあったのですか、姉さん?」

 

豊姫は少しだけ目を伏せる。

「あの子とは戦闘になったわ。ほんの一歩で一撃を受けそうになった。でも……敵意はなかった。」

 

サグメのペンが止まり、今度は少し間をおいて動く。

【よい。恨みを持たれていたら、こちらとしても対応に困っただろう】

 

最後にもう一度、白板に静かに文字が浮かぶ。

【願わくば、彼に純狐をまた地上に留めていてほしい】

 

その言葉を読み終えた豊姫と依姫は互いに目を見合わせ、小さく頷いた。

誰も声を出さない。

ただ、ペン先の跡だけが月の冷光を反射して輝いていた。

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