藍との話し合いを終え、薄暗くなった帰り道を諏伯とぬえは並んで歩いていた。
ぬえは大きくため息をつき、肩をすくめる。
「私は事情を知っちゃった側だから、異変には参加しないわよ。でもやり過ぎないでよ? 幻想郷が壊れたら本末転倒だから」
諏伯は真剣なまなざしで頷く。
「地震を少し起こして、守矢神社が“困っている人里へ炊き出し”。
信仰獲得のための、軽い異変という体にします」
ぬえは鼻で笑う。
「自作自演で信仰を得ようとするなんて、いかにも守矢って感じで逆にリアルね。博麗の巫女も絶対勘づいて、綺麗に退治してくれそうだわ」
「その反応を狙っています。私は倒されるために動く。それで紫の純化を断ち切れるなら」
ぬえは立ち止まり、諏伯の背中を軽く叩く。
「じゃあ、阿求には私から状況説明しておくわ。
アンタは神社で準備でもしてなさい」
二人は交差点で別れた。
諏伯は山道に足を向け、守矢神社へ帰る。
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境内に入ると、夕飯後の気怠い空気とともに、二柱の神がくつろいでいた。
「おかえり~。昨日帰らなかったってことは……?」
神奈子がニヤニヤと近づく。
「確定だな。ぬえちゃんちでお泊まりしたわけだ」
諏訪子は手をパンパン叩いて上機嫌。
「やだやだ、想像より早く孫の顔が拝めそうじゃないかい」
諏伯の顔が一瞬で真っ赤になる。
「い、いかがわしい事は何もしてません!」
神奈子がわざとらしく肩を落とす。
「えぇ~? 何も?
……逆に問題じゃない? 若いのに自信ないの?」
諏訪子も腕を組み、深刻げな表情をつくる。
「永遠亭で診てもらった方がいいんじゃない? 母さん付き添うからさ」
神奈子は追撃の一言を放つ。
「まさか今どきの若者なのに、もうEDとは……」
「やめてくださいってば!!!」
諏伯の悲鳴に、二柱は腹を抱えて笑う。
「ほんとアンタは反応がいいわ。早苗なんて最近フーン、って顔しかしないし」
「若いもんが冷めてちゃ神も退屈だよ」
その笑いを断ち切るように、諏伯は一歩前に出る。
「――冗談はここまでです。伝えておきたい事があります。
近々、異変を起こします」
場の空気が一瞬で変わった。
無言のまま数秒。
神奈子が蒼白になる。
「ど、どうする諏訪子!? 諏伯が……反抗期に突入した!!」
諏訪子が諏伯の肩を揺さぶる。
「そんなにウチらの下ネタが嫌だったのかい!? 母さん反省するよ!!」
諏伯は大きく溜息をつき、紫の純化や藍から聞いた話をすべて説明する。
聞き終えた二柱は、一転して神の顔に戻っていた。
諏訪子は腕を組む。
「なるほどねぇ。紫を止めるには、アンタが異変を起こして“巫女に負ける”必要があるってことかい」
神奈子もうなずく。
「諏伯が博麗の巫女に敗北することで、紫との精神的な繋がりをリセットする……理屈は合ってる。異変なら合理的な正当性もあるしな」
諏訪子が口角を上げた。
「つまり――守矢神社は全力で異変を起こして人里で炊き出しすればいいんだね?」
諏伯は静かに頷く。
「守矢神社にとっても信仰が増える機会です。悪い話ではありません」
神奈子は手を叩き、大笑いする。
「いやぁ、久々に神社らしい仕事だ!
地震なんて、山育ちの神にとっちゃ朝飯前だよ!」
諏訪子もわくわくしたように跳ねる。
「異変だねぇ~! 幻想郷中をびっくりさせてやろうじゃないか!」
そのとき、襖の影からひょっこり顔を出す気配。
「今の話、全部聞こえましたけど……
地震に救援活動に炊き出し……また私が全部やるんですよね?
私、もう一人の巫女じゃないですか?」
早苗の目の下にはうっすらとクマ。
三柱は揃って親指を立て、
「大丈夫! 神は無茶するものだ!!」
早苗は天井を見つめ、魂が抜けた声で呟く。
「……帰りたい。あっ、ここ家か」
こうして――
諏伯が“負けるために起こす異変”
という前代未聞の計画は、静かに幕を開けた。