宝塔の光が夜空を裂く。
「クックック、人間が二人……我が宝塔を受けてみよ!」
諏伯の声は、どこか芝居がかっていた。
(……普段悪役なんてやらないから、変な感じになってるね)
諏訪子は内心そう思いながらも、何も言わない。
(大丈夫だよ。母さん、否定しないから)
「はん! 神の息子だからって調子に乗るなよ!」
魔理沙は魔法陣を展開し、杖を突き出す。
「恋符《マスタースパーク》!!」
極太の光線が放たれ、宝塔の光と正面衝突する。
轟音。衝撃波。境内の木々が大きく揺れた。
(……中々の威力だ。だが……)
諏伯は歯を食いしばる。
(魅魔ほどじゃない。押し返せる……!)
拮抗は、宝塔側がわずかに優勢。
勝ちを確信しかけた、その時だった。
――ゴゴゴゴゴ……。
微かだが、確実な振動。
(……地震!?)
諏伯の表情が一変する。
同時に、諏訪子も異変を察知していた。
目の前の霊夢を完全に無視し、手を合わせる。
「……来たか」
(目の前の勝負より……)
諏伯は決断し、宝塔の出力を落とす。
「……?」
魔理沙が違和感に気づく。
「おい、宝塔の威力……下がったぞ?」
次の瞬間、諏伯は光に弾き飛ばされる。
地面を転がりながらも、すぐに起き上がり、諏訪子と同じく手を合わせた。
二人の力が地脈に流れ込み、
荒れ狂いかけた大地が、徐々に静まっていく。
しばらくして――
揺れは収まった。
「……二回目、か」
諏伯が息を整えながら呟く。
「お疲れ。どうやら一度きりじゃなかったみたいだね」
諏訪子も肩を回す。
「ちょっと、あんたたち」
霊夢が腕を組み、不満そうに睨む。
「何を勝手に納得してるのよ」
「ああ、悪い悪い」
諏訪子は軽く笑う。
「じゃあ、続きをするかい?」
霊夢は即答した。
「いいえ。あんたたちの始末より、異変の解決が先よ」
「……待て」
魔理沙が低い声を出す。
「どうしたのよ、魔理沙」
霊夢が振り返る。
魔理沙は諏伯の方へ歩み寄り、胸倉を掴んだ。
「おい。さっき……わざと宝塔の威力、下げたな?」
諏伯は一瞬黙り、視線を逸らす。
「……地震が来たので」
「はぁ!?」
魔理沙の怒りが爆発する。
「私の魔法は無視していいってのかよ!!」
「あの威力なら直撃しても死には……」
パンッ。
霊夢が手を叩いた。
「はいはい、そこまで!」
二人を引き離し、霊夢は守矢親子を見る。
「洩矢の親子。
あんたたち、地震のスペシャリストでしょ。何か分かった?」
諏訪子は少し考え、頷く。
「正直、二回目が来るとは思ってなかったけどね。
……震源地は分かったよ」
「どこ?」
「ここじゃない。別の場所さ」
霊夢は即決した。
「分かった。行きましょう」
四人はそのまま空へ飛び立つ。
一方、人里。
救護活動の真っ最中。
守矢神社、永遠亭の面々が協力する中、稗田阿求も現場にいた。
「おーい、阿求!」
藤原妹紅が駆け寄る。
「二回目の地震、大丈夫だったか?」
「ええ。被害は軽微です」
阿求は落ち着いて答える。
「最初の揺れの割に、すぐ収まったよね」
妹紅は空を見上げる。
「兄さんと諏訪子さんが、抑えたんだと思う」
阿求は少し表情を変えた。
「……妹紅。犯人の目星、ついています」
「えっ!? 本当かい?」
「はい。ただ……諏伯たちは、まだ気づいていないと思います」
妹紅は真剣な顔になる。
「私が伝えてくるよ。原因は?」
阿求は一瞬、言い淀む。
「……申し訳ありません。背負ってください。
これは口で説明するより、直接話すべきことです」
「……分かった」
妹紅はしゃがみ、阿求を背負った。
「幸い、先ほど空を飛んでいる諏伯さんたちを見た人がいます」
阿求は指差す。
「あの方向です」
妹紅は力強く地を蹴った。
一行が辿り着いた先は、山肌が不自然に抉れた場所だった。
大地の中心に突き刺さっていたはずの巨大な石は、無惨にも砕け散っている。
「……石が、割れてるのぜ?」
魔理沙が目を見開く。
「ただの石じゃないよ」
諏訪子が低く言う。
「要石だ。地面に刺さっている間は地震を抑え、平穏を保つ存在」
諏伯が続ける。
「だが、一度抜かれるか破壊されれば――
その反動で地震という災いをもたらす」
「……どうして、こんなものがここに?」
「神様が置いたんじゃないの?」
霊夢の一言に、諏訪子へ視線が集中する。
魔理沙も無言でじっと見る。
「いやいやいやいや、違うからね!?
私は要石は専門外の神様なんだよ!」
「ほんとに?」
「むしろ地震を起こせる私たちからしたら、
要石なんて大嫌いな代物だよ」
諏伯が頷く。
「自身の能力を封じられる武器ですから」
「……それも、そうか」
魔理沙は腕を組む。
「じゃあ、これを作った奴とかは?」
「過去にこれに封じられたことはありますが……
製作者はもう死んでいるはずです」
「あー……“平安京の悪夢”ね」
「それ、ぬえのことでしょ?」
「元々は要石で封じられていた諏伯を、ぬえが引っこ抜いて助けた。その結果、大地震が起きて都が壊滅した事件さ」
諏訪子は肩をすくめる。
「要石を置いた側は、帝や陰陽師たち――全部人間。
製作者なんて、とっくに寿命だよ」
「じゃあ結局、誰が置いたか分からないってこと?」
霊夢が唸る。
「でもさ、ぬえなら引き抜けるんでしょ?」
「違います」
諏伯がきっぱり否定する。
「要石は外部からなら、力ある者なら誰でも抜けます。ぬえだから、というわけではありません」
「うーん……」
霊夢が考え込む。
「手がかりなしかぁ……」
その時――
遠くから必死な声が響いた。
「おーい! 諏伯ー!!」
振り返ると、藤原妹紅がこちらへ走ってくる。
背中には、しっかりと稗田阿求を背負っていた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「妹紅、すみません……」
「いいって……ことよ……っ」
霊夢が驚く。
「阿求?」
阿求は息を整え、はっきりと言った。
「霊夢さん。洩矢の親子は――無罪です」
一同が息を呑む。
「……私なら、犯人が分かります」