純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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本物の月に

 

諏伯と依姫は、豊姫の繋いだ空間の前に立つ。

目の前に揺らめく境界は静かだったが、奥からは確かな圧が滲んでいた。

それは“戦場の気配”だった。

 

「本来なら……私達と君は、もう出会わない方が幸せだったんだがな」

 

依姫はわずかに視線を逸らし、静かに言葉を落とす。

 

「こちらこそ、会いたくなかったですよ」

 

諏伯は即答する。

感情は抑えられているが、その奥に拒絶があった。

 

短い沈黙の後、二人は同時に空間へと踏み込む。

一歩踏み出した瞬間、重力がわずかに歪んだ。

 

――そして月。

 

広がっていたのは、あまりにも緊張感のない光景だった。

 

「……あー、来たのね。ここのお菓子、結構いけるわよ」

 

霊夢がのんびりと菓子を掲げる。

 

「諏伯、お前罪人の時にこんな美味いもん食ってたのかよ。羨ましいぜ」

 

魔理沙は口元に粉をつけたまま笑う。

 

「もぐもぐ……幻想郷は大丈夫でしょうか」

 

早苗は不安そうにしながらも、手は止まらない。

 

諏伯はわずかに眉をひそめた。

 

(……緊張感が無さすぎる)

 

「お帰りなさい、依姫……に、諏伯。連れてくるのは予想外だったけど」

 

豊姫が湯呑を置き、立ち上がる。

 

「今回の純狐は、暴走している可能性があります。諏伯なら対処できるかと判断しました」

 

依姫は腕を組み、淡々と説明する。

 

「月の民はどうでもいいですが――その被害が幻想郷に及ぶのは困るので」

 

諏伯は視線を逸らしたまま言い切る。

 

空気がわずかに張り詰める。

 

「……その態度」

 

依姫が一歩踏み出しかける。

 

「まあまあ。諏伯が月を嫌いになるのも仕方ないわよ」

 

豊姫が軽く手を上げ、場を収める。

 

「よし!お菓子タイム終了だな。みんなで純狐とヘカーティア止めに行くぞ!」

 

魔理沙が勢いよく立ち上がる。

 

その瞬間――

 

「……三人は、先に帰って下さい」

 

諏伯が前に出る。

 

場が止まる。

 

「何言ってるんだよ。幻想郷の危機なんだから――」

 

「邪魔です」

 

遮る。

 

「これは私と母の問題です」

 

言い切る。

 

――ドゴッ

 

横から霊夢の拳が飛ぶ。

諏伯の体がわずかに揺れた。

 

「……幻想郷の新参者が、全部背負うつもり?」

 

霊夢は腕を組み、睨みつける。

 

「幻想郷の異変は――博霊の巫女の仕事よ」

 

一歩詰める。

 

「それにアンタ、母親倒せるの?」

 

諏伯は言葉を失う。

 

「霊夢さん、そこまで言わなくても……」

 

早苗が慌てて入る。

 

「そこの馬鹿が悪いのよ」

 

霊夢はそっぽを向く。

 

「……ほらよ」

 

魔理沙が手を差し出す。

 

諏伯は一瞬迷い、その手を取る。

 

「……悪かった」

 

「もういいんだぜ」

 

軽く引き上げる。

 

空気がほんの少しだけ柔らぐ。

 

「終わった?じゃあ――本物に繋ぐわよ」

 

豊姫が指先で境界をなぞる。

 

空間が裂ける。

先ほどとは違う、重い圧。

“敵意”がはっきりと流れ込んでくる。

 

誰も軽口を叩かない。

 

そして――

四人は、その奥へと踏み込んだ。

 

 

空間の裂け目を抜けた先――そこは本当の月だった。

 

地面は白く乾き、空には星の代わりに“弾幕”が浮かんでいる。

無数の光が、まるで生き物のように蠢いていた。

 

「……弾幕か?」

 

魔理沙がぽつりと呟く。

 

その瞬間。

 

――ビュンッ!!

 

無数の光弾が四人へと降り注ぐ。

 

「フラグ立てるな!!夢想転生!」

 

霊夢が即座に結界を展開。

光の雨が結界に叩きつけられ、空が白く染まる。

 

やがて弾幕が止み、視界が晴れる。

 

その中で――

 

「出たな月の民!籠城戦はもう終わりか!狂え死ね!……ん?」

 

聞き慣れた声が響いた。

 

「……あれ?諏伯さんじゃん」

 

クラウンピースが首を傾げる。

 

「月の民じゃなかったの?」

 

「確認してから撃ちなさいよ!!」

 

霊夢が即ツッコミを入れる。

 

「だってここにいるの月の民くらいでしょ?」

 

ケロッとした顔で返すクラウンピース。

 

(いやまあ間違ってはいないけど……)

 

諏伯はこめかみを押さえる。

 

「クラウンピース。やっぱり……戦争中なんですか」

 

「そそ!ご友人様がさー、なんかめっちゃやる気でさ!ヘカーティア様もノリノリでさ!それで襲撃ってわけ!」

 

軽いノリで恐ろしいことを言う。

 

「……純狐さんは?」

 

「んー、私は呼ばれて暴れてただけだからよく知らないや」

 

あっさりした返答。

 

「……そうですか。なら――」

 

諏伯が問いかけようとした、その時。

 

クラウンピースが後ろを指差す。

 

「場所ならあっち――」

 

諏伯がそちらへ顔を向けた瞬間。

 

――ぷにっ

 

「!?」

 

頬に柔らかい感触。

 

振り向く。

 

「成功ー!クラピちゃんナイス!イエーイ!!」

 

ヘカーティアが満面の笑みでハイタッチしていた。

 

「イエーイ!!」

 

クラウンピースもノリノリで応じる。

 

「……いつの間に」

 

諏伯が低く呟く。

 

「んー?あなたたちが来てからずっと?」

 

ヘカーティアは悪びれもなく言う。

 

「クラピで月の民の注意引いて、その間に私がドーンってやる予定だったんだけどさー」

 

肩をすくめる。

 

「四人で来るのは想定外だったわね」

 

その笑顔の奥に、明確な“格の違い”が滲む。

 

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