純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

125 / 125
ぬえと諏伯をムフフさせたい命蓮寺

騒動から数日。

 

幻想郷に平穏な日々が戻った頃。

 

命蓮寺。

 

縁側でのんびりしていたぬえに、二つの影が近付いてきた。

 

「ねー、ねー、ぬえさんやーい」

 

「……何よ、その気持ち悪い呼び方」

 

振り向くと、一輪と村紗がにやにやと笑っている。

 

嫌な予感しかしない。

 

「ぶっちゃけさ」

 

村紗が身を乗り出した。

 

「諏伯とはどこまでやったの?」

 

「はぁっ!?」

 

ぬえは勢いよく立ち上がる。

 

「なんでそんなこと言わなきゃいけないのよ!」

 

「なんでって」

 

一輪は首を傾げる。

 

「暇だし?」

 

「暇だからってデリカシー捨てるな!」

 

「まあまあ」

 

村紗はぬえの肩に手を置いた。

 

「お姉さん達に教えてみなよ」

 

その瞬間。

 

肩に岩でも乗ったような重さが掛かる。

 

(こいつ……本気で押さえ付けてる!?)

 

「教えてくれるまで離さないから」

 

「……ったく」

 

ぬえは深々とため息を吐いた。

 

「分かったわよ」

 

その一言で村紗は手を離す。

 

一輪も期待に満ちた目を向ける。

 

「それで?」

 

「残念だったわね、何もしてないわよ」

 

「「えっ?」」

 

二人の声が綺麗に重なる。

 

「だって諏伯と会う時なんて、ほとんど命蓮寺じゃない」

 

ぬえは呆れ顔で言う。

 

「あんた達も見てるでしょ?」

 

「じゃあ逢引とか」

 

「二人きりで出掛けたりとか」

 

「ないわよ」

 

即答だった。

 

村紗と一輪は顔を見合わせる。

 

「次から私達みんなでどっか行こうか?」

 

「そうね。その間に二人きりで――」

 

「いらない気遣いよ!」

 

ぬえは顔を真っ赤にしながら、その場を逃げるように去っていった。

 

その後ろ姿を見送りながら。

 

村紗が真顔になる。

 

「……一輪」

 

「うい」

 

「これは由々しき事態じゃないかい?」

 

「ええ」

 

一輪も真剣な表情で頷く。

 

「付き合ってる若い男女が、何も進展してないなんて」

 

「このままじゃ破局だよ」

 

「うん、破局だね」

 

二人は同時に頷いた。

 

「今夜、緊急会議を開くわよ」

 

「任せて」

 

一輪は力強く親指を立てた。

 

その日の夜。

 

命蓮寺の一室。

 

障子は閉められ、室内は薄暗い。

 

まるで秘密結社の会合である。

 

集められたのは。

 

村紗。

 

一輪。

 

寅丸星。

 

ナズーリン。

 

「皆の衆」

 

村紗が厳かに口を開く。

 

「集まったか」

 

「……なんですか、この集まり」

 

星は困惑した表情を浮かべる。

 

「命蓮寺のある問題について議論しようと思ってね」

 

「その問題とは?」

 

ナズーリンが腕を組む。

 

村紗は真面目な顔で告げた。

 

「諏伯とぬえが、全然進展してない」

 

沈黙。

 

ナズーリンは何も言わず立ち上がった。

 

「アホくさ」

 

障子へ向かって歩き出す。

 

「帰らせてもらうよ」

 

「まあまあ」

 

星が慌てて引き止める。

 

「もう少しだけ聞きましょう」

 

「……」

 

ナズーリンは盛大なため息を吐きながら座り直した。

 

「それで?」

 

「それの何が問題なんだい」

 

一輪が真剣な顔で言う。

 

「このままじゃ冷めきって破局よ」

 

「破局、、だから?」

 

ナズーリンは再び立ち上がる。

 

「やっぱり帰――」

 

「チーズ」

 

ぴたり。

 

ナズーリンの足が止まった。

 

村紗は不敵に笑う。

 

「いいのかい、ナズーリン」

 

「……」

 

「諏伯とぬえが別れるってことは」

 

さらに畳み掛ける。

 

「裏ルート」

 

「もっと言うなら」

 

「聖にバレずに嗜好品を持ち込める人間がいなくなるんだよ?」

 

「……っ」

 

ナズーリンの耳がぴくりと動く。

 

一輪も追撃する。

 

「ナズーリンも一度くらい、ネズミとしてチーズに溺れたいと思ったことあるんじゃない?」

 

長い沈黙。

 

やがてナズーリンは諦めたように椅子へ座った。

 

「……分かった」

 

深いため息を一つ。

 

「確かに由々しき事態だ」

 

腕を組み直し、真面目な顔になる。

 

「聞くだけ聞こうじゃないか」

 

村紗と一輪は顔を見合わせる。

 

「よし、、ナズーリンはこれでいいとして寅丸的にはいいの?」

 

「え?」

 

突然話を振られた星は目をぱちぱちさせる。

 

「諏伯とぬえのことだけど」

 

「どこかの竹林火炎少女(妹紅)みたいに諏伯の事好きだったりしないの?」

 

星は少しだけ考え込み、静かに微笑んだ。

 

「兄上がいなければここにもいなかったでしょうし感謝しています。」

 

穏やかな口調で続ける。

 

「ですが、それはあくまで恩人としてです。恋心などはありませんよ」

 

 

星は苦笑しながら首を横に振った。

 

「それに……兄上には幸せになっていただきたいですから」

 

「それがぬえと一緒なら、私は応援します」

 

「おおー!」

 

村紗が思わず拍手する。

 

「流石は命蓮寺一の人格者!」

 

「私は普通のことを言っただけなんですけど……」

 

星は苦笑するしかなかった。

 

 

 

ナズーリンは腕を組み、呆れたように口を開いた。

 

「それで?」

 

「諏伯とぬえの仲を進展させる計画でもあるのかい?」

 

村紗は待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

 

「もちろん!」

 

一輪も期待の眼差しを向ける。

 

「聞かせて、村紗隊長」

 

村紗は部屋の中央へ歩き、床を指差した。

 

「まず寅丸に諏伯とぬえを呼んでもらう」

 

星がきょとんとする。

 

「はい」

 

「それで地下室へ案内するでしょ?」

 

「はい」

 

「二人が中に入った瞬間!」

 

村紗は勢いよく拳を握った。

 

「入り口を閉める!」

 

「さらに!全員で結界を張って封鎖!」

 

「後は!吊り橋効果でイチャコラサッサよ!!」

 

部屋には村紗の予想とは反対に静寂が訪れた。

 

星は困ったように苦笑する。

 

「うーん……」

 

「無理じゃないですかね?」

 

「えぇっ!?」

 

村紗は大げさに仰け反る。

 

「完璧な作戦じゃない!」

 

ナズーリンは額に手を当てた。

 

「二人を地下室へ誘導するまではいい」

 

「問題はその後だ」

 

冷静に指摘する。

 

「相手は平安京の悪夢を引き起こした本人達だよ」

 

「ぬえも諏伯も、多少の封印術くらい自力で破るんじゃないかな」

 

村紗の肩が落ちる。

 

「そんな……」

 

「船長のグッドアイデアが……」

 

「まだ諦めちゃ駄目ですよ」

 

意外にも励ましたのは星だった。

 

「寅丸!」

 

村紗が目を輝かせる。

 

「何かあるの!?」

 

星は人差し指を立てた。

 

「私達より強力な封印を使えて」

 

「なおかつ」

 

「諏伯とぬえの仲を強引にでも進展させたい二柱がいます」

 

村紗と一輪は同時に首を傾げる。

 

「誰?」

 

「守矢神社の神様方ですよ」

 

「「おおーーっ!」」

 

二人の声が重なった。

 

村紗は勢いよく立ち上がる。

 

「あの神様達なら!」

 

「多少の荒事でも笑って許してくれそうだ!」

 

一輪も腕を組む。

 

「問題は……」

 

「どうやって聖にバレず相談するかよね」

 

部屋が静かになる。

 

村紗は頭を抱えた。

 

「確かに……」

 

「聖は絶対反対する」

 

「『恋愛は本人達の意思が一番大事です』とか言いそう」

 

「言いますね」

 

星が即答した。

 

「私は最近忙しくて守矢神社へ行く時間もありませんし……」

 

「私達も妖怪の山へは気軽に行けない」

 

一輪も腕を組んだ。

 

「詰んだ?」

 

「詰んだねぇ」

 

その時だった。

 

「くっくっくっくっくっ……」

 

天井裏から笑い声が響く。

 

「「「「!?」」」」

 

ギィ……。

 

天井板がゆっくりと横へずれた。

 

そこから顔を覗かせたのは。

 

「お困りのようですねぇ」

 

射命丸文だった。

 

ひらり、と軽やかに部屋へ降り立つ。

 

「聞かせていただきましたよ、お話」

 

文は満面の笑みを浮かべる。

 

「ここは私が協力しましょう」

 

星が思わず声を上げる。

 

「パ、パパラッチ!」

 

「なんで天井裏なんかにいるんですか!」

 

「嫌ですねぇ」

 

文は涼しい顔で羽を払う。

 

「命蓮寺で秘密の会合が開かれていると聞けば取材するに決まってるじゃないですか」

 

「決まってないよ!」

 

ナズーリンが即座に突っ込む。

 

そして鋭い視線を向けた。

 

「それに……」

 

「文屋が自分から協力を申し出るなんて珍しい」

 

「何を企んでいる?」

 

文は大袈裟に肩をすくめる。

 

「またまた」

 

「今回はただ働きですよ」

 

「ほう?」

 

「なにぶん諏伯さんとは、幻想郷の妖怪達の中でも八雲の大将の次くらいには長い付き合いですからね」

 

メモ帳で口元を隠す。

 

「それに――」

 

目が悪戯っぽく細められる。

 

「あのシャイボーイを思いっきりからかえるなら、それだけで十分元は取れます」

 

部屋の全員が顔を見合わせる。

 

そして。

 

「「「「採用」」」」

 

文は満足そうに笑った。

 

「では、作戦会議第二ラウンドといきましょうか。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。