純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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第128話 命蓮寺での戦闘

 

守矢神社を後にした華扇は、一人静かに考えを巡らせていた。

 

「さて……」

 

動物の背に揺られながら、小さく呟く。

 

「先ほど八坂神が口にした言葉」

 

『命蓮寺の妖怪達は協力している』

 

『聖白蓮は二、三日は戻らない』

 

「……あまりにも都合が良すぎますね」

 

目を細める。

 

「つまり、命蓮寺には聖がいては困る何かが隠されている」

 

「ならば――」

 

華扇は進路を変えた。

 

「調べる価値があります。」

 

 

 

数分後。

 

命蓮寺。

 

門前へ降り立つと、ちょうど境内にいたナズーリンがこちらへ歩いてきた。

 

「おや、山の仙人様じゃないか今日は何の用かな?」

 

華扇は笑みを浮かべる。

 

「少し寺の中を見学させていただこうかと」

 

「……」

 

ナズーリンの笑顔が一瞬固まる。

 

「……断る」

 

即答だった。

 

華扇は少し肩を竦める。

 

「お寺なのに来客を断るのですか?」

 

「構いませんよ」

 

「後ほど聖白蓮に直接お願いするだけですから」

 

「……」

 

ナズーリンは頭を抱えた。

 

(聖に知られる方がまずい……)

 

長いため息を吐く。

 

「……分かった」

 

「案内しよう」

 

 

 

命蓮寺の廊下を歩く二人。

 

華扇は何気なく辺りを眺めながら歩いていた。

 

しかし、ぴたりと突然足を止める。

 

「……やはり、感じますね」

 

「?」

 

そのまま案内とは全く違う方向へ歩き始めた。

 

「ま、待て!」

 

ナズーリンが慌てて追いかける。

 

「そこは部外者立入禁止だ!」

 

しかし華扇は止まらない。

 

「止まれ!」

 

ナズーリンは華扇の袖を掴む。

 

だが。

 

「失礼」

 

華扇はそのまま歩き続ける。

 

仙人の膂力に引きずられ、ナズーリンまで一緒に前へ進んでしまう。

 

騒ぎを聞きつけ。

 

村紗。

 

一輪。

 

星。

 

命蓮寺の妖怪達も慌てて駆け付けた。

 

「華扇!」

 

「止まりなさい!」

 

だが。

 

一歩遅かった。

 

華扇は目的の部屋へ辿り着く。

 

「これですね」

 

扉を開く。

 

ギィ……

 

中には壁。

 

それだけだった。

 

「…………」

 

その瞬間。

 

後ろにいた妖怪達全員が。

 

「ふぅ……」

 

安堵の息を漏らした。

 

村紗は慌てて笑顔を作る。

 

「ほら」

 

「何も無かったでしょ、仙人様」

 

「さあさあ帰った帰った」

 

一輪もすかさず前へ出る。

 

「ここは改装予定の部屋なんです」

 

そう言って扉を何度も開閉してみせる。

 

「ほら」

 

「ただの壁でしょう?」

 

「…………」

 

華扇は何も答えない。

 

静かに目を閉じる。

 

(焦っている。)

 

(間違いありませんね。この扉が関係している。)

 

神奈子の言葉。

 

命蓮寺の妖怪達。

 

今の反応。

 

すべてが一本に繋がる。

 

(しかし。)

 

(作製者本人しか開けられない?)

 

すぐに首を横へ振る。

 

(違います。)

 

(神奈子がわざわざ命蓮寺まで来て、ぬえを中へ押し込んだとは考えにくい。)

 

(ならば。)

 

(本人なら入れる。)

 

(しかし、外からは開けられない。)

 

(そういう仕組み。)

 

華扇は小さく笑った。

 

「ふむ」

 

「これは……」

 

口元が僅かに緩む。

 

「高くつきますよ、諏伯」

 

「……?」

 

一輪が首を傾げる。

 

「急に何を言って――」

 

華扇は踵を返し、そのまま庭へ歩き出した。

 

妖怪達も警戒しながら後を追う。

 

広い庭へ出ると。

 

華扇は静かに振り返った。

 

「皆さん恨みはありません、ですが」

 

袖をまくる。

 

包帯を巻いた右腕が風に揺れる。

 

「人助けのため。貴方達を倒します。」

 

その一言で。

 

場の空気が一変した。

 

村紗が錨を構え。

 

一輪が雲山を呼び出し。

 

星は宝塔へ手を添え。

 

ナズーリンは静かに身構える。

 

一輪が険しい表情で口を開いた。

 

「……本気なのね。」

 

華扇は静かに頷く。

 

「ええ。本気です。」

 

仙人と命蓮寺。

 

互いに一歩も譲らぬ戦いの火蓋が、静かに切って落とされた。

 

 

村紗は錨を振り上げ、大きく笑った。

 

「四対一で挑むとは、随分舐められたもんだね!」

 

錨が一直線に飛ぶ。

 

ガシャンッ!!

 

鉄鎖は抵抗らしい抵抗もなく華扇の身体へ巻き付いた。

 

「やった!」

 

村紗が口角を上げる。

 

「こんな簡単に捕まるなんて、案外仙人様も大したこと――」

 

「一輪!!」

 

「おうよ!」

 

一輪は拳を突き上げる。

 

「雲山!やってしまい!」

 

「せいやぁぁっ!!」

 

巨大な拳が拘束された華扇へ叩き込まれる。

 

だが。

 

「甘い。」

 

華扇は鎖など意にも介さず、右拳を突き出した。

 

ドォン!!

 

拳と拳が真正面からぶつかる。

 

衝撃波が庭中へ広がった。

 

「なっ!?」

 

雲山の身体が止まる。

 

拘束されているはずの華扇と互角。

 

「嘘だろ……」

 

村紗は目を見開く。

 

「私が拘束してるのに、この馬鹿力!?」

 

ナズーリンも表情を引き締めた。

 

(……違う。)

 

(この仙人。ただの仙人じゃない。)

 

「弾幕!」

 

援護の弾幕が華扇へ降り注ぐ。

 

しかし。

 

華扇は笑う。

 

「薄い、薄い!」

 

片手を振るだけで弾幕を払い除ける。

 

「そんな威力では!古の時代なら誰一人倒せませんよ!」

 

空へ腕を掲げる。

 

次の瞬間。

 

空を覆うほど巨大な弾幕が生み出された。

 

「弾幕とはこう撃つのです!!」

 

轟音。

 

巨大な弾幕がナズーリンへ降り注ぐ。

 

「しまっ――」

 

その瞬間。

 

「宝塔よ!」

 

星が前へ踏み出した。

 

「その御力を現し給え――威光!!」

 

宝塔から極太の光が放たれる。

 

轟ッ!!

 

光は巨大弾幕を真正面から撃ち抜き、空中で相殺した。

 

爆煙が庭を包む。

 

「ナズ!怪我はありませんか!」

 

「お陰様でね。」

 

ナズーリンは息を整える。

 

「全く……デタラメな強さだ。」

 

華扇は楽しそうに笑った。

 

「ふふっ。退屈しなさそうですね。」

 

星は即座に指示を飛ばす。

 

「村紗!」

 

「幸い錨は切れていません!」

 

「拘束を維持してください!」

 

「雲山!」

 

「彼女を押さえ込んで!「任せい!」

 

雲山が華扇へ飛び付き、全身で押さえ込む。

 

「放さんぜよ!」

 

「一輪!」

 

「ナズ!」

 

「拘束が解けた時の為に援護を!」

 

「分かった!」

 

二人は左右へ展開する。

 

そして星は宝塔を掲げた。

 

「宝塔よ!」

 

「秘めし力を最大まで解き放ち給え!」

 

眩い光が宝塔へ集束する。

 

華扇はそれを見ながら小さく呟いた。

 

「やはり……」

 

「命蓮寺の妖怪とて、この程度。」

 

その瞬間だった。

 

「ふっ!」

 

華扇は全身へ力を込める。

 

ミシッ!!

 

鉄鎖が悲鳴を上げる。

 

「なっ!?」

 

村紗が目を見開く。

 

そのまま華扇は鎖を力任せに引いた。

 

村紗と雲山ごと。

 

二人を持ち上げる。

 

「嘘じゃろ!この馬鹿力!!」

 

華扇は二人を盾のように振り回した。

 

「ご主人!」

 

ナズーリンが叫ぶ。

 

しかし遅い。

 

「威光!!」

 

星の最大出力。

 

極太の光が一直線に飛ぶ。

 

直前で華扇は身を翻す。

 

盾にされた村紗と雲山へ直撃した。

 

轟音。

 

二人はそのまま吹き飛び、動かなくなる。

 

「村紗!」

 

一輪が飛び出す。

 

手にしたチャクラムを投げる。

 

だが。

 

華扇は僅かに身を傾けて避けると。

 

「甘い。」

 

一歩踏み込み。

 

お腹へ拳を叩き込んだ。

 

「がっ……!」

 

一輪はその場へ崩れ落ちた。

 

残るは。

 

星とナズーリン。

 

「ご主人……」

 

ナズーリンは短く息を吐く。

 

「時間は稼ぐ。」

 

「もう一発頼む。」

 

「ああ。」

 

星は宝塔を構える。

 

ナズーリンは華扇へ突撃した。

 

数秒。

 

それだけで十分だった。

 

「威光!!」

 

三度目の光。

 

今度は完全に華扇を捉える。

 

直撃。

 

爆煙が辺りを覆った。

 

「やりましたか……?」

 

星は肩で息をしながら煙を見つめる。

 

だが。

 

煙の奥から。

 

ゆっくりと人影が現れる。

 

着物は焼け焦げ。

 

全身には傷。

 

それでも。

 

茨木華扇は立っていた。

 

「……中々。」

 

血を拭いながら笑う。

 

「良い攻撃でしたよ。寅丸。」

 

星は苦笑した。

 

「ははっ……」

 

「貴方も、大概化物ですね。」

 

その言葉を最後に。

 

三度にわたる宝塔の全力使用で霊力は尽き果てる。

 

星は静かに膝をつき。

 

そのまま前へ倒れ込んだ。

 

庭には、最後まで立っていた華扇だけが静かに息を整えていた。

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