純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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故郷との別れ

暫くの後、諏伯たちはついに諏訪地方に到着した。いつも通り、里の入り口には母や神奈子、東風谷の巫女が待っているかのように立っていた。しかし、彼らの顔には暗い影が落ちていた。

 

「母さんただいま。」諏伯は少し気掛かりな気持ちを抱えつ、声をかける。

 

「お帰り。」と、諏訪子は微笑んだが、その笑みには何かしらの重苦しさが感じられた。神奈子は厳しい表情で諏伯を見つめ、御柱を彼に向けた。

 

「諏伯、今から言うことは冗談じゃない。故郷に入るな。」

 

「神奈子さん、何を言っているの?」と、諏伯は驚きの声をあげた。

 

神奈子は冷静に続けた。「お前も知っているだろう。帝よりこの村に知らせが来た。"京の街を壊滅させた犯人。諏伯と封獣ぬえが来たら引き渡せ、さもなくば村を焼き捨てる"とな。」

 

妹紅は言葉を失い、「それは、、、」と呟いた。

 

東風谷の巫女も心配そうに言った。「勿論、諏伯君がそんな事をやったとは思いません。」

 

神奈子は更に厳しく、「諏伯、横の女。封獣ぬえだろ。そいつをお前の手で殺せ。それで帝の使者に許しを請う。」と迫った。

 

「、、、、、。」と、諏訪子は何も言わず沈黙していた。

 

諏伯はその言葉に思わず目を閉じ、「みんな、僕が京の街を壊滅させて人を殺したのは本当だよ。」と、重い口を開いた。

 

神奈子は少し驚いた様子で続けた。「その妖怪を出せば、帝の許しを請える。」

 

「僕みたいな犯罪者が故郷に入ったらダメだよね。ぬえ、ごめん。別の場所を探そうか。妹紅はここに残りな。」諏伯は涙を流しながらも決意を固めた。

 

「私も着いていく。」妹紅は毅然とした表情で言った。

 

「ダメだ!残れ!」と、諏伯は涙を流しながら妹紅に訴えた。その言葉には、彼女を守りたいという強い感情が込められていた。

 

 神奈子は妹紅の腕を掴み、堪えた涙を流しながら言った。「指名手配犯が子どもを育てられないから私が責任持って預かる。」

 

「ありがとう、神奈子さん。」と、諏伯は涙を浮かべながら感謝の言葉を返した。

 

彼は、最期の別れに向けて心を決め、柔らかな笑みを浮かべながら言った。「母さん。神奈子さん。姉さん(東風谷の巫女)、これまでありがとう。もう会えないだろうけど、さようなら。」ゆっくりと立ち去る諏伯の背中は、寂しさと決意に満ちていた。

 

互いに声が聞こえる範囲までは我慢していたが、一定の距離が開くと、皆一斉に涙を流し始めた。

 

「ごめん、諏伯。母なのに、神でなければ。」と、諏訪子は自責の念に駆られて呟いた。

 

神奈子は苦悩を表情に浮かべながら、「許せ諏伯。こうしなければ村は焼かれ、信仰は失われ、私たちも死ぬ。」と告げた。

 

東風谷の巫女は静かに頷き、「全員が生き残るにはこうするしかなかったんですよね。」と冷静に言った。

 

「ごめん、神奈子。1番辛い役目をさせて。」と、諏訪子は涙声で謝罪した。

 

「流石に母親にあのセリフは言わすことが出来ないよ。」と、神奈子は微かな笑みを浮かべた。

 

「諏伯、次いつ会えるか分からないけど、会えた時はいっぱい話を聞かせてね。」と、諏訪子は心に決めたように言った。

 

妹紅は、まだ涙を流しながらも、かすれた声で、「諏伯のお兄さん。私のせいでごめんなさい。」と謝った。その言葉には、自身の選択がもたらした運命に対する苦しみが込められていた。

 

皆がそれぞれの思いを胸に抱え、諏伯を見送る姿は、別れの悲しみと希望が入り混じっていた。彼らは、どこかで再会できる日を願いながら、今はただ静かに見守るしかなかった。

 

 ぬえは諏伯の言葉に疑問を投げかけた。「あんたいいの?私の首1つで村に帰れたのに。」

 

諏伯は静かに首を振り、「それで帰れたところで死ねない体。一生後悔するだけだよ。」と答えた。彼の言葉には、心の奥に深い苦悩が宿っていた。

 

「それでこれからどうするの?」ぬえは興味を持って尋ねた。

 

「頼れる人か、、、」と諏伯は考え、少しずつ言葉を選びながら続けた。「山の天狗は組織があるし、阿礼は京都にいるし、輝夜姫が見つかれば楽なんだが。」

 

ぬえはその言葉を受けて、「つまり決まってないって事ね。」と冷静に指摘した。「まあいいわ。私も数百年分の恐怖を一夜で稼いだから、妖怪の格も下がらないだろうし、あんたとゆっくりやるわ。」

 

彼女の言葉には、多少の余裕とともに諏伯を気にかける気持ちが含まれていた。彼らは一緒にいることで、互いの傷を癒し合えるかもしれないという期待感を生み出していた。

 

諏伯は、ぬえの言葉に少しほっとしたような表情を見せ、「じゃあ、今はゆっくり考えながら行動しようか。」と提案した。

 

ふたりはしばらくの間、静かな時間を過ごすことにした。未来に訪れる見知らぬ運命を乗り越えるために、互いに支え合いながら新たな道を模索することを決意したのだった。

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