純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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寅丸星との出会い

舟幽霊を沈めたことで、何事もなく諏伯たちは佐渡ヶ島に到着した。

 

「我が故郷の佐渡ヶ島じゃ。この島のタヌキは皆ワシの配下、まず襲われることはないぞ。」と、マミゾウは誇らしげに紹介した。

 

その言葉に続いて、彼の配下のタヌキが近づいてきた。

 

「そうなら良かったんですが。」とタヌ吉がしんみりした表情で言った。

 

「どうしたタヌ吉、何かあったかの?」とマミゾウが心配そうに尋ねる。

 

タヌ吉は声を低めて、「実はマミゾウさんがいない間に寅が現れまして、住処を荒らされているんです。」と報告した。

 

「そうなのか。にしても、日本に寅か?不思議じゃのう。」とマミゾウは首をかしげた。

 

「寅ってなんですか?」と、諏伯が興味を持って聞いた。

 

「知らなくても無理はない。日本には居ないからの。海外にいる熊すら襲う恐ろしき獣じゃ。」とマミゾウが説明した。

 

 封獣ぬえも頷きながら、「海外から泳いで来るわけないと思うけど、そこにいる事実があるなら否定出来ないわね。」と意見を加えた。

 

諏伯はしばらく考え込み、「どちらにせよ、なんとかしないといけないな。」と決意を固めた。

 

 

マミゾウは頷き、「何はともあれ、今日は休もう。疲れたの。2人とも案内する故参れ。」と言った。

 

彼の自宅は大きな木の足下にあり、さやかではあるが温かい食事会が開かれていた。タヌキたちの手作りの料理が並び、和やかな雰囲気が漂っていた。

 

諏伯は周りを見回しながら、「なんというか、マミゾウ以外はある程度タヌキよりの姿をしてるんだね。」と気づきを言った。

 

タヌ吉は頷き、「マミゾウ様は大妖怪ですからね。我々はまだ見習いみたいなものなので、中途半端な変化になります。」と説明した。

 

諏伯は少し困惑しながら、「ちょっとトイレ行ってくる。」と言ってその場を離れた。

 

「漏らさんようにの〜。」と、マミゾウは冗談を言いながら笑った。

 

 諏伯は「何処ですればいいか分からないけど、離れるか」と言いながら森の中を歩き始めた。しばらくすると、何か音が聞こえてきた。不思議に思い近づくと、そこには黄色の髪に黒色の髪が少し混じり、赤い服を着た目の下が黒い少女が木ノ実を貪っているのが見えた。

 

「足りない、足りない。もっと食べたい。」と、少女は繰り返しつぶやいていた。

 

「君は何をしてるんだい?」と、諏伯は声をかけた。

 

すると、少女は諏伯に気づいてこちらを見た。

 

「足りないんだよ。食べないと存在を保てない。食べさせてくれよ。」と、少女は焦るように言った。

 

諏伯は彼女の言葉に興味を持ちつ、どう反応すればいいのか考えた。この少女が求めているもの、そして彼女の「存在を保つ」という言葉の意味を理解するためには、もう少し話を聞く必要がありそうだった。少しずつ状況を掴むために、彼は慎重に尋ねた。「どういうこと?君は誰なの?」

 

 「僕は寅丸星。人間の想像から生まれた妖怪だよ。望んでないのに、お前ら人間が生み出したせいで空腹なんだよ!!木ノ実を食べても空腹!生物の亡骸を食べても空腹!」と、寅丸は言い放った。

 

「腹が減って減って仕方ないんだよ!!食い物寄こせ!!」と、彼女は興奮して命令した。

 

諏伯は自分の体を探り、持っていた干し芋を渡した。寅丸はそれに齧り付き、あっという間に食べ尽くした。さらに食べ物をせがむ。

 

「もうないよ。」と、諏伯は両手を見せて、何も持っていないことを示した。

 

しかし、寅丸は衝撃的なことを口にした。「なら君を喰わせてよ。逃げるなら家族を喰うよ?」

 

彼女の口から垂れるヨダレが、その空腹の苦しさを示していた。諏伯は思わずため息をついた。「蓬莱の薬があるとはいえ食べられるのはな。しかし、他の人に危害が及ぶのはよくない。」

 

諏伯は少し考えた後、ある案を思いついた。「食べるというか食べれるのかな?」と、彼は左手を差し出した。

 

寅丸は瞳を輝かせ、その手を見つめた。

 

 「いいの?みんな普通は逃げるけど、本当に食べさせてくれる人は初めてだよ。」と、寅丸は驚きつも喜んで言った。彼女は待っていたかのように、諏伯の手に齧り付く。久々のご馳走に、彼女は目を輝かせて食べ始めた。

 

 諏伯(これは攻撃に非ず。加護よ発動し給うな。これは攻撃に非ず。加護よ発動し給うな。これは、、、、)

 

痛みのあまり森の中で叫ぶ諏伯だったが、蓬莱の薬の効果により腕は瞬時に再生した。諏伯は加護が発動しないよう願いながら寅丸に腕を食べさせる。それでも、彼は寅丸を追い払うことはしなかった。彼女の空腹を満たしてあげたかったのだ。

 

寅丸は腹いっぱいまで諏伯を食べると、満足そうに「プハァ!ありがとうお兄さん!生まれて初めてお腹いっぱい食べれたよ!!」と笑顔を見せた。

 

「死ぬほど痛かったけど、それはよかったな寅丸。」と諏伯は少し笑いながら返した。彼は寅丸の頭を撫でたが、しかしその瞬間、寅丸の表情が急に暗くなった。

 

「どうした?腹いっぱいになったんだろ?」と諏伯は心配しながら尋ねた。

 

「今お腹いっぱい食べて気付いたんだ。僕は自分の食欲を満たすため、幾らの命を食べて来たんだろうと。何故かそれを考えたら、、、オエッ!オロ。」と、寅丸は急に顔を歪めて嘔吐を始めた。

 

「うわあ、、、あ、、、俺の肉体が吐き出される。」と、諏伯は苦笑しつも、その状況を面白おかしく感じてしまった。

 

 寅丸がしばらく吐いて落ち着いた後、諏伯は声をかけた。「落ち着いたか?」

 

「うん。でも、自分が満腹になったと同時に、その食欲のために犠牲になった者を思い出してしまったんだ。」と、寅丸は言葉を続けた。

 

「優しいな寅丸。俺も肉を食うことはあるけど、そんなの気にすることない。」と、諏伯は励ますように答えた。

 

「僕、もう肉を食べられないかもしれない。」と、寅丸は静かに告げた。

 

「まあ、肉以外でも食べられるものはある。木ノ実だってそうだろ。」と、諏伯が言った。

 

「あれ、不味い。」と寅丸は口を尖らせる。

 

諏伯は周囲に落ちている木ノ実を見る。「そりゃ寅丸。お前が食べていたのは毒があるぞ。」

 

「えっ!毒なんてあるの?そんなの教えてくれる人いなかったから知らなかった。」と、寅丸は驚いた表情で返した。

 

「そうだよ。自然の中には、食べられるものもあれば、危険なものもある。これからは、ちゃんと気をつけないといけないな。」と、諏伯は真剣に教える。

 

寅丸はそれを聞いて少し考え込み、「うん、でもどうやったら安全な食べ物を見分けられるのかな?」と尋ねた。

 

 「俺の知り合いは海を越えないといけないからなぁ。」と諏伯が悩んでいると、後ろから声がした。

 

「ふむ。それなら私が海を渡して送ってやろう。」とマミゾウが言った。

 

「マミゾウ!?いつの間に。」と諏伯は驚きの声を上げた。

 

「お前のう、森の中であんだけ叫び声あげてたら嫌でも気づくぞ。」と、マミゾウはニヤリと笑った。

 

「そうか、そうだよね。」と諏伯は安堵の表情を見せた。

 

寅丸は少し不安そうに「お姉さんは誰?」と尋ねた。

 

「私か?私は二ッ岩マミゾウ。タヌキの頭領であり、この男の友達の友達じゃ。」と、マミゾウは自身を紹介した。

 

「タヌキ、、、。」と寅丸は呟く。

 

「お主がタヌ吉の話しておった寅であろう?ずいぶん可愛い姿をしておるな。本当は殺してやりたい所だが」と、マミゾウは目を細めた。

 

寅丸は怯えながら、後ろに一歩下がる。

 

しかし、マミゾウは優しい声で寅丸にチョップを加え、「幸いタヌキは殺されておらん。佐渡ヶ島に居られても迷惑じゃったが、諏伯の言う信頼できる人のところまで連れてってあげよう。」と言った。

 

「えっと、申し訳ありませんでした。」と寅丸は小さな声で謝った。

 

「よし、次は無いからな。」とマミゾウは軽く笑って続けた。「ところで、諏伯。その信頼できる人はもしかして?」

 

「母さんと神奈子さんのところに。私は行けないけど。」と、諏伯は言った。

 

「了解じゃ。明日にでも連れて行こう。佐渡ヶ島に置いておくとタヌキの逆襲に遭いそうじゃからの。」と、マミゾウは決意を持って宣言した。

 

 諏伯は話がまとめられると、ふとぬえのことを思い出した。「戻らないと不味いな、、」と不安を口にした。

 

「大丈夫じゃ。あいつならもう酔いつぶれておる。」とマミゾウは余裕の表情で答えた。

 

「ならよかった。」と、諏伯は少し安心した。

 

マミゾウは「ほら、諏伯。紙と墨じゃ。家族への言伝があれば今の内に書いておけ。」と促した。

 

諏伯は必要な道具を受け取り、すぐに筆を走らせた。端的に、諏訪子と神奈子にこれまでの旅の経緯、寅丸の境遇、そして彼女を教育していくための願いをしたため、マミゾウへと託した。

 

彼の手がスムーズに動き、思いを込めたメッセージが紙に綴られる。数分後、諏伯は手紙を書き終えた。「これで大丈夫だ。」と呟き、みずからの想いがしっかりと伝わることを願った。

 

「良い手紙じゃ。伝わると信じよう。」とマミゾウは微笑み、信頼を寄せた。

 

「寅丸、これから頑張って生きていけ。」と諏伯は優しく声をかけた。

 

寅丸はひたむきに頷き、「うん、頑張るよ!」と明るい声で返した。

 

 1ヶ月後、諏訪地方にて。

 

諏訪子は空を見上げながら、「諏伯何してるかな。」とつぶやいた。

 

神奈子は、「生きてるのは確かだな。」と答え、少し微笑んだ。

 

その時、一人の子どもを連れた旅人がふと現れた。「この手紙預かってきました。この子も。」と旅人が言い、神奈子に手紙を渡した。

 

神奈子は手紙を受け取りながら、「子どももか?」と驚きの声を上げた。

 

しかし、何故かその旅人は次の瞬間、忽然と消えてしまった。

 

「妖怪の気配がしたが、やはり人ではなかったか。」と神奈子は言った。

 

「見てたけど、木の葉が落ちたかと思えば消えていたね。子どもを残して。」と諏訪子が続けた。

 

神奈子は手紙を読み始めた。「諏訪子、諏伯からだよ。」と、彼女は内容を確認する。

 

寅丸の状況や教育の願いについて書かれていることを2人は理解した。

 

「全く、神に妖怪の世話を頼むとは。」と神奈子は呟いたが、内心では温かい気持ちが湧いていた。

 

「まーいいじゃん神奈子。妹紅にも友達が出来るよ。」と諏訪子は笑顔で言った。

 

神奈子は困った顔をしながら、「親に子どもを押し付けるとは諏伯、どうせなら諏伯の子どもを送ってこい!!」と冗談交じりに叫んだ。

 

その時、手元の小さな声が響いた。「あの!寅丸星と申します!これからよろしくお願いします。」

 

妹紅はその声に驚き、「弟が出来た。弟やった。」と嬉しそうに笑った。

 

こうして、寅丸は新たな場所での生活を始める準備を整えた。彼女の未来に新たな希望が芽生え、神々と共に神社での新しい生活が幕を開けるのだった。

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