諏伯は月に侵攻する者が現れるという情報を受け、一人、月の都から離れた場所に配置されていた。
「罪人の償いとはいえ、一人にやらせるか普通。でも紫が来たらぶん殴ってやる。」彼は独り言をつぶやきながら、侵攻者が来るのを待っていた。心の中には不安と緊張が入り混じっていた。
しばらく待機していると、目の前に瞬間移動したように一人の人物が現れる。彼女は金髪で、ウェーブのかかった長髪を持ち、漢服のようなデザインの中華風の衣装を身にまとっている。頭には冕冠を被り、背後には七本の紫色の尻尾が生えている。
「私は諏伯。侵入者で間違いないですか?」彼は一歩前に踏み出し、相手に尋ねる。
「挨拶どうも、貴方は初めて見る顔ね。私は純狐。貴方は穢れ云々言わないのね、侵入者で間違いないわよ。」純狐は柔らかな笑顔で答えたが、その目には冷静さがにじんでいた。
「私も地上人ですから。」諏伯は自らの立場を告げた。
「地上人がまたなんで月に?」純狐は興味深そうに問いかける。
「前回の月面侵攻の際に妖怪に置いていかれまして。」彼は苦笑しながら答えた。
「そりゃ可哀想に。月の都を襲った後なら連れて帰ってあげるわよ?」純狐は優しげな声で言ったが、その言葉には何か裏があるように感じた。
「今回はとりあえずあなたを止めます。それで罪は半分許されるらしいので。」諏伯は毅然とした態度で彼女に向き合った。
純狐は肩をすくめて「それじゃあ仕方ないわね。」と言い、その目に戦う決意を宿らせる。
「やりましょうか。」諏伯は覚悟を決め、彼女に向かって立ち向かう準備を整えた。
二人は互いに睨みを合わせ、一触即発の緊張が漂う中、月の運命をかけた戦いが始まるのであった。
「地形操作!」諏伯は力強く宣言し、純狐の足下を沈下させた。
「埋まれ!」彼は上から土を流し込み、純狐を捕らえようとしたが、敏捷に後ろに移動する純狐。
「弾幕!」彼女の声が響き、次の瞬間、互いに放った弾幕が衝突し、激しい爆発を引き起こした。煙が立ち上り、周囲が一瞬不明瞭になる。
諏伯は戦闘の最中、心の奥に広がる不思議な懐かしさに悩まされていた。彼の心にはこの戦いがどこか既視感のあるものであるような感覚があった。何故だろう? 彼は悩む。
「戦いの最中に考え事?良くないわね。」純狐が彼の肩を掴む。
「還りなさい、純化。」純狐は能力を使用したが、次の瞬間、彼女の表情が驚愕に変わった。
「あ、、、れ、、、。既に純化されている?貴方、私と会ったことない、、、わよね?」彼女は目を丸くし、疑念を抱く。
「ないは、、、ず。」諏伯の心に不安がよぎる。
「おかしい。待てこの子の純化は加護として憑いている?」純狐の内心に混乱が広がる。彼女はそれを理解し、記憶を辿った。「私が純化の加護を与えたのは息子、伯封のみ。」
その瞬間、諏伯は思わず問いかけた。「なんで懐かしい雰囲気がするんでしょう。」
「攻撃しないから動かないで。」純狐の声は冷静さを取り戻し、彼に静止を求めた。
純狐は諏伯の胸を手で触れ、その魂を感じ取った。瞬間、彼女の目から涙が溢れ出た。
「この魂、見間違うはずもない。わた、、私の息子、伯封。」彼女は震える声でそう呟き、感情が一気に溢れ出した。
その言葉に、諏伯は驚愕と理解を抱いた。戦いの中に感じていた懐かしさ、それは彼の中に宿る母の存在だった。二人の間には、時を超えた深い絆が芽生え、一瞬でそれまでの敵対関係が崩れていくのを感じた。涙と驚きに満ちた瞬間、彼は純狐の目を見つめ、心の奥で何かが変わり始めるのを感じた。
「お母さん……?」思わず口にしたその声は、過去の記憶を辿るようであった。彼の心の中に、久しく失われていた感情が蘇り、温かさが広がっていく。
ここには、戦いを超えた家族の情が動いていた。彼らの運命は再び交わり、優しさと悲しみが同時にその場を包む瞬間となった。
「いや待て違う。俺の母は諏訪子……だけど、この人の力。何故かは分からないが、私の探し求めていたものがここにある。」諏伯は混乱した心情を吐露した。
純狐は穏やかな微笑みを浮かべ、「生まれ変わったのね。伯封。」と告げた。その言葉は、彼の心を一瞬にして癒す力を持っていた。
「分からない、分からないけど貴方が他人とは思えない。」諏伯は思わず彼女の瞳を見つめ、心の中に広がる感情を認識した。彼の心の何かが目覚めたような感覚があった。
涙が彼の頬を流れ落ち、彼は膝をついてうずくまった。「何が起こっているのか分からない……でも、君がいることで、心が温かくなっていく。」
「帰りましょう、伯封。連れて行くわ。」純狐は優しく彼の肩を抱き寄せ、深い愛情を込めて彼を見つめた。
彼はその言葉に安堵を感じ、抵抗することなくその手を受け入れる。「うん、純狐さんと一緒に……へ行く。」
二人は手を取り合い、ゆっくりとその場を離れた。純狐の柔らかな光に包まれた瞬間、諏伯は自分の中にある過去と向き合いながら新たな未来へと歩み出す決意を固めた。
消えた二人の姿を見つめる月の民たちは、何が起こったのかに疑問を抱き、不思議な表情を浮かべていた。
「諏伯?」豊姫は混乱した声でその名を呼んだ。
依姫も不安げに続ける。「敵と戦っていたかと思えば、急に消えてしまいましたね。」
一方、サグメは冷静に観察し、「何か話していたように見えた。」とメモを取りながら述べた。その表情には、一瞬の出来事に対する悩みや思案が浮かんでいた。
豊姫は周囲の気配を感じ取り、決心した様子で言った。「消えたことは間違いないわね。純狐を撃退したということにして、彼の消息不明についても伝えておきましょう。」