妹紅と輝夜が紙飛行機での遊びに満足すると、諏伯は不比等と共に屋敷を後にすることにした。
「それでは不比等どの、難題頑張って下され。」と、諏伯は心からの励ましを送った。
「蓬莱の玉の枝…聞いたことすらありませんが、必ず探してみせます。」不比等は力強く頷き、決意を新たにして答えた。
妹紅は諏伯に向かって明るく手を振り、「諏伯のお兄さん。紙飛行機ありがとうね。」と感謝の言葉を伝えた。
諏伯は笑顔で二人に手を振り返し、その場を後にした。彼は心の中で新しい出会いに感謝しながら、次なる冒険の期待を胸に歩みを進めた。妹紅と不比等も、なお手を振り続け、諏伯の背中が見えなくなるまで見送っていた。
この一日は、彼らにとっても素敵な思い出となり、また新たな物語の始まりを予感させる温かい一瞬であった。諏伯の旅はまだ続くが、彼はこの出会いが自分を豊かにしてくれたことを実感しながら、次の目的地に向かって進んでいった。
諏伯は数日間歩みを進め、遂には京に辿り着いた。
「ここが京か、大和よりも栄えている」と彼は感嘆しながら周囲を見渡した。街には多くの人々が行き交い、貴族の牛車も通りを行き来している様子が見られる。
しかし、どこか不思議に思った。「何か変だな。みんな疲れているような…」と、諏伯は気づいた。街の人々の表情にはどこか影があり、活気が感じられない。
諏伯が町中を歩いていると、日が昇っているにもかかわらず、人々が急ぎ足で家の中に入り始めるのを目にした。「なんでこんな時間に?」と困惑する諏伯。
ちょうどその時、避難し始めた人の中から一人の男が声をかけてきた。「そこの方、もしかして京は初めてで?」
「ええ」と諏伯は頷く。
「説明は後です。私の家においでなさい」と男は言い、諏伯を家へと招き入れる。
「それで、なぜ皆さん屋内に隠れているんですか?」と諏伯は尋ねる。
男は小声で答えた。「実は、この時間帯になると妖怪が現れるのです。皆、恐怖で屋内へと避難しているのです。窓から見られますか?」
興味を持った諏伯が窓からその妖怪を遠くから見ると、黒髪とミニスカワンピースが特徴的な妖怪、封獣ぬえがいた。
「ただの女の子のようですが…」諏伯はその姿を見て呟いた。
「そんな筈は…」と、男は急いで窓から覗き込み、すぐに大きな声で窓を閉じ、部屋の隅に恐る恐る移動した。
「ヒィ!大きな烏が…」どうやら男には違った姿が見えているようだった。
諏伯が何が起こっているのか分からずにいると、男は事情を話し始めた。
「この妖怪は、人によって見える姿が変わるのです。ある者には恐ろしい怪物に、ある者には別の何かに…そう、あなたにはあのように見えるのですね。しかし、多くの人にとっては恐ろしい存在に変わるのです。だから、皆怖がり避難しているのです。」男は恐る恐る説明した。
諏伯は事情を少し理解し、妙に納得しながら頭をうなずいた。「なるほど、そういうことだったのか」と呟くように言った。京の町では、見かけに惑わされずにその本質を見抜くことが大切であると感じ取ったのだった。
「仕方ないですね。私が対峙してみましょうか。」と諏伯は静かに決意を示した。
「陰陽師で?」と男は驚き混じりに尋ねた。
「違いますが、ちょっとだけなら。」諏伯は微笑みながら答えた。
男は少し心配そうだったが、何かに頼るしかない状況に諦め、「なら、せめてこの本をお持ち下さい。あの妖怪について書いてあります。」と、一冊の本を差し出した。
諏伯はそれを受け取り、「わざわざどうも。そういえば、貴方の名前は?」と尋ねた。
「私は稗田阿礼、ただの本の虫です。」男はやや照れたように自己紹介した。