純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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永遠亭での一夜にて

妹紅を落ち着かせた諏伯は、その夜を永遠亭で静かに過ごしていた。

 

湯あがりの団欒の席、湯呑を傾けながら永琳が問いかける。

 

「結局、豊姫たち相手に……どこまでやれたの?」

 

「倒せた人はいませんよ。一対一ならまだしも、三人がかりは無理です。追い詰められて地殻を崩して、都市の防御結界を起動させたくらいです。」

 

「……それ、月の民を皆殺しにしかねない発想よ?」

 

「降伏も許されず、逃げ道もなかったんです。あれは……自爆覚悟の一手でした。」

 

永琳はため息をつきながらも、どこか安堵したような微笑を浮かべる。

 

「でも、そう聞いて少し安心したわ。あの子たちも手を抜かずにいたってことね。」

 

「全力で止めに来ましたよ。さすがに……無傷では済まなかったです。」

 

話が一区切りついたところで、輝夜が少し身を乗り出す。

 

「ところで、私たちのこと……話した?」

 

「いえ。戦闘不能になった後すぐに、サグメさんに拘束されて……

体中に釘を打ち込まれ、生死を繰り返す状態にされてました。話す機会なんてありませんでしたよ。」

 

「……それはまた、随分と」

 

永琳が茶を置き、静かに目を伏せる。

 

「案外、それも優しさだったのかもしれないわ。下手に尋問に巻き込むより、話せない状況にして庇ったということ」

 

「庇うって……あれで?」

 

「前の降伏の時、豊姫様に情報を漏らしたじゃないですか。念には念を、という意味での“封じ”かもしれません」

 

鈴仙がぽつりと補足を入れると、諏伯は少し黙り込んだ。

情報が洩れることを恐れた結果――あの痛みを背負わされたのだとすれば、複雑な気持ちになるのも無理はなかった。

 

「……そういう解釈もあるんですね」

 

「あるわよ。あの子たちなりに、あなたを“丁重に”扱ったのよ」

 

輝夜が、気を変えるように手元の徳利を持ち上げる。

 

「ま、細かいことは抜きにして――お疲れ様。

ほら、お酒注いであげるから、今夜はゆっくりしていきなさい」

 

「ありがとうございます。……では、遠慮なく」

 

徳利の酒をちびちびと口に含みながら、諏伯は縁側で夜空に浮かぶ月を静かに見上げていた。

 

すると、隣で同じように月を眺めていた輝夜が、ぽつりと口を開く。

 

「ねえ、諏伯。あなた、今回の件で……月の民を相手にしても十分に渡り合えるって証明できたわよね」

 

唐突な言葉に、諏伯は少し目を細めて返す。

 

「それが、何か?」

 

「元はと言えば、“私を守れるか”っていう保証のために始めた関係だったでしょう? まあ、気まぐれ半分だったのも否定はしないけど……」

 

「…………」

 

「だからね。もう、無理して続けなくてもいいのよ。

本物の恋人ってわけでもなかったし、妹紅にも“恋愛ごっこ”ってからかわれてたし」

 

そう言って、グラスをくるくると回しながら、輝夜はどこか寂しげに笑った。

 

「……それとも。もし、本当に惚れてくれてたなら、今からでも“本当の恋人”になる?」

 

からかいのようでいて、どこか探るような口調。

 

諏伯は頭を抱え込む。

 

(確かに恋人らしいことは何もしてこなかった……でも、これで終わったら終わったで、諏訪子や神奈子さんが“早く結婚しろ”ってさらに騒ぎ出すだろうしなあ……)

 

そんな内心の葛藤を察したように、背後から永琳がふと呟く。

 

「……まったく。自分の周囲の女性たちの圧に押されて姫と付き合うなんて、そんな動機、どうかと思うわよ」

 

小声でぽつりと一言。

 

「――マザコン」

 

聞こえないふりをする諏伯に、今度は輝夜が肩をすくめながら訊ねる。

 

「じゃあ、どうするの? 一応このまま“仮の関係”で継続しておく? 無理にとは言わないけど」

 

苦笑しながら、諏伯は杯を空けた。

 

「……彼女を作る努力だけはしてみます。で、無理そうなら……その時は、また“仮”でお願いします。……ね?」

 

「ふふ。ずいぶんと中途半端ね。でもまあ――いいわ。約束よ?」

 

月明かりの下、少しだけ風が和らいで、空気が軽くなったようだった。

 

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