諏伯は永遠亭を訪れた。
中に入ると、鈴仙が薬瓶を抱えて忙しそうに立ち働いていた。
「諏伯? あなたがケガの予定はないと思いますが……何かあったんですか?」
「ちょっと訳ありで、永遠亭で宴会をしたいんです。永琳か輝夜はいますか?」
「了解です。――あ、今ちょうど妹紅さんも来てますよ。たぶんいつもの部屋に」
案内され、輝夜の部屋に入ると、永琳、輝夜、そして妹紅が卓を囲んでいた。
「兄さん?」妹紅が目を丸くする。
「妹紅、どっか悪いの?」
永琳が代わりに答えた。
「ただの二日酔いよ。飲みすぎて気持ち悪いからって、ここに転がり込んできただけ」
「……なるほど。守矢に戻った時も酔いつぶれてましたからね」
「いいじゃないかよ」妹紅がぶっきらぼうに言う。「で、兄さんは何しに?」
輝夜が扇を軽く仰ぎながら割り込んだ。
「私との関係、どうするか決めたのかしら?」
「なんだ輝夜。お前まだ“恋人ごっこ”を続けるつもりか」妹紅が睨む。
諏伯は姿勢を正し、短く答えた。
「恋人ができました。もう“ごっこ”は必要なさそうです」
「……あら、それはおめでとう」輝夜は含み笑いを浮かべる。
「えぇぇー! 相手は? 誰?」妹紅が食いついた。
「ぬえです」
「ぬえか……」妹紅は額をかき、息をつく。
「随分おとなしいじゃない、もこたん」輝夜が茶化すように笑う。
「昔、兄さんを助けてくれた恩があるからな。……何処の馬の骨か分からん相手よりは納得できる」
「でも残念ね。私と付き合うと思っていたのに」
「はっ! お前の性格で兄さんが釣れるわけないだろ!」
「泣き虫のあなたよりマシよ、“もこたん”」
「なんだとぉ!」
「はいはい」永琳が制止の声をかける。「せっかくのおめでたい報告なんだから、喧嘩は後にしてちょうだい」
それから諏伯に目を向け、落ち着いた声で言う。
「正体不明の大妖怪。その存在を大々的にするのは危険だから、秘匿性のあるこの永遠亭で宴会をしたい――そういうことね」
「……さすが永琳。何も説明していませんが、その通りです」
「構わないわ。この前は鈴仙が迷惑をかけたみたいだし、その埋め合わせも兼ねてね」
その後暫く白蓮と神奈子、諏訪子は戦闘の後に永遠亭へと向かった。
時を同じくして、命蓮寺では――。
境内に姿を現した早苗を囲んで、一同が耳を傾けていた。
「……という訳なんですが」
「おーっ!」寅丸がぱっと顔を輝かせる。
「兄上にもついにお相手が見つかりましたか!」
白蓮は穏やかに微笑んだ。
「あらあら。ぬえが珍しく早く布団に潜っていたのは、そういう理由だったのですね」
「ええっ、そうなの?」と一輪が目を丸くする。
「ぬえ、言ってくれたらよかったのに」
村紗もニヤリと笑う。
「そうだよ。私らだってねぇ? ちょっと茶化すくらいで済ませてあげるのに」
「で、どうなの? キスはしたのか、キスは!」一輪が畳み掛ける。
「ううーっ……だから言いたくなかったのよ、あんたたちには!」
顔を真っ赤にしたぬえが、袖で耳を隠すようにしてうずくまった。
「こんなお祝いなんて、別にいいのに……」
ナズーリンは呆れたように尻尾を揺らしながら、けれどどこか優しげに言った。
「まあまあ。なにはともあれ“おめでとう”というやつだね。……あの考えなしに宝塔を作った子どもが、ずいぶんと大きくなったものだ」
「ふふ」白蓮は立ち上がる。
「さあさ、そうと決まれば永遠亭へ赴かなくてはなりませんね。みなさん、先に行きなさい」
「聖は?」村紗が首をかしげる。
「私は……」白蓮は柔らかな声で言った。
「ほら、里で異教を広めている方々を説得してから参ります」
「ひとりで勝てると思わないことですね!」早苗がぐっと拳を握る。
白蓮はクスリと笑って首を振った。
「ええ、心得ています。あなたたちは先に」