純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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純狐の息子は二度目の生を謳歌する2
お面の妖怪 秦こころ


平穏な日々が続いていたある日。

守矢神社に、ぬえがふらりと現れた。

 

「暇?」

開口一番の言葉に、諏伯は包丁を手に振り返る。

 

「今日は料理当番なんですけど……」

 

すると背後から神奈子の豪快な声。

「いいぞ! 好きなとこに連れて行ってやれ。私が許可する!」

 

「どーも、神様」

ぬえが軽く手を振り、諏伯の腕を半ば強引に引いていく。

 

二人が去るのを見ていた諏訪子が、台所に顔を出した。

「今日は早苗も泊まりでいないけど、ご飯どうするんだい?」

 

「カップラーメンでも食べるかね」

神奈子は肩をすくめながら笑った。

 

 

---

 

外へ出た諏伯は、歩きながら問いかける。

「……それで、何か用事があったんですか?」

 

「最近ね、ちょっと面白い妖怪を見つけたの。アンタにも見せようと思って」

 

「面白い妖怪……?」

 

少し飛んだ先、ぬえが指さした。

「ほら、あそこ。ピンクの髪の妖怪」

 

諏伯は首を傾げる。

「見たことない顔ですね」

 

「秦こころ。お面の妖怪よ。最近、いろんな妖怪にちょっかいかけてるらしいの」

 

二人は草むらに身を潜め、遠目に様子を伺う。

「……ねえ、なんで僕らは隠れて見てるんです?」

 

「だって知り合いじゃないし。ただの見物よ」

 

「……ぬえ、もしかして暇なんですか?」

 

「なっ……! だって、あんたが“神社の用事が~”とか言って全然構ってくれないからでしょ!」

 

諏伯は苦笑して頭をかく。

「……すみません」

 

「ほら、今度はまた別の妖怪に挑んでる」

ぬえは指を伸ばし、こころの方へ目をやる。

 

草むらから様子を伺っていると、ピンク色の髪を揺らしながら一人の少女が舞台に立つように現れた。

腰には数枚のお面がぶら下がり、その背後には「怒り」「喜び」「悲しみ」といった感情を象徴する面々が、幽霊のようにふわふわと浮かんでいる。

 

その少女――秦こころは、無機質な瞳を妖怪へと向けた。

 

「……お面を、盗んだのは……あなた?」

抑揚のない声。まるで人形が喋っているような、不思議な響きだった。

 

「し、知らない……」

慌てたように妖怪は答える。

 

「……犯人は、みんなそう言う」

 

 

こころは淡々と薙刀を振るった。

鋭い一閃――しかし妖怪の身体には一切傷が残らない。

 

「……い、痛く……ない?」

戸惑いの声が漏れる。

 

「……切ったのは、君の“嘘”の感情。……もう一度、聞くよ。仮面は、持ってる?」

 

「……し、知らないってば!」

 

「……そっかー。……また振り出し」

 

こころは薙刀を下ろし、つまらなそうに肩を落とすと、トボトボと歩き出した。次の「獲物」を探すために。

 

その様子を見ていた諏伯は、思わず眉をひそめた。

「……何だ、あれは。本当に感情を斬ったのか……?」

 

隣で頬杖をついていたぬえが、にやりと笑う。

「ね? 面白いでしょ。あの子、感情を操るの。だから相手の心をかき乱すのなんて朝飯前」

 

諏伯は視線を戻しながら低く呟いた。

「……でも、あれ、ただの悪戯じゃ済まないんじゃ」

 

ぬえは肩をすくめながらも真剣な表情を浮かべる。

「いきなり相手を選ばず斬るなんて……よっぽど大事な仮面を探してるのかもしれないね。事情があるんだと思う」

 

そして、ちらりと諏伯を横目で見て。

「……話しかけてみる?」

 

 

 

ぬえと諏伯は草むらから姿を現し、秦こころの前へ歩み出た。

 

「こんにちは、そこのお嬢さん」

ぬえが軽く片手を振って声をかける。

 

「……あなたは、誰?」

無機質な声で返すこころ。

 

「私? 私は封獣ぬえ。妖怪よ」

 

「封獣……鵺? 大妖怪の。……ひゃー、恐ろしや~」

こころは棒読みで言うが、その表情はまるで無反応。

 

諏伯が小さく首を振る。

「怖がっているようには見えませんね」

 

「……私はお面の妖怪だから。……ほら」

こころは背後に浮かぶ仮面を指差す。恐怖の面が震えている。

「お面は、怖がってる」

 

「なるほど……。私は洩矢諏伯です」

 

「これはどうも。……私は秦こころ。お面の妖怪。今は――希望のお面を探してる」

 

ぬえがにやりと口元をゆがめる。

「知ってるわよ。ずっと見てたもん」

 

「……ぬえは、私のファン?」

 

「違うわよ。ただ――どうして希望のお面を探してるのか、気になっただけ」

 

「……希望のお面は感情のひとつ。それがなければ、私だけじゃなく、この世界の人の“希望”の感情も消える」

 

諏伯の顔が強張る。

「……それは、不味いですね」

 

「うん。不味い。だから、お面を盗んだ犯人を探してる」

 

ぬえは眉をひそめて腕を組む。

「でも、誰が盗んだのか分からないんでしょ?」

 

「……気づいたら、負けて……お面を取られてた。相手の姿は、認識できなかった。だから今は……手当たり次第」

 

「認識できない相手……正体不明?」

諏伯は横目でぬえを見る。

 

「ちょっ……! 私を疑わないでよ! 本当に違うから!」

 

「あ……いえ、すみません。違いますよね」

 

「まったく……。でも、“正体不明の敵”か。心当たりなんてないわよ」

 

諏伯は顎に手を当てて考える。

「……阿求にでも聞きに行くか」

 

こころがぱちりと瞬きをして近寄る。

「……犯人のことを、知ってる人がいる?」

 

「かも、ってだけよ」

 

「……ついていく。お面を取り返さなきゃ。早くしないと――みんなの希望が、なくなる」

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