メジロ家の使用人やってます。あ、彼女募集中です。   作:shch

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1.メジロマックイーン専属使用人

 

 

 

 

「お嬢様、もうすぐ朝食のお時間です。ご準備できていますか?」

 

黒の燕尾服を身にまとい、頭髪を七三分けに綺麗に纏めた男が白い手袋をしている手で大きな木製の両開き扉をコンコンコンとノックする。

 

ノックが扉の向こうに響いたその直後。

 

「もちろんできていますわ。入りなさい」

 

そんな声が扉の向こうから聞こえてくる。

 

その声からは若干の幼さが感じられつつも、芯のあるハッキリとした印象もしっかりと感じられる。

 

「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 

「入りなさい」と指示を受けた執事のような服装の男はそう言って両手で大きな木製の扉に力を籠める。

 

ギィィ…

 

重い木の軋む音とともにその扉は開いた。

 

そこで真っ先に目に入るのはキリリとした鋭い目と端正な顔立ちをした長い葦毛のウマ娘。

 

由緒正しき名家『メジロ家』のご令嬢『メジロマックイーン』だ。

 

「おはようございます。マックイーンお嬢様、今日もお美しゅうございます。」

 

そんなマックイーンに執事の男はそう挨拶をして、片方の手を胸に当てて恭しく頭を下げた。

 

「ふふん…メジロ家のウマ娘たるものいつでも美しいのは当然ですわ!」

 

マックイーンは執事の言葉に得意げに胸を張ってそう答える。

 

そんなマックイーンに執事は表情を変えずに口を開く。

 

「しかしお言葉ですがお嬢様。頭髪に少し乱れが見られますよ、しっかりとヘアセットされましたか?」

 

執事の言う通り、マックイーンの髪には寝癖のような跡が見受けられる。

 

しかしマックイーンはその言葉に特に気にする様子もなく、部屋の端にある三面鏡のついた化粧台に座る。

 

そして口を開いた。

 

「それは学、あなたの仕事ではなくて?」

 

マックイーンはそう言うと『学』と呼ばれた執事の男に髪を向けるように座りなおす。

 

そして言葉を続ける。

 

「いつものようにお願いしますわ」

 

そんなマックイーンを見て、執事の男は口を開く。

 

「…かしこまりました」

 

そう言うと執事はどこからともなく、ドライヤーや櫛、ヘアオイルなどを取り出してマックイーンの元へ近づいて、髪を櫛でとかし始める。

 

適切な温度でドライヤーの風を当てて、ゆっくりと丁寧に髪に櫛を入れながらヘアオイルを塗りこんでいく。

 

「~~♪」

 

上機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、マックイーンは真剣な表情で自身の髪を整えていく執事の顔を鏡越しにじっと見つめる。

 

しばらくすると、執事の手が止まる。

 

「お嬢様、いかがでしょうか?」

 

手を止めた執事がそう言うと、マックイーンは正面の鏡で髪を揺らしながらその仕上がりを確認する。

 

先程までの寝癖は全て完璧に直されており、いつものマックイーンのサラサラで綺麗な髪が鏡の中でシャラリと揺れていた。

 

マックイーンが満足げに頷き口を開く。

 

「流石ですわね、学」

 

そう言ったマックイーンは今度は尻尾をユラリと揺らして執事の前に出した。

 

「それでは次はいつものように尻尾のブラッシングもお願いしますわ」

 

「…かしこまりました」

 

執事が再び返事をすると先ほどと同じようにどこからともなくブラッシング用のブラシを取り出し、マックイーンの尻尾をブラッシングし始めた。

 

しばらくブラッシングをしていると、マックイーンが猫のように背中を伸ばして口を開く。

 

「ん~…やっぱり学の朝のブラッシングはホントに気持ちがいいですわ…」

 

そんなマックイーンの言葉に執事はブラッシングの手を止めずに答える。

 

「お嬢様、お褒めの言葉ありがとうございます。大変光栄です」

 

そんな言葉を返した執事の男にマックイーンは再び声をかける。

 

「…ねぇ学?あなたはわたくしの専属使用人ですわよね?」

 

「ええ、その通りわたくしはマックイーン様専属の使用人にございます。どうして急にそのようなことを聞かれるのですか?」

 

「少し確認をしたいだけですわ、もう一つ聞きます。学、あなたはわたくしの使用人を途中で辞めたり、他の方に仕えたりすることはありませんのよね?」

 

「何を言ってるのですかお嬢様、この私『九重 学(ここのえ がく)』はお嬢様が望むのならば、生涯あなたの使用人としてあなたに尽くす所存であります。なのでお嬢様、いらぬ心配は無用です」

 

「し、心配など別にしてませんわ!別に学が急にいなくなったらどうしようとか思ってないですわ!…ですが、学の今の言葉を聞いて安心しました。…改めて学に言っておくことがあります」

 

「…言っておくこと?なんでしょうか?」

 

学がそう聞くと、学に背を向けて座っていたマックイーンがくるりと学と対面するように座りなおす。

 

そして口を開いた。

 

「学…あなたはわたくし、このメジロマックイーンとこの先もずっと一緒にいてくださるかしら?」

 

それを聞いた学は座っているお嬢様に目線を合わせるように片膝を地面につけて答えた。

 

「もちろんですお嬢様。それが私のお仕事ですから」

 

 

これは、名家『メジロ家』のご令嬢『メジロマックイーン』とメジロ家に忠誠を誓い、マックイーンの専属使用人として働く『九重 学』の甘酸っぱい日常を綴る物語である。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

九重 学(ここのえ がく)

 

彼はメジロ家の傘下「九重グループ」の最高責任者の息子としてこの世に生を受けた。

 

しかし、何を思ったのか九重グループを背負う学の両親が学が生まれたタイミングでなぜか九重グループがメジロ家の傘下から独立することを発表した。

 

周囲の必死の制止も聞かずに学の両親はメジロ家から完全に独立。

 

しかし案の定といったところかそこから業績は大低迷…

 

やがて九重グループは崩壊し、責任者である学の両親は多額の借金を背負うこととなった。

 

借金を背負った学の両親はあろうことか日本に1人学を置いて海外に逃亡。

 

学は当時三歳ながら天涯孤独の身となった。それを見かねたメジロ家の大奥様が「子供に罪はありません」ということで学をメジロ家で引き取ってくれることとなった。

 

それから独身で子供もいないメジロ家の執事長が彼の里親に名乗りを挙げて学は執事長の養子となった。

 

学はメジロ家のご令嬢たちと一緒に育てられながらも、親代わりの執事長に一流の使用人となるための技術を仕込まれて育ってきた。

 

そして現在、学は高校生。大奥様の意向で学校には行かせてもらっている。

 

学生としての生活とメジロ家使用人としての生活、2足の草鞋を履いて生活を送る。というのは少し大変だ。

 

土日は休みじゃないし、友達と遊ぶ時間もあまり取れない、課題や勉強をする時間も少ない。

 

しかし、メジロ家の使用人たるもの両方完璧にこなしてこそ当たり前。そういう教育方針で学は育てられてきた。

 

その影響だろうか…

 

「お嬢様、紅茶が入りました。」

 

「ええ、ありがとう学……やはり学の入れる紅茶は格別ですわね」

 

「お嬢様、ありがとうございます」

 

(…うーん…別に毎回適当に入れてるだけなんだけどな…てか彼女欲しいなぁ…青春したいなぁ…急に空から俺のこと大好きなかわいい女の子降ってこないかなぁ…)

 

学は…色々こじらせていた…

 

「学?今日の予定は?」

 

「はい、本日はこれより専用練習場にてトレーニング、昼食を挟んで午後からはショッピングでございます」

 

「そうでしたわね」

 

(なんで大きい予定2個しか無いのにわざわざ聞いてくるんだろ?…てか今日朝早かったから眠いんだけど…ゴロゴロしたい…惰眠を貪りたい…)

 

しかし、決して外には出さない。彼は今日もポーカーフェイスで完璧な執事を演じる。

 

「ところで今日のショッピング、いつも通り学が荷物持ちとして着いてきてくださるのですわよね?」

 

マックイーンが学にそんな疑問を投げかける。

 

(荷物持ちって言っても毎回、服選ばせられるし手とか繋がされるしパフェとかあーんさせられるし…仕事の範疇を超えてるんだよな…それにお嬢様ももう中学生なんだから…もう少し大人になって欲しいな…手くらい繋がなくても迷子にならんだろ…まあ今回俺は行かなくていいんだけどね)

 

「いえ、本日のショッピングは私ではなく執事長がお嬢様のお荷物持ちとしてご同行します」

 

学がそう言うとマックイーンは優雅に飲んでいた紅茶を噴き出して慌てて口を開く。

 

「え、えぇ!?ど、ど、どうしてですの!?なんで学は今回わたくしに着いてきてくださらないのですの!?もしかして前回わたくしが学のパフェを横取りしたから!?わたくしとのデートはもう嫌だということですの!?」

 

(いやデートじゃないだろ荷物持ちだろ……てかデートとか聞いたらなんか女の子とデートしたくなってきたなぁ…したことないけど……あぁダメだ泣きそう…)

 

「いえ、本日は午後よりパーマー様からゴルフのキャディをしてくれないかというお願いをいただいてまして、そちらに行こうと思います」

 

学がそう言うと、マックイーンは机を叩き声を荒げる。

 

「はあ!?パーマーですって!?なんでパーマーの方に行ってしまうんですの!?いつか私以外に仕えることはないと言ってくれていたではありませんか!学!どういうことですの!?」

 

「パーマー様はどうしても私をご指名とのことでしたので…お嬢様の荷物持ちは別に私でなくとも務まると判断したのですが…」

 

「ダ、ダメですわダメですわ!学じゃないとダメですの!!今からパーマーの予定はキャンセルしなさい!」

 

「しかしお嬢様…もう執事長に話を通しているのでそれは難しいかと…もしどうしてもと言うのなら直接パーマー様にお電話でも…」

 

学がそう言い終わる前にマックイーンはスマホを取り出し画面を操作し始めた。

 

(このお嬢様はなんでこんな必死なんだ…俺、普通にパーマーとゴルフしに行きたいんだけど…てか別に荷物持ちなんて俺じゃなくていいだろ…)

 

ちなみに学とパーマーこと『メジロパーマー』は同じ歳で小学校6年間ずっと同じクラスだったこともあり普通に仲良しなのである。

 

マックイーンがスマホを操作し終えると呼び出し音が鳴り始め、しばらくするとパーマーが出たようでマックイーンが声を荒げた。

 

「ちょっとパーマー!?学はわたくしの専属ですのよ!?何を勝手に予定入れておりますの!?ジョーダンじゃありませんわ!…………何ですって?『別に荷物持ちなんて誰でもいいじゃん』ですって??良くないに決まってますわ!!パーマーこそゴルフのキャディなんて誰でもよろしいのではなくて!?…大体学はわたくしと……」

 

(あぁ…これ長くなるやつだ…聞かなくていいや…なんか別のこと考えよ……)

 

スマホに向かって声を荒げる自分のご主人様を見て学は心の中でため息をついた。

 

(はぁ…青春してぇなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

これは青春こじらせ演技派完璧(笑)系執事の『九重 学』とそんな学が大好きなメジロ家ご令嬢『メジロマックイーン』の日常を書いた物語である。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

「はい今日の授業はここまで。全員気を付けて帰宅するように!」

 

担任がそう言うと先ほどまで静かだった教室が一斉にざわつきだす。

 

そんな教室にいる学はそそくさと帰り支度を終えて、席を立った。

 

そんな学に声をかける生徒がいた。

 

「おい九重!今日もバイトか?皆でボウリング行くんだけど…」

 

「ごめん!バイトだ!また誘ってくれ!」

 

学は声をかけてきたクラスメイトに手を合わせてそう言った。

 

「そっか…九重はほんとに毎日忙しそうだな…バイト頑張れよ」

 

「うん!ありがと!じゃあまた明日!」

 

学はそう言うと足早に教室を後にした。

 

 

 

 

 

学は廊下を早足で歩く。

 

今日も今日とて学には使用人としての仕事がある。

 

平日は大抵マックイーンは寮に泊まるためマックイーンの世話係という仕事はなくなるのだが、使用人の中でも最年少、すなわち一番下っ端の学には学校帰りでも仕事が腐るほどあるのだ。

 

それにマックイーンからの急な呼び出しが来ることもあるので基本的に屋敷にいないといけない。

 

そしてこの仕事はクラスメイトには説明が面倒なのでただのバイトということにしている。

 

しかし、そんな学にも自由な時間はある…

 

学は校門まで歩くと、校門に立つ一人の女性に声をかける。

 

「エリカ先輩!お待たせしました!」

 

「あ!学くん!待ってたよ~」

 

自由な時間、それすなわち登下校時間である。

 

エリカ先輩は学が住んでいる屋敷の近くに住んでいる同じ学校の一つ上の先輩だ。

 

ショートカットでほんわかした雰囲気をしており、顔も可愛い系で学校でも人気のある人物だ。

 

学は入学当初の登校時にエリカ先輩を目撃した時から完全に一目惚れ、猛アタックの末なんとか登下校を共にする仲にまで発展させることができた。

 

「学くんは今日もバイトなの〜?」

「そうですよ?いつも通りです!」

 

学とエリカ先輩は並んで歩きながら会話をする。

 

「偉いね〜学くんは毎日頑張ってて」

「ですよねですよね!?もっと褒めてくれてもいいですよ??」

 

学がそう言うとエリカ先輩は背伸びして学の頭をわしゃわしゃと撫でながら言う。

 

「偉い!偉いぞ学くん!」

「へへ〜くすぐったいですよエリカ先輩〜」

 

撫でられながら鼻の下を伸ばし、だらしなくも楽しそうに笑う学。

 

もしマックイーンがこの光景を見れば普段の学とのギャップに泡を吹いて倒れてしまうだろう。

 

エリカ先輩が学の頭を撫でるのをやめて話を続ける

 

「本当に毎日すごいよ〜…でさ今日そんな学くんにちょっとダメ元で聞いてみたいことがあるんだけど…」

「ん?なんですか?」

 

学がそう聞くと、エリカ先輩は頬をカリカリと掻きながら少し照れ臭そうに口を開く。

 

「えーとね…次の週末とか、空いてたりしないかなぁ?…やっぱり忙しい?」

「ええ、まあ週末はいつも通り一日中バイトの予定ですけど…どうしてですか?」

 

学が再びエリカ先輩にそう聞くと、エリカ先輩は足を止めて学に向き直る。

 

そして、学の顔を見ながら少し顔を赤らめて答えた。

 

「私達さ…結構仲良くなれたと思うの…だからもし空いてたら学くんと一緒に2人でどこかお出かけでもいけたらなぁ…って思ってたんだけど…」

 

「……ぇ」

 

エリカ先輩の言葉に衝撃を受けて、少し固まってしまう学であったがすぐに復活し思考する。

 

(え、何コレ?脈アリ?脈アリなのか?脈アリだよな?これデート行けちゃうんじゃないか?なんならそこで告白したら初彼女できちゃうんじゃないか?しかもこんな可愛い人が?やばい…落ち着け俺)

 

学は思考を巡らしながらもチラリとエリカ先輩の方を見る。するとエリカ先輩は顔を赤らめたまま上目遣いでボソリと言った。

 

「ダメ…かな?」

 

「ちょっと待ってください電話するんで」

 

「え、うん」

 

エリカ先輩の上目遣いにノックアウトされた学はすぐさまスマホを取り出し電話をかける。

 

電話先は執事長ことじいやだ。

 

エリカ先輩から少し距離を取って、会話が聞こえないように学は電話口に向けて喋る

 

「もしもし!?じいや?」

 

『おぉ、学ですか?急にどうしたんですか?』

 

「じいや!俺にもやっと春が来たんだ!ずっと言ってたエリカ先輩とデートに行けそうなんだ!次の土日どっちか俺休みにできないかな!?」

 

『おぉ!!よくやりましたね学!いつも話してくれる一目惚れした学校の先輩のことですね?すごいではないですか!もちろんお休みにしますよ。最近1日休みをあげれていませんでしたからね』

 

「やった!ありがとうじいや!…あ、でもお嬢様は…」

 

『マックイーン様のお世話はこのじいやが代わりにしますので安心しなさい。』

 

「本当にありがとうじいや!今度腰痛に効くマッサージしてあげるよ!」

 

『それはありがたい、学のマッサージはかなり効きますからねぇ…』

 

「任せてよ!」

 

『ふぉふぉ…楽しみにしてますよ。それじゃあ学、頑張ってきなさい』

 

「うん!じゃあまた後で!」

 

そう言って学は電話を切った。

 

そしてエリカ先輩の元に戻り、口を開く。

 

「エリカ先輩、次の週末休みにしてもらいました!一緒にどっか行きましょう!」

 

「え!ほんとに!?嬉しい〜!」

 

「どこに行きましょうか?」

 

「え、私今気になってる映画があって…って言う映画なんだけど知ってるかなぁ?」

 

「俺もその映画面白そうだと思ってました!」

 

「よかった!じゃあそれを見に行こうよ!あとそれから……」

 

「いいですね!じゃあ……」

 

2人はそう楽しげに話しながら帰り道を並んで歩いていった…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

エリカ先輩と別れて屋敷に戻ってきた学は素早くいつもの燕尾服に着替えて業務を開始する。

 

まずはお馴染みクソ広い庭のお手入れである。

 

(エリカ先輩とデート…楽しみすぎる…)

 

いつもは心の中で悪態をつきながら行う掃除、しかし今の学の脳内はエリカ先輩とのデートでいっぱいいっぱいだ。

 

無理もない、初めてのデートなのだ、少しくらい舞い上がっても仕方ないだろう。

 

(でも…油断はできないな…また直前で断られるかも…)

 

この学という男は私生活が忙しい分、青春に敏感な男だった。

 

常に彼女を欲しがっており、少しでもいいなと思った女の子には積極的に話しかけに行くタイプ。

 

そんな彼が高校生にもなって初デートがまだというのには理由がある。

 

これまで彼の人生の中で数回、デート自体の予定は今日のように決まったことはあった。

 

しかし、なぜか毎回そのデートに行く前に「やっぱりやめとくね…」と女の子に断られるのである。しかもそれ以降その女の子との交流はパタリと消えてしまうのだ。

 

学は今回ばかりはそんなことになるのは嫌なので、これまでの記憶を掘り起こして問題点を探ることにした。

 

しかしこれまでを思い返しても特に自分の行動に問題は見つけられない。

 

しかし…これまでのデート前にしていた事の共通点なら見つけられた。

 

(俺そういえばデート決まったら毎回真っ先にパーマーに自慢しに行ってたな…でもこれが関係あるとは思えないけど…)

 

実際、学は今日の仕事が終わった後に電話でもしてパーマーにこのことを自慢するつもりだった。

 

(まあ一応今回は自慢しないでおくか…絶対デート行きたいし…自慢はデート終わった後でもできる)

 

学は万が一を考えて今回はパーマーにこのことを伝えないことにした。

 

(エリカ先輩もあんなに楽しみにしてくれてたし…まあ今回は大丈夫だろ!楽しみだなぁ…)

 

学はそう考えることにして、業務に戻った。

 

 

 

 

 

 

学が花壇の花の手入れを行っていたその時、学の背後から声が聞こえた。

 

「あら~、学さまではありませんか~」

 

学はその声と特徴的な喋り方に反応し、後ろを振り向いた。

 

「これはブライト様。お久しぶりでございます。お屋敷に戻られてたのですね」

 

学の後ろにいたのはメジロ家のご令嬢の一人『メジロブライト』だった。

 

「今日はトレーニングがお休みだったので~おや~お花の手入れでございますか?わあ…綺麗に咲いてますわね~」

 

「そうでございます。ブライト様のお気に召したならこれまで手入れをしてきた甲斐がありました」

 

(ブライト様の喋り方ゆったりしてて落ち着くなあ…)

 

「精が出ますわね~…あ、そうですわ~この後お時間ありましたらわたくしのお部屋にお紅茶を持って来てくださりませんか~?」

 

「もちろんです。今花壇の手入れは終わったのですぐにでも持っていきますよ」

 

「うふふ~♪学さまの淹れるお紅茶は格別ですからね~楽しみにして待っていますわ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン…

 

「ブライト様、お紅茶の方お持ちしました」

 

「お待ちしてました~お入りください~」

 

学はブライトの声を確認すると、ブライトの部屋の扉を開いた。

 

そして、ティーセットを乗せたキッチンワゴンを押してブライトの部屋に入る。

 

「お待たせいたしましたブライト様」

 

学はそう言ってブライトの手前のテーブルにティーカップを置いて紅茶を注いだ。

 

「それでは私はこれで失礼します。紅茶のおかわりや菓子がご入用でしたらまたお申し付けください」

 

学はそう言ってブライトの部屋を後にしようとする。

 

しかしそんな学をブライトは止める。

 

「学さま?少しお待ちください~」

 

「ん…どうされましたか?」

 

「よろしければ学さまも一緒にお紅茶をいただきませんか~?お久しぶりなのですから少しお話しましょうよ~」

 

「よいのですか??」

 

(ラッキー…ちょっとサボれる)

 

「もちろんですわ~一緒にお茶会といきましょう~」

 

「ではお言葉に甘えさせていただきます。ティーカップをもう一つ取ってくるのと執事長に許可を取ってくるのですこし遅くなるかもしれませんが。大丈夫ですか?」

 

「気長に待ちますわ~待つのには慣れていますから~」

 

ブライトが学にそう言うと、学はブライトの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「やはり学さまの淹れるお紅茶はおいしいですわ~」

 

「褒めていただけるのは嬉しいのですが、私にはあんまり違いがわからないのです」

 

ブライトの部屋で学とブライトが机を挟んで座り、二人で紅茶を嗜んでいた。

 

「ふふふっ…学さまにはまだわかりませんか~まあ淹れ方だけでなく誰が淹れてくれたかも大事だということを伝えておきますね~」

 

(うーん…わからないなぁ、別に俺の淹れ方はじいやに倣った淹れ方だしなぁ、しかも俺紅茶よりコーヒー派だし)

 

学がそう考えていると、ブライトが再び口を開いた。

 

「それとずっと思ってたのですが、今日の学さまはなんだか上機嫌ですね~何か良いことでもありましたか?」

 

(なんでわかるのこの人…まあデートが決まって上機嫌ではあるけど顔に出したつもりは無かったんだけど…どんだけ俺のこと見てるんだこの人…)

 

「良くわかりましたね…そうなんですよ、私事なんですが少々良いことがありまして」

 

学がそのようにブライトに話すとブライトは両の手を合わせて言った。

 

「まぁ~それは素晴らしいですね~どんなことがあったのか是非教えてくださりませんか?」

 

「いえいえそんな!本当に私事ですので、ブライト様に話すほどのことではありませんから…」

 

「え~わたくし気になりますわ~どんなお話でも聞きますから~」

 

(…正直誰かにめっちゃ話したかったからもう話そうかな…パーマーじゃなくてブライト様だし、別に話しても大丈夫でしょ)

 

そう考えた学はブライトに話し出す。

 

「そこまでいうのなら話します……実は私、最近意中の女性がおりまして」

 

「……」

 

学がそこまで話すと先程までニコニコしながら紅茶を嗜んでいたブライトの手がピタリと止まった。

 

「その女性と今週の日曜日に2人で出かけることになったのですよ!それで少し浮かれてしまってて…」

 

照れくさそうに頬をポリポリと搔きながらそう言う学。

 

そんな学にブライトはニコニコした表情を全く変えずにゆっくりと口を開いた。

 

「へぇ…」

 

「ブライト様?」

 

(あれ?なんかブライト様の様子が…ニコニコしてるけど目が笑ってないような…気のせいかな?)

 

学はそう考えるがブライトは直ぐに元の穏やかな表情に戻っており口を開く。

 

「まぁ~!それはとってもおめでたいですね~!しかし学さまの想い人ですか、わたくし気になりますわ~どのようなお人なんですか~?」

 

「えーとですね…一つ上の学校の先輩でして、いつも穏やかで優しくてほんわかしていて一緒にいると癒されるんですよ。あ、ちょうどブライト様みたいに」

 

学のその発言にブライトの体が一瞬ピクリと反応する。

 

「へぇ~そうなのですね~どのようなお名前なんでしょうか~?」

 

「名前ですか?エリカ先輩ですけど…」

 

「苗字は何でしょうか~?」

 

「なんでそんなことを聞かれるのですか?」

 

「まぁまぁ~良いですから教えてください~」

 

「…西城さんです。西城エリカ先輩」

 

「なるほど~」

 

ブライトは学の言葉を聞くと、ポケットからスッとスマホを取り出した。

 

そして、シュババッ!と高速でスマホに何かを打ち込んだ。

 

「ブ、ブライト様?どうされたのですか?」

 

「何でもありませんわ〜少し連絡を返しただけですわ〜」

 

(いや、おかしい…普段おっとりしてるブライト様のあんなに早い動き初めて見たよ?何したの?怖いよ?)

 

「まぁそんなことよりもそのエリカさんについてもっと聞かせて欲しいですわ〜」

 

「え、あ、そうでごさいますか?えーと彼女は……」

 

そうやって学は話し出す。

 

お茶会はしばらく続き、ブライトと学はたわいのない会話を繰り広げた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

そしてその翌日…

 

 

 

「ご、ごめんなさい学くん…あの…日曜日のデートの話はなかったことに…」

 

「……………」ガーン!!

 

「ほんとにごめんなさい!じゃあ学くん…さようなら!!!」ダッ

 

「……………」ガガーン!!!

 

 

 

エリカ先輩は学にそう言うと足早にその場を去っていった。

 

そして学が一人ぽつんとその場に残る…

 

 

 

 

「な、なんでだあぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブライト、今回はお手柄でしたわね!」

 

「ふふ~うまくいったようで良かったです~」

 

「ほっ…学がまた取られるかと思った…」

 

「それにしても全く…学がわたくしとのデートをほっぽり出して他の女とデートに行こうとしていたんて…許せませんわ!!」

 

「うーん…学はいつもデートの予定ができると私に自慢しに来るはずなんだけど…なんで今回は来なかったんだろ」

 

「ふふん…パーマーもついに学に愛想着かされたのではなくて?一人だけちょーっとため口で学と話せるからって調子に乗ってるからですわ!!」

 

「でもこの前学が「年下だけはありえない」って言ってたよ?」

 

「え…嘘ですわ嘘ですわ!!嘘ですわよね!?学はわたくしと一緒にいると約束したんですから!学とわたくしは一心同体なんですから!」

 

「そう言えば今回のお相手の方はわたくしに似ていましたね~つまり学さまのタイプもわたくしのような女性なのかしら~」

 

「なんですって!?」「なんだって!?」「え?…そ、そうなんだ…」

 

 

 

これは青春こじらせ演技派完璧(笑)系執事の『九重 学』とそんな学が大好きなメジロ家ご令嬢『メジロマックイーン』の日常を書いた物語…

 

 

 

否、そんな学が大好きなメジロ家のご令嬢()が学の青春をひたすらに妨害する物語である。

 

 

 

 






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