メジロ家の使用人やってます。あ、彼女募集中です。 作:shch
たくさんの評価、感想ありがとうございます。
「いったい俺の何がいけなかったんだぁ…エリカ先輩ぃ…」
「あちゃ~学、今回かなりダメくらってる感じじゃん?結構引きずりそうだね~」
とある喫茶店、学は顔面をカウンターに突っ伏してエリカ先輩に対する泣き言をたらたらと流していた。
その横に座って紅茶を啜るのはメジロ家のご令嬢の一人『メジロパーマー』
今日は日曜日、本来ならば学がエリカ先輩とデートに行こうとしていた日、しかしその予定はキャンセルとなってしまい、学は折角休みを取ったのに予定なしという状況になってしまった。
しかし、今日エリカ先輩と見るはずだった映画は学も本当に見たかった。休みを何もせずに過ごすのはちょっともったいないということで学はパーマーをその映画に誘うことにした。
今は映画を見終えて近くの喫茶店に入っている。
「…あぁ…今の俺があんな映画見るんじゃなかった…虚しすぎて吐きそう…」
「そーかな、私はけっこードキドキしたけどね、私もあんな恋してみたいなぁ」
「…執事とご主人の恋なんて実際あり得ないと思うけどなぁ」
「学には夢がないなぁ…あり得ないこそ燃えるんじゃん?」
二人が見たのは執事モノのゴリッゴリの恋愛映画、その甘すぎる内容は傷心中の学にとってはいささか酷な内容であった。
「少なくともパーマーと見に来る映画ではなかった…」
「むっ…なにそれ、自分が振られた女の代わりに私のこと呼んどいてその言いぐさはなくない?」
学の発言にパーマーは少し怒ったようにそう言った。
「たしかに…ごめんパーマー…でも実はこんな時に俺の話をちゃんと聞きに来てくれるパーマーが俺は大好きだ」
「ちょっ…だ、大好きとか…急に言わないでよ…あ、の、飲み物なくなってるよ?おかわりとか大丈夫そ?」
「…フッ…ちょれー…」ボソッ
「聞こえてんぞ」
ゴンッと学の頭にチョップが入った。
「いでっ…ご、ごめんなさい」
「はぁ…私のことからかうのはマジで知り合いで学くらいだよ」
「そーなの?まあ俺たちは結構長い付き合いだしなあ」
学とパーマーは同じ年だ。3歳からメジロ家に引き取られた学とはもう10年以上の付き合いになる。
そして学がこうして砕けた口調で話せているのは、小学校一年生の頃、同じクラスになった時にパーマーが学に敬語で話されると他のクラスメイト達に揶揄われるのでやめてほしいと頼んだからである。
そこからたまたま小学校の6年間ずっと同じクラスだったので、完全に敬語なしの口調が定着してしまい今に至る。
とは言っても敬語がなくなるのは今のように学とパーマーが2人きりの状況だけだ。
「…にしてもパーマーなんか最近喋り方変わってきてない?節々にパリピ味が感じられる」
「おっわかる?多分最近できた友達の影響だね!」
「へぇ…どんな友達なんだ?」
「めっちゃパリピでめっちゃ明るくて一緒にいるだけでテンアゲ?みたいな感じの子!」
(そのテンアゲは使い方それであってるの?というか最近落ち込み気味だったパーマーが明るくなってきたのはその子のおかげか…今のところパリピで明るいという情報しかないけど…まあパーマーのことだし、すごくいい子なんだろうな……はっ!)
何かを思いついた学は口を開く。
「その子の写真とかあったりする?パーマーの友達だし是非見ておきたいな」
学がそう言うと自分の友達に学が興味を示してくれたのがうれしいのかパーマーもノリノリで言葉を返す。
「おっ!見る?写真一杯あるよ~!ちょっと待ってな………ほら!」
パーマーはそう言ってスマホの画面を隣に座る学に見せた。
スマホに映るのはパーマーとその友達『ダイタクヘリオス』のツーショット写真であった。
「おおー!めっちゃかわいい!」
写真を見た学は先程までの落ち込みはどこへやら…目を輝かせてそう言った。
「でしょでしょ!かわいいんだようちのヘリオスは!」
パーマーはテンション高めにそう言う。
「ヘリオスって言うのかこの子」
「そーそー!本名はダイタクヘリオスね、私はヘリオスって呼んでる」
「でもあれだな…この写真のヘリオスさんもかわいいけどその横に映ってるこのパーマーさんとかいう子もすごいかわいいなぁ」
「…なっ!学〜?また私のことからかおうとしてるでしょ?もうその手には引っかからないよ!」
得意げにそう言うパーマーだったが、それに対して学は至極、真剣な表情で返す。
「いやいや…別に普通にかわいいと思ったから言ったんだよ、今回は揶揄うとか無しに」
「…ほんとにそう思ってる?」
「ほんとに思ってるよ」
パーマーは疑いの目線をジロリと学に向けるが、学はそれに一切動じなかった。
パーマーが口を開く。
「…まーそこまで言うなら信じようかな!でも珍しいね、学がちゃんと私のこと褒めるなんて」
「そうかな?結構所々で褒めてると思うんだけど、俺はかわいいものはちゃんとかわいいって言うんだ」
「そっか!…でもちょっといざ面と向かって言われると照れるね!」
パーマーはそのように言うが、表情は明るくなっており、しっかりと嬉しがっているのが見てとれた。
そんなパーマーを確認した学は口を開く。
「そんなかわいいパーマー様に一つお願いがあります」
「どうしたの?今だったら何でも聞くよ!」
学の言葉に何でも来いと言わんばかりに意気込むパーマー。
そんなパーマーに対して学が言う。
「あの~このヘリオスさんなんですけど…俺に紹介していただくことって…「そんなことだろうと思ったよこのクズ執事!!」
「あっ……痛いででで!!…痛い!…冗談です!…冗談だから!…パーマー様!?……ヘッドロック決めないで!?……ギャァ!!」
パーマーさんと学くんは今日も仲良しです。
・・・・・・・・・・・・・・・
メジロ家のウマ娘は基本的に平日はトレセン学園でトレーニングに専念できるようにトレセンの寮に宿泊し、土日や短期休暇になればトレセン近くに建てられているメジロ家別邸に帰省してくる。
だからマックイーン専属の学がマックイーンのお世話をするのは土日の休日と月曜日にトレセン学園にマックイーンを送り届けるとき、それから金曜日にトレセン学園に迎えに行くとき。
これが基本的に学がマックイーンの専属使用人として働かなければいけない時間。だから土日の休みは滅多に出ないし、稀に出る平日の休みも学校の授業があるので少ししか自由な時間がない。
さらに愛しのエリカ先輩がいない今、平日休みに学がすることなんて全く無いと言っても過言ではない。
そしてまさに今日その滅多にない平日休みに学は直面していた。
(…一人で公園のベンチに座るのってこんなに虚しかったっけ?)
やることのなさ過ぎた学は新たな出会いを求めてとりあえずどこかへ行こうとしたものの、結局どこへ行けば出会いがあるのかがわからず、なんとなしに今は公園のベンチに座っている。
(この公園なんかカップル多いな……ダメだ今見たら目が潰れる…下向いとこ…あ、アリの行列だ)
学はそんな隠な考えを頭に巡らせてベンチに座りながら下を向く。側から見るとものすごく落ち込んでいる人に見えなくもない。
(……錬金術って…習得したらかわいい彼女錬成できたりするのかな……無理か……)
学はもはやちょっと危ないことを考えながらベンチに座り下を向く、しかしそんな時、ある歌がどこからともなく学の耳に入ってきた。
「はちみーはちみーはちみー♪はちみーをなめるとー♪あしがーあしがーあしがー♪はやくーなる♪」
(なんかよくわからん歌がどこからともなく聞こえてきた…はちみーか…甘すぎてあんまり好きじゃないんだけど…はちみー舐めたら彼女できるかな…)
「はちみーはちみーはちみー♪はちみーはちうわあ!」
ベチャ…
「いてて…こけちゃったぁ…あれ?ボクのはちみーは?」
(ん?…なんかよくわからん歌が途切れた…そんで頭上でベチャ…って音聞こえた……そしてなんか滅茶苦茶甘い匂いが頭から漂ってくるんだけど……)
学が恐る恐る頭に手を伸ばした。
ベチャリと粘度の高い液体が手に付着する、匂いは案の定甘い。
そして学がゆっくりと頭を上げるとそこには一人の涙目のウマ娘がいた。
「び、びぇぇぇ!!ボクのはちみーがぁ!!!」
そして学の顔を見るなり、急に本格的に泣き出した。
(はぁぁぁ……………俺も泣きたい…)
はちみーをぶっかけられ更に知らないウマ娘に泣かれた学は心の中でむせび泣いた…
・・・・・・・・・・・・・・・
「いやぁ…キミが良い人で助かったよ!!怒られるどころか新しいはちみーまで買ってくれるなんて!」
「新しいはちみーを買ってこないとお前が泣き止まなかったからだろーが!」
「あれ?そうだっけ?」
「そうだよ!!」
学ははちみーを公園の水道で洗い流して濡れた頭にタオルをかけて先ほどと同じベンチに座っていた。隣には学にはちみーをぶっかけた張本人が満足そうにはちみーをなめている。
(ついてない…最近とことんついてない…)
ぐったりとうなだれる学、しかしそんな学にはお構いなしにそのウマ娘は学に話しかける。
「ねぇキミキミ!名前は?」
「……学」
「へぇー!学っていうんだ!なんだか覚えやすくていいね!え?ボク?ボクの名前はトウカイテイオーだよ!」
「いや別に聞いてないけど」
「まあまあ!でもこの名前は覚えておいた方がいいよ!なんたっていつか無敗の三冠ウマ娘になるウマ娘の名前だもんね!!」
『トウカイテイオー』と名乗ったそのウマ娘は高らかにそう宣言した。
学はレースに出るウマ娘であるマックイーンの専属使用人としてのある程度のレースの知識を持っている。だからテイオーが宣言した『無敗の三冠ウマ娘』がどれほど凄まじい称号であるのかは理解していた。
さらにそれを見事に達成したウマ娘が過去に一人いたことも学は知っていた。
学が口を開く。
「…へぇーあの『シンボリルドルフ』みたいにか?」
「お!学はカイチョーのこと知ってるんだ!」
「当たり前じゃないか?ウマ娘のレースを語る上でシンボリルドルフは外せないね」
「いいね~キミわかってんじゃん!ねね、じゃあさじゃあさカイチョーのレースで一番好きなレースは?」
「うーん…悩むけど最後の年のジャパンカップかな…前走負けちゃってたし、その前の宝塚記念は出走取り消しでもう無理なのかなって思ってた時にあの圧倒的なレースだったから、見てた時はめっちゃ印象に残った」
「…キミもしかしてカイチョーのファン?」
「どうだろうな…テイオーの一番好きなレースはなんなんだ?」
「え〜それ聞いちゃう〜?えっとねボクはねボクはね!……」
「おおー…いいセンスしてるなテイオー!それならさ…」
ここからしばらく2人はカイチョー談義に花を咲かせるのであった。
・
・
・
「………それでねボクは約束したんだ絶対にカイチョーみたいな強くてカッコいいウマ娘になるって!」
(…なんかちょっと話盛り上がったら俺にはちみーぶっかけてきて泣いてたよくわからんウマ娘にバカみたいにアツい話された。普通に感動させられたし、悔しいが)
「テイオー…一個言わせてほしい」
「なになに?」
学はテイオーの肩にポンと手を置いて口を開く。
「お前ならきっとなれるシンボリルドルフみたいなウマ娘に」
「…っ!…え、えへへ…そうかなぁ??」
「なれるさ、少なくとも俺はそう思う……根拠は全く無いけど」
「なにそれ!適当じゃん!」
「悪かったな適当で」
「ニシシ…でも、嬉しい…学みたいにボクの夢を笑わないで聞いてくれて、「絶対なれる」なんて言ってくれた人あんまりいなかったから…」
「じゃあ次テイオーの夢を笑う奴がいたら俺に言ってくれ」
「言ったら何してくれるの」
「軽く注意してやる」
「ははっ!「ぶん殴ってやる!」とかではないんだ」
ちょっと呆れたような、でも確かに嬉しそうなそんな顔でそう言うテイオーとその隣で笑う学。そんな2人の後ろから茜色の西日が差し込んでいた。
学が口を開く。
「ちょっと話しすぎたか」
「だね〜そろそろボク帰らないと…門限あるし」
「それじゃあ帰るか、じゃあ俺こっちだから、じゃあまたどっかで会えたらな〜」
学は軽い口調でそう言いながらくるりと反対方向を向いて歩き出す。
「ちょ、ちょっとまってよ!」
そんなそそくさと歩き出した学の服の裾をテイオーがチョンと掴んで引き止める。
「ん?どうした?」
「ちょっとあっさりしすぎじゃない!?…あ!そうだ!連絡先交換しとこうよ!ボク達もう友達でしょ!?」
「うーん…まあ良いよ、はい」
学はそう言うとスマホの連絡先が表示された画面を取り出す。
「もう!もっと嬉しそうにしなよ!このテイオーさまと連絡先交換できるんだからさぁ」
「わーうれしいなー未来の三冠ウマ娘の連絡先だー」
「棒読み…まあいいや!はい!交換完了!これでボク達いつでも会えるね!」
(え?また会うの?)
「どうだろうな〜俺はいつも忙しいからな」
「平日にこんな公園で一人でいるなんて絶対暇でしょ!連絡したらちゃんと返してよね!」
「はいはい」
(暇では無いんだけど…)
「絶対だよ!?じゃあ学、また今度ね〜!」
テイオーはそう言うと元気に手を振りながら走って去っていった。
夕焼けの公園で学は一人ポツンと残る。
(…年上のお姉さんとは出会えなかったけど、まぁ良い出会いだったのかもな…実際俺は本当に忙しいから多分もうほとんど会えないんだろうけど…まぁ陰ながら応援しておいてやろう)
学はそんなことを考えながらも、メジロ家の屋敷に向けて歩き出した。
(…トウカイテイオーか…どっかで聞いたことがあるような、無いような……にしてもアイツ、
・・・・・・・・・・・・・・・
数日後…金曜日
「お嬢様、学です。お迎えに参りました。正門の前でお待ちしています」
『わかりましたわ。今から向かいます』
今日は金曜日なので学がマックイーンを迎えに行く日だ。学はマックイーンに迎えに来たという旨の電話を入れ、正門前でマックイーンが来るのを待つ。
ちなみに学が通っている高校はトレセン学園に隣接している高校なので迎えに行く時などは学の授業が終わってからそのまま行くことができる。
まぁ送り迎えがスムーズにできるからとか色々高校に入るのに一悶着あったのだが…その話はまた別で。
(あ、あれ?)
しばらく待っていると、校舎から自分のご主人様が出てきてこちらに歩いてきているのが見えた。しかし、問題はその隣を歩いているウマ娘だ、学にはそのウマ娘に妙に見覚えがあった。
「いいじゃん!マックイーンのお家行かせてよー!」
「ダメですわ!今日は大事な用がありますの!」
「どんな用事?」
「それは…(言えませんわ!学と2人きりで帰りたいだけなんて…)」
「ほら用事なんて無いんじゃん!」
「とにかく!ダメなものはダメですわ!良い加減にしたらどうですか?テイオー!」
「ヤダヤダヤダ!今日こそマックイーンの家行くもん!」
(うん、確定でテイオーだ…アイツ、トレセンの生徒だったのか?その辺の小学生じゃなくて?確かにちょっと小学生にしてはデカイなとは思ってたけど…てかそれならはちみー落としたくらいで泣くんじゃねえよ紛らわしい!)
学がそんなことを考えている間にも2人はどんどん学のいる正門へと歩いていく。
そして遂に2人が学を認識できる距離まで近づいてきた。
マックイーンは学を見つけるとパァと顔を明るくして口を開く
「学、ごきげんよ「あっ!!学じゃん!!何してるのこんなところで!」
しかし、学に挨拶しようとしたマックイーンを遮りテイオーがそう言って学の元に走っていく、そして…
「わーい!!」
そう言って思いっきり学の顔面に向けて飛びついた。
「むぐっ!!」
「学!本当に何してるのさこんなとこで!!もしかしてボクに会いにきてくれた!?あれから電話とかしても全然出てくれないからボク寂しかったんだよ!?学〜!!」
「ムゴゴッ……ぷはっ…おいバカ!こんなとこでスカートで顔面に飛びつくなよ、それに後電話出れないのは忙しいって言っただろーが、まあとにかくはよ離れろ、あとでいくらでもかまってやるから…」
「ええー…だって久しぶりじゃん!飛びつきたくもなるよ!ってわわ!学、暴れないで!バランスが…わああ!」
ドスン!!
顔面に飛びついたテイオーを振り払おうと学が頭を振ったせいでふらふらとテイオーがバランスを崩して学共々地面に倒れた。
「痛てぇ…久しぶりったって数日しか経ってないだろ…ていうか早く退いてくれ」
倒れてテイオーに下敷きにされた学は自分の上にいるテイオーにそう言った。
「数日振りは久しぶりでしょ!ていうか今のは学が暴れたから倒れたんだよ!?先に学がボクに謝ったら退いてあげるよ」
「いやいやいや元はと言えばテイオーが…」
と学が自分の上に乗っかっているテイオーに向けて文句を言っていたその時
「学、テイオー」
マックイーンの冷たい呼び声があたりに響いた。
まぁ無理もない。マックイーンにとってはこれから久しぶりの学と2人きりの時間だったはずなのに、なんか急に自分の友人が学とイチャコラ?し始めたのだ。多少は怒っても良いだろう。
「「…」」
2人はそんなマックイーンの声がした方を恐る恐る振り向く。
そこにはニコニコと笑いつつも目の奥は笑っていない。背後に般若が見える。そんな表情のマックイーンがいた。
「学…どういうことか教えてくださりますわよね…!」
(しんどいって……)
学の悲痛の声が心の中で響いた。
誤字脱字ありましたらご報告ください。