メジロ家の使用人やってます。あ、彼女募集中です。   作:shch

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3.兄妹

 

 

 

 

「学…どういうことか教えてくださりますわよね…!」

 

そんなことを言いながら、ゆっくりと2人して地面に倒れている学とテイオーのもとに歩くマックイーン。

 

その表情はニコニコしているが、目が笑っていない、どうやらお怒りの様子だ。

 

「ピィ!なんだかマックイーンが怖いよー!学ー!」

 

テイオーは近づいてくるマックイーンの放つ怒火に恐れて、思わず横にいる学の首元に腕を絡ませた。

 

「ぐぇ…」

 

首元が締め付けられた学は苦しそうに踏まれたカエルのような呻き声をあげるが、マックイーンから見ればテイオーが突然学の首元に抱きついたようにしか見えない。

 

「なっ!テイオーあなたまた…!」

 

マックイーンが焦ったようにそう言いながらズンズンと更に学とテイオーに近づこうとする。

 

しかし、学にしがみつくテイオーがそれを遮ぎるように口を開く。

 

「て、ていうかそもそも、なんでそんなマックイーンは怒ってるの!?学とマックイーンは知り合いなの?一体学はマックイーンの何だって言うのさ!」

 

テイオーがそうマックイーンにそう聞く。

 

しかしそんなテイオーの言葉になぜかマックイーンは「待ってました」と言わんばかりに得意げに言い放った。

 

「ふふん…学がわたくしの何ですって?…何を隠そう、そこの学はこのわたくし、メジロマックイーンの専属使用人ですのよ!!」

 

「え!?」

 

そのマックイーンの言葉にテイオーは驚きの声と共に反射的に自分がしがみついている学の顔をバッ!と勢いよく見た。

 

そんな見られた学はゆっくりと口を開く。

 

「…申し訳ございませんお嬢様。テイオー様とは先日お暇をいただいた際に知り合ったのですが…彼女がお嬢様の友人とは知らずに不相応な対応を取ってしまっておりました…再度、誠に申し訳ございません」

 

学の聞き慣れない言葉遣いにテイオーはマックイーンの言葉に嘘はないと確信した。

 

「……え、ええー!!そうだったの!?学が!?使用人!?マックイーンの!?」

 

学を見て驚きの声を上げるテイオー。

 

しかし、そんなテイオーに構わず、学は自らの首元に巻き付いているテイオーの腕をやんわりと解いて立ち上がる。

 

そして驚きでまだ地面に座り込んでいるテイオーに手を差し伸べて口を開いた。

 

「…テイオー様、立てますか?よろしければ手をお貸しします」

 

「あ、うん、ありがと…」

 

マックイーンの前での学の豹変振りにテイオーは未だに着いていけず、言われるがままに学の手を取って立ち上がった。

 

「お怪我はありませんか?テイオー様」

 

「うん、無い…けど、何でボクにも敬語なの?」

 

「お嬢様のご友人なのですから当然です」

 

(ほんとはお嬢様の前で口調を崩すのがあんまり良く無いからなんだけど…はぁ、何でテイオーに敬語を使わなきゃならんのだ)

 

学はそんなことを考えながらも片手を胸に当て恭しく軽くテイオーに礼をする。

 

そんな執事っぽい動きをする学を見てテイオーは顎に手を当てて少し考える素振りを見せながらボソリと呟く。

 

「……へぇ…この学も…なんか悪く無いね」

 

(何で上から目線?)

 

しかし、そのようなやり取りを繰り広げる2人に構わずにマックイーンが学に言う。

 

「別にテイオーへの態度に怒っているわけではありませんわ!」

 

(あ、え?違う?じゃあこの状況でなんで怒ってんのこのお嬢様?)

 

言われた学はそう考えながら口を開く。

 

「お言葉ですがお嬢様…それでは何に対してお嬢様は怒っていらっしゃるのでしょうか?」

 

「そ、それは…(い、言えませんわ!久しぶりの学との下校をテイオーに邪魔されて思わず怒ってしまったなんて…)」

 

マックイーンは学の問いについ口ごもってしまう。

 

そして、その時テイオーが何か思いついたように口を開いた。

 

「あ!わかった!…マックイーンヤキモチ妬いてるんじゃない??ボクと学が仲良しすぎて、もしかしたらボクに学が取られるとか思っちゃったんじゃないの~??」

 

「そ、そんなことありませんわ!」

 

顔を赤くして、必死に否定するマックイーン、しかしそんなマックイーンにテイオーは畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「ほんとかなぁ?…あ!…そういえば…いつも楽しそうにボクに話してた執事の話って、もしかして全部学のことだったりするんじゃない?」

 

「……」

 

ニヤニヤとマックイーンにそう聞くテイオー、それに対してマックイーンはノーコメント。

 

テイオーはその様子を見て何かを確信したようで口を開く。

 

「やっぱりそうなんだ!ニシシ…ねぇねぇ学!!面白い話があるんだ!」

 

「何でしょうか?」

 

意気揚々と学に話しかけたテイオーはそのまま言葉を続ける。

 

「へへっ…聞いて驚かないでね、えーっとね、マックイーンはねぇ…いつも学のh「そ、それだけはダメですわ!!」

 

しかし、そんなテイオーが何かを言おうとしたタイミングでマックイーンがテイオーの口を顔を真っ赤にしながら抑える。

 

「もごごっ……なんで止めるのさマックイーン、せっかく面白い話なのに!」

 

「ダメなものはダメですわ!絶対学にはそのことを言わないでくださいまし!」

 

テイオーにしがみつき必死な様子のマックイーン。

 

そんなマックイーンにテイオーは余裕たっぷりに言う。

 

「え~どうしよっかなぁ~…そういえば…今日はマックイーンのお家に遊びに行きたいんだけど…なんかさっきダメって言われちゃったなぁ」

 

「いいですわ!来なさいテイオーそしていっぱい遊んでいいですから!どうか学にあのことは…」

 

「いいの!?それなら言わない言わない!わーい!!やったー!マックイーンのお家だー!!それに学もいるし!」

 

(…なんかいつの間にか攻守逆転してる…まあなんかうやむやになってマックイーン様の怒りがおさまったぽいからいっか…てかテイオー来るのかぁ…まぁ賑やかそうで悪く無いか…)

 

2人のやりとりをぼんやりと見ていた学はそのようなことを考える。

 

そんな中、テイオーが1人元気よく片腕を上げて言う。

 

「じゃあマックイーンのお家へ…レッツゴー!!」

 

「はぁ…もう今回だけですわよ…」

 

(…お嬢様は一見嫌そうにしてるけど…よく見てみるとそこまで嫌そうって訳では無さそうだ…なんだかんだテイオーのことが好きなんだろうな…)

 

マックイーンの様子を見ていた学は1人考える

 

(お嬢様の性格的にちょっと心配してたんだけど、テイオーみたいな友達が出来ていて良かった…今度大奥様に報告しておくか、あの人喜ぶぞ〜)

 

「何笑ってんのさ学!ほら!早く行こ!」

 

テイオーはそう言うとマックイーンに見せつけるように考え事をしていた学の腕に抱きつく。

 

「な!…テイオー!?わたくしの学にあんまりベタベタとくっつかないでくださいまし!!」

 

「あ!もしかしてまた妬いてる??反対側の腕が空いてるんだからマックイーンも引っ付けばいいじゃん!」

 

「メジロのウマ娘たるもの、その様なはしたない真似は公衆の面前ではできませんわ!できてギリ手をつなぐぐらいですわ!」

 

(テイオーに比べると偉いですよお嬢様、でも手を繋ぐのもやめていただきたい)

 

 

 

そんなこんなでわちゃわちゃとしながら3人でメジロ家別邸へと向かうのであった。

 

 

(…というかテイオーにどんだけ引っ付かれてもびっくりするくらい何も思わないな…やっぱり俺には大人のお姉さんだな…)

 

 

 

この後、滅茶苦茶遊んだ(マックイーンが)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『お嬢様…私…いや…俺は…もう我慢できません』

 

『ちょ、ちょっと?私たちは執事と主人だよ?…こんなの…良くない…』

 

『…そんなこと言って…俺の部屋にのこのこと一人でやってきたのはどこのお嬢様ですか?』

 

『それは…あなたとの時間を過ごしたかっただけ…』

 

『へぇ…じゃあこのお嬢様の揺れてる尻尾は何ですか?バカみたいにブンブン揺らしちゃって…俺に迫られて…ほんとは喜んでるんじゃないですか?』

 

『そ、そんなことは…!』

 

『はいはい…ごちゃごちゃと五月蠅い唇ですね…塞ぎましょうか…目を瞑ってください』

 

『っ!…は、はぃ!』

 

『これじゃあどっちが主人かわかりませんね…まぁいいです…いきますよ?お嬢様』

 

『うん…来て』

 

そうして月明かりに浮かんだ二人の影が重なり合う…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「…ま、まぁ…いいんじゃないですかね…絵が上手で…」

 

「内容は?」

 

「……」

 

「何か言ってよ」

 

「…今回も全体的に良かったと思います。キュンキュンして…」

 

「…そうかな?…学がそう思ってくれるなら良かった」

 

時刻は午後10時、場所は学の部屋。

 

学の手元には漫画の原稿のようなものが握られており、寝る前しか着けないメガネをクイと上げ、学はそれを眺めている。

 

この何とも香ばしい漫画の表紙にはデカデカと『私と執事とアールグレイ』という文字、更に執事風の男とお嬢様風のウマ娘が見つめ合った絵が描かれている。

 

どうやら普段従順な執事が実はドSで…的な漫画のようだ。

 

そんな漫画を眺める学を落ち着かない表情でじっと見つめているのはメジロ家のご令嬢の一人『メジロドーベル』

 

今日は学の業務終了後に学の部屋で不定期に行われるメジロドーベル先生による自作少女漫画鑑賞会の日である。

 

業務終了後かつ自室ということで普段の燕尾服ではなく上下黒のスウェット姿というラフな格好で佇む学にドーベルは口を開いた。

 

「今回は描写を結構攻めてみたんだけど…どうかな?」

 

(そんなに攻めてたか?…別にキスしただけじゃないの?)

 

学はそう考えながらも無難な感想を口にする。

 

「良いと思いますよ。最後の影で見せるのもお洒落な描写だったと思います」

 

「そう?ありがと…学はあんな風にするの…現実だとどう思う?」

 

(月明かりに照らされてキスすることをどう思うのかってこと?…俺キスとかしたこと無いからわかんないよ…ああ…)

 

学は心中で肩を落としながらも顔には出さずにまたも無難な答えを口に出す。

 

「…まぁ本物の執事の身から言わせてもらうとあのような状況は本来あり得ないのですが…ロマンチックではあるんじゃないでしょうか?」

 

学がそう言うとドーベルは少し顔を赤らめながら下を向いて言う。

 

「そ、そうなんだ……学もそんなこと考えたりするんだ」

 

(え?キスしただけだよな?それ以上のことしてないよね?…ん?もしかして最後の2人の影が重なり合う…って…考えずぎか…)

 

意味ありげな様子で恥ずかしがるドーベル、この空気に気まずくなった学は一旦この話を中断すべく口を開く。

 

「…まあまあ…おや、ドーベル様お飲み物が無くなっているようですね、おかわりは大丈夫ですか?」

 

「うん、じゃあお願いしてもいい?」

 

「かしこまりました。さっきと一緒のコーヒーでいいですか?」

 

「うん、ちゃんとミルクとお砂糖も入れてね」

 

「もちろんですドーベル様。では少々お待ちください」

 

学はそう言ってドーベルの元にある空のマグカップを回収し、部屋の隅にある備え付きの小さいキッチンに向かう。

 

棚からコーヒー豆とコーヒーミルを取り出して学はコーヒーを作り始める。

 

(気のせいかわかんないけど…ドーベル様の漫画に出てくる執事がやけに俺に似ている気がするんだよなぁ…設定とか見た目とか…まあ自意識過剰か…)

 

学はそんなことを考えながらも、コーヒー豆を丁寧に挽いていく。

 

この男、紅茶のこだわりは無いくせにコーヒーに対するこだわりは持っているようで、やけに真剣な様子でコーヒーを作る。

 

そんな真剣な表情でコーヒーを作る学をドーベルはじっと見つめていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

『メジロドーベル』

 

彼女は学の一つ下の歳。彼女が物心ついたころには学は当たり前のようにメジロ家にいて、一緒に育ってきた。

 

今でこそ学は丁寧な所作と言葉遣い、さらに執事として必要な技術を叩き込まれており、どこに出しても恥ずかしくはない完璧な執事とも言えるようになっているだろう。

 

しかし、そんな学も流石に最初から完璧な執事だったわけではない、なんなら学が使用人としてじいやに育てられ始めたのは小学生になってから、そこまでは普通の男の子であった。

 

学がそんな普通の男の子だった時から一緒に育ってきたドーベルにとっては学は兄のような存在だった。

 

「がく!がく!がくお兄ちゃん!えほんよんで!」

 

「えーまたぁ?このまえ読んであげたばっかりじゃん…」

 

「またよんで!はやくはやく!」

 

「ったく…ドーベルは甘えん坊だなあ…まあいいや!ほらドーベル、こっち来い」

 

昔の学は今では想像できないほどの面倒くさがり屋…でもドーベル達の頼みはなんだかんだ言って聞いてくれるそんな優しい兄だった。

 

しかしそこから学は執事としての教育を受け始める。

 

そんな学が年を重ねるにつれ年々自分たちに従順な執事になっていくのだ。

 

親しげに呼んでくれた『ドーベル』は『ドーベル様』に、面倒くさがっていたお願いも『かしこまりました』の一言で大抵のお願いは聞いてくれる。

 

執事として成長していく学だが、それと同時に自分が大好きだった兄としての面影が消えていく。

 

ドーベルはそれが少し寂しかった。

 

「…失礼しますドーベル様、差し入れの紅茶と茶菓子をお持ちしました。おや…まだピアノの練習をしていたのですか?その姿勢は素晴らしいですが、くれぐれもお体に気をつけて無理はしないでくださいね」

 

「気にしないで…早く学よりも上手に弾けるようになりたいだけだから」

 

「ほお…私よりもですか…では一度この学に今のドーベル様の演奏をお聞かせください。軽く手解きでもして差し上げますよ?」

 

そう言ってニコリと笑い、ピアノの前に腰掛けるドーベルの隣に座り、「さあやりますか」と言わんばかりに腕まくりを始める学。

 

表面には出なくとも、学のどこかにはあの頃の学がいる。

 

それは何となく感じてはいた、でも…

 

(もっと…表に出してくれても良いのに…)

 

そんな事を考えながらドーベルは日々を過ごしていく…のであるが…

 

 

 

ドーベルは少女漫画が小さい頃から大好きだった。

 

少女漫画の中でも代表的なジャンルの一つである「執事モノ」…少女漫画好きのドーベルがこのジャンルを知らないはずがなかった。

 

それともう一つ、「義理の兄妹モノ」というジャンルを軸とした作品もたくさんある。これもドーベルの目に入らないわけは無かった。

 

ドーベルは幼少のころから少女漫画を読み続けて、その甘い世界観に憧れてしまうことも少なくは無かった。

 

そんなドーベルの元には「執事属性」かつ「義理の兄属性」を持っているまさに少女漫画の登場人物のような設定を持つ学という人物がいるのだ。

 

夢見る少女がまるで少女漫画のようなシチュエーションで数年間生活を続ける…それはそれはたくさんの想像が広がることだろう。

 

そして彼女はその想像を絵によって表現することもできた。

 

 

 

 

そんな生活をつづけた結果…彼女は…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「お待たせしました。おかわりのコーヒーがはいりましたよ………ドーベル様?どうされましたか?私の顔をそんなに見て…何かついてますか?」

 

(……髪の毛ボサボサで眼鏡掛けている学…良い…ずっと見てられる…)

 

「ドーベル様?」

 

(…いつもの燕尾服はカッコいいけど…今のパジャマのスウェット姿はかわいい…)

 

「ドーベル様!?どうされましたか!?」

 

「…はっ…ごめんボーっとしてた……って学!顔近い!」

 

「え、ああ、申し訳ございません…コーヒーこちらに置いておきますね。」

 

(学の顔…めっちゃ近かった…心臓とまるかと思った…)

 

ドーベルは…こじらせていた。色々と。

 

ドーベルのコーヒーを淹れ終えた学は再びベットの淵に腰かけ、ドーベルの描いた漫画を再び読み始める。

 

(学…真剣に私の漫画読んでくれてる…真剣な表情もカッコいい…そしてやっぱりメガネが似合う…)

 

幼少の頃から学に癖を捻じ曲げられてきたドーベルはもはや学の一挙手一投足に心の中で反応するようになってしまっていた。

 

(ダボダボのスウェットから見える鎖骨…ちょっと……ああ何考えてるんだろ私…)

 

ドーベルはブンブンと頭を振って自分の頭に浮かんだ邪な考えを振り払う。

 

しかし、乱心のドーベルにも学は全く気が付いている様子は無い。

 

学は漫画を眺めながらドーベルに言う

 

「そう言えば…ドーベル様はどうして私に漫画を読ませてくれるのでしょうか?こんなに凝った漫画…何ページも描くのは大変ではありませんか?」

 

(…漫画を読んでもらうことを口実に学の部屋に来れるから…とは言えないよね流石に)

 

「別に趣味で描いてるだけ、学に読ませてるのは誰かの感想が欲しいから」

 

「なるほど…ですが感想なら同じ少女漫画好きのライアン様の方が良い感想が貰えるのでは無いでしょうか?」

 

(学の部屋に来れなくなったら、学の部屋着もメガネ姿もボサボサな髪も摂取できなくなっちゃうから…)

 

「男の人の感想が欲しいの!」

 

「…なるほどですね」

 

学はそう言うと再び漫画に目を落として読み始めた。

 

するとドーベルはそんな学をじっと見つめ始める。

 

(隣…座ってもいいかな?)

 

ドーベルはその場からゆっくりと立ち上がる。

 

そしてトコトコとベットに座って漫画を読む学の元に少しづつ歩いていく。

 

ようやくドーベルは学の元にたどり着いてちょこんと学の隣に座った。

 

急にゆっくりと近づいてきて隣に座ったドーベルに学は声を掛ける。

 

「どうされましたかドーベル様?」

 

「一緒に読もうと思って」

 

「そうですか?それでは…」

 

学は横に座るドーベルにも漫画が見えやすいように漫画の原稿をドーベルの方へ向けようとした。

 

「いや…勝手に読むから学は集中して」

 

「あ、そうですか?」

 

ドーベルにそう言われた学は再び漫画に目を落とす。

 

漫画をじぃーっと眺める学の横顔をドーベルは覗き込むように見つめる。

 

(…横顔…)

 

パシャパシャ!

 

ドーベルのスマホのフラッシュが学の横顔を至近距離から襲う

 

(…あ、思わず撮っちゃった…)

 

「………」

 

「………」

 

フラッシュの音が鳴りやむと何とも言えない空気が2人の間に流れる。

 

そんな中、学がゆっくりと口を開く。

 

「………何撮ってるんですかドーベル様?」

 

「………漫画のための参考資料」

 

「………そうですか」

 

「………ごめんなさい」

 

それからしばらく、学はドーベル作成の少女漫画を、当のドーベルは学の横顔を眺めて時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

コテン…

 

集中して漫画を読んでいた学の肩にドーベルの頭が力なくもたれかかってきた。

 

「…?…ドーベル様?どうされましたか?」

 

「…すぅ…すぅ」

 

「…寝ちゃったんですか?ドーベル様?」

 

自らの傍らで静かに寝息を立てているドーベルに学は話しかける

 

「……すぅ…すぅ」

 

しかし、返ってくるのは先程と同じような静かな寝息だった。

 

(ね、寝た?)

 

どうやら眠っている様子のドーベルを見て学は口を開く。

 

「…はあ…仕方ありませんね」

 

学はそう言うと自分の肩にもたれかかるドーベルの体を優しく支えながら立ち上がる。

 

起こさないように慎重にドーベルを一旦自身のベットに寝かせた。

 

そしてドーベルの首元と膝のあたりに腕を通して…

 

「…よっと」

 

と少し声を上げて、ドーベルを持ち上げた。所詮お姫様抱っこというやつだ。

 

そして、ドーベルを持ち上げたまま自分の部屋を出ようとする。

 

どうやら眠ってしまったドーベルをドーベルの部屋まで運ぼうとしているようだ。

 

部屋を出ようする時、学は再びドーベルの顔をチラリと見た。

 

「……す、すぅ…すぅ…」

 

変わらずに寝息を立てるドーベルを確認し、学は部屋を出てドーベルの部屋に足を進めた。

 

学にお姫様抱っこをされて寝息を立てるドーベル…だが…

 

(…お、お姫様抱っこ…お姫様抱っこ……こんなに学の匂いに包まれるの久しぶり…)

 

…彼女は起きていた。

 

(…うとうとしちゃってたのはホントだけど…学にもたれかかっちゃったときに弾みで起きちゃった…でもなんとなく寝たふりしちゃったら…こんなことに…)

 

そんなことを考えるドーベルを学は持ちながらカツカツと足音を立てて歩いていく。

 

(…私…重くないよね?最近食べ過ぎちゃってるから…)

 

ドーベルがそんな不安を抱くも、学は特に重そうな様子を見せずにコツコツと足を進めていく。

 

(学って結構力あるんだ…そういえばたまにライアンのトレーニングに付き合ってるときあるもんね…トレーニング後はいつもなんか心なしか落ち込んでるけど…)

 

ウマ娘である自分を軽々と持ち上げ、もろともせずに背筋を伸ばして歩く学にドーベルはそんなことを思う。

 

(…そういえば小さい頃も転んだ時やお昼寝しちゃった時とか、よく運んでもらってたっけ…懐かしいな…)

 

蘇ったのは幼少の頃の記憶、まだ学が執事ではなく兄だった時の記憶だ。

 

もう多分あの時のような関係には戻れないのだろう…

 

懐かしむと同時にそんな想いがドーベルの中に浮かんだ。

 

(まあでも…こうやってそばにいてくれるだけでも十分だよね……)

 

ドーベルがそんなことを考えている内に学は着々とドーベルの部屋まで歩みを進めていく。

 

しばらく歩くと、学はドーベルの部屋までたどり着く。

 

ガチャリ…

 

と学はドーベルを持ちながらも、器用に部屋の扉を開けて部屋に入った。

 

そして部屋の奥にある大きめのベットに向けてコツコツと真っ直ぐ歩く。

 

そして学はポスッ…と優しくベットにドーベルを置いた。

 

「ふう……」

 

一仕事終えた学は一息つくとそのままドーベルの部屋を後にする…わけではなかった。

 

「………」

 

ベットに眠るドーベルを何故か学はじっと見つめていた。

 

(…なんか…すごい視線を感じる…学が私のことを見てる?…どうして?)

 

そうやって頭の中で疑問符が浮かんだドーベルは、自分を見ているであろう学の様子が気になり、寝たふりがばれない程度にうっすらと目を開けて、学の様子を確認することにした。

 

パチリとうっすら目を開けたドーベルの目に入ったのは思った通り、自分のことをじっと見つめる学の姿だった。

 

そんな学をドーベルは薄目で見ていると、一瞬、学と目が合ったような気がした。慌てて目を閉じるドーベルだったが、目を閉じるその直前、学の口元が少し笑っていたように感じた。

 

目を閉じたことで視覚からの情報が無くなったドーベル…しかし、そんな中、学がいるであろう方向から布が擦れるような音を感じ、学が動いたことが分かる。

 

(…学が動いた?もう帰っちゃうのかな…)

 

そう考えたドーベルは再びうっすらと目を開けて学の様子を見ようとする。

 

するとドーベルの目に映ったのは予想とは裏腹に、ドーベルに向けてそっと手を伸ばしている学の姿だった。

 

そんな学を見たドーベルは驚く。

 

(…え?学?なんで私に手を伸ばして…………もしかして私、学に何かされちゃうの!?)

 

この部屋にいるのは自分と学の2人…そして自分は眠っていて無防備だ。そんな自分に学はゆっくりと手を伸ばしてきているのだ。少女漫画脳のドーベルにはもはや自分が何かをされるとしか思えなかった。

 

学の手が自分の目の前まで迫る

 

(…学…学なら別に…でもまだ心の準備が……)

 

ドーベルはそんなことを考えながらも目の前に迫る学の掌に覚悟を決めたようにギュッと目を瞑る。

 

「………」スッ

 

(…………あれ?…これって…)

 

身構えていたドーベルは頭に何かが優しく触れたような感触を感じた。そしてその感触はドーベルにとって、どこか懐かしさを感じさせる感触であった。

 

再びドーベルは薄目で学の様子を見る。

 

「………」

 

ドーベルの目に映ったのは、慈愛に溢れたような笑みでドーベルの頭を優しく撫でる学の姿だった。

 

まるで割れ物を扱うように、丁寧に優しく…学はドーベルの頭を撫でていた。

 

(気持ち良い…そう言えば昔は学に撫でてもらうのが大好きでよくおねだりしてったけ…今は学はそんな感じじゃないし、おねだりなんて恥ずかしくて出来なかったけど…)

 

ドーベルがそんなことを考えていると、頭を撫でていた学がおもむろに口を開いた。

 

「昔はよくこうやって頭を撫でてやってたっけな…懐かしい…」

 

思わず口からこぼれたように学はそう言う。

 

(え?)

 

学の口からこぼれたのは普段とは違う…あの頃のような砕けた言葉だった。

 

そしてさらに眠っているドーベルに語り掛けるように学は続ける。

 

「それにしても大きくなったなあ…ドーベル…昔はあんなに甘えん坊で泣き虫だったのに………いやでもこの気持ちよさそうな寝顔は変わってないな」

 

(がく…お兄ちゃん…)

 

それはドーベルが眠っているからこそ出た、学が久しぶりに見せる兄の部分だった。執事の業務中では絶対に見れない、学の姿。

 

単純にドーベルは嬉しかった。

 

もう、無くなってしまったものだと思っていた。

 

もしかしたら幼少の頃に本当の兄妹のように過ごした時間を覚えているのは自分だけなのではないか…あの時の学はもういなくなってしまったのではないか…

 

そんな不安を思いっ切り吹き飛ばすようなこの時間。

 

ドーベルはこの時間をかみしめるように堪能した。

 

だが、しばらくすると学は満足したのかドーベルの頭から手を離す。

 

(…あ)

 

心の中で名残惜しそうな声を上げるがそれは学に届くことは無い。

 

学は目を瞑るドーベルに掛け布団を掛け口を開く。

 

「おやすみなさいドーベル様、良い夢を…」

 

(…もうちょっと撫でてくれても良かったんだけど…でも良いか…学は執事になってもちゃんと私のお兄ちゃんだってことが分かったし……今はそれで充分…おやすみ…がく)

 

掛け布団を掛けられたドーベルの表情は穏やかでやけに満足気だった…

 

 

 

…が

 

 

 

そんなドーベルの頭にある一つの懸念点が浮かぶ

 

(…ちょっと待って…私…机片付けてたっけ?…机の上には超極秘の()()が………まずいかも!)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「おやすみなさいドーベル様、良い夢を…」

 

学はそう言ってドーベルに掛け布団を掛けて、部屋を後にしようとする。

 

(ふう…ドーベル様を運んだのなんかいつぶりだ?…本人には絶対言えないけど…かなり重くなってたな…そこで成長感じてしまった。マックイーン様よりも余裕で重たかった…腰痛い…)

 

失礼すぎることを考えていた学。

 

そんな学が部屋を後にするその直前、少し散らばっているドーベルの机が目に入る。

 

机には書きかけの漫画のネームのようなものが散乱していた。

 

地面に落ちてしまっている原稿もあったので学はそれを拾って机に戻そうと、足を進める。

 

(…珍しいな、ドーベル様がこんなに散らかすなんて…ん?ナニコレ?…さっき俺が読んでたヤツの続きかな)

 

地面に落ちている原稿には見慣れた自分似のキャラが描かれているように学には見えた。

 

(…表紙か…えーと何々…タイトルが…『私と執事とアールグレイ-裏-(5)』…って裏?裏ってなんだ?番外編的な奴か?でも番外編なのに5巻もあるのか?)

 

そのタイトルに少し気になってしまった学は落ちている原稿を机に置いて、机の上に散らばる原稿にも少し目をやってしまう。

 

散らばる原稿の一枚をそっと手に取った学の目にその内容が飛び込んでくる…

 

 

「……………………うぇ??」

 

 

その内容に学の脳内CPUの処理が追い付かずにフリーズしてしまう。

 

そしてその時…

 

ガシッ

 

原稿を手に持ち固める学の方にずっしりと誰かの手が置かれた。

 

そして背後からある声が聞こえてくる…

 

「…が、がく?…そ、それ見ちゃったの?」

 

その聞きなれた声に学は恐る恐る、ギギギ…と錆びついた歯車を動かすようにゆっくりと首だけで後ろを振り返る

 

そこには案の定、顔が真っ赤でぐるぐると目が回しながらコチラを見るメジロドーベルの姿があった。

 

そんなドーベルを捕捉した学はすぐさま手に持った原稿をサッと机の上に戻して口を開く。

 

「…お、お嬢様?お、起きていらしたのですか?」

 

「……う、うん…そんな事より…学?それ見ちゃったの…?」

 

焦ったようにそう言いながら学に詰め寄るドーベル。

 

「………少し」

 

学がボソッとそう言うと、ドーベルはフルフルと震え始める。

 

「…み、見られた…()()を?…しかもよりによって学に?…ね、ねぇ学…忘れてくれない?な、何でもするから…」

 

そんなただならぬ様子のドーベル、しかし、学は言う。

 

「…いえ…少々インパクトが強すぎて…しかしドーベル様……人の趣味にどうこう言うわけではありませんが…ああ言ったものを描くのは…メジロの淑女としてほどほどにした方に良いかと…」

 

学が恐る恐るそう返すとドーベルは赤かった顔をギュンとさらにもう一段赤くして言う。

 

「…わああああ!!忘れて!ねえお願いだから!忘れて!!」

 

ドーベルはそう言いながら学の胸元をポカポカと殴る。

 

(い、痛い痛い!効果音と威力が見合ってない!)

 

「痛い!痛いです!ドーベル様!一旦!一旦落ち着きましょう!」

 

学は乱心しているドーベルの肩を抑えて必死に落ち着けようとする

 

「はあ…はあ…ふう…ふう」

 

しばらくするとドーベルは少しづつ息を落ち着ける。

 

「…ふぅ…ふぅ…ねぇ学…と、とにかく今日ここで見たことは忘れて…お願いだから!」

 

落ち着いたと言っても目が未だにぐるぐると回っており、動揺が隠しきれていない。

 

「…ドーベル様…分かりました。そこまで言うなら頑張って忘れます」

 

「が、学!わかってくれたのね!」

 

「ただ…ドーベル様…一つ聞いておきたいことがあります」

 

「……な、何?」

 

恐る恐るそう学に尋ねてくるドーベル。

 

 

 

そんなドーベルに学はゆっくりと口を開く…

 

 

 

 

 

 

 

「…なんで漫画の中のあの執事は俺が持ってる下着と全く同じ下着を履いてるんでしょうか?」

 

 

「……………資料として…ね?」

 

 

「……ちょっと詳しく聞きましょうか」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

 

 

ドーベルちゃんとがくお兄ちゃんは色々と複雑な関係です。

 

 

 

 





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