メジロ家の使用人やってます。あ、彼女募集中です。   作:shch

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4.姉弟

 

 

 

 

 

「………」

 

1人のウマ娘の少女が豪勢な部屋の窓辺に座り、窓の外を愁いを帯びた眼差しで見つめている。

 

彼女の目線の先には、楽しそうに庭を駆け回り遊んでいる三人の幼いウマ娘達の姿があった。

 

「…はぁ…私もいつかは………」

 

その楽し気な様子を見ている少女は小さくため息を着く。

 

彼女の名は『メジロアルダン』メジロ家のご令嬢の一人だ。

 

しかし、彼女は生まれつき体が弱く、他のウマ娘の子供たちに比べてケガをしやすかったり、病気になりやすい体質だった。

 

そのため遊び盛りの今でも、目線の先で楽しそうに駆ける妹達のように外で遊ぶことは出来ずに、その光景を傍で見守ることしかできなかった。

 

そんな体で生まれてきた以上、それは仕方の無いことだということは頭では分かっていた。

 

でもやはり楽しそうに駆け回る妹達を見ていると、時折どうしても感じてしまう疎外感と劣等感のような負の感情。

 

それは彼女にはどうすることもできなかった。

 

そんな気持ちを少しでも誤魔化すためか今日のように外から遠く離れた部屋の中から彼女たちの様子を伺う日もあった。

 

「……」

 

再びぼんやりと窓の外に目をやる、やはり目に映るのは楽しげな様子の妹達の姿。

 

しかしアルダンは気が付いた、いつもならその妹達に混ざって遊んでいる、弟の姿が今日は見えないことに…

 

そしてその時

 

バァン!!

 

アルダンのいる部屋の扉が大きな音を立てて、勢い良く開いた。

 

アルダンはその音に思わず扉の方に目線を送る…そこには見知った顔の一人の幼い少年がいた。

 

その少年が大きく口を開く。

 

「姉さん!!アルダン姉さん!!」

 

少年はそう言いながらキョロキョロと広い部屋を見渡した。

 

そして窓辺に座るアルダンと目が合うと、アルダンの元に一目散に駆けだす、少年はアルダンの元に到着すると目をキラキラと輝かせながら、アルダンの方に両手を突き出して言った。

 

「姉さん見て見て!!お花!!綺麗でしょ?花壇に姉さんみたいな綺麗な花が咲いていたから姉さんに見せたくてさ!じいやにお願いして、摘ませてもらったんだ!」

 

そう言う少年の手元にはアルダンの髪色と同じ、空色をした美しい花が握られていた。

 

「どうどう?綺麗でしょ?」

 

少年はそう言ってアルダンに無邪気に笑いかけた。

 

「まぁ…とっても綺麗なお花…もしかして私のために?」

 

「もちろん!姉さんに見せたくてさ!それに姉さん最近元気なかったでしょ?これ見たら元気出るかなと思って!」

 

屈託のない笑顔で少年はそう返す。そんな少年にアルダンは再び問う。

 

「ふふ…ありがとう学…でも学?いつもみたいに皆と一緒にお外で遊ばなくても良いの?」

 

アルダンはそう言って再び窓の外に目を向ける、この少年はいつもは妹達と一緒に外で遊んでいるはずだ。

 

しかし少年は答える。

 

「…うーん…まぁ、今日はお外で遊ぶ気分じゃないんだ!こうやって姉さんとお部屋で話している方が良いや!」

 

笑いながら少年がそのように言うが、その発言には少しの嘘が混じっているということは、その少年と長い付き合いであるアルダンにはすぐにわかった。

 

その証拠に少年は窓の外で遊ぶ妹達の方が気になるのか、時折チラチラと目線を送っているのが見て取れる。

 

アルダンがそんなことを考えていると、少年は再び口を開いた。

 

「ねね!そんな事よりも姉さん元気出た?」

 

無邪気な笑顔でそう聞いてくる少年。

 

おそらく、最近元気の無かった自分を心配して、大好きな妹達とのお外遊びを我慢して励ましに来てくれたのだろう。

 

(…なんてできた弟で、そんな弟に心配をかけてしまうなんて…私はなんて情けない姉なんでしょうか…)

 

そんなマイナスなことを考えてしまうと、自然とアルダン自身の表情がさらに少し沈んでしまう。

 

そんな様子を見て、アルダンがさらに元気をなくしてしまったのかと思ったのか、少年は慌てるように口を開く。

 

「わわ…えーとえーと…あっ!そうだ!このお花、お部屋に飾れるようにあとでばあやにお願いしてみるね!…あ、あとねあとね、この前ね、幼稚園でね、友達とね…」

 

暗い表情の自分を励ますためにか、必死でアルダンに自分が楽しいと思ったであろうエピソードを話し始めるその少年。

 

そんな姿を見ていると…

 

「……学」

 

アルダンはその少年がどうしようもなく愛おしくてたまらなくなってくる。

 

「………ねえ学?ちょっとこっちに来て?」

 

アルダンはそう言って少年に手招きをした。

 

「え?何?姉さん?」

 

少年は言われるがまま自分を呼ぶお姉さまの傍へとトコトコ歩く。

 

そしてアルダンは自分の元に歩いてきた少年の頭にポンと手を乗せて、優しくなで始める。

 

「ふふ♪…学?姉さんのこと心配してくれたの?」

 

「…えへ、まぁ…うん」

 

頭を撫でられながら少年が照れたように答える

 

「ありがとうね、学…学が姉さんを励ましてくれたから、姉さんはこの通りすっかり元気になれました♪」

 

アルダンはそう言って、元気になったことをアピールするように優しくて明るい、いつもの笑顔で少年に笑いかけた。

 

「ほんと!?やった!」

 

そんな様子のアルダンを見て嬉しそうにそうアルダンにそう言う少年。

 

そしてしばらく少年を愛でるように頭を撫で続けた。

 

しばらくするとアルダンがその手を止め、少年の目をしっかりと見て口を開く。

 

「…ねえ…学?」

 

「どうしたの?姉さん?」

 

キョトンとする少年にアルダンはニッコリと笑いながら口を開く。

 

「私はいつも元気で優しい、そんな学が大好きですよ♪」

 

そんな言葉に少年は一瞬固まるが、ゆっくりと口を開く。

 

「………俺も…いっつも優しくて綺麗で、頭を撫でてくれる姉さんが大好きだよ?」

 

そう言って可愛らしくはにかむ少年。

 

「………っ!…もうっ…!…この子は…」

 

思わぬ少年のカウンターに母性やらなにやらがくすぐられたアルダンはそう口から漏らす。

 

そしておもむろに少年の首元に手を回して、自らの胸元に少年の頭を押し付けるように抱え込んだ。

 

ギュム!

 

と勢いよく少年の頭を抱え込んだアルダンが口を開く。

 

「…学?………そんなこと、私以外には言ってはいけませんからね?」

 

「…もごご(なんで?)」

 

胸元に抑え込まれている少年は喋りにくそうにしながらもそう聞いた。

 

「…ふふ♪…なんででしょうね?」

 

「…もごご…ぷはっ…教えてくれないの?……うーん…でもまあいいや、姉さんに言われなくてもあんなことは他の人には言わないしね!」

 

「あら?どうしてですか?」

 

アルダンが少年にそう聞くと、少年は少し顔を赤らめて照れながら口を開いた。

 

「…だって俺はアルダン姉さんが一番大好きなんだもん…」

 

そう言ってアルダンの胸の中でポリポリと照れ隠しのように頬を掻く少年。

 

それを見たアルダンは…

 

「………………」ギュムゥゥ!

 

無言で少年を抱きしめる力を強めた。

 

「あががが!痛い!痛いよ姉さん!?ちょっと力が強いよ!…め、目が!目も怖い!ちょっとパキってる!」

 

少年はそう言うも、アルダンが満足するまでその力が弱まることは無かった。

 

しかし、痛そうにしながらも大好きな姉さんに愛でられている少年と大好きな弟を愛でるアルダンの2人はどちらも幸せそうな様子だった。

 

 

 

 

 

 

これは…学が執事になる少し前の幸せな『姉弟』の生活のほんの一幕…

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「お嬢様、マックイーンお嬢様、朝食のお時間です。ご準備できていますか?」

 

コンコンコン

 

黒い給仕服に身を包んだ()()()()()がそう言って大きな木製の両開き扉をノックする。

 

ノックが扉の向こうに響くとそれに答えるように少女の声が返ってくる。

 

「ええ…もちろん……ってその声はばあや!?学はどうしましたの!?」

 

いつも自分を呼びに来る専属執事とは違う声がしたことにマックイーンが驚きの声を上げた。

 

驚き戸惑った様子のその声にばあやと呼ばれた女性が答える。

 

「今日、学はアルダン様のお見舞いの日ですよ?もしかしてお忘れでしたか?」

 

「…あ!…も、もちろん覚えてましてよ!…ち、ちょっと待ってくださいまし?髪を整えますので…」

 

「はあ…お嬢様…まだ学に髪の手入れをさせていたのですか?メジロ家の淑女たるもの、自身の頭髪の手入れくらい自分でしなくてはならないと教えていましたよね?」

 

「た、たまにしてもらってただけですわ!と、とにかく少し待ってくださいまし!すぐに終わりますわ!」

 

 

 

学のいない日のマックイーンの髪はいつもより少しツヤが足りなかったりする…

 

 

 

 

 

 

 

コツコツ…

 

一般的な足音よりも少し高めの音をならし、黒の燕尾服を身にまとった青年がとある病院の廊下を歩く。

 

その手元には自らが手入れしている花壇で育てた空色の綺麗な花が2つの包装紙にまとめられていた。

 

執事らしく、ピンと背筋を伸ばして美しい姿勢で院内を闊歩するこの男はお馴染みの『九重 学(ここのえ がく)』メジロ家の使用人でメジロマックイーンの専属執事でもある。

 

(燕尾服で病院歩くのってなんかちょっと恥ずかしいんだよなあ…皆、物珍しそうに見てくるからさあ…)

 

内心ではそんなことを考えながらもお得意のポーカーフェイスで表情には出さず、堂々と廊下を歩く。

 

そんな学だが、今日はいつも付きっ切りのマックイーンからは少し離れ、とある事情で入院しているメジロ家のご令嬢の一人『メジロアルダン』の元へお見舞いという形で訪れていた。

 

というのもアルダンは幼い頃から体が弱く、ケガや病気になりやすい体質だった。

 

しかしそんな体にも関わらず、アルダンは悲観することなく、高貴な信念を持って自分の姉と同じようにレースウマ娘として、トゥインクルシリーズに挑戦をした。

 

だがアルダンはそんなトゥインクルシリーズの真っ只中、体質が災いし右足を骨折してしまった。

 

そして現在はレース復活に向けて病院で療養中なのである。

 

そんなアルダンの元に学は大体2週間に一回ほどお見舞いに訪れる。そして今日はまさにその日なのであった。

 

コツコツコツ…

 

学はアルダンの病室へと足を進めていく。

 

そんな時…

 

「おや…学くんじゃないですか」

 

アルダンの病室へと足を進めていた学に、すれ違いざまに一人の看護師が声をかけた。

 

看護服に身を包み、長い黒髪をポニーテールにまとめた若そうで綺麗な女性だ。

 

「あ!佐倉さん!こんにちは」

 

学はその看護師にニコリと笑顔で挨拶を返す。

 

(おおー!!佐倉さんだ!!今日も美人だ!)

 

学がアルダンのお見舞いに来るのは今回が初めてというわけではない、何回か通っているので院内には何人か顔見知りがいる。

 

今、学に声をかけてきた看護師もその内の一人、基本的にいつもアルダンの看護を担当してくれている『佐倉さん』だ。

 

アルダンの担当であるため顔を合わせる機会が多く、学にとっては一番会話の多い看護師だ。

 

そして何より佐倉さんは美人なのである。少々表情の変化に乏しく、感情が読み取れない所もあるが、なんだかんだちゃんと学の話を聞いてくれる良い人であるため、学は普通にこの人が好きなのである。

 

なんならコイツはワンチャンス狙っているまである。

 

佐倉さんと会えてちょっとテンションの上がった学が口を開く。

 

「アルダン様の調子はどうですか?お元気にしていますか?」

 

学がそのように佐倉さんに聞くと、佐倉さんは表情を変えずに淡々と答える。

 

「はい、いつも通り元気ですよ」

 

(…やっぱり無表情だ…だがそれもいい!)

 

そう考えながらも学は再び口を開く。

 

「そうですか、よかったです!…そう言えば佐倉さんは今日もお綺麗ですね!…あ!もしかして髪切りました?似合ってますよ!」

 

学がそう言うと、佐倉さんはまたも無表情で答える。

 

「学くん…顔を合わす度にそんな事を言ってくるのは学くんだけです…お世辞はよしてください……照れるので」

 

そう言いつつも全くもって照れている様子の無い表情をしている佐倉さん、それに対して学は言う。

 

「お世辞じゃないですよ?…にしても髪は切ってないんですか?…おかしいな…俺が佐倉さんの髪型の変化を見間違えるわけないのに…」

 

学がそう言って首をかしげる、すると佐倉さんは自分の前髪をサッサといじりながら答える。

 

「……確かに髪は切りました、でもちょっとしか切ってないので…気が付いたのは学くんが初めてです。どれだけ私のことを見てるんですか?」

 

そんなことを言う佐倉さんの表情は心なしか少し照れているような表情だった。

 

そしてそんな佐倉さんの言葉を聞いて学は嬉しそうに言う。

 

「やっぱり!まぁ俺は女性の変化には敏感にと教えられて育ってきましたから!」

 

学はそう言って自慢気に自分の胸をポンと叩いた。

 

「…ふふ……そうですか…しかし、お世辞でも「似合っている」と言ってもらって悪い気はしません。ありがとうございます」

 

佐倉さんはそう言うと、少し…本当に少しだけ微笑んだ。

 

「だからお世辞じゃないですって!」

 

(おお!笑った!笑ってくれたぞ!素敵な笑顔なんだからもっと笑えばいいのになあ)

 

すこしの微笑みを見せた佐倉さんに学は心の中で喜ぶ。

 

そして佐倉さんはそんな喜んでいる学の手元に目をやると、再び口を開く。

 

「おや…その花は…この前言っていた…」

 

佐倉さんの目線の先には学の持ってきた花があった。

 

「あ!これですか?そうですそうです!やっと咲いてくれたのでアルダン様のお部屋に飾ろうと思って持ってきたんです」

 

「うん…デルフィニウム…ですよね?綺麗に咲いていますね」

 

佐倉さんはそう言うとズイと学の持つ花に顔を寄せた。

 

学の引き出した情報によると佐倉さんの実家は花屋らしい、その影響か佐倉さんは花について詳しく、一応メジロ家の花壇の手入れを担当している学は何回かアドバイスをもらったこともあった。

 

「そうですか?でも綺麗に咲いたのは佐倉さんのアドバイスのおかげです」

 

「いやでも…実際に育てたのは学くんじゃないですか?」

 

「そんなことは無いですよ、ああそうだ!そのお礼に佐倉さんにも渡そうと思って多めに摘んできたんですよほら!」

 

学はそう言うと自分が包装紙でまとめた花の束を2つ持ってきたことをアピールするように手に持った。

 

それを見た佐倉さんは一瞬驚いたように固まるが、すぐにいつもの表情に戻って口を開いた。

 

「……私のためにですか?…まぁ、学くんがそう言ってくれるなら…そのお花…もらってもいいですか?」

 

「ほんとですか!?もらってくれるんですね!」

 

嬉しそうに学がそう言って片方の花の束を佐倉さんに差し出した。

 

「もちろん…ふふ…なんだかすこし嬉しいです…男性からお花をもらうのは初めてなので…」

 

すこしだけ嬉しそうな表情でそう言った佐倉さん。

 

そしてそれを受取ろうと佐倉さんが手を伸ばそうとしたその時…学の頭に電流が走った。

 

(…いやちょっと待て…佐倉さんの実家は花屋だぞ?…既に花いっぱいある家にいる人に花あげてどうすんだよ?普通に迷惑じゃない?)

 

学はそう考えると口を開く。

 

「あ、い、いや、やっぱり無しで!」

 

学が慌ててそう言って差し出した花をひっこめる。

 

「…む……どうしてですか?」

 

受取ろうとした花がいきなり引っ込められた佐倉さんは少しムッとしたような表情でそう言った。

 

(…今日この人表情豊かだな…それもいい…)

 

そんなことを考えながらも学は口を開く。

 

「いや…実家花屋の人に花をあげるのってどうなのかなと思って…迷惑だったりしませんか?」

 

学がそのように言うと、佐倉さんは少し呆れたような表情で「はぁ…」と小さなため息を着きながら口を開く。

 

「学くんはわかっていませんね…実家にいっぱいある市販のお花と学くんが頑張って育てて、私に贈ろうとしてくれたそのお花では私にとっての価値が全然違います」

 

佐倉さんは学の手元にある花に目を向けて言葉を続ける。

 

「お花には育てた人、贈る人の想いがこもります……ですから、全くもって迷惑などでは無いです」

 

(……なるほど…そんな考え方もあるのか)

 

「…なので…早くそのお花をください」

 

学が考え事をしていると佐倉さんがそう言って学に詰め寄った。

 

「ええ…じゃあ…どうぞ…じゃあ感謝の気持ちを込めてこの花を贈らせていただきますね」

 

学は改めてそう言って花を佐倉さんに差し出した。

 

そしてその花を佐倉さんが受取ろうとする…

 

が、佐倉さんのその手が直前でピタリと止まった。

 

(…なんだ?)

 

なんか優しそうな表情をしていた佐倉さんはスンと元の無表情に戻り、口を開く。

 

「……そう言えば今は業務中ですので受け取れませんでした」

 

「…………あっ…そうですか?」

 

「それに少し話過ぎましたね、それでは業務に戻りますので、(後で休憩中にでもアルダンさんの病室へ取りに行くので)また後で」

 

そう言って肝心な所を学に伝えずに颯爽と業務に戻っていく佐倉さん。

 

その背中を見ながら学は思う。

 

 

 

(やっぱりちょっと不思議な人だよな…いいもん…自分の部屋に飾るもん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン…

 

「アルダン様、学でございます」

 

軽く病室の扉を叩いて学がそう言った。

 

「はい、入っても大丈夫ですよ」

 

そんな声がドアの向こうから聞こえてくるのを確認すると学は病室の扉を開く。

 

病室に足を踏み入れると、そこにはベットに佇むアルダンの姿があった。

 

そんなアルダンに学は声をかける。

 

「お久しぶりですアルダン様。脚の調子はいかがですか?」

 

「久しぶりですね学、ええ…お医者様によると順調みたいです。このまま行けば…今年中にはレースに復帰できると」

 

それを聞いた学はスタスタとアルダンのいるベットの近くまで早足で歩き、跪いてアルダンと目線を合わせると口を開く。

 

「本当ですか!よかった…アルダン様の走る姿がもう一度見れるというだけで…私は嬉しいです!」

 

学がそう言うと、アルダンはニコリと笑い、口を開いた。

 

「ふふ♪…学は嬉しいことを言ってくれますね…あら、そのお花は?」

 

嬉しそうなアルダンは学の手元にある花に目線を移してそう言った。

 

「ああ、これですか?これは私が手入れをしている花壇で咲いた花でございます。アルダン様のお見舞いに病室にでも飾ろうと思って持ってきたのですが…いらないのでしたら持って帰りますが」

 

「まあ…とっても嬉しいです。学が育ててくれた花ですもの…ぜひ飾ってください」

 

「アルダン様がそう言ってくれるなら持ってきた甲斐がありました」

 

学はそう言うと病室の棚に置いてある花瓶を取り出し、持ってきた2つの花束のうちの一つの包装紙を解いて、その中の空色の花を花瓶に挿して窓辺に置く。

 

その時、アルダンが学に声をかけた。

 

「…懐かしいですねそのお花…」

 

「………そうでしょうか?」

 

学はアルダンに背を向けて、花瓶に水を汲みながらアルダンに言葉を返す。

 

「学…覚えてますか?昔も学は元気のない私を励ましてくれた時、その花を私の部屋に持ってきて飾ってくれたんですよ?」

 

「…そんなこともあったかもしれませんね…」

 

花瓶に挿した花を丁寧にサッサと整えながら学が返す。

 

「ふふ…あの時の学は私のことを「姉さん!姉さん!」って呼んでくれて…とっても可愛らしかったです♪」

 

(……恥ずかしい過去だ。ドーベル様やマックイーン様には兄貴面してたのにアルダン様の前では思いっきり甘えてたなあ…)

 

学は昔を思い起こしながらそう考える、あの頃の学にとって綺麗で優しいアルダンは本当に大好きな姉のような存在だったのだ。

 

(…まあ今でも、この人に甘えてもいいなら存分に甘えたいんですけどね)

 

「でも最近の学はお堅くなって…確かにかっこよくはなったと思いますけど…あの頃の私のことを「大好き!」といってくれた学が恋しいです…」

 

「…はあ…あんまり過去のことを掘り返さないでください…恥ずかしいので」

 

「ふふ♪…恥ずかしがり屋なのは変わっていませんね」

 

アルダンは口元に手を置いて学をからかうようにそう言った。

 

「…あまり私をからかわないでください」

 

学はそう返しながらも花瓶の手入れを終える。

 

そして学が飾り終えた空色の花を見つめるとアルダンが再び口を開いた。

 

「…でも…本当にありがとうございます…そのお花を持って来てくれて」

 

「どうしたんですか?改まって?」

 

「いえ、そのお花を見ているといつも不思議と元気が湧いてくるんです」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ…きっとあの時に学が私に「元気になってほしい!」という気持ちを込めてその花を贈ってくれたから…そのお花を見るたびになんだか嬉しい気持ちを思い出すんです…だからこのお花は実は私の人生の支えの一つだったりするんですよ?」

 

「……それは…よかったです」

 

(あの時は確か…アルダン様の髪色と一緒の色で綺麗だと思ったから見せたいってなっただけだったんだけど…確かに言われてみれば「元気になってほしい」って無意識に思いながら渡していたかもな…)

 

嬉しそうな表情で自分の持ってきた花を眺めるアルダンを見ていると思う

 

(…佐倉さんが言ってたのって…もしかしてこういうことだったりするのかな?)

 

学は先ほどの佐倉さんの発言を思い出していた。

 

(…花一つで人の人生の支えになれる…そう思うとなんだか素敵だな…)

 

学は口を開く。

 

「…じゃあ来年も、いや再来年も…これからずっとその花を育てます…だから…」

 

そして学はしっかりとアルダンの目を見て言う

 

「ずっと…()()()に贈っても良いですか?」

 

その言葉を聞いたアルダンは嬉しそうに微笑みながら答える。

 

「ふふ…もちろんです♪」

 

アルダンがそう言うと、窓辺に飾られた空色のデルフィニウムも嬉しそうにカラリと笑うように風に揺れていた。

 

.

 

.

 

 

 

 

「そう言えばずっと気になってたのですが…」

 

「どうしましたか?アルダン様?」

 

学がそう返すと、アルダンは学の手元に残っているもう一束の花に目を向けて口を開く。

 

「その余っているお花はどうしたんですか?」

 

学が佐倉さんに渡そうとしたが渡し損ねた花についてだった。

 

「ああ…いやこれは…佐倉さんに…」

 

(…いや別に言う必要ないか?説明めんどくさそうだし…どうせ持って帰るし)

 

学はそう考えながら口を開く。

 

「いや、思ったよりも病室の花瓶が小さくって余っちゃっただけです。持って帰って自室にでも飾りますよ」

 

「ふふ…そうですか…でもなんだか嬉しいですね、学の部屋に私の部屋と同じ花が飾られるのは」

 

「そうですか?まあ確かに…私もアルダン様と一緒なのはなんだか嬉しいですね」

 

学がそう言うと、アルダンがなぜか少し眉を下げながら言う。

 

「アルダン様だなんて、さっきは一度姉さんと呼んでくれたではありませんか」

 

「聞き逃していませんでしたか…」

 

「ふふん…私が学の言葉を聞き逃すわけありません!」

 

アルダンは得意げに胸を張ってそう言う、そんなアルダンに対して学が何とも言えない表情で口を開いた。

 

「…ちょっと昔を思い出してしまっただけですので…お忘れください…」

 

「…むう…別にいつでも姉さんと呼んでくれてもいいんですよ?」

 

「いやいやそう言うわけには…」

 

学がそう言いながら言葉を濁すと、それを見たアルダンが何かを思いついたように口を開く。

 

「あっ!もっと昔を思い出してくれたら姉さんと呼んでくれたりしますか?」

 

「いや別にそう言うわけでは無いんですが…」

 

学がそのように否定の言葉を言おうとするが、アルダンはニコニコとしながら言う。

 

「学?ちょっとこっちにきて?」

 

そう言って学に手招きをするアルダン。

 

(…なんか既視感あるな…)

 

「どうしました?」

 

目の前の光景に学は既視感を覚えながらも言われるがままにアルダンに近づいた。

 

「もう少しお顔をこっちに寄せてくれますか?」

 

「こうですか?」

 

学はそう言いながら顔をアルダンの方に突き出す。

 

すると…

 

「ふふ…えい!」

 

可愛らしい掛け声とともに学の首元にアルダンの腕が絡みつく、そしていつかアルダンが学にしていたように勢いよくその胸元に学の頭を引き寄せ、抱きしめた。

 

ボフッ!

 

と音を立てて学は顔面からアルダンの胸元に埋まった。

 

「…うぇ?…むごっ!…」

 

(………ヤバ…なんかやわらか…昔はちょっと痛かったのに…)

 

学が顔を埋めながらそんなことを考えているとアルダンが言う。

 

「ふふふ…こうしたら昔のことを思い出しますか?昔はよくこうしてましたよね♪」

 

(正直に言えば、一生こうしていたい…なんかいい匂いするし…でも)

 

「…別に思い出さないです。あと私はあなたの執事ですよ?過度なスキンシップはおやめください」

 

学は自分の心の中とは真反対の言葉を口に出した。

 

しかしそれに対してアルダンはいい笑顔で言う。

 

「嫌です♪」

 

「学が昔みたいに「姉さん大好き」って言ってくれるまでこのままです♪」

 

(楽しそうだなこの人…)

 

しかし、このままでは如何にもこうにもいかない、それのこの現場を他の誰かに見られようもんなら変な誤解をされても文句は言えない。

 

学は渋々と言った様子で口を開く。

 

「……姉さん大好き…」

 

「ふふ…ちょっと心がこもってないですが…まぁ良しとしましょう」

 

アルダンはそう言うと胸元に抱え込んでいた学を開放した。

 

(ああ…解放された…嬉しいけどなんか…あの柔らかさにはちょっと心残りが…)

 

そんなことを考えながら学は解放された首を回す…

 

その時だった…

 

「あ」

 

学は目が合ってしまった。

 

「……」ジ―

 

病室の扉の隙間からコチラをずっと眺めている佐倉さんと…

 

学と目があった佐倉さんはガラリと扉を開けて、ゆっくりと部屋に入る。

 

そして口を開いた。

 

「…こんにちはアルダンさん。あと学くん、お花を受け取りに来たんですが…もしかしてお邪魔でしたか?」

 

(…え?花って受け取りキャンセルされたんじゃなかったの!?…ていうかその前に)

 

「さ、佐倉さん?一体いつから?」

 

学はそのように佐倉さんに聞いた。さっきまでの自分の発言やら行動が筒抜けであるなら佐倉さんにあらぬ誤解を与える可能性があるからだ。

 

そんな学の疑問に佐倉さんは答える。

 

「アルダンさんが学くんの頭を胸元に抱え始めたころからです」

 

(一番見られたくない所から全部見られてる…)

 

「一応ノックはしたのですが…反応が無くて…ちょっと覗いてみたら、あんなことをしているなんて…二人はどうやら複雑な関係のようですね」

 

(やっぱり嫌な勘違いされてるし!!)

 

すぐさまその誤解を解くべく、学が口を開く。しかし…

 

「いやそんなことは…「ふふ…お見苦しいところをお見せしましたね…佐倉様…ですがその前に学からお花を受け取るとはどういう意味でしょうか?」

 

学の言葉を遮ってアルダンがニコニコしながらそのように佐倉さんに聞いた。

 

すると佐倉さんは淡々と答える

 

「そのままの意味です。学くんが私にその綺麗なデルフィニウムのお花をプレゼントしてくださると先程言ってくれたんです」

 

佐倉さんはそう言うと、学の手元に残っている花の束を指差した。

 

「本当はさっき廊下で会った時に学くんが渡そうとしてくれたんですが業務中でしたので受け取れずに…今は休憩なので受け取りに来たのですが…どうやらお邪魔だったようですね」

 

佐倉さんがそう言い終わると、先程まで佐倉さんの方を向いていたアルダンがゆっくりと学の方を向く、その表情はニコニコと笑っていながらもどこか陰りを感じる。

 

(…目が笑ってない…なんか怖い!)

 

そんな怖い表情のままアルダンは口を開く。

 

「ふふふ…そうですか…学は私に内緒で、私じゃ無い女性にその花を贈るのですね…どんな意図か聞いてもいいですか?」

 

「……」

 

(怖いよぉ…)

 

そして背後からも冷たい声が聞こえてくる。

 

「学くんって…そういうタイプの人だったんですね…印象がかなり変わりました」

 

「……」ガーン!

 

その明らかに冷え切ったその声は学の頭にかなりのショックを与える。

 

ニコニコしながらも目が笑っていない姉と心なしかいつもより表情が死んでいる佐倉さん。

 

そんな2人に挟まれながら学は心の中で一言漏らす。

 

 

 

 

(…なんで…なんでいつもこうなるんだ!?)

 

 

 

 

この後、姉には普通に詰められ、佐倉さんには弁明にかなりの時間がかかってしまう学であった…

 

 

 

 






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