メジロ家の使用人やってます。あ、彼女募集中です。   作:shch

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6.俺とデートしましょう

 

 

 

 

「…まあとりあえずそこに座るといい」

 

「では失礼します」

 

学はそう言うとルドルフの言った通り、生徒会室にあるソファに腰掛けた。

 

ちなみにテイオーは先程、ルドルフに「学と2人で話がしたい」と言われて先に帰らされていた。

 

(あいつ、ルドルフ様の言うことはやけに素直に聞くんだなぁ)

 

そんな事を考えていると、学の正面のソファにルドルフも腰掛けて、腕を組んだ。

 

そしてゆっくりと口を開く。

 

「まずはキミとテイオーの関係についてだが…」

 

(何言われるんだ?)

 

学がそう考えてルドルフの言葉に身構える。

 

そしてルドルフは言う。

 

「別に私は全く口出しするつもりが無い」

 

(いや無いんかい!)

 

先ほどまでの険しい表情とは打って変わって優しい表情でルドルフがそう言った。

 

「ハハ、少々怖がらせてしまったかな?キミとは個人的に、一度こうやって2人で話してみたくてね。別に普通に誘っても良かったんだが…少しいたずら心が働いてしまってね」

 

笑いながらそう言うルドルフ。

 

(…なんだこの人?案外お茶目なのか?ギャップ萌えでも狙ってんのか?)

 

学は口を開く。

 

「それでは先ほどの怒ってるような表情は…」

 

「演技に決まっているだろう、一度やってみたかったんだ娘の彼氏に詰め寄る父親役を」

 

(お、お茶目だ!お茶目だぞこの人!レースで走ってるときとかインタビューの時とはまるで違う!)

 

学がそんなことを考えているうちにルドルフは再び口を開く。

 

「テイオーは確かにまだ幼いが、ああ見えてあの子は賢い、それに人を見る目は確かだ。そんなテイオーが選んだ相手だ。私が文句を言うことはあるまい」

 

(大前提、俺とテイオーは付き合ってないんだけどな…)

 

「…別に付き合ってるとかじゃありませんよ?」

 

「何!?そうなのか??テイオーが男性にあれほど懐いたところは見たことが無いからてっきり…」

 

(変なところで誤解されてたな…まあわかってくれたみたいで良かった)

 

「そうかそうか…どうやら私は少し変な勘違いをしていたようだな…」

 

ムムムと唸りながら学の正面に座るルドルフは呟いた。

 

(…というかそんなことよりもなんでこの人は俺と2人きりで話がしたいんだ?もしかして脈アリか?)

 

「そういえばルドルフ様はどうして私と2人で話をしたいのでしょうか?」

 

「まあ単純な興味だよ。テイオーがあそこまで懐いた人間がどんな人間か知りたかった。それから実はキミの話はある友人からしこたま聞かされていてね、それでいつかは直接話したいとは思っていたんだ」

 

(誰だ?……いや、俺と面識があってルドルフ様と仲が良い人なんてあの人しかいないな…あの人って俺の話他の人にするんだ……)

 

学がそう考え事をしていると、徐にルドルフがソファから立ち上がり、口を開く。

 

「そうだ、少し飲み物でも淹れよう…コーヒーで良かったかな?」

 

「いえいえお構いなく、それに私は一介の使用人です。ルドルフ様に飲み物を淹れてもらうなど…」

 

「いや、今の君は私の客人だ。遠慮するな、それに最近はエアグルーヴに淹れてもらってばかりで人に飲み物を淹れてなかったからな腕が鈍らないようにもしたいんだ」

 

「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせていただきます」

 

すぐに引き下がる学、彼はコーヒーが好きなので、実の所ルドルフの淹れるコーヒーに興味があったようだ。

 

(皇帝の淹れるコーヒーか…楽しみだ)

 

学がそんなことを考えていると、コーヒーを淹れる準備をしながらルドルフが言う。

 

「あとその堅苦しい喋り方もこの場ではやめていい、さっきのテイオーとの会話を見るに、今のキミは素では無いんだろう?」

 

(…素ではないというのはちょっと違うんだけど…)

 

でもルドルフがそう言うならばと学は少し口調を柔らかく話すことにした。

 

「そうですか?じゃあルドルフさんって呼んでも良いですか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

ルドルフはコーヒー豆を挽きながらそう答えた。

 

 

 

.

 

.

 

.

 

 

しばらくするとルドルフがコーヒーを淹れ終わり、自分の分と学の分のコーヒーカップを持ってソファに戻って来た。

 

「待たせたかな?」

 

「ええ、ルドルフさんのコーヒーが楽しみすぎて待ちくたびていた所です」

 

「ふふ…中々言うじゃないか」

 

そう言ってルドルフは自分と学の前にコーヒーカップを置いた。

 

ルドルフがコーヒーカップを手に取り、口を付けたのを確認して、学も自分のコーヒーカップを手に取り、一口飲んだ。

 

口にコーヒーを入れた瞬間、ふわりといつも自分が飲んでいるものよりも強い苦みと旨味が口の中に広がる。

 

「わあ…すごく美味しいです…これ「モカ」ですよね?中々珍しい豆を使ってますね」

 

「おお!キミは飲んだだけで豆が分かるのか?メジロの人間は皆紅茶好きだと思っていたが、どうやらキミはコーヒーにも理解があるようだな」

 

「はは…実はどっちかというとコーヒーの方が好きなんです、というか流石ルドルフさんですね、コーヒーを淹れるのもお上手だとは」

 

「…フフ…そうだろう、まさに『もっとの()()()』と思える美味しさではないか?」

 

ルドルフはそう言うと少し得意げに「どうだ?」と言わんばかりの表情を学に向けた。

 

ルドルフのその言動に一瞬学が固まるが、すぐに頭をフル回転させ、先ほどの言葉とその行動の意味を分析する。

 

そして気がつく…

 

(……ん?…おいなんだこの人!急に()()と「もっとの()()()」を掛けてきたぞ!ダジャレとか言うのこの人?しかもなんだこの絶妙なセンス…なんて返せばいいんだ?)

 

この間約0.01秒、学は一瞬戸惑ったものの、すぐさまニコリと笑顔を作り口を開く。

 

「なるほど…()()()ですね、それでは私はそんな美味なコーヒーが()()ないうちに飲んでしまいましょうか」

 

学がそう言うとルドルフの耳がピクン!と大きく反応し、驚いたような表情を学に向けた。

 

そしてつぶやく

 

「ふむ…どうやら私はキミを見誤っていたようだ…上手(ジョーズ)」と「冷め()ないうちに」か…ふふ…

 

(…どうやら俺の高度(笑)なダジャレ返しがお気に召したようだ…一人でめっちゃ笑ってくれてる…なんか可愛いなこの人)

 

 

学がそんなことを考えているとひとしきり笑い終えたルドルフが学に声を掛ける。

 

「ふう…後学に活かそう…時に学よ…キミはチェスのルールは知っているか?」

 

「チェスですか?まあ多少嗜む程度には…」

 

「そうか!なら私と今から一戦どうだろうか?時間があるならだが…」

 

学のスマホにはまだ連絡は来ていない、

 

「多分大丈夫です。お嬢様からの連絡があったら途中でやめてしまうかもしれませんが…それでいいならお相手します」

 

「ふふ…そうこなくてはな」

 

ルドルフはそう言うとチェスボードをどこからか引っ張り出し、机に並べ始めた。

 

(チェスか…久し振りだな…鈍ってないかな?)

 

 

.

 

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「…驚いたな…キミがここまでやれるとは…」

 

入り乱れる盤上を上から見下ろしてルドルフがそう言った。

 

「…ルドルフさんもかなりお強いですね」

 

学はそう言いながら駒を動かす。

 

「これでもチェスは得意で通っているんでな、これまで親以外にはチェスで負けたことは無かったんだが、少しでも気を抜けば負けてしまいそうだ」

 

ルドルフはそう言うも、盤面はほとんど互角。学も学で少しでも気を抜けば一気に劣勢に持っていかれるだろう。

 

「そういえば学よ、キミはチェスは嗜む程度と言っていたな」

 

「まぁ…はい」

 

「私はこれでもチェスに関してはかなり勉強してきたつもりだったんだが…嗜む程度のキミと互角とは…少々自信を無くしてしまうよ」

 

ルドルフは駒を動かしながらそう言った。

 

(…そんなこと言ってるけど…ジワジワと劣勢に持ってかれてるな…)

 

学もそんな事を考えながら駒を動かす。

 

するとルドルフは再び口を開く。

 

「私はチェスを一戦すればその指し方で、なんとなくだが相手の考え方や人間性が分かるんだ」

 

「へぇ、それはすごいですね」

 

「キミはこれまで戦ってきた中でも、迷いの少ない、中々思い切りの良い真っ直ぐな戦い方をする。キミは嗜む程度などと言っていたが、この指し方は多少嗜む程度では身につかない。これまで相当な努力と研鑽を積んできたことだろう」

 

「……」

 

それに対して学は無言で駒を動かす。

 

「私はキミのような奴は好きだ。キミは目標があれば、それに向かって真っ直ぐ努力ができる、そんな人間なんだろう」

 

「…いえ、ちょっと買い被りすぎですよ」

 

「謙遜はよせ、知っているぞ?キミは執事としての業務を完璧にこなすだけでなく、勉学でも名門と謳われるキミの高校の中でトップクラスの成績を誇っているのだろう?」

 

ルドルフも駒を動かしながらそう言って、学の顔を見た。

 

学は少し驚いた表情で口を開く。

 

「知ってたんですか?」

 

「まあとある友人からの情報でな」

 

「…まぁメジロに属する人間として学業を疎かにするわけにはいきませんからね」

 

「大変だろう、仕事と勉強を完璧に両立するのは、普通の人間が並大抵の努力でできるわけがない…それだけに惜しいな」

 

再び、学が駒を動かし、口を開く。

 

「…どう言う意味ですか?」

 

「キミほどの人間が使用人と言う立場にいることだよ、キミはその境遇からやむ無く使用人という立場にいるのだろうが、使用人という立場では無く、キミが学業や他の事に専念することができれば、キミは様々な分野で優秀な成績をおさめられるだろうに」

 

ルドルフはそう言うと、チラリの学に目線を送る。

 

すると学も口を開く。

 

「…それは違いますよルドルフさん、俺はやむ無くとかではなく自分の意思で使用人という立場にいます」

 

「ほう…それはなぜだ?」

 

(…なんで俺が使用人をやっているか…か)

 

学は駒を動かしながら言葉を続ける。

 

「…確かに最初は天涯孤独の俺を拾ってくれたメジロ家に恩を返すため、親代わりのじいやが執事長だったこともあってやむ無く使用人として働き始めました…でも今は違います」

 

「ほう…聞かせてくれ」

 

「俺は…メジロ家にいる人達が好きなんです…小さい頃から一番近くでずっと見てきた…あの人達はそれぞれ明確な夢を持って、それに向けて直向きに努力ができる人達だ。俺はそんな彼女達が好きで尊敬している」

 

学は続ける。

 

「確かに仕事は大変で休みも少ない、サボりたいと思う時もあります。でもそれ以上に…大好きなあの人達の役に立てる事が俺にとってなによりの幸せなんです。俺が使用人をしている理由はそこにあります」

 

学はそこまで言うと、少し笑いながら盤上から顔を上げてルドルフと目を合わせる。

 

「…あとさっき俺が執事じゃなければ優秀な成績を残せると言っていましたが、多分無理です」

 

「ふむ…それは何故だ?」

 

「俺は執事として、彼女達にとってレース以外では何でも頼ってもらえるような、頼り甲斐のある存在でいたいんです。そのためには仕事だけでなく、あの人達の助けになる事なら全部完璧にしていかないといけない。俺が勉強とかを頑張れているのはそういう原動力があるからです」

 

続けて学は少し笑いながら肩をすくめて言う。

 

「もし俺がメジロ家の人間ではなく普通の人間なら、多分普通の学校に行って普通の成績をとって十分満足します。俺はそんな平々凡々な人間なんですよ、期待外れで申し訳ないですが、あなたが言うような優秀な人間なんかじゃない」

 

学の話を聞いたルドルフは少し感慨深い表情をしながらボソッと呟く。

 

「ふふ…なるほどな…これは彼女に気にかける訳だ…」

 

そしてそれに続けて学に話す。

 

「すまないな学、キミの話を聞いてキミという人間をもう一つ知れた気がするよ…そして先の私の発言だが、あれはキミにとっては多少不快感を与えるような発言だっただろう…少し謝罪させてくれ」

 

ルドルフはそう言うとゆっくりと頭を下げた。

 

「いやいや、そんなことないですよ?頭を上げてください」

 

学がそう言うとルドルフはゆっくりと頭を上げた。

 

そしてそんなルドルフに対して学が再び口を開く。

 

「ほら、はやくチェスの続きをしましょう。少し俺が劣勢ですが…まだ負けませんよ」

 

「ふふ…そう来なくてはな…しかしこのままだと私の気が済まないな…そうだな…」

 

ルドルフはそう言いながら顎に手を当てて少し考えるような仕草をする。

 

そしてルドルフは駒を動かしながら口を開いた。

 

「この勝負…もしキミが勝ったなら、このシンボリルドルフがキミの頼みを一つ聞いてやろうじゃないか」

 

(え!まじ!?)

 

「え?ほんとですか?」

 

「ああ…皇帝に二言は無い、私はこれでもトレセン学園の生徒会長だ。大抵の頼みは聞いてやれるがどうだろうか?」

 

(こんなの頼み事なんて一つしかないだろ!)

 

内心ウッキウキしながらも、表情には出さず、学はゆっくりと答える。

 

「…じゃあ是非お願いします」

 

「ふふ…面白くなってきたな、まあキミが私に勝つことができればの話だが…」

 

(…絶対勝とう)

 

「……」

 

「……」

 

2人の戦いは続いた。

 

 

.

 

.

 

.

 

 

「ルドルフさん」

 

しばらく無言で駒を動かし合っていた2人の沈黙を学が破った。

 

そしてルドルフもそれに答えるように口を開く。

 

「どうした?」

 

「決めました。俺が勝った時にルドルフさんにする頼み事」

 

「ほう…聞こうじゃないか…キミほどの人間が私にどんなことを頼むのか、すこし興味がある」

 

ルドルフはそう言うとずっと盤上に向けていた目線を少し上げて、学の方に目をやった。

 

そして学が口を開く。

 

「もし…俺が、この勝負で勝ったら…」

 

ルドルフは興味深げな表情で学の言葉を待つ。

 

そんなルドルフに対して学は真剣な表情で言った。

 

「俺と2人でデートに行きましょう」

 

学はそう言いながらコンッと駒を一つ動かした。

 

(これしかないよな!?この機会逃したらこんな美人さんとデート行ける機会なんかそうそうないぞ!!)

 

言った学は内心大盛り上がりであったが、それに対して急にデートのお誘いが飛んできたルドルフは…

 

「……………ん?」

 

何が起こったかわからずにポカンとした表情で固まっていた。

 

それもそのはず、目の前の男とは先程まで比較的真面目な話を2人で繰り広げていたはずだったし、何よりルドルフ自身が自身の立場的にそう言った誘いをこんなに軽々しくされた経験が無かった。

 

そんな固ってしまったルドルフに首を傾げながら学はチェスでの次の一手を促す。

 

「どうしたんですかルドルフさん?あなたの番ですよ?」

 

「…い、いや、ちょっと待ってくれ…キミはさっきなんて言った?」

 

「え?「2人でデートしましょう」って言いましたが…」

 

「それがキミの頼み事か?」

 

「え、まあそうですけど…ダメですか?」

 

「いやダメというわけでは無いのだが…いや、すまない少し困惑していてな…堅物のような雰囲気のキミからそんな言葉がでるとは…それにそれこそ私のような堅物の女とデートに行っても何も楽しくはないぞ?」

 

ルドルフがそう言うと、学は肩をすくめながら口を開く。

 

「何言ってるんですかルドルフさん?貴方のように綺麗で可愛らしく、そしてユーモアのある人とのデートなんて楽しくない訳ないじゃないですか」

 

「…………」

 

学が「当たり前でしょ?」といった雰囲気でそう言うと再びルドルフはポカンとした表情に戻り言葉を失う。

 

無理も無い、先程まで自分と互角のチェスを繰り広げていた小童に綺麗だ、可愛いだの、歯の浮くようなセリフで口説かれ始めたのだ。そんな経験もルドルフにとっては初めてであった。

 

「ルドルフさん?」

 

学がそんなルドルフに声を掛けた。その時…

 

「…ふふ…はは…ははは!!」

 

ポカンとしていたルドルフが急に堰を切ったように笑い出した。

 

目の前で急に笑い出したルドルフに学は戸惑いながら声をかける。

 

「え、ええ?本当にどうしたんですかルドルフさん!?」

 

「はは!…こんなに笑ったのはいつ以来かな?いやはや、どうやら私はキミという人間をもう一段、見誤っていたようだ。チェスやさっきの話を通じてキミを理解していたつもりだったが、全く…皇帝の名が泣くよ」

 

「初めての経験かもしれないな…年下、いや同年代の男に口説かれるのは、大抵は私の威圧感のせいで話しかけてくることもないのだが…中々の度胸だな…学よ」

 

そんなルドルフの言葉に対して、学はキョトンとした表情で返す。

 

「口説いたわけじゃありませんよ?本当のことを言ったまでです」

 

「ふふ…まだ言うか…分かった。キミのその度胸に免じて、この勝負でキミが勝ったなら私はキミと一日、どこかに出かけに行こう…ああ、別に嫌々行くというわけでは無いぞ?さっきの会話でキミという人間にさらに興味が沸いた」

 

ルドルフはそう言うと再び盤上に目を移して、再び口を開く。

 

「まあ…それも全部私に勝てたらの話だがね」

 

「…勝って見せますよ」

 

学がそう言って、また駒を動かそうとする、その瞬間…

 

pipipi!pipipi!

 

学のポケットが震える。

 

「すいません、失礼します」

 

学がルドルフに一言断りを入れて、震えるスマホの画面を確認すると、そこには案の定『メジロマックイーン』の文字。

 

学がスマホを耳に当てるとすぐさま聞き覚えのある声が勢いよく聞こえてきた。

 

『ちょっと学!?今ミーティングを終えて正門前に来たのですが姿が見えませんわ!どこにいますの!?もしかして痺れを切らして帰ってしまいましたか!?』

 

「……いえ…色々あって今はトレセン学園の生徒会室にいます」

 

『はあ!?どうやったらそうなりますの!?……いえ理由は後で聞きます!今からそちらに参るので待っていてくださいまし!』

 

「いやそれなら私が正門まで……ああ、切れてる…」

 

学はそう呟くとポケットにスマホをしまうとルドルフの方に向き直り、口を開く。

 

「すいませんルドルフさん、勝負の途中でしたがどうやら時間が来てしまったようです」

 

「ふむ…少し残念だが仕方あるまい」

 

ルドルフはそう言いながら、耳はペタリと下がり、シュンと効果音が聞こえきそうなほど表情も暗くなっていた。

 

(…なんだこの人かわいいな)

 

「…まあこの続きは次の機会にでも…」

 

と学が言いかけた時。

 

コンコンコン!!

 

と大きなノック音が室内に響いた。

 

(来るのはや)

 

そして次の瞬間、ガチャ!と大きな音を立てて扉が開く。

 

そこにいたのはやはりマックイーンだった。

 

「ほんとに居ましたわ!なんでこんなところにいますの学?」

 

そんなマックイーンの言葉に返事をしたのはルドルフだった。

 

「すまないなマックイーン、キミのところ執事を少し借りていた」

 

「か、会長が?一体どうして…まあいいですわ!さあ学?帰りますわよ!会長も失礼しましたわ」

 

マックイーンはそう言うと、ルドルフに軽く礼をして、くるりと踵を翻した。

 

学もそれに続いて帰ろうとルドルフに一言入れる。

 

「ルドルフさん、それでは俺も失礼します。今日はありがとうございました。久しぶりに良いチェスができて楽しかったです」

 

学がそう言ってマックイーンの元に歩こうと一歩踏み出した、その時。

 

「まあ少し待て」

 

ルドルフがそう言って帰ろうとする学を引き留める。

 

そしてポケットからサッとメモ用紙とボールペンを取り出して、サラサラと何かを紙に書き出した。

 

そしてその紙を学に向けて差し出す。

 

「私の連絡先だ。互いに多忙の身だろう、スケジュールが合うかわからないが、暇な日ができたときは連絡してくれ、私もその日が空いていればどこかに出掛けに行こうじゃないか」

 

「え?でも…」

 

(デートしてくれるの?勝ってないのに?)

 

「先の勝負…キミにあの提案をされた時、恥ずかしながら私の思考は少し乱れてしまった。チェスというゲームは先に思考を乱した方が負ける。あのまま勝負を続けていたら私は負けていただろう」

 

「それに、今日は私も久しぶりに色々と楽しませてもらった。これはそのお礼だ」

 

そう言って軽くウインクをしながら学にそのメモ用紙を手渡した。

 

(…ウインク…なんかテイオーと似てるな)

 

「…じゃあありがたく貰っておきます」

 

「学!?何やってますの?早く帰りますわよ??」

 

生徒会室の外から主人の声が聞こえる。

 

「それではお嬢様が呼んでいるので…これで失礼します」

 

「ああ…またな、学」

 

「ええ…また」

 

学はルドルフにそう言うと生徒会室を去った。

 

 

 

 

「何話してましたの?」

 

「…まあ色々ですかね…」

 

「その色々を聞きたいんですの!後で屋敷に帰ったら聞かせてくださいまし!」

 

「…かしこまりました」

 

2人はそんな会話を交わしながら帰路についた。

 

 

 

 

.

 

.

 

 

 

学が去った後、ルドルフは生徒会室に1人残り誰かと通話していた。

 

「…そうだ、今日キミが言っていた使用人の男、学に会ったんだが…彼は中々面白い男だったよ」

 

『へぇ…あの子に…そう…でもあんなつまらない男のどこが面白いの?ルドルフ?』

 

「またそんな事を言って、キミは学のことをよく会話に出していたじゃ無いか、気にかけているんだろう?学のことを」

 

『そうだったかしら?記憶にないわ…それで、何か話したの?あの子と』

 

「やっぱり気になるんじゃないか…そうだな、色々話したがやはり印象に残ったのは私をデートに誘って口説いてきた時だな…あれにはかなり驚かされた…それに楽しまされたよ、私をあんな風に口説こうだなんて普通の男は考えないぞ?」

 

『……』

 

「ん?どうした?急に黙って?」

 

 

 

 

 

『………へぇ…あの子が…』

 

 

 

 

 







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