距離感がぶっ壊れてる葦毛の怪物とその幼なじみ。 作:狸より狐派 ハル
のちに
しかし母親の献身的な支えのお陰で、人一倍ある柔軟力の持った脚を身につけ、ついには走ることもできた。
少女にとって走れることは奇跡なのである。
そんなある日、少女は河川敷を走っていた。
いつも通る、全力で走れるこの直線が好きだった。
彼女は走る、気持ちよく。
だがら後ろからやってくる存在に気づかなかった。
ダダダッと自身より速い何かに抜かれた。
少女は驚いた。いつの間に。
その抜いた相手はどんどんと離れていく。
少女の脚を回すスピードは無意識に上がっていった。
なぜか無性に追い付きたくなった。
走って、走って、いままでにないくらいに全力で走って。
しかし追い付けなかった。これだけ全力で走っているのに、始めは距離を保っていた気がするが、少しずつ離されていき、最後にはあまりの疲れと実力差で止まってしまった。
息が苦しい、自身の呼吸を落ち着かせたい。だがそれと同時にあの背中が気になって仕方ない。
速かった・・・キツかった・・・どうすればあそこまで走れる・・・?
少女はそれ以来、自身を追い抜いた存在が頭から離れなかった。
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後日、少女はまた河川敷にて走っていた。
もちろん先日自身を抜いたその人と出会うため、走るために。
少女の脚は世話しなく速かった。
まだか、まだかと走る。
ダッダッダッ、と背後から足音が聞こえる。
来た、昨日と同じ音だ。
少女は振り返らない。走りながら来るのを待った。
鼓動が早くなるのがわかる。いつになく緊張している。今日は追い付けるか。
音が近づいていき、そして抜いてきた。
ダッ!!と少女が脚に力を入れる。
全力をだし、一度開いた距離が縮まってきている。
前を走っている相手は音に違和感を感じ取ったのか、首をこっちに向ける。
するとぎょっとしたのか、前を向き直し、脚を早め始めた。
距離が縮まらなくなる。少女は追い付くために、より速く走ろうとする。
しかし距離は離れていった。追い付きたい、たどり着きたい、そう強く思っても、脚はそれ以上動かなかった。
脚を止め、先日のようにうなだれる少女。
少女はいつになく、心のそこから
家に帰り、脚を動かせるようにしてくれた母親にこの事を少女は話した。
「そっか・・・悔しかったのね、あなたは」
悔しさ、それが少女をたぎらせていたものだった。
理解した彼女は次第にその抜いていった存在に勝ちたい、追い付きたい、と強い感情が
次の日も河川敷を走った。
そしてまた後ろからあの相手が抜いてくる。
少女は追いかけ始める。そして前を走る相手も速く走り始める。
距離が少し縮まり、保っていって、また離された。
今日も少女は追い付けなかった。
次の日も河川敷を走った。
途中まで走って、後ろから足音がして、その相手が抜いてきて、少女は全力で走り出す。
相手も全力で走り出す。差が縮んで、距離が変わらなくなり、そして離される。
今日も追い付けなかった。
少女は諦めなかった。
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で次の日も走った。今日はそんなに変わらず、そしてまた置いていかれた。
その次の日も走った。今日は差が保った時間が少し長く感じたが、最後には離された。
さらに次の日も走った。今日は差が今までよりも差が縮まっただが、昨日のように長く保てなかった。最後はやっぱり
またまた次の日も走った。今日は昨日のように差が縮めることができた。さらにその距離を長く保つこともできた。あとはとにかく走る、走り続ける。・・・が、気がついたら距離が離されていった。相手が速くなったのではない。自分の脚が回らなくなっていったのだった。自分の弱さに、少女は怒りを覚えた。
そしてこの次の日も走った。今日は今までよりも圧倒的に集中力が冴えていた。もう昨日のような失態は
少女は走った。差が前よりも更に縮んだ気がした、距離が変わらなくなり、しばらくその平行線が続いた。
走って、走って、走って、走って。
がむしゃらに走り続け、ついにもう一度距離を縮ませることができた。
行ける。今日こそは追い付ける。
少女の心から希望が生まれる。その希望がより体の拍車を回し始める。
行ける、行ける!行ってしまえるッ!!
差が縮まっていく。確かに近づいていく。これであの人に追い付ける!
差が無くなっていく、よし行ける!行けッ!行けッ!!いけぇええええ!!!
・・・・・・・・・
・・・そこから先の記憶を、少女は病院のベッドの上でやっと思い出せた。
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気がつけば、少女の母親が号泣をしている。よかった、生きていて本当によかった・・・と、まともじゃない声でそんなことを言っていた。
わからなかった。なぜ母親が泣いているのか。そもそもここはどこなんだ?どこにつれてこられた?
ふと自分の腕が視界に入る。新たに疑問が生まれる。なんで白い
それだけじゃない。からだ中が動かせない、そして痛い。なぜ?どうしてこんなことに??
そばにいた真っ白い服を着たおじさんが少女に、なぜこうなったかを説明した。
説明を聞いて少女は理解が追い付かなかった。だが
あのとき相手に追い付きそうになった、そして並びかけたとき・・・
少女は、それは強く転倒した。
ウマ娘の走るスピードは超人的だ。少女の時点で成人男性はおろか、陸上のメダリストでも追い付けないパワーを出せる。
が、当然消耗も激しくなる。ましてや体がまだ発達しきっていない。
ウマ娘という種族は成長の過程で《
文字どおり身体が成長しきるために発現するものだ。自身の全力に耐えるために。
だが成ってもいないのに全力を出してしまえば、倒れてしまうほどの消耗を強いられてしまう。
今まで少女が倒れなかったのは、強い執念によるものだった。
だがそれがその日、限界を超えてしまった。
毎日全力で走り、負荷が予想よりも遥かにかかっていた。
少女は思い出す。視界がいきなり暗くなったかと思ったら、ぐちゃぐちゃの視界にアスファルトと雑草が目の前にあった。
体が、脚を支えてもらう以前よりも全然動かない。
頬や顔になにか液状のものがベッタリとついている感じがする。
そしてなりより、全身が痛い。痛すぎてなにも考えれなかった。
その後については思いだせなかった。もう思い出すのが怖いからだ。
なんなら今も怖い、恐ろしい。少女はあの日、死ぬかもしれなかった。
震えが止まらなくなる。そして少女は聞いてしまう。
これは、治るのかと。
先生は苦渋の顔をしながらこう言った。
大変難しいと。
少女の心は真っ黒に染まった。
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少女は気づけなかったが、実はすぐ
少女が抜きたがっていたあの存在が。
呆然とした彼女の表情を見て、とても見ていられなかった。
だからこそこう思ったら。なにか、どうにかして彼女を元のように走ることができないか。