憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第一章 憎まれる程に強くなるスキル
第1話 罵倒だらけの救世主、その名は研一


「ああ、救世主様! 召喚に応じて頂きありがとうございます!」

 

 目の前でそんな事を叫んでいる女の姿に、闇野研一《やみのけんいち》は自分が異世界に飛ばされたのだと自覚せざるを得なかった。

 

 深い緋色の髪に透き通るような青い瞳。

 

 そして、全身に刺青のような模様のある細身の女だ。

 

 そんな女が突然目の前に現れ、召喚だの何だのと喚いていたなら、それは確かに異世界に来たと思っても不思議ではないのだろうが――

 

 研一が自分が異世界に来たと確信した理由は全くの別の部分であった。

 

(なんだ、そのドスケベ衣装……)

 

 胸は薄い布がサラシみたいに何重か巻き付けられているだけだし、腰なんてよく解らん金属めいた物体に前掛けみたいな布が垂れ下がっているだけの太腿丸出しの恰好。

 

 ――厳密には透け透けなベールみたいな布がロングスカートみたいに腰の金属に引っ付いているが、本当に透明で何も隠す効果がなくて逆に煽情的でさえある。

 

(ゲームで踊り子か古代文明から来た敵がそんなの着ててエロイなって思ったけど――)

 

 実際に見るとエロいというよりも、色々大丈夫かという心配の気持ちしかない。

 

 これもう横から見たら下着丸見えだろうとか、むしろ少し激しめに動くだけで前からでも丸見えになりそうだなんて考えたところで――

 

(というか、これ履いてない?)

 

 足が付け根まで見えているのに下着の布が全く見当たらない。

 

 もしかしたら下着という物が、まだ存在してない世界なのかもしれなかった。

 

「どうか我々の世界を御救い下さい! 我々の世界は今、滅亡の危機に瀕しているのです!」

 

 あまりに衝撃的な格好に遥か彼方までぶっ飛ばされていた研一の意識を、女の真剣な声が呼び戻し――

 

 全身を眺めていた研一の視線が女の顔へと戻される。

 

(俺より少し年下くらい、かな?)

 

 変態的な格好に驚いてよく見ていなかったが、パッと見た感じの年齢は二十前後。

 

 大学を卒業したばかりだった研一より少し若いくらいで、救世主様とやらを相当に待ち望んでいたのだろう。

 

 縋るように見詰める目は真剣そのもので、見慣れないせいか派手に感じる髪や瞳の色と違い、非常に生真面目な印象を研一は覚えた。

 

(いや、待てよ? こういう場で救世主の相手を真っ先にしているって考えれば、凄く偉い人の可能性が高いよな?)

 

 という事は、もしかしたら見た目よりずっと高齢なのかもしれない。

 

 エルフだとかドワーフだとか、人間とは違う年齢の重ね方をする種族なんてのはゲームでは定番だし、その類の可能性は十分あるだろう。

 

(もしかしたら若いのは見た目だけで地球換算で考えると、四十代か五十代くらいの可能性とかもあるなあ。ヤバいね、異世界……)

 

 この自分よりも年下に見えるかもしれない女は、実は年上の熟女なのかもしれない。

 

 そんな思い付きに研一は僅かに眉を顰めてしまう。

 

「あの、救世主様? どうして黙っておられるのですか?」

 

 無言で表情を歪める研一の態度に、何か粗相をしたのではないかと不安になったのだろう。

 

 不安そうに顔を歪める女の姿に心を痛めつつ――

 

「ああ、悪いな。異世界じゃこんな綺麗な女の子がババアなのかと思ってショックを受けてた」

 

 内心とは裏腹の憎まれ口を研一は叩く。

 

「バ、ババアじゃありません! 私はまだ十九です! 見た目通りの、その、えと、綺麗な女の子です!」

 

 間違いを訂正する以外で救世主様の言葉を否定する訳には、いかないとでも思っているのか。

 

 怒りと照れが入り交ぜながら自分は綺麗な女の子だなんて怒鳴る姿は可愛らしくも親しみの持てるものであり、変に形式ばった挨拶をされるよりも遥かに研一には有難い。

 

「ふーん。それじゃあ小娘か。お前、名前は?」

 

 だが、そんな内心を完全に隠し。

 

 胡散臭い相手でも見るようにして話を続けていく。

 

「申し遅れました。私はこの王国の王女、サーラ・サラマンドラです。救世主様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「闇野研一だ。それでサーラだっけか?」

 

 王女と名乗られても態度を変えない研一の姿に周囲から、姫様に向かってなんて口をなんて咎めるような声が響き渡るも――

 

 サーラが身振り手振りだけで兵士達を黙らせる。

 

(……王女の恰好があまりにアレ過ぎて、周囲が全く目に入ってなかったけど――)

 

 そこで初めて周りに目を向けた研一は色んな意味で驚きを隠せない。

 

 いつの間にかやたら天井が高い石造りの部屋に居た上に、周囲を鎧に身を包んだ兵士達に囲まれていた。

 

 しかも、全員油断なく槍を構えている。

 

「こっちの世界じゃ自分達の世界を救ってもらう為に無理やり異世界から呼び出しておきながら、ガキみたいな小娘に相手させるのが礼儀って訳かよ。てっきり女王様なり、それが無理でも国の重鎮なりが相手してくれてると思ったが、こっちの買い被りだったって訳か」

 

 そんな鎧作る技術あって王女だけ何で、こんな露出狂みたいな服なんだよと突っ込みたいところであったが、そんな空気ではない。

 

 色々と思うところを隠しつつ、喧嘩でも売るように言葉を投げ掛ける。

 

「……申し訳ありません。確かに救世主様の仰る通り、私より上の者で対応するのが礼儀だとは思います。ですが王と王妃、重臣達の多くが既に魔族との戦いで命を落としてしまい……」

 

(……ごめん。思い至らなかった)

 

 申し訳なさそうなサーラの姿に心の中だけで謝罪する。

 

 本当は素直に口に出して謝りたかったというか、そもそも悪態すら吐きたくなかった。

 

 それでも、喧嘩を売ってるような態度を取らなければならない理由があったのだ。

 

(というか今更だけど何なんだよ。『人に憎まれれば憎まれる程に強くなる能力』って……)

 

 その理由こそ、研一が異世界転移する際に女神から与えられたスキル。

 

 厳密には人の負の感情、いわゆる悪意に相当するものを向けられれば向けられる程にスキルが成長して、強くなっていき――

 

 逆に正の感情、いわゆる好意を受ければスキルの成長が妨げられるという、救世主というか魔王にでも与えておけよとでも言いたくなる概要の能力であった。

 

(しかも正確に言えば異世界転移とは違うみたいだし……)

 

 他に女神との話の中で驚かされたのは、まだ自分は死んでいないという事。

 

 どうも自棄酒の影響でアルコール中毒になってしまい、倒れて死亡寸前。

 

 あの世に旅立つまで秒読みといった状態らしい。

 

 ――現在使っている身体は、この世界で活動する為の仮初の物でしかなく、本体は地球で死に掛けている方の身体という話だ。

 

(それでこの世界を救う為に魔族を倒したりして功績を上げれば、その功績に応じた分だけ願いを叶えてくれるって話らしいけど――)

 

 問題は、元の世界でも時間が流れているという事だろう。

 

 この世界に比べて限りなく時間の進みが遅くなっているそうなのだが、それでも少しずつだが着実に時間は流れ、身体は死に近付いていき――

 

 本体が死んだ時点で全部お仕舞になるらしい。

 

(そんな事だけは絶対に認めない!)

 

 突如として舞い込んできた、やり直しの好機。

 

 無駄にしない為にも多少の危険には目を瞑り、少しでも多く憎まれて力を付けていこうと、研一は決意を更に強くする。

 

「あの、救世主様?」

 

(しまった、何の話してたっけ?)

 

 そこでサーラから声が掛かり、研一は自分が会話中だった事を思い出す。

 

 とはいえ、会話中だった事を思い出しただけで内容が即座には出て来てくれない。

 

(えーと、確か前の戦争で御両親や仲間が亡くなったみたいな――)

 

 必死で記憶を絞り出し、会話を思い出し始めた瞬間だった。

 

「知らなかったのですから気になさらないで下さい」

 

 思い悩む研一の姿を見て、サーラがそんな言葉を口にする。

 

 どうやら両親や仲間の死の話をした瞬間に研一が黙り込んだから、申し訳なさで何も言えなくなったのだと解釈したらしい。

 

「父も母も、他の者も。己の責務を果たしただけ。誇りに思う事はあっても恥じるような事ではありませんから」

 

 亡き両親達を思い出してか。

 

 僅かに瞳を潤ませながらも、気丈に振る舞おうとするサーラであったが――

 

「そうそう。先に言っておかないてめぇのせいだ。ったく、気分悪いぜ」

 

 その気遣いを真っ直ぐ受け止める訳には、いかない。

 

 少し話しているだけでも心根の優しさを感じられずには居られない女の子なのだ。

 

 ここで同情するような姿勢を見せれば、憎んでくれなくなるかもしれないと思い悪態を吐く。

 

「ええ、申し訳ありません」

 

(なんかもう既に胃が痛い……)

 

 そんな研一にサーラは不快そうな顔をするでも言い返すでもなく、ただ寂しげに笑っただけ。

 

 非常に居た堪れなかった。

 

「それでアレか? 親父達でも返り討ちにあった魔族を俺に倒してほしい。そういう話か?」

 

 こんな空気は耐えられないとばかりに研一は話を進めていく。

 

 黙っていれば三下悪党の演技を続けられる自信がなくて。

 

「厳密には違います。その魔族は勿論の事、その魔族達を束ねる魔王まで倒して頂きたく……」

 

「それで報酬は?」

 

 正直な話をすれば、研一としては困らない程度の援助をしてくれればそれで問題なく、本気で報酬が欲しいとは思ってなかった。

 

 別に善人を気取る訳でもなければ、ファンタジー世界で救世主になり魔物を倒していく事にゲームのようだと胸を躍らせるような趣味だってない。

 

「伝承によれば救世主様は世界を救えば、女神様から願いを叶えて頂ける事になっていると伝え聞いているのですが……」

 

 サーラの言うとおり、報酬は既に別の存在から既に約束されているからだ。

 

 それなら変に自分への報酬やら何やらで時間や資材を浪費するよりは、出来るだけ早く魔王とやらを退治出来るように協力してほしいところなのだが――

 

(そんな事、正直に言ったら誰も憎んでなんかくれなくなるだろうしなあ……)

 

 女神から渡された、憎まれる程に強くなるスキルのせいで憎まれなければ何も始まらない。

 

 向いてないと思いつつ、この三下悪党染みた芝居を続けるしかなかった。




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