(あまりにマキさんが辛そうにしてるから、何も話せなかったな)
あれから数時間が経った。
結局、魔導人形の件はあそこから進展は何も無し。
ある意味では、当然の結果と言えるだろう。
そもそも研一は魔族との戦いに備えての増援として呼ばれただけで、特別な調査能力なんて持ち合わせていないし――
マキ達だって徹底して調べこそしていないだけで、現場検証の一つや二つは済ませているだろうし、監視の機械だって飛ばしていたのだ。
研一が来たからって、新しい証拠が都合良く出てくる訳もない。
マキ達と別れ、用意された自分の部屋に戻り。
落ち着いて、今後の予定を考えようとしていた研一であったが――
「救世主様、今日のご予定は?」
「あんな魔力もない骨筋女より、私の方が何百倍も抱き心地いいですよ!」
自室の前には研一の帰りを待ち構えていた女達でひしめいており。
とても落ち着いて、考え事が出来るような状態ではない。
「散れ、アバズレ共! てめえ等が何百人集まったって、マキの足元にも及ばねえんだよ!」
とりあえず問答無用とばかりに払いのけ、逃げ帰ったような気持ちで自室に入る。
けれど、そこでも研一に安息は訪れない。
「……なんだ、この手紙の束は」
部屋には郵便受けによく似た手紙の受け取り機構が付いているのだが、どうやらそこから大量の手紙が放り込まれていたらしく――
部屋に入った研一を、手紙の山が出迎えてくれていた。
「…………」
その内の何枚かを手に取り、流し読みした研一は頭が痛くなった。
恋文や情事の誘いは、この際、まだ可愛らしいモノだと半笑いで許せる範囲ではあった。
だが――
「マキの代わりに国を統治してほしいとか、昨日来たばかりの人間に何を考えて、こんな手紙を送り付けられるんだよ……」
研一さえ協力してくれるなら、マキを追い出す準備は出来ているだとか。
マキに不満を持っている人員を集める手筈は整っているだとか。
どうしたって見過ごす事が出来ない次元の手紙が、一通や二通では済まない程に届いているのだ。
これには色んな意味で、頭を抱えるしかない。
(いや、本当に何でなんだよ……)
この国の人間は、強ささえあれば誰でもいいのかなんて考える研一であったが、さすがにそこまでマキーナ国の人間も脳筋の力至上主義ではない。
原因は、昨日の研一の態度にあった。
研一としてはマキ以外の女なんてカスで興味がないなんて罵倒すれば、他の女性達から怒りやら何やらを買うと思っていたようだが――
実際は、完全に逆効果。
というのも、この世界では権力者は一夫多妻や多夫一妻なんてのは当たり前。
それどころか力がある事をいい事に、相手の同意も得ずに無理やり手を付ける権力者なんてのが蔓延っている状態であり。
かつてマキーナ国を支配していた、マキの実父もその例に漏れない男で。
マキの母親に関しても、妾だったと言えば少しは聞こえはいいが、元々は城に勤めていた使用人を無理やり襲って妊娠させた挙句――
生まれてきた子どもであるマキに魔力がないと解かるや否や、もう妾でも何でもない、子どももマトモに生めないゴミめと吐き捨てて追い出し。
まだ赤ん坊だったマキを、魔力の乏しい使用人達数名と共に、住居とも言えない古代遺跡に押し込んだけで飽き足らず。
仕舞いには当時魔人であり、危険視されていたプロディを、マキの世話係に付けたのだ。
控えめに言って、マキーナ国の民から良いように思われていた筈がない。
――それでも魔族の侵攻を何度も退ける程の武勇を誇っていた為、民も仕方なく付き従うしかない部分も多かったのだ。
そして、そんな節操無しで身勝手な人間、というのがマキーナ国における絶大な強さを持った男の印象だっただけに。
その圧倒的な力でマキを手籠めにするでもなく、言葉だけで情熱的に口説いた上に、美貌も魔力も持ち合わせたプロディに目もくれず。
ただマキだけを求める研一の姿は、あまりにもマキーナ国の人間には衝撃的であった。
「乱暴そうな態度なのに、何て一途なの!」
「素敵……」
なんて純粋に研一に恋慕の情を抱いている女達も居れば――
「あれこそ領主の器を持った男!」
「強さも心も兼ね備えた、まさに文字通りの国の救世主様!」
かつての悪徳王の娘であり。
同時に余命幾許もないと噂されている頼りない現党首であるマキと比べ、必死で新しい旗頭候補として縋ってしまっている者も居るだろう。
「……気分悪いな」
だが、研一としては現状、マキくらいにしか思い入れがない。
自分の身を差し出してでも国を救おうとしている人をないがしろにして、好き勝手騒いでいる連中以上の印象をマキーナ国の民に抱く事が出来ず。
(……とりあえず、ヤバイ連中の手紙だけ後であのメイドさんにでも渡しておこう)
そんな奴等がどうなったって知った事かとばかりに。
あのマキ至上主義みたいなプロディに、包み隠さず全てを密告する事を、研一は決意したのであった。