憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第105話 協力者

「何でアンタが……」

 

 全く予想していなかった事態だけに。

 

 かろうじて悪党演技だけは続ける事だけは何とか出来たが、それ以外は思った事を口から垂れ流す事くらいしか研一には出来ない。

 

「どう考えたって、アンタが魔導人形を壊して放置する理由がねえだろうが……」

 

 もし魔族側のスパイだと言うのなら、魔導人形を壊すと同時に魔族の仲間でも引き入れてマキーナ国に攻め入れないと意味がないし。

 

 マキの評判等を落とす事でマキを党首の座から引き摺り降ろして、マキに成り代わり国を手に入れようとするというのなら。

 

 それこそ、マキを追い落とそうとしている派閥から誘いの手紙まで貰っているのだから、その申し出を受けて。

 

 マキを殺すなり、国から追放なりすれば済む話。

 

 何が起きているのか解からないとばかりに、研一は頭を抱えたくなるが――

 

「……貴方こそ何を言っているのです」

 

 それはこちらの台詞だと言わんばかりに。

 

 研一に組み敷かれたまま黙って話を聞いていたプロディが、疑問の声を放つ。

 

「魔導人形を壊していたのは、そちらでしょう?」

 

「はい?」

 

「そうやってマキーナ国が魔族に狙われていると我々に思わせる事で、援軍として国に呼ばれる形で我が国に侵入する計画だったのでしょう」

 

「……」

 

 いきなりの言葉に呆気に取られて何も言えない研一を置き去りに。

 

 更にプロディは言葉を続けていく。

 

「目的は何です? マキ様の身体ですか? それとも自分を高く売り込む為に居もしない魔族のでっち上げですか? あるいは、マキーナ国を内部分裂させ、その隙に魔族の軍でも送り込もうと?」

 

「…………」

 

「そうでないなら説明して頂きましょう。どうして『見張るちゃん』の監視の目が届かない距離から、魔導人形を眺めていたのです。一体、何を企んでいるのですか」

 

 そこまで一気に捲くし立てられるように、言葉をぶつけられ。

 

 ようやく突然の事態に混乱していた研一の思考が、状況に追い付いてきた。

 

 ――ちなみに『見張るちゃん』とやらは、存在すら知らないので、監視範囲の外に居たのは、ただの偶然でしかない。

 

「あー……」

 

(つまりアレか。この人も、魔導人形の見張りをしていて、怪しい場所に立っている俺を見掛けて襲ってきたって事か……)

 

 見掛けただけで事情も何も訊ねずに襲ってきた事に、研一としても思うところがない訳でもないが――

 

 プロディから見た、研一の評価なんて。

 

 大事な大事なマキを誑かした挙句の果てに、何の偶然か好意を抱かれていたにも関わらず。

 

 その好意を受け止めようともせず、努力も成果も全て踏み躙ろうとしていた、ド外道以外の何者でもない。

 

 そんな憎らしい男が怪しい動きをしていれば、敵か間者だと思い込んでしまうのが当然の流れだろう。

 

(むしろ、事実かどうかなんて関係ない。殺せる良い口実が出来たって言って、襲ってきたって不思議じゃない……)

 

 勘違いで殺され掛けたと言われたにも関わらず、研一の心に怒りは微塵も湧いてこない。

 

 腑に落ちたとばかりに、納得感で胸が満たされていく。

 

(俺だって自分の大事な人を無茶苦茶にするのが楽しみだ、なんて喚き散らす奴が居て、殺せる力があって、殺せる口実があるなら、殺したいって思うだろしね)

 

 何故なら、自分がプロディと同じ立場なら、きっと居ても立っても居られないだろう。

 

 だからこそ、今回の事件で研一はプロディへの信用を更に高めていた。

 

 そして――

 

(うん。やっぱり、協力者になってもらうなら、この人が一番の適任だよね)

 

 兼ねてから考えていた計画。

 

 現地だけの協力者。

 

 あえて悪い言い方をすれば、その国だけの使い捨ての仲間になってくれないかと、プロディを誘う事に決める。

 

(もう俺の手に負える状況じゃ、なさそうだしなあ)

 

 ただでさえ今までのサラマンドラ国やドリュアス国の経験から、一人で戦い続けるには限界があると思っていたのに。

 

 今回は、ただ襲ってくる魔族と戦うだけで済むような状況ではなく、内輪揉めやら何やらで面倒臭い状況にマキーナ国は陥っているのだ。

 

 ただ力を持っているだけで、適当に話を聞いた以上の内情把握が出来ていない自分じゃ、どんな見逃しをしてしまうか解からない。

 

(もう二度と、余計な意地のせいで犠牲者なんて出す訳には、いかない……)

 

 その結果、また犠牲者を出してしまえば悔やんでも悔み切れない。

 

 それならば自分の事情に巻き込んでしまう事に、申し訳なさはあるが――

 

 もう研一は迷わない。

 

 一緒にマキを騙し、裏切る共犯者にプロディを変えてしまうのだとしても。

 

 何が何でもプロディを自分の味方に引き入れると、覚悟を決めた。

 

「答えろ。さっきの話だと、ここには監視の目は届かねえって事で、間違いねえんだよな?」

 

 とはいえ、先程の戦いの影響で『見張るちゃん』とやらが、自分達に注目していないとは限らない。

 

(共犯なんて一人だけでいい……)

 

 自分の事情を知る人が増えて、スキルへの悪影響が出てしまう事よりも。

 

 一緒に人を騙す事への罪悪感から、研一は周囲への警戒を強める。

 

「……そんな事を聞いて、どうするつもりです?」

 

「いいから質問に答えやがれ。ここならテメエに何を話して、何をしようが、誰にも知られねえのか?」

 

 研一は全力で嫌らしい下卑た笑顔を見せつつ、舌なめずりまでしてみせる。

 

 マキにバレないのなら。

 

 今すぐに、お前を辱めてやるとでも言いたげに。

 

「……なるほど、そういう事ですか。やはり獣にも劣る、人間の形をしているだけの下種でしたね」

 

 研一の表情に、自分を犯したいのだとプロディは予測したのだろう。

 

 見下げ果てたように、それだけ呟いて。

 

「ええ、ここならばマキ様に知られる事はありません。どうぞ、お好きに」

 

 組み伏せられた姿勢のまま、一切の抵抗もせず。

 

 ただ蔑んだ目を、静かに研一へと向けた。

 

「そうか。それなら――」

 

 まずは土下座して謝ろうかと思った研一だが、手を離した瞬間にマキ様に相応しくないなんて叫ばれて。

 

 相打ちになっても構わないからと、殺しに来るかもしれない。

 

(ごめん。ちゃんと全部話したら、すぐ離すから。今だけは我慢してほしい)

 

 研一はプロディを組み伏せたまま、スキルの詳細を含めた全ての事情をプロディへと伝えていくのだった。

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