憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第106話 口説き文句

「……なるほど。全てはスキルとやらを強化する為の演技で、国を守る為に私に協力者になってほしい。そう仰りたいのですね?」

 

 事情を話し終えた研一にプロディがしたのは、確認の問い問い掛けであった。

 

 嘘だと否定して暴れるでもなく。

 

 かといって、そのまま言葉を信じ込むでもなく。

 

 裸で組み伏せられたまま、静かに口を動かしただけ。

 

「はい。魔導人形の件も完全に誤解でして。何もせず御世話になっているだけなのは申し訳ないと思って、見回りに来たら鉢合わせてしまったと言いますか……」

 

「……そこに関しては、そうなのでしょうね。私も言い掛かりだとは思っていましたから」

 

 てっきりマキの事で怒り狂って襲ってくるだろうという研一の予想に反して、プロディは大人しく会話に応じてくれている。

 

 その事を意外に感じつつ、研一は更に言葉を続けていく。

 

「えっと、その、信じられない話だとは思うんですが、マキさんの件に関してはですね、ああいう風に物扱いして迫ったら嫌ってくれると思ったんです。それなのに何か全然違った反応をされてしまったと言いますか……」

 

「それであの流れで手を出さない為の言い訳として、素晴らしいモノを踏み躙るのが趣味だなんて訳の解からない事を言い出したという事ですか」

 

「うっ。まあ、そんな感じです……」

 

 はっきり言って無茶苦茶な論理だとは、言い出した研一が誰よりも思っているが――

 

 悪党なんてのは、そういう理論の破綻した異常者だらけだ。

 

 自分の欲望の為だけに都合の良いネジくれた話をするくらいが、むしろそれらしかったんじゃないだろうかと研一は思う。

 

「……貴方の話が信じるに値するかどうか。それを確かめる為に。一つだけ真剣に答えて頂きたい事があります」

 

「あ、長い話になるなら拘束を解きますし、先に服を着てもらっても――」

 

「……まだ協力すると約束を交わしてすらいない者を、無闇に解放しては、いけません」

 

 どこか呆れたような声でプロディは、研一の提案を遮ったかと思うと、全く想定していない質問を投げ掛けてきた。

 

「貴方から見て、私はどうですか?」

 

「えっと、どうとは?」

 

「信頼出来そうな者に見えるとか、異性として魅力的であるだとか、その、色々とあるでしょう!」

 

 あまりにも突然の質問に、聞き返す研一であったが――

 

 プロディは僅かに耳を赤くして、それ以上、言わせないでほしいとばかりに初めて声を荒げて叫んだ。

 

 ――もし後ろから組み伏せた状態でなく、正面から見ていたのならば、羞恥に赤く染まった顔が見れた事だろう。

 

「凄い人だなって思います。いくらマキさんの事が大事だからって、ほとんど見ず知らずの相手に自分の身体を差し出そうなんて、出来る事じゃないと思います」

 

「……女としては? 純粋な人間の中には魔人を嫌い、触れる事さえ汚らわしいと言い出す者さえ、少なくありませんよ」

 

「えーと……」

 

(ここでそんな質問をする事に何の意味が……)

 

「やはり、貴方も魔人は嫌いですか?」

 

 疑問に思い言葉に詰まってしまう研一であったが、妙にプロディの声が寂しげに聞こえたのもあり。

 

 別に話したところで、何か問題がる内容でもないと割り切って、素直に話していく事にする。

 

「先程、事情を話した時に伝えさせてもらったように、俺は、こことは違う世界から来たので魔人とかそういうのに偏見の目は、ないつもりです」

 

「続けて」

 

「俺から見たプロディさんは、さっきも言ったように内面はマキさんの為に自分が傷付く事も躊躇わずに頑張れる心優しい人でしかないですし、見た目だって綺麗な大人の女性といった雰囲気で魅力的だと思いますし――」

 

そこまで言ったところで、研一は僅かに頭を悩ませる。

 

(どうも当たり障りのない言葉を適当に並べ立てているだけのような……)

 

 何気に元カノからも向こうから告白されて付き合い始めた男であり、女性への口説き文句どころか、褒め言葉なんて全く解からない。

 

 だが、あまり無駄な事なんてしそうにないプロディが、このタイミングでわざわざ聞きに来るのだ。

 

 何かの意味があるのだろうと考えて、研一は必死で言葉を絞り出していく。

 

「この世界で出会った人は気遅れするくらい綺麗な方が多い上に、髪の色まで見慣れない感じだから、どこか幻想的で近寄り難い感を抱く部分が多かったんですけど。プロディさんは、俺と同じ黒髪なので、ちょっとだけ他の人よりも親近感のようなものがありますね。それにマキさんにあんな事して、俺の事嫌いだったでしょうに。邪険にせず丁寧に対応してくれるのも、凄く真面目な人なんだなあって、俺的には凄く好印象で、本とかで見た事がある理想のメイドさんって感じで――」

 

「も、もう結構です。十分解かったので、止めて下さい!」

 

「えっと?」

 

「悪党だった貴方の言葉で言うところの、踏み躙るのが楽しい相手に私が分類されているのか、知りたかっただけです」

 

(ああ、そういえば――)

 

 プロディの言葉に研一は、失念していた事を思い出す。

 

 よく考えれば、プロディから裸で迫られた時、自分から股を開いてくる女に価値はないなんて言って跳ね除けていた。

 

「すみません。それも断る理由が他に浮かばなかっただけで、プロディさんは本当に素敵な人だと思っていて――」

 

「だから、もう十分解かったので止めて下さい! 知りたかった本筋は、そこではなくてですね!」

 

「す、すみません……」

 

 だが、それならばこの問答に何の意味があったのだろうかと疑問に思う研一であったが――

 

 その答えは焦らずとも、すぐにプロディの口から語られる。

 

「そんな風に思ってくれる私に、この状況で乱暴をしない時点で、あの時の言葉は全て演技だったという事になるでしょう?」

 

「ああ、なるほど……」

 

 プロディの目的は、最初から変わっていない。

 

 要するに、研一の言葉が信用出来るかどうか、確かめたかっただけなのだ。

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