憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第108話 皮肉な装置

(ウィアーさんが魔導人形を壊していた犯人、か)

 

 時は僅かばかり流れて、翌日の昼間。

 

 相も変わらず届く恋文やテロリストの誘いの手紙に軽く目を通したり。

 

 念の為、周囲の見回り等を済ませた研一は、今日も離れで作業をしているマキの元へと向かう道すがら、事件について考えていた。

 

(確かにプロディさんの言葉が全て事実だとしたら、一番怪しい人ではある)

 

 あれから更に、プロディから説明があった。

 

 ウィアーが使う商人魔法には、物体の構造などを把握する効果を持つモノもあり、その魔法でもない限り、外部の人間が魔導人形の弱点を見抜く事は不可能に近いらしい。

 

 それこそ、知識のある人間が全く同じ種類の魔導人形を分解でもしない事には、解からないそうだ。

 

(しかも、だ。俺に殺意に近い強さの、何かしらの悪感情を抱いている……)

 

 間違いなく初対面であり、仮に救世主は女好きの変態だなんて噂を聞いていたとしても、そこまで恨まれるとは思えない。

 

 それこそ国の乗っ取りを企んでいたら、党首であるマキを誑かして国を傀儡にしようとしている競合相手が湧いていた。

 

 なんて、考えたら綺麗に全ての理屈が纏まってくれるだろう。

 

(ただ、もしウィアーさんが事件の犯人なら、魔導人形が特殊な壊され方をしているなんて、わざわざ俺に説明するかな?)

 

 だが、可能性が高くて、それっぽい答えがあるからって。

 

 それが正解だとばかりに飛び付いて思考停止するのは、あまりに考えが浅過ぎる。

 

 だからこそ、ウィアーの更なる情報を聞く為に、研一はマキの元へと向かっているのだ。

 

 ――余計な横槍や入れ知恵をされない為に、今回はプロディの付き添いは抜きで研一だけである。

 

(今日は一人、か)

 

 空飛ぶ車の運転は出来ないので自前の足で走ってきたモノの、スキルのお陰で息切れ一つない。

 

 思ったより早く目的地に着いた研一は、何かの機械を弄っているマキの元へと近付いていく。

 

「おい、お嬢様」

 

「け、研一様!? その、今は少し手を放せないと言いますか――」

 

「ああ、気にすんな。別に急ぎの用じゃねえんだ。ちょっと聞きたい事があるだけだから、手が空いてからでいいぜ」

 

「も、申し訳ありません。その、お時間を取らせてしまうのも申し訳ないですので、失礼だとは思うのですが、質問でしたらこのまま答えさせて頂く事も出来ますが……」

 

「そうかい。それなら遠慮せず聞かせてもらうとしようか」

 

 極悪非道の救世主様としては、随分と優しい対応をしてしまっているなと自覚しつつ。

 

 それでも、どうしてもマキに乱暴に出る事が出来ない自分の半端さに嫌気を覚えながら研一はウィアーの事に付いて訊ねようとするが――

 

「その前に、この装置? みたいなのは何だ?」

 

 マキが弄っている機械の事が気になった。

 

 見た目的には棺桶を近未来的な機械にしたような物体で、人間が一人くらいスッポリ入りそうな縦長の形状で――

 

 ポッドとかカプセルという単語が、研一の中に思い浮かぶ。

 

「ええと、その、ですね……」

 

 何気ない研一の質問だったが、どうにもマキ的には答え難い事だったらしい。

 

 単に疑問だっただけで、そこまで重要な話でもないので取り下げようと考えた研一であったが――

 

「私の身体を治す予定だった物ですの」

 

 研一が何かを言うよりも早く。

 

 マキの口から予想外の言葉が飛び出して、興味を惹かれる。

 

「予定だった?」

 

 プロディの話で、マキが自身の延命が出来る装置を作っている事は聞いていた。

 

 ただその機械が完成するよりも、マキ自身の命が尽きてしまう可能性をプロディは危惧していたが、どうも話にズレがあるようだ。

 

「御存じだと思いますが、私の身体は魔力欠乏症という珍しい病に侵されています。これは文字通り、生きていく為の魔力が足りずに衰弱していき、最後には死に至ってしまうという病気のですが――」

 

「ああ。そこまでは知ってる。それで?」

 

「足りないのならば外部から補充出来ないか、という趣旨で開発したのがこの装置、『魔人だって安全に産めるでしょう』ですわ」

 

「いや、待て。何でそうなった?」

 

 名前から想像するに、この装置さえあれば人間が魔族との子を宿しても、死ぬ事なく産めるという事だろう。

 

 もし研一の予想どおりならば、それはそれで画期的な発明ではあると思うが――

 

 マキの延命の為に『魔力欠乏症』に対抗出来る機械を作っているのでは、なかったのかと突っ込まずには居られない。

 

「……魔人が生まれ落ちた時、母体を殺してしまうのは母体の生命力を吸い取ってしまうという話は御存じかしら?」

 

「ああ、知ってるが……」

 

「その説で言うところの生命力の中には、魔力も多く含まれており、この装置で出産時に魔力を補填する事が出来れば、どうやら母体を助ける事が出来るらしいのですわ」

 

「理屈は解かった。それでてめぇの病気の方は、どうなんだよ?」

 

「……魔力を補填したところで、どうやら一時凌ぎにしかならないようなのです。出産のようにその瞬間だけ魔力を補助すれば済む話ではなく、どうやら根本的に身体の方をどうにかしないと、どうにもならないみたいですの」

 

 装置で魔力を補充しても、数日しか保たない。

 

 おまけに一度装置を使用すれば、魔力の充填期間が一週間は必要らしく、この装置で延命し続けるのは実質不可能という事だった。

 

「…………」

 

「ふふ、そんな顔をなさらないで下さいな。これはこれで運命的だと思っていますのよ?」

 

 何も言えばいいか解からずに黙り込んでしまった研一に。

 

 機械を弄ったまま、マキは虚勢でなく本当に嬉しそうな声で話を続けていく。

 

「私が死んでディーがマキーナ国の党首を継いでくれた時、一番の問題は魔人であるという事でしたの。ですが、この装置が完成して普及させる事が出来れば、魔人への風当たりを随分と和らげる事が出来ると思いますわ」

 

「そう、かもしれないが……」

 

「自分の命を救おうと思って必死で作っていた筈の物が、意図せずしてディーを救える画期的な装置になったんですのよ? これはもう神様が、ディーに全てを任せて安心して眠れと仰っていると思いません事?」

 

「……思わねえよ」

 

(そんなふざけた運命、あって堪るか……)

 

 まるでプロディの栄光を舗装する為にマキの人生があったなんて言葉。

 

 どうしても研一には同意してやる事は、出来なかった。

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