憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第111話 マキ、生涯最大級の失敗

 日は変わり。

 

 特に事件が起きる事も無く、マキの開発していた装置は完成の日を迎えた。

 

(やっぱこの形は、どうも好きになれないな)

 

 見た目は透明な棺桶を二つ並べて、棺桶同士と何か大きな機械をパイプで繋げているような印象であり、研一的には、あまり良い印象の物ではなかった。

 

「お嬢様、ようやくこの日が来たのですね……」

 

 だが、プロディとしてはマキの命を救ってくれる念願の装置なのだ。

 

 この日を待ち望んでいたとばかりに喜びを隠しもせず、感慨深そうな視線を向けている。

 

 ――プロディは今も、この装置がマキの延命の為の物だと思っているようであった。

 

「その、研一様。このような事に付き合わせてしまって申し訳ありません……」」

 

 そんなプロディの隣で、マキは不安そうな顔をして装置の前に佇んでいた。

 

 研一目線で見ればマキーナ国に来て数日で完成したように見える装置であったが、マキからすれば、自らの命を救う為にずっと研究を続けてきた上に出来た物であり――

 

 同時に、結局はその努力も虚しく、当初の目的とは違う形に仕上がってしまった装置なのだ。

 

 不安を覚えてしまうのも、仕方のない事だろう。

 

 ――ましてや、自身の身体に魔力を流すという装置なのだ。

 

 どれだけ装置の完成度に自信があったとしても、恐怖を覚えるなという方が難しい。

 

「気にすんな。魔族も攻めて来る気配無くて暇だったしな。丁度良い見世物だ」

 

 マキの言葉にあえて軽く答えつつ。

 

 研一は何でもない態度を装いながら、周囲を警戒する。

 

(さすがに俺やプロディさんが居るのに、何か仕掛けてきたりはしない、か?)

 

 もしウィアーが魔導人形を破壊していたという予想が全て正しくて。

 

 マッチポンプで金儲けどころか、国の乗っ取りを目論んでいた場合、マキの病気が完治して存命されては都合が悪い事になり兼ねない。

 

 だからこそ、ウィアーの乱入を警戒する研一であったが――

 

「……装置の完成が問題ならば、部品の提供を途中で止めたり妨害をして完成そのものを阻むでしょう。どうか今はマキ様の事を見てあげて下さい」

 

 それとない態度で警戒出来ていると思っていたのは、研一本人だけだったらしい。

 

 小声でプロディから話し掛けられ、内容にも十分納得出来たのもあり、それならばと余計な事は考えずマキに向き合う事にする。

 

「そのですね、研一様。どうしても一つだけ、先にお伝えしたい事があるんですの」

 

「何だ?」

 

 話を切り出すタイミングを窺っていたのだろう。

 

 研一が警戒を解くと同時に、マキは研一に駆け寄ると背伸びして研一の耳に口を近付け、小声で囁き掛けた。

 

「……その、ですね。一応この実験でも私の身体に魔力を流すので暫くは健康になると言いますか――」

 

「ふむ……」

 

 それは良い事だと頷こうとした研一であったが――

 

 次の言葉に驚かされ絶句する。

 

「あの、だから避妊さえしっかりして頂けるなら、今日は存分に私の身体を楽しんでくれて大丈夫ですわよ?」

 

 あまりにも突然の内容に何も言えない研一の姿に、マキはしてやったりとばかりに微笑んで。

 

 それでも抑え切れない不安に、一度、僅かに身体を震わせた。

 

「成功を楽しみにして頂けると嬉しいですわ。出来たらでよいのですが、目を逸らさず、貴方の物になる身体を、しっかりと見ていて下さると嬉しいですの」

 

 恐怖を振り払うようにあえて、そんな言葉をマキは口にしたかと思うと。

 

 間髪入れずに魔力を阻害するという服を脱ぎ捨て、何も身に着けない生まれたままの姿になると、まるで二つの透明な棺桶のように見える装置の、棺桶の片側へと入る。

 

「それでは装置を起動します」

 

 下手に時間を置いて、覚悟が揺らいでも辛いだけだろうと思ったのか。

 

 プロディはマキの準備が整ったと見るや、即座に装置を操作して、試運転を始める。

 

(予定通り、痛みなどはありませんが、これは失敗したかもしれませんわね……)

 

 マキは自身の身体に魔力が流れていく事を感じながら、想定外の事態に冷や汗を流し始めていた。

 

 とはいえ、別に実験が失敗している訳ではない。

 

 今のところ、順調過ぎるくらいに順調な成果ではあったのだが――

 

(魔力で身体が活性化されているからですの? 何か肌が泡立つと言いますか、くすぐったいと言いますか……)

 

 まるで身体の節々を指で突かれているような、ゾワゾワとした感覚に襲われていた。

 

 くすぐったいとは違う、もっと異質な何か。

 

 それはマキの推測したように、魔力が全身を駆け巡る事ににより身体の感覚が増した事で起こされている現象なのだが――

 

(な、何ですの! こんな感覚、初めての事ですわよ!?)

 

 身体の感覚が増すという事は、言い換えれば敏感になってしまっているという事。

 

 そんな中、これが終われば好きな人との情事があるかもなんて、妄想していた上に――

 

(あぅ、そんな熱っぽい目で見ないで欲しいですの……)

 

 予想外の事態に冷や汗を流したり。

 

 突然身体が敏感になっているのを気取られないように我慢なんてするものだから、見ている研一としては心配になるのが当たり前で。

 

 マキの様子がおかしくなる度に、大丈夫なのかとハラハラして食い入るように視線を強くしていく。

 

(こんなの、おかしくなってしまいますの!)

 

 それがまた、マキを増々興奮させていくという、負のスパイラルのような何かを生み出しており――

 

 もしマキが自分の身体に負担を掛けないように、その手の行為を書物等で知るだけでなく、実際にした事があったのならば。

 

 研一やプロディが見ている事なんて忘れて、自らの手でその快楽を押し進めてしまっていた事だろう。

 

(ディー! お願い、研一様を一度、遠くへ!)

 

 おかしくなっていく自分を、これ以上、大好きな研一に見られたくない。

 

 そんな思いから、視線だけでプロディに合図を送るマキであったが――

 

「研一様。どうやらここが正念場のようです。お嬢様の決意が揺らいでしまわぬよう、絶対にお嬢様から目を逸らさないで下さい」

 

 長年の付き合いから、マキが不調でも何でもない事を即座に察したのだろう。

 

 むしろ、少しでも研一にそういう目で意識してもらった方がプロディの計画的には好都合だとばかりに――

 

 全てを理解した上で、マキから目を背けられないように研一に仕向ける。

 

(こんの裏切り者ぉーー!!)

 

 無表情だが内心では、ほくそ笑んでいるであろう腹心の姿に。

 

 離れに追いやられて王族らしい教育なんて受けて来なかったからこそ、誰よりも上流階級らしく振る舞おうとしていた気持ちさえ忘れ――

 

 素の言葉でプロディに怒りの言葉を内心だけでぶつける、マキなのであった。

 

 

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