憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第115話 プロディ派

「プロディ様、ついにこの時が来ましたね」

 

 研一達が魔族に囲まれていた頃。

 

 離れという名の遺跡に、マキーナ国の女戦士達が集まっている。

 

 この遺跡の中に国の党首であるマキが居る事を、事前にプロディから聞かされて、この場に居る全員が知っていた。

 

 ――ちなみに城でなく離れに居る理由は、粗相を想い人に見られてしまったショックで、幼少の頃から過ごし慣れ親しんだ離れに、引き籠っているからだ。

 

「力も覚悟もない者が国の党首を名乗るなど、百害あって一利なし。身の程を知って、自ら辞任してくれていたなら、我々だって手荒な真似をせずに済んだというのに。全く、魔力無しの欠陥品なら、せめてそのくらいの引き際を見せてほしいものだ」

 

 今から離れの中に侵入しようとした矢先、一人の女戦士が誰に言うでもなく、ぼやくように口を開く。

 

 この女戦士こそ、属にプロディ派や過激派と呼ばれている派閥の筆頭であり、かつて研一にマキに変わってマキーナ国を治めてほしいと手紙を出した者であった。

 

「そうよね。さっさと一人で死んでくれてたら、わざわざこんな面倒な事しなくてもいいってのに……」

 

 周囲には手紙を出した女戦士以外にも、それなりの数の人間が居た。

 

 数にして百に届くか、届かないくらいだろう。

 

 国の転覆を企む者達と考えれば、多い人数に聞こえるかもしれないが、マキーナ国はこれで人間国で最高の軍事力を持つ国。

 

 加えて党首であるマキは、国民からの指示は極端なまでに低い。

 

 そう考えれば、この人数でも十分に少数派と言っても差し支えない人数と言えるだろう。

 

「だが、あの役立たずは魔力欠乏症で放っておいても近い内に死んでくれるのだ。ここまでする意味はあるのか?」

 

 この主な原因は、マキの病状にある。

 

 マキの状態は既に国民中に知れ渡っており。

 

 魔力もなければ戦力増強にも消極的なマキに不満を持つ者こそ多いが、それでも余命幾許もないマキを、自らの手を汚してでも排除しようという者は少ないからだ。

 

「それが小賢しくも治療だか延命だかの方法を見付けたらしい。だからこそ、プロディ様も今回の計画を実行に移す事にしたのだろう」

 

 だが、ここにきて状況が一変する。

 

 早ければ数か月。

 

 遅くても後一年もしない内に死ぬと思われていたマキが、下手すれば病気を克服して生き長らえる可能性が出てきてしまったのだ。

 

 こうなってはマキが死ぬまで、静観などしていられないという者も出てくる。

 

 それがプロディ派と呼ばれる者達で、プロディを焚き付けてマキの殺害に向けて動き出した訳だが――

 

「……プロディ様。今からでも遅くありません。マキ様と手を取り、マキーナ国を共に治めていく事は出来ませんか?」

 

 プロディ派と呼ばれる者であっても、完全に一枚岩という訳ではない。

 

 あくまでマキに党首としての器がないからプロディに党首を譲り渡すべきだと考えつつも、マキの発明能力などは認めており。

 

 命まで取るべきではない、という考えの者だって居れば――

 

「……こんな暗殺なんてしなくたって、党首の座を賭けて戦いを申し込んで、ボッコボコにして党首の座を勝ち取ったらいいだけじゃないっすか?」

 

 小難しい事なんてどうでもいい。

 

 強い奴が党首をやるべきだ、という単純な考えの者も居る。

 

「何度も説明しただろう、この単細胞! 魔人であるプロディ様が党首になる方法は、この方法しかないんだ!」

 

 だが、そもそもの話、マキーナ国は人間の国である。

 

 強さ至上主義の人間が大多数を占めている上に、プロディの事をよく知っている者が多いから誰も気にしていないが――

 

 国の法律的には、魔人であるプロディには、党首に挑む資格自体が最初からないのだ。

 

「裏切って国を乗っ取ったなんて事になれば、他国はプロディ様を党首と認めないどころか、この国が魔族に乗っ取られたと思って一斉に襲ってくる。だからこうして魔族の暗殺に見せ掛けるなんて面倒な事をしてるんだろうが!」

 

 仮に、決闘やら何やらで正式に勝ち取ったのだとしても。

 

 それで認めるのは。この脳筋民族で知られるなマキーナ国の者くらいだろう。

 

「国境で魔導人形達を攻撃していた魔族は陽動。囮に気付いた我々が党首であるあの女の救出に向かうが、時すでに遅く、あの女は死亡。最も信頼厚い腹心であったプロディ様が遺志を継ぎ、国をまとめていく。そういう筋書きだと、何回説明したと思っている……」

 

 そこで今回の暗殺劇だ。

 

 どんな形であれ、マキから奪い取っては角が立つ。

 

 それならば魔族に殺されたマキの仇を取る為、プロディを国民達から推される形で擁立して党首にしようという訳だ。

 

「はあ、何回説明されても面倒臭い事はよく解からんっす。とりあえず、これで一番強い奴が党首になるっぽいので、協力はするっすが……」

 

「……これだから蛮族国家なんて言われてしまうのだ」

 

 もはや説明するだけ無駄だと悟ったのだろう。

 

 協力してくれるのだから、これ以上、話しても仕方ないとばかりに説明をしていた女戦士が頭を抱えたところで――

 

「仮に決闘で私が党首の座を奪ったとして、マキの処遇はどう考えているのです?」

 

 今まで話を聞くだけで黙り込んでいたプロディが、初めて口を開いて訊ねる。

 

 普段は冷静であるものの、同時に丁寧で周囲を気遣う雰囲気を感じられるが、今はただ感情の見えない冷徹な視線で周囲を眺めるように見ていた。

 

 ――そして、普段と違いマキをお嬢様でなく呼び捨てで呼んでいた。

 

「どうでもいいんじゃないっすか? 国の為に機械作るって言うなら作ってりゃいいと思うっすし、邪魔なら魔力もない非力な女でしかないっすからね。適当に追い出して、他の国にでも追放しときゃいいだけじゃないっすか?」

 

 どうもマキ自体の命に関しては、どうにも思っていない者も結構居るようで。

 

 多くの人間は、戦う力もない人間が党首として自分達の上に立っているのが気に入らない、という事らしい。

 

「生温い事を! あの女の作る機械に有用な物があるのは認めよう。だが、だからこそあの女は生かすべきではない! あの女が生きていれば国が二つに割れ兼ねない!」

 

 それでも、絶対にマキを殺すべきだという者も存在していた。

 

 マキの発明力を評価しているからこそ、戦士である自分達の立場を脅かされる事を恐れ、排除しようと目論む者達であった。

 

「……いざ、マキを殺す段階になって仲間割れが起きても困ります。各自の考えの確認を取ります。自分と同じ意見の者達で集まって下さい」

 

 プロディの言葉に従い、集まっていた者達が意見を同じくする者同士で集まり合う。

 

 結果としては、どの考えも似たり寄ったりの数。

 

 三割がマキ生存派、三割が決闘派、三割がマキ殺害派。

 

 そして――

 

「貴女達は?」

 

「我々はプロディ様の意志に従う所存です。プロディ様が生かした方が良いと仰るなら生かし全力で守り、プロディ様が殺した方が良いと仰るならばプロディ様の手を煩わせる事もありません。我々で始末を付けましょう」

 

 残った一割がプロディの意見次第といったところだ。

 

 これから党首の暗殺を謀ると考えれば、どうにも不安な内訳と言えるだろう。

 

「……なるほど。各自の考えは解かりました」

 

 プロディは短く、それだけ呟いたかと思うと――

 

 周囲に稲光を思わせる閃光が瞬いた。

 

 そして、光が収まったかと思うや否や、集まっていた女戦士達の七割が糸を切られてしまった操り人形のように、力無く倒れ込んでいく。

 

「え……」

 

 一瞬遅れて、事態を把握して呆然と声を漏らしたのは、残っている三割の女戦士。

 

 マキ暗殺派の女戦士だけであった。

 

「こ、殺したのか?」

 

 先程の光の正体。

 

 それはプロディが己の身体を雷に変え、女戦士達に攻撃を仕掛けたのだ。

 

「まさか。眠ってもらっただけですよ。マキを殺すだけなら私だけで十分。迷いがある者を残して、直前で邪魔されても困るでしょう?」

 

「あ、ああ。そういう事か……」

 

 それでも突然の事態に戸惑い、どこか呆然とした様子の暗殺派の女戦士達であったが――

 

 プロディの言葉。

 

 そして、実際に倒れ込んでいる者達に息がある事を確認して、安堵したように胸を撫で下ろす。

 

 ――それでも顔には、仲間に躊躇いもなく攻撃を仕掛けたプロディへの、恐怖がありありと浮かんでいた。

 

「事が済めば解かってくれますよ。さあ、起きる前に早く片付けてしまいましょう」

 

 顔面蒼白で冷や汗を流している者達の態度など気付いでもいないとばかりに、平然とプロディはそれだけ呟くと。

 

 急かす言葉とは裏腹に、まるで散歩でもするかのような自然さで悠然と歩き始めたのであった。

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