憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第117話 マキの実力

「……ディー。貴女の目的は全て解っていますわよ」

 

 現れたマキは、普段とは装いも雰囲気もまるで違っていた。

 

 服装自体は普段と変わらないピッチリした素材の衣装に身を包んでいるが、丸い小型の機械が二十基近く、纏わり付くような形でグルグルとマキの周囲を飛んでいる。

 

 古代文明では『ビット』と呼ばれていた機械で、レーザーを放って敵に攻撃する事も出来れば、寄り集まってバリアを張り使用者を守る事も出来る、攻防一体の戦闘兵器だ。

 

 ――ちなみに、マキは『大家族ビットちゃん』と名付けている。

 

「どうしても止める気は、ありませんの?」

 

 実のところ、このビット自体は常にマキの傍に隠れ潜んでいた。

 

 迷彩機能を使って普段は見えないようにしているだけであり、マキに何かあれば、いつでも守れる状態にしていたのである。

 

 現在、わざわざビットの迷彩を外して視認出来る状態にしているのは、迷彩機能に使うリソース全てを、攻撃と防御に注ぎ込む為であり――

 

 止まってくれないのならば、力尽くでもプロディを止めるという、マキからプロディに向けた意思表示であった。

 

「今更止められる訳がありません。ずっと私は、この時を待っていたのですから」

 

 迷いなくプロディは答えたかと思うと、躊躇い一つ見せず自らの身体を雷に変え、不意討ち気味に襲い掛かる。

 

 文字通り、雷の速度の攻撃。

 

 それが奇襲同然に放たれれば、並の相手ならば認識する事さえ出来ずに、あっさりと意識を刈り取られてしまうのだろうが――

 

(……やはり通じませんか)

 

 複数のビットが瞬時にマキの全身を覆うようにバリアを張り巡らし、攻撃を完全に防ぎ切る。

 

 かと思うと、残っているビットがプロディを倒すべく、雨霰と言わんばかりの勢いでレーザーを撒き散らしていく。

 

(普段、お嬢様の傍に控えているビットの数は六基。その約三倍ともなると、さすがに私でも手を焼きますね……)

 

 だが、そのレーザーの密度を持ってしても、プロディを捉え切る事は出来ない。

 

 軍隊すら蹴散らしてしまいそうな勢いで次々と放たれるレーザーの嵐を、プロディは辛くも交わし続ける。

 

 無論、光の速さで飛び交うレーザーを視認してから交わす事は、身体を雷に変え雷の速度で動けるプロディにさえ出来ない。

 

 だが、ビットがプロディに狙いを付けてからレーザーを発射するまで、力を溜める為の僅かなタイムラグがある。

 

 その僅かな隙を見切って、攻撃を交わし続けているのだ。

 

(この姿を見せる事さえ出来ていれば、例え余命幾許もないとしても、貴女が党首である事に誰も文句を言わないどころか、誰もが惜しんでくれたでしょうに……) 

 

 全てビットの性能のように見えるだろうが、ビットは使用者の脳波に強い影響を受け、使用者の演算能力によって動きは大きく変わる。

 

 失われた古代文明を復元し、次々に新たな発明を生み出す頭脳を持つマキが使っているからこそ、これ程の強さを維持出来ているのであり――

 

 普通の人間では必死で訓練して、四基程度のビットを扱うくらいで精一杯。

 

 その約五倍のビットを自由自在に操るマキは、間違いなく戦力としても傑物と言っていい人材だろう。

 

 だが、このビットの強さがマキ自身の力である事こそ、最大の弱点でもあった。

 

(魔力欠乏症に蝕まれてしまっているお嬢様の身体で、長時間の戦闘は出来ません……)

 

 普段は六基しかビットを潜めず迷彩で隠した待機モードにしているのも、少しでも負担を軽減する為。

 

 マキが本気で戦える時間は五分もない。

 

 その間は回避に徹し、弱ってきたところを仕留めればそれで終わり、の筈だった。

 

「ふふ、ディー。忘れてません事? 昨日の試運転で私の身体には魔力が満ちていますのよ?」

 

 けれど、今のマキは一時的ではあるモノの、魔力欠乏症を克服している。

 

 それで一気に体力が身に付くという訳ではないが、少なくとも普段よりは遥かに戦える時間は長いだろう。

 

「……そうでしたね。では、悠長に待ってなど居られません」

 

 そして、戦いが長引けば研一が駆け付けてきてしまう。

 

 あの程度で研一が死ぬ筈がないと確信しているプロディは、即座に決意を固めると、早期の決着にすべく気持ちを切り替える。

 

「最初で最後の、姉妹喧嘩といきましょうか、お嬢様」

 

 実際は、姉妹ではない。

 

 それでもあえてプロディはその言葉をある種の宣誓めいた覚悟と共に告げると、無傷で倒し切るなんていう、生温い気持ちを捨て。

 

 今までのどこか冷ややかで感情を押し殺した目とは違う。

 

 本気の想いが込められた視線で、マキを射貫く。

 

「……ええ、そうですわね! 絶対に止めてみせますわ!」

 

 その瞳に込められた意志。

 

 目的の為ならば、手段を選ぶ気はないという想いを感じ取り、マキも即座に意識を切り替えると――

 

「ここまで来て殺すでなく止めるですか。そういうところが貴女は甘過ぎると言うのです!」

 

「頑固で分からず屋の貴女に何も言われたくありませんわ!」

 

 誰も観客の居ない。

 

 マキーナ国での最強を決める戦いが始まったのであった。

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