憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第六章 姉妹の結末
第119話 違和感だらけ


「これは失礼しました。確かに、いきなり話を振られても答えようがありませんし、貴方にしか答えられない質問をさせて頂くとしましょう」

 

 プロディは意識を失ったマキをお姫様抱っこで抱え上げると、焦った様子も見せずに研一の方を静かに見詰める。

 

 そこには邪魔をされたという嫌悪もなければ、敵意も見当たらない。

 

「何をしに、ここに来たのです?」

 

(ここに来たという事は、私が倒した者達から事情を聞いているでしょうに。この方の性格上、信頼を裏切って国を乗っ取ろうとした人間なんて、問答無用で倒しに掛かる嫌悪すべき敵だと思ったのですが……)

 

 むしろ鉄仮面を貫こうとしても隠しきれない程の戸惑いが、プロディの顔には浮かんでいた。

 

 それ程までに研一の態度は、プロディの予想から外れていた。

 

「……なあ、何の為にアンタはこんな事をしているんだ?」

 

 研一の顔に浮かんでいたのは、敵意でも嫌悪でもなかった。

 

 心配しているようにも憐れんでいるようにも見えるその表情は、どこか悲しげでさえあって。

 

「おや、ここに来るまでの間に誰かに訊ねなかったのですか? 私の目的は――」

 

 全て気付いていると言いたげな研一の態度に、プロディは内心だけで驚きつつ。

 

 それでも私利私欲でマキを裏切り、国の乗っ取りを企む冷血女でしかない自分と、何の話がしたいのかと訊ねようとするが――

 

「話なら聞いたさ。その上で、あの人達は全員、国境の魔族との戦いの増援に行ってもらった。プロディさん相手じゃ、下手に居ても足手纏いにしかならないから俺に任せろって言ってさ」

 

 もう全て解っているから、慣れない演技は止めてくれとばかりに研一は、プロディの言葉を遮るように言葉を被せて。

 

「だから、ここには俺達しか居ない。本当の事を話してくれ」

 

 大体の予想は既に出来ているからこそ、事実をプロディの口から聞かせてほしいと提案する。

 

「そこまでして私と話したかったのですか? 貴方の事は嫌いではありませんし、そうも熱烈なアプローチをされると、少々胸が熱くなるものがありますが――」

 

「誤魔化さないでくれ。それとも嘘を吐いているって確信してる理由まで言わないと話してくれないか?」

 

「……出来れば御聞かせ頂けると嬉しくあります。根拠もなく騙している呼ばわりされるのは、少々不快ですので」

 

 本当に心苦しかったのは、異性として好ましく感じていると割と直接的な形で伝えたにも関わらず、一切の考慮もしてくれなかった研一の態度だったが――

 

 それを口に出して指摘するのは女として惨め過ぎると、あえてプロディは別の言葉で話の続きを研一に促した。

 

「簡単な話じゃないか。マキさんを殺して国を乗っ取るなんて言葉の割に、プロディさんの行動はチグハグ過ぎる」

 

 例えば魔導人形の件。

 

 そもそも国を本気で乗っ取りたかったのだなら、最初から修復出来ない次元で破壊して、今回みたいな行動を起こしていればいい。

 

 嫌がらせ程度の破壊を繰り返して、救世主である研一を呼び寄せる理由もなければ――

 

 魔導人形を壊していたのは研一だなんて言い掛かりを付けて、命懸けで戦う必要なんてどこにもない。

 

 例えば先程、プロディ自身が言った、女戦士から事情を聴いてないのかという話。

 

 そこで女戦士はマキが本当は強くマキーナ国を治めるに相応しい人物だったとプロディから聞かされたというような感じの話を、研一は聞いた訳だが――

 

(今から暗殺しようっていうのに、わざわざ、そんな話をする意味がないじゃないか……)

 

 それでは裏切ってくれと言っているようなものだ。

 

 他にも細かい部分まで挙げれば、切がないくらいに違和感だらけ。

 

 そこまでプロディに伝えた研一であったが――

 

「……その程度の事で私に裏がある、と。長い付き合いだった主を裏切ろうと言うのです。心乱れて細かいミスの一つや二つはするでしょう」

 

 プロディは全く取り合わない。

 

 何を寝言を言っているのか、と呆れたと言わんばかりに頭を振る。

 

「大体、ウィアーを騙して貴方にけしかけたのは私だと知っているのでしょう? どうして貴方は怒りもせず、ヘラヘラと私と話なんてしているのです」

 

 むしろ、研一の態度にプロディの方が怒りを覚え始めているらしく。

 

 研一を見る視線が、まるで睨むように鋭く変化していくが――

 

「プロディさんの事を尊敬しているから、話も聞かずに戦いたくなんてなかったから、かな。大事な人の為だからって、俺はそこまで徹底的には、やれなかったからさ……」

 

 プロディから話してくれないなら仕方ないとばかりに、研一は一度息を吐いて。

 

 この場に居る、もう一人の人間へと視線を向ける。

 

 それは麻酔弾が効いて、スヤスヤと寝息を立てて眠るマキであった。

 

「プロディさんならさ。気を失っているマキさんを殺すなんて、その状態なら俺が近くに居ようが一瞬で済むだろ? 本気で殺す気なら、なんでそんなに大事そうに抱えてるんだよ……」

 

 もしプロディの目的がマキを殺して国を乗っ取る気だと言うのなら、マキはとっくに殺されていないとおかしいのだ。

 

 雷の速さで動けるプロディ相手に、眠っているマキの方が近くに居る時点で、いくら憎悪の力で強化された研一であっても不可能に近い。

 

 だが、マキは死ぬどころか、目立った怪我一つ負っていない。

 

 そして、更に決定的とも言える判断材料がある。

 

「見てたんだよ、最後の決着の瞬間だけだったけどさ」

 

 二人の激戦には、研一は間に合わなかった。

 

 だが、最後の最後。

 

 マキが麻酔弾を受けて眠りに就こうとした瞬間、地面に倒れて頭を打たないようにプロディが即座に抱き留めたところも――

 

 そのままお姫様抱っこの要領で抱えた姿も、研一は全て見ていた。

 

「マキさんが怪我してないって知って、安心したように笑ってたよな」

 

 優し過ぎるなんて呆れたように言いながら。

 

 それでも、そんなマキが大好きだったとばかりに微笑んだプロディの顔を見てしまえば、それで何となく全て解ってしまった。

 

 ――それこそ、見惚れてしまう程に綺麗な笑顔だったから。

 

「あの顔を見て、マキさんを殺そうとしているなんて思う程には、俺も鈍くはないよ。まあ、さすがにそれまでは騙されたなんて、疑ったりもしてたけどね」

 

 さすがにそれまでは、いくら研一がお人好しに分類される人間であっても、プロディを疑わずに居られなかったし、マキを殺されてしまうかもしれないと焦ってすらいた。

 

 だが、そんな疑問すら全て吹き飛ばしてしまうくらいに、マキを見るプロディの目は優し過ぎたし。

 

 何よりも――

 

 今だって大事そうに抱えたまま、放り投げる事も殺す事もしていない。

 

 これでマキを殺そうとしているなんて、あまりにも無理がある。

 

「…………」

 

 プロディが言い返す事も出来ず、苦虫を噛み潰したように、顔を歪める。

 

 それは研一の推測が、全て事実だと認めたも同然であった。

 

「今回の事は全部、マキさんの為なんだろ?」

 

 それでも本音を口にしようとしないプロディに、研一は確信と共に告げる。

 

 プロディが何の為に。

 

 いや、誰の為だけに今回の事件を引き起こしたのかを。

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