憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第126話 帰る場所になりたくて

「ただいま、センちゃん」

 

 マキ達が研一達の事を思い浮かべていた頃。

 

 サラマンドラ国に戻った研一は、マキーナ国での出来事の報告などの用事を終わらせ、センの待つ自分の部屋へ向かった。

 

「お帰りなさ――」

 

 研一が帰ってきた事を知らされていたセンは、扉が開くと同時に喜色満面という様子で研一に抱き着こうとするが――

 

 冷水でも浴びせられたように動きを止める。

 

 どうにも近寄り難い雰囲気を、研一から感じたから。

 

「ごめん、ずっと傍に居るって約束したのに長く離れてしまって。何もなかったかい?」

 

「私の方は、平和そのものでした」

 

 研一の様子に戸惑いつつも、センは誤魔化す事なく、素直に答える事が出来た。

 

 仕事で忙しいだろうに、暇さえあればベッカもロザリーもセンの様子を見に来てくれていたし、魔族達の襲撃だってなかった。

 

 研一に会えない事に、寂しさや物足りなさを感じる事はあっても――

 

 生まれてきた中で一番、穏やかな時間を過ごせたと言っていいだろう。

 

 けれど――

 

(でもね、研一さん。何かいつでもお腹が空いているみたいに辛かった……)

 

 好き勝手扱われている奴隷の演技をして、いつバレてしまうか解からない窮屈さを覚え、人目を気にし続けないといけなくても。

 

 命の危険に身を晒され続け、その果てに死ぬ事になったとしても。

 

 それでも、研一の傍の方がいい。

 

 出会ってから初めて長く離れて過ごし穏やかな時間を過ごしたからこそ、センは自分の想いを確認し、更に強く深めていた。

 

「実は勉強の甲斐もあって、少しだけ魔法も使えるようになったんですよ? それも魔族特有の珍しいものなんです。ちょっと戦闘とかのお役には立てそうにないんですけど……」

 

 だが、センはその想いも寂しさも研一に告げる事はしない。

 

 だって、それは違うから。

 

 同情の目や、子ども扱いされて傍に居るのは違う。

 

 大事だった仲間が、それを身をもって教えてくれたから、センはそんな立場で研一の傍に居ようとは、二度と思わない。

 

 告げるのは、寂しさでなく自分の成長だけ。

 

 その方がきっと研一は笑ってくれるから。

 

「凄いじゃないか。魔法って同じ系統の魔法を伸ばすのはそこまで難しくないけど、最初の魔法覚えるのは俺も大分手こずったのに」

 

 センの目論見通り。

 

 どこか貼り付けたような笑顔をしていた研一の顔が、パッと明るくなる。

 

 けれど、それも一時凌ぎに過ぎなかったらしい。

 

「丁度良かったって言うのもアレだけど、センちゃんにお土産があってね。初魔法の習得にしては貧相な物で悪いんだけど……」

 

 再び貼り付けたような、ぎこちない笑顔に戻ってしまうと。

 

 心配する事なんて何もないと言いたげに、勤めて普段通りに振る舞おうとする。

 

「何か、あったんですか?」

 

 逆に言えば、そこまでして冷静になろうとする何かがあったという事であり。

 

 そのくらいは心なんて読まなくても、ずっと研一を目で追い続けてきたセンには解かった。

 

「えっと……」

 

 それでも今までのセンなら、研一が隠そうとした事を自分から暴こうとはしなかっただろう。

 

 力強い眼差しで自分を見詰めるセンの姿に、研一は誤魔化す事も忘れて、ただ戸惑いの声を上げるしかない。

 

「研一さん、この服、どう思いますか?」

 

 戸惑っている研一に、センは新しい服を見せ付けるように、クルリと回る。

 

 研一がマキーナ国に行っている間に仕立ててもらった服なのだが、ちょっとサイズが合ってなくてダボっとしていた。

 

「似合ってると思うよ」

 

「……研一さんなら、そう言ってくれると思いました」

 

 よっぽど変な服でも着てない限り、きっと研一はセンが何を着ていても似たような事を言うだろう。

 

 けれど、そんな言葉や態度で女が喜ぶ訳がない。

 

 例え、それが好きな相手の本心からの言葉であっても、だ。

 

「でも、こうした方が似合うと思いませんか?」

 

 それだけ告げるとセンは、悪戯でもするようにクスリと笑うと――

 

 習得したばかりの魔法を発動させる。

 

「え、セン、ちゃん?」

 

 それは簡単に言えば、姿を変える魔法だろう。

 

 十歳前後の見た目だった筈のセンの身長が伸びただけでなく、顔付きや体付きも大人っぽく変化し、ダボ付いて野暮ったく見えていた服のサイズがピタリと合う。

 

「魔族や魔人には、自分の姿や形を変える系統の魔法を覚える者が居るんです。前に研一さんが戦った相手が塵になる魔法を持っていたみたいに……」

 

(ああ。プロディさんも身体を雷に変える魔法使ってたもんな……)

 

 センの言葉に研一の頭に浮かぶのは、センが挙げた塵になる魔法を持っていたジーンではなく、プロディであった。

 

 研一の表情が僅かに曇る。

 

「私の魔法は、一時的に自分の年齢を変化させる魔法です。この姿で居る間は、身体も魔力も大人の魔人と同じように強くなります」

 

 センはそれだけ告げると、戸惑っている研一を抱き締める。

 

 そこに子どもの姿の時にあった体格差はなくなり、しがみ付く形でなく、しっかりと研一の身体に腕を回せた。

 

「せ、センちゃん!?」

 

「辛い事があったんですよね? そういう時くらい、誰かに甘えてもいいと思いませんか?」

 

 姿や形が変わっても『ちゃん』が取れない事に、少しだけ残念さを覚えるも。

 

 それでも突き放される事も無く、されるがままに自分の腕の中に居てくれる研一に、センは柔らかく笑う。

 

 ――それが無理に突き放して怪我をさせたくないという研一の温情であっても、子どもの姿なら逃げ出されてしまっていただろうから。

 

「別に辛い事なんて……」

 

「本当に、何もなかったんですか?」

 

 抱き締めたままのセンの声は穏やかで、咎めるような声ではない。

 

 それでも有無を言わせない何かを感じて、研一は仕方ないとばかりにポツポツと言葉を紡ぎ始める。

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