憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第127話 騙し合いの果てに

「……本当にさ。辛いとかそういう事じゃないんだ」

 

 マキとプロディの結末は、アレ以上の終わりなんてなかったと研一は信じているし、仮に何度同じ状況に陥ったとしても。

 

 きっと自分は同じ行動を取るだろう。

 

 だから、マキ達二人に対して。

 

 向こうから責めてくる言葉は全て受け止めるべきであるとは思うが、研一の方から、どうこう言う気もなければ、そもそも何かを思う権利なんてないと思っている。

 

「凄く強い人に会ってさ。戦闘力も物凄かったんだけど、それ以上に目的に対して妥協のないところが尊敬出来る人でさ。きっと普通で考えたら大悪人で多くの人から責められて当然の人だったけど――」

 

「はい」

 

「俺はさ、あの人みたいに生きたかった。大事な人の為だけに生きて、その為なら誰だって騙して犠牲に出来る、そんな強さがずっとほしかった」

 

 そんな研一の心に影を落とすのは、恋人を助ける為に功績値を溜めるという本来の目的を、まるで果たせていない事に対する自責の念だった。

 

 大事な大事な功績値だと解っている筈なのに、出会って少ししか経ってない相手すら切り捨てられない自分の甘さ。

 

 それが恋人を裏切り続けているようにしか思えなくて、酷く後ろめたいのだ。

 

「俺の世界に八方美人なんて言葉があるけど、誰にも嫌われないように周りにいい顔をして、媚びを売っているだけの中身のないヤツみたいなのに使う事が多い。結局、俺のやってる事って、そういう事でさ。出会った相手に良い顔してるだけのその場凌ぎで、全然アイツを助ける為に動けてない」

 

 その点で言えばプロディは、本当に徹底していたと言えるだろう。

 

 マキ達を恩人と慕うウィアーを騙し、恋心を伝えてくるザインさえ利用して、最終的に助けようとしていたとはいえ、何よりも大事なマキさえ叩きのめした。

 

 挙句の果てに最後の最後までその意志は変わる事無く、自らの命を差し出したのだから。

 

「そんな自分が嫌になって落ち込んでただけ。だからさ、センちゃんが心配するような事なんて少しだって――」

 

「研一さん」

 

 それ以上、何も言わせないとばかりに、短くセンが声を上げる。

 

 これは落ち込んでいる研一を励ましたいなんて、甘い気持ちからではない。

 

 センが一番好きな部分を否定されるような言葉を、研一自身に言わせたくないという、ある種の身勝手から出た行動であった。

 

「そんな研一さんの優しさに救われて、今、私はここに居るんです。それとも研一さんは、あの地下で私を見殺しにしていた方がいいと思っていますか?」

 

「……いいや。もし過去に戻れるのだとしたら、今度は君のお母さんだって助けられたらって思うよ」

 

 卑怯な物言いな事くらい、センにだって解っている。

 

 これでセンを犠牲にしてもいいと迷わずに言えるような男なら、最初からセンの事を助けもしないし、悩んで苦しむ事も無い。

 

 そして――

 

「――全くです」

 

 そんな研一が、もし殺したくもない人を殺してしまうような選択をしたとして。

 

 もし同じような状況になれば、救おうともせず殺そうと考えたり。

 

 何も思わないなんて事は、絶対にない筈だ。

 

 どうすれば良いのかと最後の最後まで思い悩み、それでも救えないのなら悔んでいただろう。

 

 それでも悔みもしていない理由なんて一つだけ。

 

「そんな風に悩まれてしまうと、騙されて覚悟すら踏み躙られて助けられた身としては、どういう顔をすればいいのか、解からなくなって困ってしまいます」

 

 プロディは、今もこうして生きている。

 

 その証拠と言わんばかりに、どこか批難するような視線を研一に向けるプロディが、いつの間にか部屋の中に佇んでいた。

 

 ――魔法で姿を消し、少し前から部屋に居て話を聞いていたが、黙って居られなくて姿を現したのである。

 

「ちょっ、センちゃん?」

 

 プロディが近くに居る事に気付くなり、自分がセンに抱き締められている状態だと気付いた研一が、気恥ずかしさから離れようとするが――

 

 センは逆に研一を抱き締める腕に力を込めて密着率を高めると、良いところだったのに邪魔をしてと言わんばかりの、不満そうな視線をプロディに向ける。

 

 けれど――

 

「あっ……」

 

 心が乱れてしまっては、習得したばかりの魔法の制御なんて覚束無くなって当然だろう。

 

 センの身体が元の子どもの姿へと戻ってしまう。

 

 ――それを機に、研一はセンから離れるとプロディに向き合った。

 

「えーと、その、身体はもう大丈夫ですか?」

 

「ええ、お陰様で。本格的な戦いとなると本調子で力を揮えるとは言えませんが、日常生活を送る分には何の支障もない程度には回復しております。さすがは音に聞こえたドリュアスの党首様ですね。素晴らしい治癒術でした」

 

 プロディがこうして生きている理由。

 

 それはあの時、研一が攻撃と見せ掛けて転移魔法を使い、ドリュアスに居るテレレの元にプロディを飛ばしていたからだ。

 

(本当にあの時は、バレるんじゃないかと冷や冷やした……)

 

 敵を倒す為の攻撃と転移魔法では、全くと言っていい程に発動モーションが違う。

 

 事実、ジーンやザインを倒した時は魔力こそ溜めていたが目立った予備動作も無く、いきなり魔力の奔流が放たれ、相手を消し飛ばしていた筈だ。

 

 けれど、プロディの時だけは違う。

 

 まるで召喚魔法でも使うような魔力の渦が巻き起こり、その後に放たれた光に包まれるようにして、プロディはマキーナ国から姿を消していた。

 

(あんなに俺の事を信じてくれているなんて思わなくて、どれだけ申し訳なかったか……)

 

 もしあの時、プロディが研一の事を少しでも警戒していたなら、いくら何でも抵抗の一つもせず、棒立ちで転送されるまで、突っ立ってなんていなかっただろう。

 

 だが、プロディは心の底から研一の事を信じていた。

 

 だからこそ痛みもなく自分を殺そうとしてくれているのだと思い込み、攻撃を受けている割には血の一つも出ないなと感じつつも――

 

 研一が自分を気遣って何か特殊な攻撃でもしているのだろうと思い、転移されるまで気付かなかったのだ。

 

 ――それどころか、ドリュアスに転移した後ですら、テレレに説明されるまでは、死後の世界に来たのかと思い込んでいた程である。

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