憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第二章 波乱のウンディーネ
第132話 ウンディーネ国のファルス


「初めまして、異界の救世主。僕こそがこの国を治める偉大にして最強の水魔法使い、ファルス・ウンディーネ様さ」

 

 案内役に導かれるまま、ウンディーネ国に辿り着いた研一達を待っていたのは、何と言うかサーラ達から聞き及んでいたイメージとは、随分と掛け離れた人間であった。

 

 青というよりは鮮やかな水色の短い髪と、髪色と同じ水色の瞳が特徴的な人物だ。

 

 身長は男としては平均的な研一よりも僅かに低いくらいなのだが、細身な上に姿勢が良く、身長以上にすらっとした印象を与えている。

 

(……いかん。この人、男か女かどっちなんだ? 全く解からんぞ……)

 

 だが、一番特徴的な部分を挙げるとすれば、男にも女にも見えるという事だろう。

 

 どっちにしても間違いなく美人と称される整った顔立ちだ。

 

 それならばと服装で判断しようにも、男女どちらでも通用しそうな動き易そうな簡素なシャツみたいを着ており、下には長いズボンを履いている。

 

 その服装なら身体のラインを隠せないし体型で解かるだろうと思うかもしれないが、男にしては華奢に見えるものの、女と断定出来るような部分もなくて、ここでも判断が難しい。

 

「そう熱い眼差しで見ないでくれるかい? 照れてしまうだろう?」

 

 おまけに声で判断しようにも、これまた男にも女にも聞こえるハスキーボイスで上に、どこか芝居掛かった話し方のせいで、ここでも判断し難い。

 

 性別迷子の何か変な人。

 

 それが研一の抱いた印象であったが――

 

「ちょっと待て。お前、さっきなんて名乗りやがった?」

 

 それよりも先に確認しなければいけない事に気付いて、慌てて突っ込んだ。

 

 透き通る水の如く清廉潔白とまで呼ばれた人が来ると思っていた中、何か芝居掛かった怪しい人間が現れて呆気に取られていたが、よく考えれば、そもそもサーラやベッカから聞いていた名前と違う。

 

「俺はウンディーネ国の党首様は、アクア・ウンディーネって名前だって聞いてたんだが?」

 

 さすがにわざわざ使者を迎えに寄こしておいて、党首の偽者なんかと面会させるとは思えないし。

 

 騙そうとするなら、突っ込まれるような名前なんて名乗らないだろうし、こんな怪し過ぎる替え玉なんて使うまい。

 

 事情を説明してもらおうか、という圧力を出して研一はファルスを見る。

 

「ああ、それは僕の双子の姉上の事だね。それなら負け犬らしく、地下牢で大人しくしてもらっているよ」

 

「先代党首、だあ?」

 

「ああ、そうさ。力ある者には責任があるだとか、つまらない事ばっかり言って退屈だったからね。そんなの息苦しいだけで、何も楽しくなんてないだろう? だから双子の弟であるこの僕が直々に決闘を申し込み、党首の座を奪い取った訳さ!」

 

 そこでビシっとポーズを決める。

 

 相当に練習でもしているのか、無駄過ぎる程にキレキレの動きであった。

 

(おいおい、そうなると話が違ってくるぞ……)

 

 だが、重要なのはファルスの珍妙な動きの練度ではない。

 

 こんな何を考えているかも解からない党首が統治している国に、センを連れてきてしまったという事が研一を焦らせていく。

 

「本当は僕だって自重しようと思っていたさ。魔族との戦いも激しくなってきた。そんな中、僕みたいな快楽主義の男が党首になって足並みを乱すなんて、いくら僕でもどうかと思うくらいの良心はあったからね」

 

(だったら、そのまま良心に任せて大人しくしといてくれよ……)

 

 何も今、このタイミングで馬鹿な事をしないでもいいだろうと思う研一であったが、次に放たれたファルスの言葉に、何も言えなくなってしまう。

 

「そんな時、現れたのが君だ! その圧倒的な力で強く美しい国の象徴とも言える党首という名の華を手折っていく、まさに自由と欲望の化身!」

 

「…………」

 

「姉上は、どれだけ力があっても君に協力する気なんてなかったらしいけど、僕はそうは思わない。サラマンドラ国もドリュアス国も、マキーナ国は最後に少し手違いがあっただけで、結局、どの国だって党首がその身を差し出してでも君に助力を乞おうとした。それだけの価値が君にはあるというのに、協力しようとしない。足並みを乱しているのは、むしろ姉上の方なのさ!」

 

 つまり、このタイミングで党首の交代劇が起きたのは、偶然でも何でもない。

 

 ファルスという男を暴走させた切っ掛けこそ、研一本人なのであった。

 

「ほう、それでてめぇは愚かな姉とやらと違って俺様に協力してくれるって訳か」

 

 とりあえず地下牢に閉じ込められているという先代党首に関しては後で助け出すとして、協力してくれるというのなら、利用したくはある。

 

 問題は――

 

「で、代わりに俺に何をさせたいんだ、てめぇは?」

 

 対価も無く協力してくれるというのなら、センと一緒に来いなんて命令してくる訳がない。

 

 そして、悪党を演じている研一に共感して、応援なんてしようという人間の要求なんて碌な事の筈がない。

 

「さすが話が早い! やれ調和だの互いの事を考えろなんて言うばかりで、話を聞こうともしない頭の固い姉上とは大違いだよ!」

 

「お褒めの言葉どうも。それで要求は何だ?」

 

「時代は強者こそ求められている! 強い者が全てを手に入れ、その対価として魔族から人を守る。そんな単純にして明快な法則こそが、今の世には必要なのさ」

 

「それで?」

 

「決闘しよう。君が勝てば僕は君に何でも協力するし、この国にある物なら何だって差し上げようじゃないか!」

 

 党首を弄ぶが好きだというのなら、姉上を差し上げよう。

 

 そんな事を付け加え、ファルスは決まったとばかりにポーズを決める。

 

「へえ、そいつは豪気な事で。それで俺が負けたら?」

 

 本人の意志を無視して、当たり前のように実の姉を賭けの商品にするその精神性に、コイツとは生涯、解かり合える事はないだろうと思いつつ――

 

 研一は、自分の敗北に何が賭けられるのか、嫌な予感と共に確認を取る。

 

「君の敗北の暁には、君は僕の命令に従ってもらおう! そして君の自慢の奴隷とやらを、頂こうじゃないか!」

 

「へえ……」

 

 案の定、ファルスからの提案は碌でもないもので。

 

 センを物扱いする姿に、研一は必死で怒りを堪えたのであった。

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