憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第135話 始まりは脱獄から

「……申し訳ない。つい冷静さを欠いてしまった」

 

「……いや、こっちも色々と悪かった」

 

 アクアによる研一解からせ事件から、数分だけ時が流れ――

 

 先程までの痴態が嘘だったかのように落ち着いたアクアは、別人としか思えない程に物静かで知的な雰囲気を醸し出しており、ようやくマトモな話が始められそうな雰囲気になっていた。

 

 ――勿論、しっかりと服を着直しており、上も下も露出なんてしていない。

 

(それにしても、アクアさんに気を取られて気付いてなかったけど……)

 

 ようやく落ち着いてきた研一は、周囲を見渡して今自分が居る場所に気付いて戸惑う。

 

 石造りの牢屋だ。

 

 窓の一つすら見当たらず、入口の鉄格子には鍵が掛かっていた。

 

「それで確かセンちゃんを助けたい、という話でいいのかな?」

 

 どうして自分がこんな所に居るのか、と考えるよりも早く。

 

 アクアの声が響いて、研一は周囲を見渡すのを止めてアクアの方に顔を向けて話を聞く。

 

「あ、ああ。そうだけど――」

 

「それなら一先ず大丈夫だろう、とは言わせてもらおうかな。発言から誤解されがちではあるが、決闘して正々堂々と党首の座を奪い取ったり、アレで意外と一本気なところのある人間だからね。無理やり手を出したりする事はないさ」

 

(身内贔屓入ってないか?)

 

 救世主が一番気に入っているというだけでセンを欲しがり、ハーレムがどうこうと喚き散らしていた挙句に――

 

 双子の姉を極悪非道の変態と噂される自分の商品として、差し出そうとした人間だ。

 

 とても信用出来る言葉ではない。

 

「今はおそらく、件の奴隷を口説いているところだろうね。そのセンちゃん、だったかな? その子が愚弟の誘いを受けない限り手を出される事はないし、誘いを断ったからって扱いを悪くするような人間でもないよ」

 

「そう、か……」

 

 アクアの言葉を、そのまま鵜呑みになんて出来ないし、すぐにでも動き出す気ではある。

 

 それでも、きっと無事だと思い込んで研一は自分の心を抑え付ける。

 

 そうでもしなければ、ただ説明をしてくれただけのアクアに、八つ当たりでもしてしまいそうだった。

 

「……どうも君は噂と違って、そこまでの悪人ではないようだね。自分の持ち物が奪われたから怒っているというよりも、本当に心の底から奴隷の子の安否を心配しているように見える」

 

「それは――」

 

 いきなりセンを奪われてしまい、悪党の演技がいつもに比べて遥かに雑になっていたのかもしれない。

 

 一瞬、誤魔化そうと考える研一であったが――

 

(いや、もう勘付かれているなら下手に誤魔化した方が面倒な事になるか……)

 

 今は何を置いてでもセンを助けに行かなければならないし、協力者の存在は必要不可欠。

 

 それにサーラやベッカがあそこまで信用していた人間だ。

 

「実はですね――」

 

 ここは誤魔化さずに事情を全て話していこう。

 

 研一は決めると、包み隠さず自分のスキルの仕様とセンとの関係をアクアに打ち明けた。

 

「……ふむ。君の言い分は解かったし、確かに話の筋は通っているね」

 

「でしたら――」

 

「だが、その話を私が信用してあげないといけない理由は、あるのかい?」

 

 言われて初めて研一は、気付いた。

 

 自分のスキル強化のために悪党の演技をしておいて、それで悪党だと思われたままでは都合が悪くなったから、今までの事は全て嘘だなんて、あまりにも虫が良過ぎる話。

 

 事情を話しただけで過去の暴言を気にせず信じてくれた今までの人が、甘過ぎるくらいに優しかっただけ。

 

「君はそういう事も考えた上で、これからはスキルの運用を考えるといい。君に事情があるから仕方ない、なんて物分かりの良い人間なんて多くないのだから」

 

「えっと、信じてくれるんですか?」

 

「いいや? 君が嘘八百の出鱈目で僕を騙して協力させ、ここから脱出しようとしている悪党である可能性もある。けれど、君の話が真実である可能性も捨て難いからね。信じずに見捨ててしまったら、僕は一生後悔してしまうだろう」

 

 一先ずは、協力するとして。

 

 騙していた場合は、僕の全てを賭してでも君を殺すとするよ。

 

 そんな言葉を付け加えたアクアだが、そこで自らの首に付けられている首輪を摘まみながら告げる。

 

「だが、期待してくれているところ申し訳ないが、今の僕は魔力をほとんど封じられている状況でね。魔法なんて寝ている君を起こす事と、飲み水程度の水を出すのが精一杯なんだ」

 

「そこは大丈夫です。情報を知れるのが一番有難いので」

 

「そうかい? それじゃあ、まずは今の状況から確認していこうか」

 

 そして、アクアから研一が牢に入れられた経緯について説明されていく。

 

 あの決闘でファルスに湖に落とされた研一だが、どうもそこで溺れてしまったらしい。

 

 それもある意味では、仕方のないだろう

 

 いくら凄まじい身体能力を持っているとはいえ、研一は学校のプール以外で泳いだ経験なんて全くに近いレベルでない。

 

 その状態で投げ飛ばされた上も下も解からないような体勢で、服を着たまま泳げるかとなると厳しいものがある。

 

 そこで溺れた研一を介抱した後で、この牢に放り込んだのだろうとアクアは推測するが――

 

「ただ、不可解ではあるね。見物人は多く居た筈だし、君が溺れるまで誰も助けに入らないとは思えないし、決闘で負けたからと言って、それで罪人になる訳じゃないんだ。他国からの客人でもある君を牢に入れる理由が見当たらない」

 

「えっと……」

 

 言われてみれば、確かにその通り。

 

 ファルス自身もセンを奪いこそしたが、むしろあの悪党の演技をしていた研一に好意的であったように思うし、わざわざ牢に捕らえておく理由が浮かばなかった。

 

「……もしかしたら、僕の知らない何かが起きているのかもしれない。不確定要素がある以上、確かに、そのセンちゃんとやらは、早めに助け出した方が良さそうだ」

 

 そこまで告げると、アクアはポンポンと鉄格子を叩く。

 

 一体何をしているのかと思う研一であったが――  

 

「早速だけど、ここを出ようか。ああ、安心するといい。この国には水魔法を封じる為の首輪しかなくてね。君の魔法は封じられてない。壊してくれ」

 

「えっと、それじゃあ遠慮なく!」

 

 とりあえず、こんな牢屋に居たんじゃ何も始まらない。

 

 拳に魔力を込めると、躊躇いなく鉄格子に向かって叩き付けた。

 

「……物凄い破壊力だね。それでは、道案内は任せてもらおうかな」

 

 折れるどころか粉微塵になって消し飛んだ鉄格子を見て、予想以上の破壊力に冷や汗を流しつつ、アクアが先導する為に歩き出す。

 

 研一は迷う事無くアクアの背を追い、地下牢から抜け出したのであった。

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