憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第三章 双子の党首
第138話 よく考えれば解かる事


「あそこだ。センとやらがファルスと共に居るなら、あそこに居る可能性が一番高い」

 

 地上に出てしまった後は、早かった。

 

 シャロンのお陰で国中に悪評が響いて強化されている研一の身体能力は、地下という閉ざされた場所でもなければ、簡単に捕らえられるものではない。

 

 地下牢の先に待ち構えていた包囲網を、あっという間に抜け出すと、アクアの示した一番大きくて立派な建物、西洋の城によく似た外観の場所へと向かう。

 

「ふふ、それにしても上半身裸の男に抱きかかえられるなんて、初めての経験だ」 

 

 城に備えられた門の前まで辿り着いた時だった。

 

 先程戦った自称エリート戦士プリムスに上着を掛けた事で上半身裸になってしまっている研一に、アクアが独り言のように、そんな呟きを漏らす。

 

「……すみません。不快だとは思うんですけど、もうちょっとだけ我慢してくれると助かります。アレだけ大きい建物だと、案内がないとセンちゃんに会えるか、解からないんで」

 

「ああ、失礼。不快という訳ではないよ。むしろ、劇や本などでこういう場面を見て体験したいと願う女性の気持ちが今まで解からなかったが、確かにこれは楽しいというか、心が躍るものだなと感慨深く思っているよ」

 

「えっと……」

 

(党首として堅苦しい生活とかしてそうだし、こういうのが楽しいのかな?)

 

 さすがに会ったばかりの男に、これ以上抱えられるなんて嫌だろうし、ここからは別れて行動しようかと考えていたが、むしろご機嫌らしい。

 

 ならば、余計な気遣いは不要だろう。

 

「それじゃあ、どの辺に居る可能性が一番高いですか?」

 

 研一は城の方に目線を向けると、アクアに次の目的地を尋ねた。

 

「ああ。それなら多分、最上階。四階のあの辺りが一番可能性的には――」

 

「解かりました。しっかり捕まってて下さいね」

 

 言い切る前に言葉を被せると、研一はアクアをしっかり抱え込み――

 

 足に力を込めると、全力で地面を蹴って飛ぶ。

 

「お、おお?」

 

 それはもう跳躍と呼んでいい高さと速さでは、なかった。

 

 門の前から四階の部屋の窓という、決して近いとは言えない距離。

 

 それをたった一度、地面を蹴り跳ねただけで研一は詰め切ってしまうと、窓枠部分の僅かな出っ張り部分に指を引っ掛けるようにして、しがみ付く。

 

「壊す前に聞いておきますけど、ここの窓って開けられます?」

 

「……」

 

「えっと、アクアさん?」

 

「…………」

 

 どうもいきなりの跳躍で怖かったらしい。

 

 無理もないだろう。

 

 アクアは水の民と呼ばれる一族であり、海の上を歩く事や海に潜る事なら慣れているが、空を駆け抜けた経験などない。

 

(……失敗した。手に届くところにセンちゃんが居るからって焦った)

 

 ましてや、城の門から最上階までを一瞬で駆け抜ける速さだったのだ。

 

 いきなり予告もなく、大砲で撃ち出されたような気分だったろう。

 

 少し震えながら必死で抱き着いてくるアクアの姿に、研一は己の浅慮に気付いて後悔する。

 

「あ、ああ。そもそもこの位置の窓なら、鍵なんて掛けてないと思うから、開いているなら壊さないでほしい」

 

「……解かりました」

 

 相当に怖かっただろうに。

 

 それでも気丈に振る舞って質問に答えてくれるアクアに、今から変に心配したって、お互い気まずくなるだけなのは、火を見るよりも明らか。

 

 研一はあえてアクアの震えに気付いてない振りをして、窓に手を掛けた。

 

「え?」

 

 何の抵抗もなく開いた窓の先。

 

 そこで、あまりに予想していなかった光景が目に入ってきて、思わず疑問の声が漏れる。

 

「研一、さん?」

 

 探し人であるセンが居た。

 

 それ自体は突然ではあったものの狙い通りではあるし、本来ならば、これ幸いとばかりに連れて逃げ出すところなのだが――

 

(何で大人モードで着替え中なんだ!?)

 

 普段の子どもの姿ではなく、何故か大人の姿。

 

 おまけに透け透けのレースの付いた下着のような物を穿いて姿見の前に立っている上に、近くには大量の服を用意している状態ともなると、話が大きく変わってくる。

 

 ――ついでに言うと、研一は見間違いと思って記憶から削除してしまっていたが、見掛けた瞬間は、鼻歌まで歌っていた。

 

「えっと――」

 

 とりあえず、ここからセンを連れて出よう。

 

 状況とかは後で聞けばいいと思い、研一が動き出そうとした瞬間だった。

 

「や、やだ! 研一さん以外の男の人に、こんな姿――」

 

 研一に抱えられているアクアと目が合ったセンが、両手で自分の身体を隠すようにして、しゃがみ込んでしまう。

 

 おそらくアクアの事を、ファルスと勘違いしているのだろう。

 

「いや、僕は――」

 

 双子の弟に見間違えられる事に慣れてしまっているのか。

 

 不快感一つ見せず対応しようとするアクアであったが、それは叶わなかった。

 

「大きな声がしたが大丈夫かい、セン君!」

 

 部屋の外から扉を叩く音が響いたかと思うと、ファルスの叫び声がしてアクアの声を掻き消してしまったからだ。

 

「返事をしてくれ! もし後数回扉を叩いても、反応がないようなら部屋の中に入るよ!」

 

(……思ったよりマトモだな)

 

 もしもセンがファルスに酷い目に遭わされていると確信していたなら、この千載一遇の好機に迷わずセンを連れ去って逃げていただろう。

 

 だが、思っていたより遥かに大事に扱われている中、座り込んでしまっているセンを無理やり連れて行っていいのか。

 

 研一は、僅かに迷ってしまう。

 

「何もなければ恨んでくれていい! 入るよ、セン君!」

 

 そして、予想外の事態の連続に混乱してセンが返事を出来なかったものだから、心配したファルスが部屋に押し入ろうと扉を開ける。

 

 センが動けずに涙目になったところで――

 

「駄目だ! 入ってくるな、ファルス!」

 

 研一の腕の中に居たアクアが叫ぶと同時に、掌を扉に向けたかと思うと、水流を放つ。 

 

 放たれた水流は勢いよく扉にぶつかったものの、全く飛び散る事も無く、まるで意志を持ったつっかえ棒にでもなってしまったように、扉を抑え付けた。

 

「え?」

 

 完璧なまでに制御された水魔法であり、これ程まで上手く水魔法を扱える人間は、そんなに多くはないだろう。

 

 けれど、水魔法の制御力の区別なんて出来ない研一が驚きの声を漏らしたのは、そこが理由ではない。

 

(どうして、魔法を封じられている筈のアクアさんが、普通に魔法を使ってるんだ?)

 

 気付け程度の軽い回復魔法しか使えない、という話だった筈。

 

 今のはどう見ても、そんな類の魔法には見えなかった。

 

「……やれやれ。少々予定とは違ってしまったけれど、この辺りが良いタイミングではあるのかな」

 

 不信の目が、自分に向けられ始めている事にアクアは気付いたのだろう。

 

 するりと研一の腕から抜け出て、部屋の中に降り立つと――

 

 まるで紙切れで出来ていたんじゃないかと錯覚してしまうくらい容易に、魔力を封じているという首輪を外してしまう。

 

「申し訳ない。君が本当に噂通りの悪人なのか。自分の目で確かめてみたくて、ファルスと組んで君を試していた」

 

 そして、アクアは躊躇いなく頭を下げて謝罪を口にする。

 

 騙していた自分に、言い訳の言葉なんてある訳がないと態度で示すように。

 

(ああ、そうか。そうだよな……)

 

 驚きこそあったが、信じられないという程ではなく。

 

 研一は、静かにアクアの言葉を受け入れる。

 

(よく考えれば、最初からおかしかったもんな……)

 

 研一の評判なんて、力があるのをいい事に党首を次々毒牙に掛けている女狂いの変態野郎だ。

 

 そんな鬼畜を相手にして、魔力を封じて抵抗出来ない状態で同じ地下牢に放り込むなんて、飢えた獣の前に極上の肉を差し出ている事と何も変わらない。

 

 いくらセンを助け出す事だけに集中していたとはいえ、全く疑問にすら思ってなかった方が間抜けな話だ。

 

「……怒らないのかい?」

 

「人を騙しまくっている俺に、騙されたからって怒る権利なんてないですよ」

 

 バツが悪そうに問い掛けるアクアに、研一は笑って返す。

 

 だって、本当に怒るような事じゃない。

 

「むしろアレですよ。あんな酷い噂があるのに、党首自ら危険を冒して調べに来るなんて、尊敬してます」

 

(普通、あんな噂あったら入国拒否一択だろうからね……)

 

 それなのにアクアは噂だけで判断せず、自分の目で確かめようとしてくれたのだ。

 

 プリムスや追いかけて来た他の兵などの反応から考えるに、おそらくアクアとファルス二人だけの計画なのだろう。

 

 それならば研一の取る行動なんて決まってる。

 

「ありがとうございます。二人のお陰で、俺はファブリス国を助けに行けるかもしれません」

 

 謝る事なんてない。

 

 胸を張って自分の行動を誇ってほしいという想いを込め、頭を下げてアクアに御礼の言葉を告げるだけだ。

 

「……君の優しさに敬意を」 

 

 そんな研一の姿にアクアは、申し訳なさそうに少しだけ顔を歪めるも、それも一瞬。

 

 すぐに表情を引き締めたかと思うと、何かを誓うように胸に手を当てて、そんな言葉を研一に送り返した。

 

 そうして、研一の調査は、全て丸く収まったように見えたが――

 

(何か私、完全に忘れられてる……)

 

(……ネタばらしは、僕が盛大にする予定だったのでは!)

 

 完全に蚊帳の外で放置されているセンやファルスに、何とも言えない気持ちを残してしまったのであった。




 今のところ、サブタイトルは要らないって人が多いので、近い内にサブタイトル外してスッキリしたタイトルになると思います。

サブタイトルは要る?

  • 憎まれた世界の果てに、だけでいい
  • このままでいい
  • イメージとズレてるので別のに変えてほしい
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