憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第140話 夜の始まり

「やっぱり小さくても女の子って事かな……」

 

 もう辺りも暗くなり始める時間。

 

 研一は少し気疲れした声で言いながら、城の屋上で夜風に当たっていた。

 

(自分が好きな服を着てるのが一番良いと思うけど、どうして女の人って色んな服を見せたがるんだろうね)

 

 先程まで大人姿になったセンによるファッションショーに付き合っており、最初の方は楽しんでいる姿を見て微笑ましく思っていたのだが――

 

 さすがに一時間以上も、感想を求められ続けると疲れもする。

 

(他人の意見よりも自分の好みとか動き易さの方が大事だと思うんだけど、この辺の気持ちは、いつまで経っても解かりそうにないなあ……)

 

 研一は服に関しては、自分が着る分にも、相手が着ている姿を見る分にも大した拘りがない。

 

 動き易くて気温に応じた通気性があり、後は安ければ最高という程度の認識の人種だ。

 

 それに――

 

(元が可愛いんだから、よっぽど変な服でも着ない限りは可愛いとか似合っている以外に、特に何も言える事なんてないんだけど――)

 

 大人姿のセンは、身内の贔屓目無しに可愛いらしい女性に見える。

 

 美人だがキツイ感じのするベッカや綺麗過ぎて同じ人間に見えない時があるアクアとは違う系統の柔らかい雰囲気を持っており、日本で慣れ親しんでいる黒髪なのも相まり――

 

 研一的には、傍に居て落ち着くタイプの容姿ではあるのだが。

 

(さすがにドンドン露出が増えていくのは、どうかなとは思ったな……)

 

 どうも、センにはそれが不満だったらしい。

 

 センちゃん楽しんでいるなあ、なんて温かい目で研一が見れば見る程ムキになって、大人っぽいというよりは、それはもう水着とか下着に分類されないかという服を着始めるのだ。

 

 ――とはいえ、水の国ウンディーネでは水着のような服で出歩く人間は、別に珍しい事ではない。

 

 水の上を当たり前に歩き回っている人間が見えるから勘違いされがちだが、アレで水の中に潜る事が達者な人間も多く、濡れてもいい服を好む人間も多いからだ。

 

(だから日本に居た感覚を持ち込んで、あんまり露出の多い服で出歩くのはどうかなって言うべきではないと思うんだけど――)

 

 どうしても、センの無防備な姿を見ていると心配になってしまう。

 

 そこ等辺の兵士なんかよりは遥かに強いとベッカが言っていた事くらい覚えているが、それでも湧いてくる気持ちだけは、抑えようがない。

 

 過保護すぎるよな、なんて自嘲の笑みを漏らした瞬間だった。

 

「不便を掛けて申し訳ないね」

 

 後ろから声が聞こえて、振り返ると綺麗な人が居た。

 

 どうやらもう職務の時間ではないらしく正装していないせいで、アクアかファルスなのか、どれだけ目を凝らしても研一には判断する事なんて出来そうにない。

 

「ファルス。弟の方だよ、研一君」

 

 言葉なんてなくても、態度を見れば解かるのだろう。

 

 怒るでもなく慣れた様子で呟くと、研一の隣に立って話し始める。

 

「悪いね。表面上は君は鬼畜の変態男で脱走者なんだ。匿っているなんて解かれば、不満が爆発してしまう。暫くしたら脱走後、僕と意気投合したという事にして自由にするから、それまでは城から出ないでほしい」

 

「そこは別にいいんですけど――」

 

 まだ半日も経ってないのもあって、不便なんて感じていないし。

 

 仮にそれが一週間になったって、こちらの事情を理解してくれた上で協力までしてくれているのだ。

 

 文句なんて出よう筈がないし。

 

「城内に居る人達に見られているのは、大丈夫なんですか?」

 

 そもそも外を自由に出歩けないくらいで、不便にすら感じない程に丁重にもてなされている。

 

 部屋なんてベッドメイキングしてくれるメイドが来てくれるくらいだし、風呂場には専用の魔法使いが居て、浄化の水と呼ばれる水を溜めた風呂を頼めば用意してくれたりする。

 

 そりゃあこんな大きい城をファルスとアクアの二人だけで回せる訳がないだろうから人が居るのは当然にしても。

 

 秘密裏に匿っているという話にしては、随分な人数に目撃されていた。

 

「そこは問題ないさ。彼等も僕等が匿っている人々でね。世間とは隔離されて過ごしている人達だから、君達の事も新しい仲間候補としか思っていないさ」

 

「えっと――」

 

「気遣わなくていいよ。別にどこにでもある話、有力者におもちゃにされていた人や恵まれない両親の元に生まれてしまった、自分達ではどうする事も出来なかった人達だよ」

 

 聞いてもいいのかと迷う研一に、それこそ本当に気にするような話でもないとばかりに軽い調子でファルスは告げて。

 

 隠すような事でもないとばかりに、自然な態度で語り始める。

 

「清廉潔白で不正に厳しい党首、なんて立場を取っている姉上としては、容易には動き難い部分が多々多々あってね。常に目を光らせて締め付け続けると、ちょっと効率的に色々と都合が悪いのさ」

 

 トップであり不正を許さないという立ち位置のアクアが動くとなると、細かい不正すら全て叩き潰していかざるを得ない。

 

 そうしてイメージ通りの行動を続けなければ、それはただの耳澤りのいい言葉だけに成り下がり、力を失ってしまうからだ。

 

(いわゆる、お偉いさんの視察みたいなものだもんな……)

 

 だが、現実ではそんな監視が常にあるのは、誰にとっても不都合にしかならない事の方が多い。

 

 例えば数分の遅刻や逆に仕事の超過、予定外の休憩など全てを完璧に締め付ければ、その内耐えられずに人なんて居なくなっていくし。

 

 随時、お偉いさんに監視され続ける職場で、やる気と効率を維持して働き続けられる職場なんて、そんなに多くはないだろう。

 

 良くも悪くも、ある程度の遊びや余裕というものが必要なのだ。

 

 ――無論、だからってお目こぼしできる範囲を超えて好き勝手やるならば、容赦なくアクアが赴いて叩き潰す事になるのだが。

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