憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第五章 大事なモノは――
第154話 飛べ、研一


「実は昨日、お部屋でセンさんと喧嘩していた場面を盗み聞きしていました。ですから、アナタが何かしらの理由で悪党を演じている事は知っています」

 

 いきなり協力させてほしいと言っても、罠か何かと疑われて時間を無駄にするかもしれない。

 

 それならば、プリムスは自分の恥や外聞なんて、あっさり捨ててしまう。

 

 下らない見栄の為に大恩人の救出に間に合わなかったら、一生後悔するからだ。

 

「解かった。それで俺はどうすればいい?」

 

 研一も即座にプリムスの申し出を受け入れる。

 

 態度的に嘘を吐いているように見えないのもあったが、それ以上に、いつの間にかプリムスからの悪意が途絶えていた。

 

「協力を申し入れてくれたって事は、何か案があるのか?」

 

 何より疑っている時間さえ、今は惜しい。

 

 とにかく疑問は全て後回しにして、プリムスに協力する姿勢を見せる。

 

「勿論あります! このスーパーエリートにお任せです!」

 

 迷いなく信用してくれる研一の姿に、プリムスは張り切って魔法を発動させていく。

 

 それは水で出来た球だった。

 

 研一が、すっぽりと入ってしまいそうなくらいの大きさで、この水の球の中に入って移動でもするのだろうかと想像する研一であったが――

 

「高速移動に一番大事なのは、出力! つまりパワーです! この球にアナタを乗せて、私が魔力の限り、島に向かって射出します!」

 

「お、おう……」

 

「そこでアナタは球が海に落ちる前に、球を蹴って二段ジャンプするんです! 私の魔力とアナタの身体能力なら、それで届きます!」

 

 要するに魔力と身体能力任せた二段ロケット。

 

 ゴリ押し上等、力技以外の何物でもない移動手段だ。

 

「よし、それで行こう!」

 

 とはいえ、転移魔法も使えない今、確かに早く目的地に着こうと思えば、出来るだけ最短距離を最大パワーで進むというのは理に適っている気はする。

 

 研一は、迷わず用意された水の上に飛び乗る。

 

(ん? 思ったより、しっかりした乗り心地だな?)

 

 まるで水球の方から、足を掴んでくれているかのような安定感。 

 

 ウンディーネ国に入る時や小島に移動する時等に海の上に立った事はあるが、あの時は不安定で落ち着かない気分になったものだが――

 

 どうやら、射出したり途中で跳躍する事を考えて、プリムスが水球を制御して、色々な特性を持たせているらしい。

 

 これなら射出されても振り落される事はないだろうし、空中で蹴り飛ばす事だって難しくはなさそうだ。

 

「少しお待ち下さい。力を溜めます!」

 

 研一を水球の上にしっかりと固定しながら、プリムスが言葉どおり、魔力を高めていく。

 

 針に糸を通すような緻密な水球の制御。

 

 それに反する魔力の全力開放。 

 

 もし研一が魔法に詳しかったならば、驚かずには居られなかっただろう。

 

 相反する二つの魔力操作を同時に行なうのは至難の業であり、下手をするとプリムスの魔法の技術は、下手するとファルスさえ凌いでいるかもしれない。

 

「研一さん……」

 

 いよいよ、射出が近いと研一が思った瞬間。

 

 今まで黙り込み、様子を見守っていたセンが口を開く。

 

「センちゃん。俺は――」 

 

「いいです。全部解かってますから……」

 

 研一が何か言おうとするのを遮って、センは研一の額に手を当てる。

 

 そして、静かに魔法を発動させた。

 

「これは――」

 

 研一の頭の中に映像のような物が、一瞬の内に流れ込んでくる。

 

 城から、どこかの洞窟までを誰かが歩いているような光景。

 

 映像と違うのは、歩いている時に身体に感じる風の感触、洞窟の前に来た光景が見えた時に、泥のような臭いまで感じた事だろう。

 

(これがセンちゃんの魔法の効果?)

 

 その光景はセンがファルスから計画を聞かされた時に、ファルスが思い出していた記憶。

 

 これから大事な姉が死ぬかもしれないという強い想いがセンに伝わる事で見せた、目的地までの道のり。

 

(プリムスさんじゃ解からないよね。魔力感知なんて魔法の基本、研一さんが全く修めてないなんて……)

 

 魔力を探知して人を探すなんて技術を持ってない研一では、あのまま射出されただけでは、城に飛ばされた後で右往左往して、全て手遅れになっていただろう。

 

 そうなればセンの当初の望み通り、研一は戦わずに済んでいた筈だ。

 

 けれど――

 

(ごめんなさい、研一さん。私はまだ、全然研一さんの事を理解してなかった……)

 

 恋人が好きだと言ってくれた自分のままで居たい。

 

 だから、アクアを助けに行くなんて口にしていたが、あれも本音の一部ではあるが、全てではない事を、センだけは心を読み取ってしまったから、知っている。

 

(もしこれでアクアさんが死んじゃったら、色んな計画に協力してまで見殺しにした私が一番傷付いて、一生後悔してしまうなんて、優し過ぎるよ……)

 

 研一に最後の覚悟を決めさせてしまった理由こそ、セン自身だったのだ。

 

 そこまでセンを追い詰めた自分が悪いと思い、あえて研一はセンに嫌われるような言葉を放ち、アクアを助けに行く事にしたのだ。

 

「生きて、帰って来て下さい」

 

 それでも救出するどころか間に合う事も出来ずに、無力感に打ちのめされてしまうくらいなら、自分の意志で諦めてほしかった。

 

 けれど、プリムスの影響で助けが間に合う可能性が出てしまった以上、もう研一を止めてもどうしようもない事くらい、センにだって解かるし。

 

「それから、アクアさんに謝っておいてほしいです……」

 

 本当はセンだって、アクアに助かってほしかった。

 

 研一とどちらかを選ばないといけないなら、今だってアクアを切り捨てる事に躊躇いなんてないけれど。

 

 どちらも切り捨てずに済むのならば、本当はそれが一番な事くらい、最初から解かっていたのだから。

 

「ああ、絶対生きて帰ってくるよ。約束する。けど、謝るのは自分の口で謝るべきだよ」

 

 これから死地に赴く事になるなんて解っているだろうに。

 

 まるで買い物にでも出掛けるような気楽さで研一は、それだけ告げると――

 

「話は終わりましたね! 魔力も溜まりましたし、行きますよ!」

 

 見計らっていたように、プリムスが溜め込んでいた魔力を一気に開放する。

 

 押し留められ、堰き止められていた魔力が瞬きの間に爆発した。

 

 凄まじい魔力の波動に叩かれた水球は、研一を乗せたまま大砲の弾すら遥かに超える速度で打ち上がり――

 

 一瞬で見えなくなるくらい遠くまで吹き飛び、遥か彼方へと消えていってしまう。

 

「我ながら、ナイスコントロールですね!」

 

 それは間違いなく目的地である洞穴に一直線に進んだ軌道であり。

 

 寸分の狂いなく、研一を撃ち出せた事に満足したように、ドヤ顔で佇むのであった。

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