憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第162話 身勝手に命を奪うのならば

「…………」

 

 要するに、この神獣も人間の都合で無理やり生かされ続けてきた被害者。

 

 こんな話を聞かされて、お前さえ殺せば全て解決だな、なんて言ってぶちのめせるようなタイプの人間だったら、研一はもっと楽に生きられているだろう。

 

「どうやらここに来る前に、儂の上の人間達の避難も開始してくれているようじゃな。これで心置きなく逝く事が出来るわい」

 

(ああ、ファルスさん。ちゃんと皆を避難させてくれたんだな……)

 

 そんな研一の気持ちなんて露知らず。

 

 ウンディーネ国で暮らしていた者達に迷惑を掛けずに死ねそうだなんて、本当に嬉しそうな様子で語るものだから堪らない。

 

 これでは増々、倒す気が消えていく。

 

「どうしたんじゃ? 儂を消滅させる為に来てくれたんじゃろう?」

 

「いや、その――」

 

 気配か何かで研一が気まずそうにしている事に、気付いたのだろう。

 

 神獣が心配そうな声を掛けてくれるが、これから倒そうとしている相手に気遣われても、余計に縮こまる事しか出来ない。

 

「まだ上の者達の避難には時間が掛かるようじゃし、悩みや相談事があるなら聞くぞ? なに、人間の事等解らんが、こういうのは無関係な者に吐き出すだけでも気分が晴れるモノじゃよ」

 

「は、はぁ……」

 

(無関係どころか、当事者なんですよって――)

 

 ここからどうやって殺意を絞り出せばいいのかと思う研一であったが、そこで気付いた。

 

 そもそもの話、倒す必要なんてあるのだろうか?

 

「えーとですね、確かに貴方を倒す為にここまで来たんですけど、倒さずに済ませる訳には、いかないですかね?」

 

「どういう事じゃ?」

 

「ちょっと前の話で触れましたけど、俺としては貴方が生贄を求めている悪い奴だと思ったから倒そうと思ってたんです。ウンディーネ国の民に事情を話して、もう生贄なんて捧げないようにするというのは、どうでしょう?」

 

 そうすれば無駄に戦う必要もない。

 

 寿命までの間とはいえ、穏やかに暮らせるんじゃないかと思う研一であったが、すぐに浅はかな考えである事に気付かされる。

 

「随分と残酷な事を言うのう。それは人間で言えば、目の前に食糧があるのに我慢して、飢え死にするまで耐え続けろというのと同じ意味じゃぞ?」

 

「……」

 

 言われてみれば、その通り。

 

 それなら一思いに殺してくれと遠回しに言われてしまうのも、仕方ないだろう。

 

「えーと、それじゃあ別の場所に移動して、人じゃなく魔物や魔族を食べて生きていくとか出来ませんかね?」

 

「それも無理じゃな。儂の身体を構築しているのは水の神の魔力じゃ。その力を受け継ぐ水の民以外を吸収しても、身体の維持は難しいじゃだろう。この世界の水の民以外の全ての者を喰らい尽くしていけと言うなら話は別じゃが――」

 

(そんな事はしたくない、と。本当に良い人というか、亀? だよね……)

 

 よく考えれば、魔物でもいいなら、海の魚型の魔物でも食べているだろう。

 

 この神獣が生きていく為には強い水魔法の使い手が必須である以上、いよいよ倒す以外の道が浮かばない。

 

 そして、この神獣とアクアのどちらかを取れと言われれば、研一の選ぶ道は一つ。

 

(やる、しかないのか……)

 

 気は進まないが、戦うしかない。

 

 例え会話が出来ようと神獣こそが人の身勝手な被害者であったとしても、大事な友人の命には代えられない。

 

「何じゃ? お主は儂に生きていてほしいのか?」

 

「……そりゃあそうですよ。話を聞いてたら徹頭徹尾、貴方は被害者じゃないですか」

 

「お前さんみたいな人間ばかりじゃったなら、我が創造主もこの国の人間を見限ったりなんぞせんかったのだろうがなあ」

 

「……それは、どうも」

 

 褒められているのだろうが、この状態では素直に受け入れ難い。

 

 結局、研一だって神獣が完全な被害者だと理解した上で、自分の都合で殺そうとしている身勝手な人間でしかないのだから。

 

「じゃが安心せい。そういう意味では、儂は間違いなく、お前さんが倒すべき悪になるだろう存在じゃ」

 

 そんな研一の気持ちを知ってか知らずか。

 

 殊更明るい声で話を始める神獣の声に、研一の中で嫌な予感が広がる。

 

「それはどういう――」

 

「元々儂の身体は、創造主の魔力だけで満ちていた、それが後から人間の魔力を追加されていった事で、色々とおかしくなってきておってな。透明な水の中に少しずつ汚れが足されていった、と言えば想像出来るかのう?」

 

「何となくは……」

 

 誤魔化すように呟いたが、もう大体の想像は出来ていた。

 

 だって、よく漫画やゲームで見たパターンだ。

 

 自分の予想なんて外れてくれればいいと思いつつ、研一は神獣の次の言葉を待つ。

 

「こうやって話している儂と身体の意志は別にあってな。もう身体は暴走寸前で、水の民達を全員喰らいたくて仕方ないんじゃ」

 

「そんな――」

 

 けれど、どこまでも想像通りの流れ。

 

 確かに今まで以上に倒さなければならないという想いは増したが、結局、神獣が人間の身勝手の果てに倒されないといけない事には、変わらない。

 

「そんな悲痛の声を出すでない。これでも儂は、お主が来てくれた事に感謝しているんじゃ」

 

「感謝なんて……」

 

「生贄なんぞ捧げられて無理やり生かされてこそいたが、それでも水の民を守るという最低限、創造主の命を守れておった。じゃが、暴走してしまっては、ただ徒に水の民に害を為す存在に堕ち切ってしまう」

 

 暴走してしまえば、もはや国を守る為の神獣なんかじゃない。

 

 ただの迷惑なだけの害獣に成り下がってしまう。

 

「じゃから儂は、それを察して儂の身体が暴走する前に、どこぞの神が使いを寄越してくれたんじゃと思って安心していたんじゃ」

 

 だから、晩節を汚してしまう前に、ウンディーネ国を守り続けた者として死にたい。

 

 それが神獣の心からの願いなのだろう。

 

「……解かりました」

 

 これ以上、迷う事は神獣にとっても失礼だ。

 

 研一は覚悟を決める。

 

 だが――

 

「けど、俺は俺自身の大事な友人の為に、貴方を殺します」

 

 殺した責任を神獣や事情に押し付けて、自分を正当化して生きていこうとは思わない。

 

 許してくれとも言わず、ただ覚悟と共に研一が拳を握った瞬間――

 

「それでは儂の身体と、そして、あの子を頼んだぞ」

 

 突然、台風でも思わせるような凄まじい力の嵐が巻き起こる。

 

 それが神獣が膨大な魔力を研一に放ったのだと気付く事も抗う事も出来ないまま、研一は穴の外。

 

 アクアが居た場所まで吹き飛ばされたのであった。

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