憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第165話 憎まれたい時に限って

「二人とも、状況を説明してくれるかい?」

 

 研一とアクアの二人は、先に海への避難を終えたファルスと合流していた。

 

 ちなみに直接船に着陸したら船が大破し兼ねないので、船の近くにアクアの水魔法で着水した後に、船に飛び乗ったのだが――

 

(これはもう、船でも何でもないのでは?)

 

 避難船という話から大型船のような物を想像していた研一であったが、はっきり言って想像とは違う形であった。

 

 少し前までにセンと共に滞在していた城が、そのままプカプカ浮いているようにしか見えなかった。

 

 周りにある避難船と思しき物体も、普通の民家が水の上にあるように見える

 

(異世界で水の国だし、何かあるんだろう……)

 

 非常に気になるところではあるが、今は他にやらないといけない事があった。

 

 研一は頭を切り替えて、ファルスに事情を説明していく事にする。

 

「実は――」

 

 間違って自分が生贄の穴に落ちてしまった事。

 

 そこで神獣と会話し、神獣が暴走して迷惑を掛けてしまう前に倒して欲しいと願っている事を話し――

 

 今の力では、神獣に傷一つ付けられない事を話した。

 

「間違って落ちた訳じゃないだろう。君は僕を庇って――」

 

「細かい話は良いじゃないですか。今、大事なのは、どうやって神獣を倒すかです。という訳で、ファルスさん、何か良い案はないでしょうか?」

 

 納得いかないとばかりに訂正しようとするアクアの言葉を無理やり遮り――

 

 研一は強引に話を進めていく。

 

 これは別に、照れ臭かったから誤魔化したという訳ではない。

 

「神獣様自身が生贄を求めていた訳ではなかった事だけは予想外だけど、大体は、僕も想定していた事態ではあるんだけど――」

 

「やっぱり、先に何か動いてくれていたんですね……」

 

 実のところ、少し前に研一の力が急激に伸びる瞬間があった。

 

 アクアとの戦闘が始まった付近だ。

 

 おそらく、そこで研一の力が急速に増した事により、人体の水分を操るというアクアの技の計算が狂い、研一はアクアの攻撃に耐える事が出来ていたのだろう。

 

「ああ。姉上がウンディーネ国を安定させる為の儀式をしていたが、儀式に勤しむ姉上の姿に興奮した研一君が、止めようとした僕を蹴散らして、無理やり姉上を攫っていったと国民には伝えてある」

 

「……概ね間違ってない、か」

 

 自分だけ犠牲になれば済むなんて思っているアクアに憤っていたのは確かだし、邪魔するファルスだって倒したと言えば倒しただろう。

 

 無理やり攫っていったという件に関しても、神獣が動き出して危険なのもあり、特に了解とかも得ず、お姫様抱っこして脱出したのだ。

 

 何の反論もする気はない。

 

「いや、間違いだらけだよ! 何言ってるんだい、研一君!」

 

「だから細かい事は今は置いといてですね。とりあえず、何でもいいから俺が恨まれるような噂を皆に流してくれませんか?」

 

 けれど、アクア的には突っ込みどころしかないらしい。

 

 どうも自分の事には無頓着な癖に、研一の事となると何か言わずには居られないアクアの姿に、根は真面目なのかなと感じつつ――

 

 やはり構っている余裕がないので、適当にあしらって、ファルスに話を振っていく。

 

「もう少し君達が登場の仕方を考えてくれていたなら、いくらかやりようがあったんだが……」

 

「登場の仕方、ですか?」

 

「あんなうっとりした表情で自分から君の首に手を回している姉上の姿を見られたんじゃ、僕の話なんて説得力の欠片もないじゃないか!」

 

 ウンディーネ国全土から魔力が溢れ出し、誰の目から見ても危険な雰囲気を醸し出していた時は、誰もがファルスの言葉を信じた。

 

 研一が神聖な儀式を邪魔し、ウンディーネ国の党首すら汚したから、神罰が下されようとしているのだ、と。

 

 そう考えて多くの人間が、余計な事をしやがってと研一を恨み、憎んでいただろう。

 

 だが――

 

「事実ってのはどれだけ隠そうとしても、隠し切れるものじゃないからね。実はウンディーネ国を安定させる為の儀式の正体は、生贄の事なんじゃないかって考察していた人が少なからず居て、そんな中、幸せそうな姉上が君に運ばれてきたんだよ……」

 

 儀式を邪魔された挙句に、ウンディーネ国が大変な事になっているというのに。

 

 党首であるアクアが、研一を信頼し切った表情で現れたとなると話が変わってくる。

 

 もしや以前から噂されていたように、本当は儀式というのはアクアを生贄に捧げる事であり、それに気付いた救世主様が、助けてくれたのではないか。

 

 なんて、言い出し始める者がチラホラと出てきてしまったのだ。

 

 ――しかも、大体合っているだけに余計ややこしい。

 

「評判なんてあってないような僕の言葉なんて、もう誰も信じちゃいないさ。僕が千の言葉を並べ立てようとも、恋する乙女の顔の前では無意味だからね」

 

 どこかヤケクソ気味に、そこまでファルスは語ると――

 

「僕から出来る提案は一つ。姉上を連れて、どこか遠くへ逃げてほしい。こっちは、何とかしてみせるさ」

 

 研一達だけでも生き残れ。

 

 それこそが、最良にして最後の手段であり――

 

 今まで人生をウンディーネ国の為に使い続けてきた姉に出来る、最初で最後の孝行だと。

 

 穏やかで満足気でありながら、死を覚悟した表情で告げる。

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