憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第166話 無責任万歳!

「君を犠牲になんて――」

 

 ファルスの覚悟を感じ取ったのだろう。

 

 そんな事はさせられない、とアクアがファルスの言葉を否定しようとするが――

 

「先にそっちが犠牲になろうとしたくせに、僕は駄目とか許さないよ。ずっと国の為に頑張ってきたんだ。もう姉上は自由になるべきさ」

 

 こればかりは譲れないとばかりにファルスはアクアの言葉を遮ると、アクアの抱き締め、耳元に口を寄せる。

 

「好きなんだろう、研一君の事。だったら姉さんは、ここで死んじゃ駄目だ」

 

「でも、研一君は僕の事なんて――」

 

「今はそうでも、生きて一緒に居れば心変わりくらいするさ。姉さんは、誰よりも魅力的な女性なんだからさ」

 

 ファルスの言葉にアクアの瞳が揺れる。

 

 普段のアクアなら、きっと何を言われても迷う事なんてなかっただろう。

 

 だって、生き残ったところでやりたくもないウンディーネ国の党首を続けるしかない。

 

 それならば誰かの役に立って終わりにしたいと思う事に何の躊躇いもなかったが、今は逃げた先に自由がある。

 

 けれど――

 

「誰も犠牲になんてする気ないよ」

 

 アクアの迷いや戸惑いを吹き飛ばすように、強い覚悟の込められた声が響く。

 

 研一が神獣の居る方向を真っ直ぐ見詰め、拳を握っていた。

 

 ――ファルスが耳打ちした会話までは、研一には聞こえておらず、迷うアクアの表情を見て出た言葉であった。

 

「確かに物凄い力を感じる。今の俺じゃあ手も足も出ないのも解かるし、諦めたくなるのも解かるよ」

 

 今も尚、力は少しずつだが衰え続けている。

 

 だが、それでも完全にウンディーネ国民達からの恨みの力がなくなった訳ではない。

 

 きっと半信半疑。

 

 何か切欠があれば、きっと一気に研一への怒りや嫌悪が募り、噴き出してくれるだろう。

 

 それに――

 

「けどさ。まだ助かる道があるんだ。諦めるには早過ぎる」

 

 研一の身体から突然、膨大な魔力が吹き荒れる。

 

 ファルスやアクアと対峙した時すら凌駕する程の圧倒的な力。

 

「こ、これは――」

 

「君はまだ、こんな力を隠して……」

 

 さすがに神獣には届かないかもしれないが、それでもまだ全力を出してなかったのかんて、アクアやファルスに希望を抱かせる程度には十分だったらしい。

 

「……何の勝算もなく、無責任に手を差し伸べたりなんてしませんよ」

 

 驚く二人に返事をした瞬間、更に研一の力が爆発的に増す。

 

 力の底が見えない研一の姿に、アクア達がこれなら何とかなるかもしれないと、諦めに塗り潰されていた目に期待の光が灯っていくが――

 

 そんな二人とは対照的に、研一の表情は僅かに曇る。

 

(子どもの頃、漫画とかでこういう事する主人公って大っ嫌いだったんだけどな……)

 

 何故なら、アクアだけが犠牲になるなんておかしいとか、センに誰かを犠牲にしたなんて想いで生き続けてほしくないという、衝動的な感情で生贄になろうとしたのを邪魔しただけ。

 

 神獣の事なんて最初から考えていないんだから、勝算も作戦もある訳ない。

 

 全部、アクア達の不安を拭う為の、今思い付いた口から出まかせだ。

 

(一人死ねば残り全員は絶対に助かる。全員助かる可能性があるが、失敗すれば大勢の犠牲が出るって言うなら、そこは泣く泣く一人を犠牲にするべきだろうって思ってたのに……)

 

 不確かなロマンを語って、無責任に大勢を危険に晒す。

 

 そりゃあ本人は気持ちいいだろうし、漫画なんだからどうせ結局は、皆助かってのハッピーエンドで終わるからいいだろうが――

 

 現実でこんな奴が居たら、そういう英雄願望は誰も巻き込まず、一人でやって一人で成功するなり、一人で死んでくれとしか思ってなかったし。

 

 その気持ちはむしろ、今の方が大きいくらいだ。

 

(単に選べないだけなんだよな……)

 

 同じような立場になって、初めて解かった。

 

 単に誰を犠牲にするか選べない。

 

 決断出来なかった代わりに、その分だけ、苦労するしかないって話なんだろうと研一は思う。

 

(全部の主人公が全部、俺と同じって訳じゃないんだろうけどさ……)

 

 中には、考えなしにロマンを追い求められる者も居るだろう。

 

 大勢を犠牲にしてしまうリスクを想像して、それでも全てを背負って突き進める者だって居るのだろうとが――

 

 少なくとも研一は、そんな出来た人間ではない。

 

 覚悟も想像力も全て足りないまま、ただその場その場で助けたい者を選んでいたら、取り返しの付かない場所まで来てしまっただけ。

 

(皮肉な話……)

 

 だからこそ、研一は自分の事を心の底から嫌悪する事が出来る。

 

 自分の考えなしの行動が、二十万にも及ぶウンディーネ国の人の命を危険に晒しているのだ。

 

 自覚すればするほど、力が沸いてくるというもの。

 

「今の俺に国民全員からの敵意や悪意が加われば、神獣だって敵じゃないです。だから二人とも、頼みます!」

 

 更に恨まれる為の具体的な案の一つも自分からは提示せず――

 

 全ての作戦をアクア達に丸投げして、研一は跳躍して船から飛び立つ。

 

 おそらく暴走しつつも、本能的に生贄を探し求めているのだろう。

 

 ウンディーネ国民達の集まる船団に向かって、ゆっくりと向かってきている神獣と止める為に。

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