憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第169話 こんな時にイチャイチャしやがって、とか思っている訳ではない

「その程度の気持ちで命を賭けるって、君は言うのかい?」

 

 だとしたら君は、別方向でマトモじゃない。

 

 吐き捨てるように呟かれた言葉を、研一は首を振って否定する。

 

「これは俺がアクアさんに憧れたりとか、尊敬している理由みたいなものです。そんな下らない事で、あんなどうやって戦っていいかも解からない相手に立ち向かえる程、頭おかしい人間ではないつもりですよ」

 

 確かに研一は、悪党を問答無用でぶっ飛ばせるような人間や、自分の目的の為なら誰でも犠牲に出来るような強さを持つ人間に憧れ、惹かれる。

 

 そこは否定出来ない。

 

 けれど、それが戦う理由になんて、なりはしない。

 

「アクアさんって。ウンディーネ国の為に、自分をずっとずっと押し殺して、生きてきたんでしょ? そこまで頑張り続けた人が、何も報われないまま死ぬなんて、俺は嫌なんですよ」

 

 一番頑張ってた人が、誰よりも報われてほしい。

 

 言葉にすれば単純で、陳腐な願い。

 

 けれど、実際に報われる事なんて世界に、どれくらいあるだろう。

 

「……国の党首なんだ。そうやって民の為に身を削るのが姉上の仕事だよ」

 

「党首だろうが仕事だろうが、頑張ってきたのはアクアさんだ。もっと褒められて報われるべきなんですよ」

 

 例えば仕事の話。

 

 相手だって給料貰っているんだから、ただ業務を行っているだけの人間に感謝なんて必要ないなんて言う者が居るが――

 

 それが正しいとは、研一は思わない。

 

 接客してくれれば有り難いと思うし、忙しそうにしていれば心配にだってなる。

 

 緊急事態が起きて止む無く繁忙期に呼び出してしまった日には、申し訳なさでいっぱいだ。

 

 態度が悪かったり仕事が雑だったりすれば、それに文句や不満を覚えてもいいように――

 

 丁寧に対応してくれたり、頑張っている者に感謝を覚えて何が悪い。

 

 それが研一の考えだ。

 

 ――無論、どちらも最低限の仕事はこなしている事前提の話だ。

 

 仕事してやってるんだしと、金貰っているにも関わらず横柄な態度をしたり、サボっている人間に尽くす礼儀などない。

 

「……ウンディーネ国始まって以来の最高の党首だと、誰からも尊敬されているじゃないか」

 

「けど、そこにアクアさんを見ている人は、居ないんですよ」

 

 憧れや尊敬なんていうのは、物の見方を変えれば、相手を遠ざけて偶像を押し付ける行為に等しい。

 

 想いが強く濃くなればなるほど、偉大な党首という枠組みだけで見るようになり、アクア個人を真っ直ぐに見られる者は減っていく。

 

「苦しかった時によく頑張ったなって言って、嬉しかった時に一緒に喜び合う。そういうものがないと、きっと人は歪んで壊れていきます」

 

 例えばテストで良い点数を取ったり、予習復習を頑張ったとする。

 

 そこで勉強は自分の将来の為にするものなんだから、褒める必要なんてないという扱いで、褒められる事もない中、頑張り続けられる人間がどれくらい居るだろうか。

 

 自分の子どもなんだから、この程度は当たり前。 

 

 高い金を出して家庭教師を付けてやってるんだから、出来なきゃ役立たずだなんて言われ、怯えと共に勉強を続ける人間が歪まずに居られるだろうか。

 

「あんな全てに納得して諦めたような寂しい笑い方で、生贄になっていい人じゃない。そんなの俺は許せない」

 

 今までウンディーネ国の為に、頑張ってくれてありがとう。

 

 そうやって多くの人に惜しまれながら、それこそ老衰か何かで死ね。

 

 仮にそんな終わりが無理なら、せめて何で今まで頑張ってきたのに生贄にならないとならないといけないんだって泣き叫べ。

 

 あんな悲しい結末に、心の底から納得して逝こうとするなんて――

 

 どうしたって研一には認められない。

 

「許せないって、そんな自分勝手な――」

 

「解かってますよ。一番頑張った人が一番笑っていられる結末になってほしい。これは俺の勝手な自己満足の押し付けでしかなくて、無責任に首だけ突っ込んできやがってって恨まれる事はあっても、感謝されるような事じゃないので」

 

 これで助けてやってるんだから感謝しろなんて思う人間は、良いトコ取りだけして自分は傷付かず、気持ち良くなりたいだけの英雄願望に取り付かれた傍迷惑野郎だろう。

 

 成功したら俺を感謝して崇めろ。

 

 失敗したなら、良かれと思ってと言って責任逃れ。

 

 どこにでも居る、部外者気取りで掻き回すだけ掻き回して、成功した時だけ甘い蜜を啜ろうとする偽善者だ。

 

「そうやって独り善がりな気持ちで動き回った結果、こんな大事になってるんですから、無責任な駄目人間にも程がありますけどね」

 

 とはいえ、研一だって褒められたモノではない。

 

 本人も言うように、後先考えずに気持ちの赴くままに突っ込んで。 

 

 自分の行動に潰され、多くの者を巻き込んで死にそうになっている独善者。

 

 けれど――

 

「……君は馬鹿だよ。そんな事の為に、こんな――」

 

 そんな独善に救われる者も居る。

 

 突き放すような罵倒の言葉とは裏腹に、もう二度と離さないとばかりに強く研一を抱き締めて、顔を隠すように押し付けた。

 

 それは、ファルスの恰好をしているアクアであった。

 

 本来なら国の党首として、民衆を守り導かなければならない立場であったが、ファルスが代わりを買って出て、衣類を交換して研一の救援に駆け付けていたのだが――

 

 ファルスと思い込んでいる状態で、こんな言葉をぶつけられたのだ。

 

 顔でも隠していないと、色々とやってられない。

 

「はは、馬鹿だって自覚はありますよ。昔から散々、色んな人に言われてきましたので」

 

(何だ? 美形は男でも良い匂いするのか?)

 

 密着が強まった瞬間、不意に鼻というよりも男としての本能をくすぐる何かを感じた研一であったが――

 

 自分はそういう趣味はない筈だと、首を振って否定しようとする。

 

 その瞬間だった。

 

「――――」

 

 まるで怒りを堪えているようなイラつきを帯びた神獣の声が響いて、研一は我に返った。

 

 もはや背景映像か音楽にしか感じていなかったが、今は戦闘中なのだ。

 

 より効率良く魔力を供給する為に、密着感を高める為に抱き着いてきたのだろうと納得する。

 

(さて、どうしたものか……)

 

 膠着状態を楽勝で維持しているように見えるが、実のところ、そこまで余裕がある訳ではない。

 

 魔法無効化だって魔力を消費する以上、無限に続けられる訳ではなく、後数分もしない内に魔力は尽き果てるし。

 

(魔力が通じない事に痺れを切らされたら、そこで終わりだ……)

 

 体当たりなんてされようものなら、根本的な質量があまりにも違い過ぎる。

 

 轢かれて木端微塵になる事、間違いなし。

 

 そして、研一の見ている前で神獣は予想外にして最悪の行動に出た。

 

「と、飛んだ!?」

 

 島そのものというべき巨体を持つ神獣が、海を揺るがし大空へと飛翔したのだ。

 

 あまりに大き過ぎる身体が日差しを完全に遮り、辺り一面を影で覆い尽くす。

 

 研一を真似て空中から爆撃してくるのか、それとも研一達を無視して後ろの船団を狙うのか。

 

 どちらにも対処出来るように、魔力無効化の膜を張るべく魔力を練り上げていく研一であったが――

 

 それが自分に都合の良い選択だと、きっと頭のどこかで解かっていた。

 

「違う、研一君! 物理的に僕等を押し潰すつもりだ!」

 

 そんな甘い考えで居たら死ぬぞと言わんばかりに放たれたアクアの声に、研一は覚悟と共に拳を握る。

 

 もはや多少の小細工では、どうしようもない。

 

 殺すか殺されるか、最後の大勝負だ。

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