憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第五部 傲慢と謙虚と肉球ござる
第175話 三人寄れば何とやら


「今頃、研一達はファブリスに着いた頃でしょうか?」

 

 研一が神獣との死闘を終えてから数日後、炎の国、サラマンドラ国内の城内にて。

 

 サラマンドラ国の党首であるサーラの何気ない呟きが、室内に響いていく。

 

 それは一仕事終え、独り言のように呟いただけの言葉の筈だったが、その消えていく筈の言葉に答える者が居た。

 

「おそらくそうだろうね。あの位置からファブリス国のある地に着くのに、それ程時間は掛からない。多少の問題が起きたところで、研一君なら何の障害にもならないだろうさ」

 

 男装の麗人といった佇まいの、元ウンディーネ国の党首であるアクアだ。

 

 転移魔法で研一にサラマンドラ国に飛ばされて以降、食客扱いでサラマンドラ国内で自由に過ごしている。

 

 かつての国の党首が動き回って問題ないのかと思うかもしれないが、テレビもネットもない世界なのもあり、名前こそ知られているものの、顔まで知っている者は少なく――

 

 女狂いで知られる研一が、どこかの国から美人を攫ってきたのだろうというのが大衆の認識で、同情の目を向ける者は居ても、関わろうとする者は皆無に近い。

 

 憐みこそすれ、下手に手を出して変態救世主に目を付けられるなんて、誰だってごめんだからだ。

 

「あの方を評価しているのは嬉しい事ですが、その親しげな物言いは気になります」

 

 とはいえ、全く誰も関わらないという訳ではない。

 

 例えば、研一が女狂いの変態ではなく、心優しい青年だという本性を知っている者ならば、わざわざ無視する理由なんてないからだ。

 

「もはや貴女は国の党首でも何でもない只人なのですから、もっと敬意を持った接し方をしては、如何でしょう?」

 

 慇懃無礼と言った態度でアクアを睨み付けたのは、メイド姿のプロディである。

 

 世間的には研一が他所の国から攫ってきた奴隷一号であり、かつて雷の国最強と呼ばれた魔人でおり、公には魔族と戦って戦死した事になっている女性だ。

 

「その言葉は、ちょっと僕はどうかと思うな。確かに彼は偉大で敬意を払うべき救世主様だよ。そこに異論はないさ」

 

「でしたら――」

 

「だが、彼がそんな扱いを良しとすると思うかい? 公の場なら確かに僕等は奴隷として媚び諂い、彼の悪評を高める手助けをすべきだ。けれど、事情を知っている者しか居ない場なら、彼を一個人として扱い、普段の重圧から開放して癒してやる事こそ、彼を本当に想うという事じゃないかい?」

 

「…………」

 

 アクアの言葉に、プロディは憎々しげに黙り込む。

 

 そんな事、言われなくても解ってるし、自分が言い掛かりを付けている事くらいプロディ自身が一番解っている。

 

 けれど――

 

(私が迫った時はあんな冷静にあしらっていた癖に、この女が迫った時は、慌てて転移魔法を使って吹き飛ばしたという話ですが――)

 

 アクアが転移してきた経緯を聞かされて以来、どうしても心が落ち着かないのだ。

 

 別に自分がアクアより綺麗だとか、アクアより色っぽいだなんて言うつもりはない。

 

(確かに水の国が生んだ女神だなんて謳われるに相応しい端正な顔付きをしている事は認めましょう。肌だって透き通るように綺麗ですし、身長だって高過ぎず小さ過ぎず、研一様の隣に立てば丁度良いくらいなのかもしれません)

 

 客観的に見ても、美しさで勝っているとは思わない。

 

 女らしさという分野においても、研一よりも僅かに身長が高いデカ女に比べれば、アクアの方が魅力的だろうなんて、プロディ自身が思ってしまっている。

 

 ――女としては高めの身長に、密かに劣等感を持っていた。

 

(ですが、そこまでの差がありますか! 私の裸には顔色一つ変えなかったというのに、そんなに私と、この女の身体に差があるというのですか!?)

 

 だが、それでも納得出来ないのは事実。

 

 デカイ事さえ差し引けば、自分だってそんなに悪くない身体をしている筈。

 

 出るトコはしっかり出ているし、武闘派なのもあって引き締まる部分は引き締まってる。

 

 顔だってアクア程ではないにしろ、整っている方だと思いたいが――

 

(不愛想過ぎる、のでしょうか?)

 

 長年、多くの人を憎んできたせいもあってか。

 

 プロディ自身、愛嬌に欠けているという想いがある。

 

 殿方に愛される為には、もっと柔らかい雰囲気を身に着けた方がいいのかなんて、プロディはアクアと他愛ない会話を続ける合間に、溜息を吐く。

 

(やはり、この方も研一を愛しているのですね……)

 

 アクアと話しながらも、どこか憂いを帯びたプロディの姿に、傍で見ているサーラも表情が曇っていく。

 

 一見すると無表情で解かり難く感じるプロディだが、暫く一緒に居れば色々と解ってくるというか――

 

 研一の話題になると、すぐに態度が急変するので、解かり易い事、この上ない。

 

(きっとアクアと自分を見比べて劣等感なんて覚えているのでしょうね……)

 

 プロディの気持ちは、サーラにも痛いほどに理解出来た。

 

 いや、プロディ以上に深刻と言っていいだろう。

 

 サーラも研一に迫った事があるが、照れられるどころか盛大に嘔吐されてしまったという経験があるからだ。

 

(何か心境の変化があったのだと思いたいのですが――)

 

 まさか自分の身体が見るに耐えない程に醜悪だったとは、サーラとしても思いたくない。

 

 亡くなってしまった恋人に関する心の傷が癒えてきた結果、女性に対して正常な反応をするようになったのだと信じたいが――

 

 こればかりは、他人と比べていては解からない。

 

(もう一度、私自ら裸で迫って前回と反応の違いを確かめて――)

 

 悪ぶった態度が演技なのは、サーラだって既に知っている。

 

 それならば、逆に少しでも反応すれば国の為に仕方なくという空気で押せば、逆に誤魔化して逃げる事は難しい。

 

(私の裸が見えている興奮と悪人ぶろうとする演技で手一杯になっているあの人を押し倒して、そのまま勢いで服を脱がしてしまえば――)

 

 そこまで想像したところで、サーラは以前に見た、研一の裸を思い出す。

 

 前に居た世界では戦いとは無縁だと言う割に、随分と鍛えられた逞しい身体をしていた。

 

(あの胸板に指をなぞらせ、頬ずりをしたら、どれだけ心地いいのでしょう。それで私の口や舌を這わせて、気持ち良くなってくれたなら――)

 

 想像しただけで、ゴクリとサーラの喉が鳴る。

 

 あまりにも甘美な妄想に、背筋の奥に痺れが走るような感覚を覚えるが――

 

「党首様? 急に一人で顔を赤くしてどうしたんだい?」

 

 そこでプロディと話していたアクアが、サーラの雰囲気が変わった事に気付いて声を掛けた。

 

 サラマンドラ国が砂漠だらけの暑い国とはいえ、暑さには滅法強い筈の炎の国の党首様が、突然、顔を赤くしてモジモジし始めたのだ。

 

 気に掛けない方がおかしいだろう。

 

「い、いえ。何でもありませんよ。それで研一についてなのですが――」

 

 サーラは誤魔化して、どこか浮かれた様子で最近の研一の事に付いて、アクアに訊ねていく。

 

 三者三様に考え方に違いはあれど――

 

 全員が同じ男に恋する乙女であり、研一の本性という秘密を共有する同盟者。

 

 思い出したように不穏な空気になったりするものの、それでも会話は耐える事無く続いていく。

 

 好きな人の活躍なんて、いくら聞いたり話し続けたって、飽きないものなのだから。




 第五部開始です!
 引き続き、火曜・土曜日に更新しているので、のんびりとお付き合い頂ければ嬉しく思います。
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