憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第180話 怒りの研一

「申し訳ない。お待たせした、救世主様」

 

「はっ。そっちから俺様の力を借りたいと言ってきた癖に随分と待たせるじゃねえか。なんだ、お客様を外で待たせとくのが、ファブリスの流儀ってか?」

 

 会話を終えて帰ってきた女隊長に、嫌味たっぷりに言葉をぶつける。

 

 ここまでしなければ、今の状況から考えるに、憎まれてもらえないだろうという目論みだったのだが――

 

「……重ね重ね、申し訳なく思うが、貴公は我々の身体を報酬に望んでいると聞いている。間違いないだろうか?」

 

「他に何もないんだから当然だろう? それともなんだ? 他に俺様が喜ぶ、お宝でもあるっていうのか? あ?」

 

「い、いや。確かに財宝もないし、ミリティの武具も素手で吹き飛ばすような力を持っているなら、装備も却って邪魔になるだろうが――」

 

「なんだ? 不満だってのか? これでも貧乏人共に配慮した、良い報酬だと思うがな。それとも何か、俺に無償で命を賭けろとでも言う気か?」

 

「……その、我々の多くは獣人だ。それでも本当にいいのか?」

 

 言い難そうに告げる隊長の言葉の意味が研一には、さっぱり解からない。

 

 が、とりあえず報酬の支払いを渋っているという事だけは理解した。

 

「ああ、なんだ。その訳の解からねえ理屈は。そんな事で報酬を踏み倒せると思うなよ」

 

 それならば、やる事は一つ。

 

 嫌でも報酬は支払ってもらうし、それが出来ないならば少しも手を貸してやらないと融通の利かない女好きの乱暴者を演じるだけ。

 

「言っておくがなあ。見た目が良くて穴さえちゃんとあるなら、俺は獣人だろうが魔族だろうが魔人だろうが、何でもいいんだよ。それこそ別嬪が居るってんなら、魔族とやらに俺の力を売り込みにやってもいいんだぞ?」

 

 報酬という弱みに付け込んで、犯せる女ならば誰だろうが何だっていい。

 

 これは女の目から見たら相当に嫌な男だろうと、内心でほくそ笑む研一であったが――

 

「……貴公がそれでいいならいいんだ。我々のような者の身体に、国一つを奪ってくれる程の価値があるとは思わなかっただけでな。忘れてくれ」

 

 どうも何か対応を間違えてしまったらしい。

 

 怒らせるどころか、どこか拍子抜けしたような態度で胸を撫で下ろす女隊長の姿に、内心で焦るものの、今更方向転換するのも難しい。

 

「言うじゃねえか。それなら国を奪還した暁には、報酬分、たっぷり濃厚に尽くしてもらうとするかな」

 

 もはや意味がないと解かっていながら、悪党の演技をする事しか研一には出来ない。

 

 ここまで話がまとまったところで、更に弱みに付け込んで報酬を釣り上げた方が悪印象になるという事さえ、思い付かないのだ。

 

「交渉成立だな。我々の身体程度でファブリス国の正規部隊と戦おうとは、噂以上の豪傑だな」

 

 逆に女隊長の方は気付いている。

 

 だからこそ、これからよろしく頼むとばかりに手を差し伸べ、何かを言われる前に話を打ち切ろうとするが――

 

「おい待て。『正規部隊』だぁ?」

 

(という事はアレか? もしかしてこっちは国家転覆を目論むテロリスト集団とかだったりするのか? だったら話は変わってくるぞ……)

 

 さすがに前提条件が変わってくるとなると、聞き逃せない。

 

 研一は今まで出会ってきた党首達の事を好意的に思っているし、自分から敵に回る事なんて考えたすらなかったのだ。

 

「聞いてねえぞ! てめぇ等、まさか俺様を騙そうってんじゃねえだろうな!?」

 

 もし自分を欺いて、今まで世話になった人達を傷付けようとしていたのなら、交渉だの条件だの関係ない。

 

 誤解とはいえ、センを助けようとしてくれた事さえ全て帳消しにしてしまう程の裏切りだとばかりに怒りが溢れて止められず――

 

 無意識に膨大なまでの魔力が溢れ出して、周囲を威圧してしまう。

 

「ま、待て! いや、待ってほしい。てっきり連れて来た以上、その辺の事情はミリティが全て説明したと思ってたんだ! こちらに騙す気はない! 本当だ!」

 

「も、申し訳ないでござる! てっきり救世主様は、全て事情を知っていると思っていたでござるから」

 

 見ただけで解かる研一の怒りに、女隊長もミリティも、恐怖の表情を浮かべて慌てて弁明を始める。

 

 無理もないだろう。

 

 溢れ出た研一の魔力は、国の一軍隊に匹敵すると呼ばれる党首の強さと、それ程変わらない。

 

 突然、軍勢に取り囲まれて武器を向けられたに等しい圧力だ。

 

「じ、事情を説明させてほしい。そこで納得がいかないなら話は、なかった事にしてくれて構わない。だからどうか、怒りを鎮めては、その、もらえないだろうか……」

 

 返答を少しでも間違えば、殺されてしまう。

 

 そんな恐怖が女隊長の身体を支配し、もはや足は震え、立っているのもやっとだという様子で言葉を絞り出していく。

 

「は、いいぜ。話してみろ。もし騙してたって判断したら、その時は魔族に襲われるまでもない。俺様直々に、この陣地を吹き飛ばしてやる」

 

「わ、解かった。包み隠さず、全てを説明させて頂く……」

 

 女隊長は熊のような大きな身体が小さく見える程に怯えつつ――

 

 今のファブリスを取り巻く情勢について、話し始めたのであった。

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