憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第182話 健康になったが故に――

「なるほどな……」

 

 ミリティと女隊長の話を聞いた研一は、ある程度の納得を持って頷く。

 

 嘘を吐いているようには感じなかったし、話にも矛盾はなかったように思う。

 

 それに――

 

(もし何かあれば、ミリティとの戦いの時みたいにセンちゃんが念話で何か言ってくれると思うけど、それもなしだしね)

 

 全てではないにせよ、ある程度は心を読む事が出来るセンが何の反応もしないのだ。

 

 騙されている可能性も極めて低いだろう。

 

「ったく、それなら先に説明しとけよ、グズ共が。今まで会った国の代表達は、すこぶる良い女だったんでな。下手に敵対でもして、二度と抱けなくなるんじゃないかと思って焦ったじゃねえか」

 

 疑いも晴れた以上、この話を続ける事に意味はない。

 

 本当ならば疑って悪かったと誠心誠意、謝罪すべきだとは研一としては思うが、悪党のキャラを維持する為にミリティ達に責任転嫁する形で、話を終わらせる。

 

「仰る通りでござる。ここは拙者が腹を掻っ捌いてお詫びを――」

 

「だから要らんって言ってるだろうが。死体なんて見せ付けられても気分が悪くなるだけで、俺は何の得もねえんだよ」

 

 思い出したように切腹しようとするミリティを、雑に止めつつ。

 

 侍キャラならともかく、忍者キャラなのに、こうも切腹しようとするのは何でだろうなと、どうでもいい疑問を覚えたところで――

 

「それで、その、救世主様」

 

 おずおずとした態度で女隊長が、声を上げる。

 

 本当は機嫌を損ねたくないから口なんて挟みたくないけれど、どうしても確認しなければならない事があるから仕方なく話そうとしているというのが解かる態度であった。

 

「我々に味方して下さるという事でよろしいでしょうか?」

 

「ああん? 話の流れから解からねえのか、てめえは? それ以外どんな風に聞こえたって言うんだ? それとも何か? この俺様の助けが要らねえってのか!?」

 

「い、いえ。滅相もありません。説明足らずの私達を助けて頂けるか不安になっただけでして、御助力、大変嬉しく思っております!!」

 

「はっ。ったく、最初からそう言ってりゃいいんだよ。この鈍間が」

 

「は、はい。申し訳ありません……」

 

 熊のように大きな身体を縮こませて謝る女隊長の姿に、心が痛む。

 

 もう長い事続けて悪党の演技には慣れてきているつもりではあったが、どうしても、こういう光景には慣れそうもなかった。

 

「それで、いつまで大事な客人を外に待たせておく気だ?」

 

「は、はい! すぐに中に案内させて頂きます!」

 

 そして、ずっと続けていた入り口での立ち話を終え、女隊長に案内されるままに中に進んでいく。

 

 外からも見えていたように、野営地というよりは、森の中に突如現れた小さな小さな住宅街とでも形容したくなる風景。

 

 立ち並ぶ民家のような建物の一つに案内され、センと共に中に入った研一は驚く。

 

(中も普通の家みたいだ……)

 

 急遽作ったんだろうし、内装は倉庫のようなものだろうという研一の想像は良い意味で裏切られた。

 

 部屋は扉と壁で区切られているし、机や椅子といった家具類も用意されている。

 

 家の所々に剣や斧といった武具が設置されている事さえ省けば、ここが野営地である事さえ忘れてしまう程に、民家と区別が付かない。

 

「まだるっこしい話は面倒だから、省いてくれ。それで俺は何をすればいい?」

 

 席へと案内された研一は前置きも無しに、いきなり本題へと入った。

 

 そろそろ悪党の演技も疲れてきたし、ずっとセンに奴隷の演技をさせて黙ってもらっているのも辛い。

 

 ミリティや女隊長達も委縮し続けていては、身体にも心にも良くないだろう。

 

 この場に居る全員の為にも、少しでも早く話を終わらせて、一息入れたかった。

 

「それでは救世主様の役目なのですが、我々の方でどうにか機会を作りますので、出来るだけ派手に強さをアピールしてほしいのです」

 

「ほう」

 

「魔族に寝返ったとはいえ、それが現党首の決定であり、国の方針である以上、我々が逆賊なのは確かなのです。それに悔しい話ですが、人類に未来などない。それならば国民を守る為に、魔族に降るべきだというアヴァリティア様の主張に国民が渋々ではありますが、納得しているのも事実」

 

「ふむ……」

 

 言い分自体は、解からなくもないが――

 

 それなら多くの国民を守る為に、ミリティ達を差し出そうという党首の事を、研一は好きになれそうもなかった。

 

「そこで救世主様には、先程言ったように、貴方様の力を見せ付けてほしいのです。貴方様の力があれば魔族なんて取るに足らない。そう国民達に解からせる事が出来れば、そこから先は相手の出方次第となります」

 

「なるほどな。いいぜ、単純で解かり易いじゃねえか」

 

(よかった。現党首の首を取って来てほしいとか言われたら、どうしようかと思った……)

 

 会った事こそないが、現状あまり印象が良くない相手とはいえ、さすがに殺したい程には嫌いでも憎くもない。

 

 研一は女隊長の提案に、心から頷く事が出来た。

 

「それで、その、報酬に付いてなのですが……」

 

 だが、そこで話は終わらない。

 

 女隊長達からすれば、降って湧いた最後の希望であり、逃がす筈がないし。

 

 研一の傍若無人な態度から考えて、報酬の前払いが当たり前と思われているのだろう。

 

 女隊長は僅かに恥じらいつつ、服を脱いでいき――

 

「せ、拙者も……」

 

 ミリティも女隊長に倣うように。

 

 それが当たり前であるかのように、服を脱ぎ捨てていく。

 

 ――こちらも切腹しようとしてた時は堂々としていたのに、顔が赤くなっていた。

 

「他の者の説得に時間が掛かりそうですので、どうか今は私とミリティの身体だけで満足して頂けないでしょうか?」

 

「国の奪還という大仕事を引き受けてもらうのでござる。経験もなく拙い技術になって申し訳ないでござるが、全力で奉仕するでござる」

 

 裸で迫ってくる二人の女。

 

 今までの枯れていた研一なら簡単にあしらえたかもしれないが、今の研一は下半身に元気を取り戻した健全な男。

 

 しかも裸になった二人は、普段戦いを生業とする者とは思えないくらい、とても魅力的な身体をしていて――

 

『研一さん!!』

 

 硬直して動けない研一の脳内に、直接、センの叫びが響く。

 

 センが抱いた嫉妬や怒りの感情を直接流し込まれて、我に返った研一は慌てて叫んだ。

 

「早まるんじゃねえ! 向こうの党首の方が良い女の可能性はあるし、情勢次第で俺は向こうに付くからな!」

 

 そして、ミリティ達の反応も見ず、センの手を掴むと一目散に部屋を飛び出した。

 

 女狂いの悪党キャラとしては、大分変な反応をしてしまったという自覚は研一にもあったが、色々と限界だったのだ。

 

 だが――

 

「ミリティ、私は防衛の仕事がある。悪いが――」

 

「皆まで言うなでござる。こんな汚れた身体で仲間を救えるのなら、これ程喜ばしい事はないでござるよ」

 

 研一の心配とは別方向に、ややこしい事態が起きようとしていた。

 

 今回の取引はファブリス国党首との出会いの機会に利用されただけであり、奪還までの契約は成立していないと感じた二人は――

 

 それならばファブリス国党首であるアヴァリティアに会う前に、研一を骨抜きにしてしまおうと決意してしまったのだ。

 

「閃いた時に武器は作れと言うでござるからな。今夜にでも寝室に忍び込むでござるよ」

 

 日本風に言えば、『善は急げ』に近い意味合いのファブリス国の格言をミリティは告げ。

 

 今宵の戦いに想いを馳せたのであった。

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