憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第183話 揺れる心

(それにしても今更だけど本当に凄いな。救世主のスキルって……)

 

 ミリティが性的な意味合いで、研一の身体を狙う決意を固めている一方で。

 

 当の研一本人はというと、前回のウンディーネ国との冒険で手に入れた船の中にある自室に居た。

 

 別に海まで戻って、岸に付けている船の中に居るとか、そういう話ではない。

 

 異空間に収納していた船を、ミリティ達の居る野営地のすぐ傍に設置したのだ。

 

(まさか、こんな大きい物を持ち運び出来るようになるなんてな……)

 

 そんな便利な能力があるなら、どうして今まで使ってなかったのかと思うかもしれないが、これは簡単な話。

 

 研一の持つスキルは本人も忘れがちではあるが、悪意を向けられた大きさで強さが決まる以外にも、悪意を向けられる程に成長する特性を持っている。

 

 前回、国中の人間から強い悪意を向けられた事で、いくつか新しい能力に目覚めており、この収納スキルもその一つであった。

 

(正直、今の状況だと一番有難い能力かもしれないな……)

 

 一人きりの部屋で安堵の息を吐く研一だが――

 

 これはミリティ達の用意してくれた場所に問題があった。

 

 無論、ファブリス国奪還の重要な鍵となるであろう研一に、ミリティ達が無礼な対応をする訳がない。

 

 ミリティが魔法を使って、研一達専用の居住場所を作ってくれたりしたのだけれど。

 

(いや、うん。確かに女好きの変態野郎って設定ではあるけどさ……)

 

 問題は、どう見ても内装が超豪華な連れ込み宿。

 

 如何わしい雰囲気丸出しというか、もう好き放題に盛って下さいと言わんばかりの雰囲気で、とても落ち着いて休めそうにない場所であった。

 

(それだけだったら我慢出来たんだけどね……)

 

 ただ、そこが問題ではない。

 

 折角作ってくれたんだし、女狂いの変態キャラを貫き通すなら、「よく俺の事が解かってるじゃないか。良い部屋だ」なんて言って――

 

 内心ではドン引きしつつ、受け入れるくらいは出来た。

 

(気を遣ってセンちゃんと同じ部屋というか、そういう事がし易そうな場所を用意してくれようとしてたみたいだけれど、今の状態でセンちゃんと一緒に過ごすのは、ちょっとね……)

 

 前回の予想外に濃厚なキス事件以来、センの事を異性として意識してしまっている。

 

 こんな状態で二人きりで妙な雰囲気の部屋に放り込まれなんてしたら、間違いが起きないとは言い切れない。

 

 そして、センの方が割と本気で間違いを起こしたがっている感があるというか、周囲に人が居るなら、逆に奴隷の演技を口実に――

 

 行くとこまで行ってしまいたい、みたいな雰囲気をひしひしと感じる。

 

 というか、全く隠していないのだ。

 

(気持ち自体は、本当に嬉しく思ってるのが困る……)

 

 自分の顔を見て嬉しそうに笑う姿に不意に胸が高鳴る事だってあるし、想いには応えられないなんて研一が顔を背けた瞬間に見せる寂しそうな顔に、思わず抱き締めそうになってしまった事だってある。

 

(でも――)

 

 けれど、センを抱き締めようとする度に、頭の中に別の女性の顔が、亡くなった恋人の寂しそうな顔が過ぎって手が止まる。

 

 それが他に忘れられない相手が居るのに、センに触れるのが申し訳ないのか。

 

 それとも、亡くなった恋人を裏切っている気がしているのか。

 

 研一自身にも答えが見えず、頭を悩ませていたが――

 

(何を考えてるんだ、俺は……)

 

 迷いを振り切るように、研一は首を振った。

 

 恋人を生き返らせる為に、何を犠牲にしてでもいいという気持ちで、この世界に来た筈だ。

 

 ただでさえ功績値を無駄遣いばかりしているのに、これ以上、

 

 恋人を生き返らせて、恋人が幸せになるのを見るまでは――

 

 自分の人生を好きに生きる資格なんてない、と研一は決意を固めていく。

 

(駄目だな。一人で居ると余計な事ばかり考えてしまう……)

 

 誰かが周りに居れば悪党の演技をする事にだけ気を張っていられる。

 

 戦わないといけない事態なら、戦いだけに集中してればいい。

 

 その方が遥かに面倒臭くなくて楽だなんて思いつつ、研一は部屋に備え付けられていたベッドに寝転がる。

 

(もう、今日は寝てしまおう……)

 

 起きているから、余計な事ばかり考えてしまう。

 

 もう辺りも随分と暗くなってきているし、食事だってセンと共に二人で済ませた。

 

(多分、ファルスさんが準備してくれていた魚の干物も美味しかったけど、ファブリスだと何が食べられるんだろうな……)

 

 何気に異世界での食事を楽しみにしている研一としては、新しい国でどんな食べ物が出てくるのだろうか期待しているのだが――

 

 国に入るまでは、お預けだろうなと寂しい気持ちを覚えつつ。

 

 思った以上に疲れていたのか。

 

 研一は目を瞑ると、すぐに眠りに就いたのであった。

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