憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第190話 傲慢のリティア

「不味いでしょ?」

 

 何も言わず、黙々と料理を食べる研一を気遣った訳でもないだろう。

 

 自信の前にも料理を並べておきながら、一口も食べようとしないアヴァリティアが当たり前の事でも告げるように口を開く。

 

「料理なんて下々の事は、全て獣人共にやらせてたからね。城の中に料理なんて出来る奴が一人も居なくて、とりあえず見た目をそれっぽく整えさせて出しただけだし」

 

(道理で見た目だけ豪華な訳だ……)

 

 それならば料理が妙に味気ないのも納得だ、と思う研一であったが、それ以外の事は、まるで理解出来ない。

 

 不味いと思っている料理を出しておいて、どうしてアヴァリティアは悪びれないのだろうか。

 

「それで救世主様は、そこの獣人女から、どんな話を聞いているのかしら?」

 

「てめぇが魔族に寝返る為に、獣人共を魔族に売り飛ばそうとしてるって話らしいじゃねえか」

 

「ああ、そう。全部知ってるのね」

 

 更に信じられない事に、アヴァリティアは研一の言葉を否定しない。

 

 門番やアヴァリティアの態度から、ミリティの説明が事実であろう事は既に疑っていなかったが――

 

 それにしても人類を裏切ったり、身内を売り飛ばそうとしているというのに。

 

 いけしゃあしゃあと何一つ恥じ入る所がない態度なのは、一体どういう事なのか。

 

「ったく。こっちは良い迷惑よ。別にさ、獣人全員を魔族に喰わせるって言ってる訳じゃないのよ? ちょっとファブリスの魔法に長けた奴を十人くらい寄越せって言っただけで、全員逃げる必要なんてないじゃない」

 

 尚も厚顔無恥に「アンタもそう思うでしょう?」なんて言いたげに、同意を求めてくるアヴァリティアの声に、研一は答えられない。

 

(コイツは、何を言ってるんだ?)

 

 同意しようにも、アヴァリティアの言葉が全く理解出来ないから。

 

 それは別に言葉の意味が解からない、という意味ではない。

 

 スキルのお陰で異世界語であるにも関わらず、日本語に変換されているし、難しい言い回しや独自の方言だってない。

 

 ただ価値観があまりに遠過ぎて――

 

 悪党の演技で返すにも、どう答えるのが正解なのか見当も付かないのだ。

 

「随分と豪胆な女だな。身内を敵に売って、人類の裏切り者になろうってのに、顔色一つ変えないとはな」

 

 それでも下手に黙っていれば怪しまれる。

 

 研一は必死で悪党を演じつつ、何とか言葉を絞り出していく。

 

「身内? 何の話よ」

 

「そこのミリティって女もそうだが、獣人達はお前の国の人間だろう? それを魔族の生贄にしようっていうのに随分と豪胆だと思ってな……」

 

 何を言われているか解からないというアヴァリティアの反応に、研一の方が自分は何か間違った事を言っているのか。

 

 そして、ちゃんと悪党らしい受け答えが出来ているのだろうかと、内心で不安になる。

 

 ――それでも異世界に来てから、ずっと悪円演技を続けていた慣れというヤツだろう。

 

 表情だけは、ふてぶてしい笑みを浮かべていた。

 

「ソイツ等が身内? はあっ!? 冗談でしょ!?」

 

 裏で研一の自信が揺らいでいる事に気付く様子もなく。

 

 何を馬鹿な事を言っているのかしら、とでも言いたげな様子で、アヴァリティアは心底おかしそうに笑う。

 

「アンタの。失礼。救世主様の世界には居ないの、獣人?」

 

「言い難いなら別にアンタでいいぜ。代わりにアヴァリなんだっけ? そっちも長くて言い難いから別の呼び名でも教えてほしいもんだな」

 

「……リティアよ。親しかった奴は、昔、そう呼んでた」

 

(親しかった? 昔?)

 

 おそらくはミリティの事だろうと予測する研一であったが――

 

 考える時間をリティアは、与えてなんてくれなかった。

 

「それで? アンタのトコには居なかったの? 獣人」

 

「獣人は居ないし、アレなら魔族だって俺の世界には居ないぜ」

 

「それは羨ましい話ね」

 

 まるで善望の欠片も感じない軽い調子で、アヴァリティアは呟いたかと思うと――

 

 侮蔑を隠しもしない視線でミリティの方を見る。

 

 ビクリ、とミリティが肩を震わせる。

 

「それじゃあ見て解からないかしら? ソイツが人間? 私達と同じ種族? そんな獣の耳と尻尾のある奴が?」

 

 吐き捨てるような声には、今までで一番感情が籠っており。

 

 その声を聞くだけでリティアの獣人への嫌悪が伝わってくるようであった。

 

「同じ人間なら、世界すら違う救世主様だって、こんなに同じ姿なのよ? ただ少しだけ人に似てるだけのケダモノ風情が、私の国の民? そんな訳ないじゃないの」

 

(ああ、うん。この人の事、俺はきっと一生、理解する事なんてないだろうな……)

 

 そして、研一は頭でなく心で納得した。

 

 この世には言葉を交わせば交わす程、理解から遠のいていく人種というのが確かに存在しており――

 

 この全身鎧の女は、そういう人種の一人なのだという事を。

 

「家畜を数体、売り渡すだけで魔族から永久に国を守れるのよ? その上、もう人間に勝ち目なんてないのは目に見えていた。それなら国を預かる党首として、国民を守る為、取るべき選択なんて決まってた」

 

 アンタもそう思うでしょう、と同意を求める声に研一は頷かない。

 

 いくら悪党の演技をしていても、どうしたって認めたくない言葉というのがある事を、この時、初めて研一は知ると同時に。

 

 リティアの言葉が過去形だった事に、違和感を覚えた。

 

「決まっていたって事は、今は違うとでも言いたいのか?」

 

「ええ。まさか島一つ消し飛ばすような化けも、失礼。あんな凄まじい力を持った人が、現れたんですもの。あんなの魔族が束になったって敵いやしないわよ」

 

 どうやらリティアの方も、研一が神獣を消し飛ばした所を遠くから見ていたか。

 

 あるいは、部下か何かからの情報として確認していたらしい。

 

 だが、それ以上に驚きの言葉がリティアの口から飛び出す。

 

「ったく。本当に下への連絡不備には辟易するわ。救世主を名乗る者があれば、どんな怪しい奴でも連絡しろって、あれだけ言っておいたってのに……」

 

 どうやらリティア直々に研一を探していたようだ。

 

 それ自体は神獣を吹っ飛ばした所を見ていたのなら、国の代表として当然の動きと言えるだろうが――

 

(……おいおい。それじゃあ何か? はっきり言って無礼どころか、喧嘩を売ってきているとしか思えない態度だったけど、本当に俺を国の未来を左右する重要人物とか、招待客として扱ってたつもりなのか? あの態度で!?)

 

 逆に、これでリティアなりに精一杯、もてなしているつもりらしい。

 

 確かに研一の力を知っているのに、護衛の一人も付けず、党首直々に会って話しているという部分だけを見れば、最大限の誠意を持った対応と言えるのかもしれないが――

 

 あまりにもリティアの態度が酷過ぎるせいで、単に護衛も要らないくらいに舐められているようにしか見えない。

 

 ――だが、本当に舐めているなら、救世主を名乗る者を見付けたら、国の党首であるリティアに連絡しろなんて、指示は出さないだろう。

 

「ほう。そこまでして俺を探してたって事は、俺に頼み事でもあるってのか?」

 

 それならもう少しくらい、マシな態度を取ってくれと突っ込みたいのを必死で抑えて。

 

 研一を探していた理由を予想しつつ、答えを求める。 

 

 すると――

 

「話が早くて助かるわ。獣人ならいくらでもくれてやるし、この国に欲しい女が居るって言うなら好きに持って行ってくれていい。だから私が指示したってバレないように、サクッと協力予定の魔族達、倒して来てくれないかしら?」

 

 島一つ消し飛ばす力があるんだから、簡単でしょう。

 

 なんて最後に付け加え、まるで研一が頼みを聞くのが当たり前であるように、リティアは答えたのであった。

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